一旦残っていた廃ビルの屋上に着地して、なのははフェイトと向かい合う形となる。フェイトは未だに呆然としており、実感が沸いてないようである。肩をトントンと叩いて意識をしっかりさせるように気遣ってから、フェイトの意識がはっきりするのを待つ。その間になのはは何かに注意するように辺りを見渡していた。
なのはがフェイトに勝ったという事実が生まれたが、だからと言ってフェイトも気持ちの整理が付かないのが本音である。だが現にアルフが管理局の元にいるのだから、抵抗はしたくない。
その時、クロノが駆けつけ、続いてユーノとアルフも現れる。ユーノはなのはの隣に立ち、アルフはフェイトの傍に寄る。なのははクロノの登場に意外そうに目を丸くした。
「あれ? なんか予定と違うけど、何かあったの?」
この戦いの前に、事前にクロノとリンディに話を通し、作戦を立てていた。なのはがフェイトに勝つのはほぼ確実と思われていたため、そこは問題ないが、その後にジュエルシードの回収の事である。アルフの話から聞いたプレシアの事から予想するに、彼女がジュエルシードを簡単に渡すとは考え難い。恐らくこの戦いが終わるのを見計らい、ジュエルシードを強引に奪おうと、また介入してくるのを予想していたのだ。
だがいくら待ってもプレシアが介入してくる気配は無く、疑問に思ったクロノが確認に来たという訳である。
「嫌な予感がする。───ジュエルシードを見せてくれないか?」
クロノはフェイトに言うと、フェイトは大人しくデバイスに収納したジュエルシードを出現させ、クロノに見せる。クロノはその一つを掴み、凝視すると表情を強張らせた。
「……偽物だ」
「───え?」
クロノの言葉に、フェイトは信じられない表情で声を漏らす。そんな事はない。今回の事は母のプレシアに必死にお願いして許して貰ったことだ。プレシアはそんなフェイトに絶対に勝てと言い放ってジュエルシードを託して貰ったのだ。それが偽物である筈がない。恐る恐るジュエルシードを掴み、確認する。預かった時は信用して確認をしていなかったが、偽物である筈はないと心に言い聞かせ、バルディッシュに問いかける。
だが、バルディッシュは言い辛そうに───偽物だと答えた。
「そ……んな……」
フェイトはその場に膝を突き、地面に手を付いてがっくりと項垂れた。アルフは直ぐ様フェイトの肩を抱き、心配そうに声をかける。ジュエルシードの偽物は、その正体がバレると分かった途端に砕け散る。
その瞬間だった───。
『フェイト。聞こえているかしら?』
「母……さん……?」
フェイトに向けて通信が入り、それが勝手に起動して立体ディスプレイが発生する。そこに映るのは一人の女性───プレシア・テスタロッサからの通信である。アルフはその画面を睨めつける。アースラは直ぐ様それを傍受して、フェイトと同様のディスプレイを出現させ、アースラの艦橋にはモニターでそれが映される。
エイミィは直ぐ様逆探知して、プレシアの拠点【時の庭園】の座標を突き止める。リンディは座標を突き止めたと同時に、時の庭園へと突入部隊を出撃させた。アースラの出撃エリアにある巨大な転送装置で突入部隊が一斉に時の庭園へと転移する。
一方、ディスプレイの映像からはフェイトへ向けての言葉が流れる。
『やはり貴女は駄目ね、全然使えないわ。やはり───失敗作という訳ね』
「───失敗作……?」
フェイトはプレシアが一体何を言っているのか理解出来なかった。アルフに支えられつつ、立ち上がりながらその言葉に耳を傾ける。フェイトは目を丸くしていたが、この場に居る全員は今回の事件の詳細を知っている故に、眉根を寄せていた。
『だから期待なんてしてなかったわ。こんな事になるだろうと、ジュエルシードは全部偽物』
言うとプレシアは自身の身体を軸にジュエルシード九つを出現させる。そして踵を返して背後にあるポッドのようなものを見た。当然そのポッドの中身がモニターに映される。中にあったものは───フェイトと瓜二つの少女だった。
フェイトは訳が分からず、思考が停止する。プレシアはポッドに手を当てて言葉を続けた。
『……もう駄目ね、時間がないわ。たった九個のロストロギアでは【アルハザード】にたどり着けるかどうかは分からないけど───でも、もういいわ。終わりにする』
プレシアはポッドに触れたまま、モニター越しにこちらを睨みつける。
『この子を亡くしてからの暗鬱な時間も……この子の身代わりの人形を娘扱いするのも。───聞いていて。あなたの事よ、フェイト。せっかく【アリシア】の記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない私のお人形。だけど駄目ね。ちっとも上手くいかなかった。作り物の命は所詮作り物。失ったものの代わりになんかならないわ。アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ。アリシアは時々我が儘も言ったけど、私の言うことをよく聞いてくれた。アリシアは、いつでも私に優しかった。フェイト、やっぱりあなたはアリシアの偽物よ。せっかくあげたアリシアの記憶もあなたじゃダメだった』
プレシア・テスタロッサは実験失敗の際に、奇跡的に生還するも、実子アリシア・テスタロッサを事故で亡くし、それが原因となって精神の均衡を崩している。その後違法実験で問題になった【F計画】に参加して人造生物の開発と記憶移植の技術を学び、その後行方不明となったのが、彼女の履歴の全てであった。しかしクロノが【フェイト】という言葉から、心当たりがあったのだ。
彼女が最後に行っていたのは、使い魔とは違う、それらを超える人造生命の生成、そして死者蘇生の秘術と呼ばれていたもの。
彼女が行った違法研究───【プロジェクトFATE】。当時の開発コードの名前だったのだ。
恐らくフェイトという名前はそこから取って付けられたものであろう。
それらの話をなのはとユーノは聞かされ、まだ推測だったのだが、アルフから聞いたフェイトへの虐待から、確定的なものへ変わった。アルフにもその話を聞かせ、当然彼女も信じられないような態度を取ったが、フェイトにしていた虐待から納得もいった。
だが、この現実は余りにも辛すぎる。フェイトの気持ちを考えれば当然だ。
『アリシアを蘇らせるまでの間に私が慰みに使うだけのお人形……。だからあなたはもういらないわ。どこへなにとも消えなさい!』
フェイトの中で信じていたものが崩れていく。昔の優しい母さん、その笑みを向けられていたの自分ではなかった。その笑顔を見たくて今まで戦ってきたが、その笑顔が自分に向けられることは決してなかった。それはアリシアの時の記憶であって、自分の記憶ではない。
自分にある記憶は、プレシアに虐待されているだけの───。
『良いことを教えてあげるわ、フェイト。あなたを作り出してからずっとね、私はあなたの事が───大嫌いだったのよ』
「───ッ!!」
プレシアの言葉が止めとなり、フェイトの中で信じてきたものが、今、完全に壊れた。
身体から力が抜けて、気を失う。アルフはフェイトに声をかけるが、意識を取り戻す気配は無い。その影響でバリアジャケットが解除され、デバイスも解除。バルディッシュも携帯状態に戻るが、その三角形の形をしたデバイスが、フェイトの手からすべり落ちて虚しく地面に落下する。なのはは直ぐにバルディッシュを拾った。
プレシアの通信が切れて立体モニターが消える。だが、その代わりにクロノの元にエイミィから通信が入った。
『クロノ君! たった今突入した部隊が全滅して』
「なに───ッ!?」
エイミィからの通信で、クロノが声を上げる。通信の向こう側からはアースラ内部に響くアラームが聞こえ、事態の深刻さが伝わってくる。クロノは直ちにアースラに戻ることを伝え、通信を切って此方を振り返る。とりあえずフェイトをアースラに連れて行くことを伝える。アルフもそれに了承し、フェイトを抱きかかえる。ユーノは皆が一斉にアースラに戻れるように魔法術式を展開し、アースラとの転送魔法と繋ぐ。その魔方陣の中へと入るアルフ。そしてクロノ。
なのははバルディッシュを見て、次に空を見上げる。クロノがなのはに何をしているのか訊ねる。
「───ねえ、クロノくん。私も行くよ」
時の庭園に突入することを、クロノに伝えた。
◇
アラームが艦橋に響き渡り、室内が赤く点滅する。それと連鎖するようにクルーが慌てた声を上げた。
「次元震発生! 震度、徐々に増加しています!」
「この速度で震度が増加していくと、次元断層の発生予測地まで、あと三○分ッ!」
アルフは気を失ってしまったフェイトを医務室に連れて行き、なのはとユーノ、そしてクロノが艦橋に着く。三人はデバイスを解除せずに、バリアジャケットを装備しつつ状況を確認。九つのジュエルシードの発動によりアースラ内が騒然となる。次元震やら次元断層やらはなのはにはよく分からなかったが、ただ事ではないことは理解した。リンディは冷静に指示を出し、クルーは落ち着きを取り戻してオペレーティングに戻る。
クロノは状況を理解すると、リンディに出撃願いを申し込む。
「現地に向かい、元凶を叩きます。彼等と共に、出撃許可を!」
リンディはその言葉に、数秒思考する。クロノの出撃は許可できる。むしろそうして貰わなければならない状況だ。問題はなのはと、現地の協力者を危険に巻き込んではならないという事だ。リンディは管理局の局員として、協力者、しかも子供を危険にさせる訳にはいかない。
ジュエルシードの回収や、フェイトとの決戦など、今までも危険はあったが、今回のこれは一線を越える状況である。だが、突入部隊が全滅したのから察するに、クロノだけでは明らかに戦力が足らない。クロノ一人を突入させる訳にいかないのも事実だ。
けたたましく鳴るアラームの中、リンディは険しい表情であるが、此方に視線を送ってくるなのはとユーノを見て、その二人が出撃を願っている様子が伺えた。その為、苦渋であるが出撃を許可した。クロノは敬礼してリンディに感謝の意を表しつつ、なのはとユーノを連れて転送装置の中に入り、三人は時の庭園へと向かう。
◇
時の庭園は、次元の挟間に浮遊する巨大な島のような存在であり、その敷地の中央には城が聳えている。
三人が転移してきたのは城の正面。荒れた噴水などがある庭の中央であり、入り口の扉が視界に見える。次元震の影響だろうか、大地が地割れを起こして森や建造物が次々と崩壊していく。その際に地面の所々に異色の空間の穴が広がっているのが確認出来る。
「その穴、黒い空間がある場所は気を付けて!」
「え?」
「虚数空間。ありとあらゆる魔法が一切発動しなくなる空間なんだ!」
クロノに訊ねると、虚数空間と呼ばれるものであり、ユーノの詳しい説明によると魔法が一切発動しない空間で、落ちれば最後二度と上がって来れないという。
穴に落ちないように扉に向かうが、扉の前の空間が歪む。そこから三メートルはあろうかという巨体の鎧が数十体出現した。クロノはS2Uを構え、生体反応が無いことを伝える。どうやらプレシアの手によって作られた傀儡兵らしい。傀儡兵は迎撃せんと手に持つ大剣や、魔力弾【バレットシェル】を放出して攻撃を繰り出してくる。
だが三人はその攻撃を回避しつつ、ユーノが拘束魔法【バインド】の上級技である鎖の形のバインドで傀儡兵の動きを拘束し、クロノがその隙にS2Uを構えて周囲に魔力弾【バレットシェル】を展開。魔力弾【バレットシェル】をそのまま放出するのではなく、それを自身の周りに浮遊させて砲台として固定して、魔力光を射撃する。魔力光は次々と傀儡兵を貫き、前衛に居た傀儡兵が一層される。流石の執務官といったところである。
しかしまだ後方にいた傀儡兵がこちらに魔力弾【バレットシェル】を展開して攻撃しようとしていた為、なのはが飛び込み、傀儡兵の一体の頭に拳を一撃入れる。衝撃で一体が粉砕され、次に他の傀儡兵たちに向けて連続で拳をぶち込んでいく。
「───連続普通のパンチ」
衝撃で傀儡兵は全て粉砕される。なのはは落ち着いて地面に着地して扉の前にたどり着く。そのまま扉を拳で破壊して、クロノとユーノと共に城の中へと突入する。
城内も地面が割れており、虚数空間の穴が端に空いており、注意しながら奥へ進む。やがて広い部屋にたどり着き、奥には階段で上に進む道がある。だが状況確認もつかの間、直ぐに傀儡兵が出現し、此方に魔力弾【バレットシェル】を展開して攻撃を仕掛けてくる。
地面を蹴り、跳躍してその場から離れる。クロノは先ほどと同様に魔力弾【バレットシェル】を展開し、射撃して傀儡兵の胴体や頭を貫いて破壊していき、なのはが正面の傀儡兵を破壊する。その隙に後方の傀儡兵四体が一斉になのはに攻撃を仕掛けるが、ユーノが鎖型拘束魔法【チェーン・バインド】で動きを封じ、その隙にクロノが射撃して破壊する。
「君たちは最上階にある駆動炉の封印を頼む!」
クロノは射撃で再び沸いて出てくる傀儡兵をなぎ払いつつ、声を上げて別方向の廊下を進んでいく。なのは達はクロノの背中に何処に行くかを訊ねると、クロノはプレシアの確保に向かうらしい。なのははクロノの無事を祈りつつ、ユーノと共に階段を駆け上がっていく。
しかし考えれば走って駆け上がる必要もない事に気付き、飛行魔法を発動して直接上に向かっていく。
「駆動炉ってこのまま上に行けばあるのかな?」
「うん、間違いないよ!」
飛びつつ、下から追ってくるユーノに訊ねると、ユーノは時計を見るように腕を上げて立体ディスプレイを起動して、それを見ながら答えてくる。庭園の構造は予めスキャンしており、その中でも高エネルギー反応がある駆動炉の位置と、出し惜しみをしないプレシアの魔力反応は明らかになっていた。
駆動炉は城の上部にある為、このまま上に突っ切ればいずれたどり着く。だがそれをさせない為に、当然として傀儡兵は出現する。だがなのはにとっては鬱陶しい邪魔者でしか無い為、正面の傀儡兵に拳を入れてそのまま突き進む。
だが、その時一際大きな傀儡兵が出現し、なのは達の目の前に立ちはだかる。一度停まって、その巨体と対峙する。ユーノからは先ほどまでの傀儡兵とは違い、防御が高いらしい。なのははそれを試すかのように拳を両手で合わせ、踏み込もうとした瞬間───。
巨体の胴が真っ二つに切り裂かれる。
一体何が起こったのか様子を窺うと、崩れた傀儡兵の背後から、バリアジャケット姿のフェイトがサイズフォームのバルディッシュを構える姿を発見し、彼女はこちらに向かって飛んで寄って来る。なのははそんなフェイトの様子から、立ち直った事を察して笑顔を向けた。フェイトもそれにつられてぎこちなく笑みを浮かべるが、同時に振動が城内に響き、階段が崩れ落ちる。
後から来たアルフが慌ててフェイトに近寄る。ユーノは思った以上に崩壊の進度が速い事を知らせ、フェイトとアルフにクロノと合流してくれと頼む。二人は頷いて下に向かって飛んで行き、なのははそれを確認すると、丁度上にいた傀儡兵がそんななのはに不意打ちで大剣を振りかざすが───。
「え、なに?」
なのはは振り向き様に拳を繰り出し、傀儡兵は木っ端微塵になる。ユーノは相変わらずななのはに呆れつつ、二人は上に向かって飛んでいく。