死神と妖精の尻尾   作:夜月ライト

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ぐ、グダッタ...
会話文多めです。


守竜の誕生と死神の旅立ち

事件から3日後、クジャと銀竜は守竜の卵の祭壇の前に来ていた。

今日これから、守竜の卵が孵るのだ。

3日前の事件の元凶である村長はトランスしたクジャにより瀕死まで痛めつけられたが、正気に戻ったクジャが回復させ、真実を知った村人達により王国兵に引き渡された。

クジャが祭壇を見守っていて、ハッとすると、周りが白くなり、目の前には死んだ筈のバニラが居た。

バニラはクジャに優しく語りかける。

 

「久しぶりだねぇ」

「どうして...貴方は死んだ筈だ」

「確かに、私の体は死んじまったね。でも、アイツが何かしようとしてるのは察してたから、奥の手を打っておいたのさ」

「奥の手?」

「ああ、本来村長は守竜様によって選ばれて、次世代の守竜様を守る為の魔法を教えられるのさ。それがこの魔法さ。この空間に守竜様に危害を加えようとする奴を引きずりこんで殺すのさ。まあ、私が仕掛けた所で必要無かったようだけどね」

「その魔法の効果が発揮される期間は?」

「次に使う者が現れるまで、永遠にさ。私の前の奴なんて400年も此処に居たらしいよ。まだ若かったのに、何人手にかけたのやら...。私は次に使う者が現れるまで、転生出来ない。けど、この村の行く末を見守る事が出来る。案外良いかもね」

「バニラさん、ボクは...」

「アンタは最善を尽くした。私はあの魔法を解く事が出来ないから、術者を殺して止まらなければ村人全員殺さなきゃならなかったんだ。でも、アンタが救ってくれたおかげでまだこの村はやって行ける。だから、そんなに気にすることないんだよ」

「......」

「納得してないねぇ。まあいいさ。それよりも、アンタに渡したい物があるんだ。私の部屋にある小箱の中に入っている宝石。アレをこの村から出る時に持って行ってくれるかい?」

「なぜですか?」

「あの宝石の中には主人を探してる精霊達がいるのさ。主人を探してやってくれるかい?」

「......分かりました」

「じゃあ、頼んだよ」

 

その声を最後にクジャは元の所へ戻された。

クジャを見て、銀竜が話かける。

 

『クジャ、一体何処へ行って居たのですか?』

「バニラさんと話してた」

『?!そうですか。あの者は使ったのですね』

 

そう言うと銀竜はしみじみと話し出した。

 

『バニラは、私が初めて選んだ村長でした。選んだ時はまだ14の娘で、慣れない村長の仕事にオロオロしていました。それでも、彼女は60年もの間、最後まで自分の仕事をしっかりとこなしたのですね』

 

そこまで話し終わると、祭壇の卵にヒビが入った。

それを見た銀竜が村全体に響く声で言う。

 

『新たな守竜が誕生します!』

 

それを聞いた村人達は家から続々と出てきて祭壇の周りに集まった。

卵のヒビはだんだんと全体に広がり、等々新たな守竜が卵から顔を出した。

 

「あ!」

「守竜様の誕生だ!」

 

村人達は新たな守竜に歓喜し、ナツ達も守竜が無事生まれたことでホッとしていた。

そんな中、クジャと銀竜はその集団から抜け出し、バニラの家に向かった。

バニラの家に着くと、クジャはバニラの部屋へ行き、小箱を開けた。

小箱の中には手の平に乗るくらいの大きさの宝石が入っていた。

その宝石は一定の時間で色が変わる不思議な宝石だった。

クジャが宝石を手に取ると、宝石が緑色に輝き、強い風を起こした。

風が収まると、目の前には小さな妖精がいた。

妖精は見た目にあった可愛らしい声で怒鳴った。

 

『ちょっと!貴方誰よ!なんでバニラじゃない奴がこれを持ってるのよ!』

 

クジャと銀竜は固まっていた。

その妖精はクジャにとって見覚えがあったからだ。

 

「シルフ...」

 

クジャの言葉を聞いて、妖精ーシルフは怒鳴っていたのをやめた。

 

『貴方、私の事を知ってるの?』

「知ってると言うよりも、なぜ召喚獣のキミがこんなところに...」

『なんでって言われても、私だけじゃなくて他にもいっぱいいるわよ?コッチに来たのは契約者について来たからだから理由なんてわかんないわよ。それよりも貴方、死神さんよね?私、貴方を向こうで見たことあるわ。マダイン・サリで』

「...そうさ、マダイン・サリに攻撃したのは僕だ」

『やっぱり、でも、ここには何しに来たの?バニラはどこ?最近出してくれなかったのよ。せっかく出て来れるようになったから姿を見せてあげようと思ったのに』

 

そう言いながらシルフは周りを見る。

すると、クジャ達が暗い顔をしているのを見て、察した。

 

『もしかして、バニラ、死んじゃった?ここの風も埃っぽいし、しばらく誰も来なかったのよね?』

 

クジャが無言で首を縦に振ると、シルフは残念そうな顔をした。

 

『そう、やっぱり、人間の寿命は短いわね。なら、貴方はバニラに言われてここに来たんでしょう?』

「まあ、そうだね」

『じゃあ、この村から連れ出してくれるのよね。良かった』

「そういえば、君は他にもいるって言ってたけど、召喚獣は宝石の原石に一体しかいないはずじゃないかい?」

『ああ、私達がこっちに来た時はまだ小さなカケラだったのよ。それに、この世界の召喚魔法はアッチと違ったの。だから一つの原石に一気に詰め込まれて封印されてたの。で、その封印されてるのを見つけたのがバニラって訳ね』

 

シルフが話をすると、家のドアが開いた。

シルフは急いで宝石へと戻り、クジャはそれを隠した。

クジャのいる部屋に村人が入ってきた。

 

「ああ、ここに居たんですか。もう出発されるんですか?」

「はい、新しい守竜が生まれた事ですし、ボク達は早めに出た方がいいでしょう?」

「その件なんですが、明日まで待って貰ってもいいですかね?守竜様のお力がまだ安定されて居なくて、先代の守竜様に少し馴らしていただきたいんですよ」

『私は構いません』

「分かりました。では、あと1日滞在させていただきます」

「ありがとうございます。それじゃ!」

『私も行ってきます』

「ああ」

 

そう言って銀竜と村人が出て行った。

それからクジャは何か考える様な仕草をしていたが、その後何かを思いついた様に自室に篭り、何かを作り始めた。

 

 

翌朝早朝、銀竜がクジャの元へ戻ると、クジャが換装空間に何かをしまった後だった。

銀竜が疑問に思って尋ねる。

 

『クジャ?なんですかさっきのは』

「ああ、すぐに分かるさ。バニラさんの所へ行こう。銀竜」

『え?...分かりました』

 

クジャが魔力を辿りながらバニラの空間の切れ目とも言える場所を見つけ、手をかざし、魔法を唱えた。

 

「見つけた。...テレポ!」

 

クジャと銀竜は光に包まれ、一瞬の引っ張られる様な感覚の後、あの白い空間に居た。

バニラは驚いた様子でクジャを見つめた。

 

「アンタ、どうやってここを見つけたんだい?それよりも、一体何の用だい」

「貴方に合わせたい人...精霊と、持ってきた物があります」

 

そう言って、クジャは宝石を取り出し、呼びかけた。

 

「シルフ、出てきてくれるかい?」

『ハイハイ、何よ、一体何の......バニラ?』

「アンタは...でも、一体どうして...」

『やっぱりバニラじゃない!貴方、死んだなんて嘘だったのね!もう、なんでそんな嘘なんて...』

 

嬉しそうだったシルフの声は、バニラが寂しそうな顔をしているのに気がつき、真実だと察した。シルフはそのままバニラの額に口づけをし、宝石に戻った。

バニラは少し寂しそうに言った。

 

「アンタはわざわざ合わせに来てくれたのかい。さぁ、もう良いだろう?早く帰りなよ」

「いや、まだ帰りません。貴方に持ってきた物があると言ったでしょう?」

「なんだい?まさか体を持ってきたなんて突拍子も無い事言うんじゃ無いだろうね?」

 

バニラが茶化しながら話すが、クジャはそれを余裕の笑みを浮かべ、舞台役者の様に語り出した。

 

「それもそのまさか。今日貴方にお届けするのはボク、クジャめが腕によりを掛け作らせていただいたバニラさん、貴方の魂の器。即席で作ったのでデザインは少々アレではありますが、品質は十分な物と自負し、贈らせていただきます」

 

そう言ってクジャが出現させたのは世界を混沌へと貶めた黒魔導士兵のプロトタイプであり、クジャの弟ジタンと共に戦い、世界を救った英雄の体だった。

青のコートにシマ模様のズボン、皮の手袋と大きな三角帽子が特徴で、瞳は金色に輝いている人形が居た。

バニラはそれを見て、笑いながら喜んだ。

 

「ハハハハハ!確かにこのデザインは酷いね。男の子っポイじゃないか!でも、私のために用意してくれたんだろう?コレを使えば1人じゃ無くなるわけだ。私はトコトン恵まれてるね。クジャ、ありがとう」

 

クジャはそう言われて、嬉しかったが、表に出すのは苦手なため、演技口調に言った。

 

「お褒めに預かり光栄です」

「ふん!素直じゃないね」

 

クジャとバニラはお互い笑い合い、クジャは出口へ向かった。銀竜は2人の様子を見て、バニラに優しく微笑み、出て行った。

 

 

ーー数時間後

 

クジャと銀竜、ギルダーツ達は村の出口に立って居た。

そこには数名の村人が見送りに来ていた。

 

「フェアリーテイルの皆様、此度は誠にありがとうございました。フェアリーテイルの皆様、これは今回の報酬です。お受け取りください」

「おう、しかと貰ったぜ」

「先代様、これまでありがとうございました。これは少ないながらの門出金です。どうか、お納めください」

『ありがとうございます。皆、新たな守竜をよろしくお願いします』

「お世話になりました」

 

そう言ってクジャ達が歩き出そうとすると、少年の声が飛んできた。

 

「クジャー!ありがとうー!」

 

その声にクジャが驚いて振り向くと、バニラに渡した人形が大きく手を振っていた。

他の村人達が見たことがない少年が村にいるのを見て警戒しながら近づいていくと、少年はイタズラのバレた子供の様にトテトテと走って行った。

村人達は少年を追いかけて行き、フェアリーテイルの面々は呆気に取られているのを他所に、クジャはクスリと笑い村を出た。




グダリにグダッテグダッタよ...
今回で守竜の村編は終了となります。
次回からは本編に入る前にもう一章挟むつもりです。

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