俺がいる戦国時代   作:龍@pixivでも活動中

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田んぼ

村長「さて、お侍さん方。米について知りたいと仰っていたようですが、それは具体的にどのような事でござろうか」

 

八幡「米がどうやって作られるのかを知りたいんです。俺はここに来てから日が浅いので、清洲の土地を勉強をしようかと」

 

村長「それはそれは。この地を守ってくださるお侍様がこんなにも向上心のある者だとは、なんとも有難い事ですじゃ。ただの腐った死体ではないようですな」

 

八幡「待ってください、一言多いですよ」

 

どいつもこいつも俺を死体だの腐っているだの

何でこの世界の奴らは遠慮というものを知らないんだ

 

村長「されど、ワシらのように無知な百姓がお力になれるとは…」

 

農民「……」

 

村人A「……っ」

 

ん?

なんだか周りにいる村人たちの雰囲気が変わったな…

 

八幡「そう思っていたらここには来ていません。お米を作っているのはあなた方です。お米の事を知るならばこれほどの適任者はいません」

 

村長「うむぅ、そう言われましても、どの様にご説明いたすか…」

 

腕を組んで難しい顔をする村長さん

その隣で村人たちが不安そうに村長さんを見ている

…不安そう…?

もしかして百姓は武士に対して苦手意識があるのか?

それとも…

 

八幡「そんなに急いでいるわけではないので、日を置いてゆっくりと覚えていきますよ。なので今日は田んぼを見せていただきたいと。ちょっと、ちょっとだけでいいんです」

 

不審ではあるが今は置いておこう

もしかしたら当主である信奈が怖いのかもしれない

俺の気に触ると斬られるとかそんなところだろう

 

村人「田んぼ…」

 

農民「…あ、そうだみゃー!」

 

すると最初に俺たちの対応をしてくれた農民の方が声を上げた

子供達から俺を救ってくれた小一に向き合う

 

農民「小一」

 

小一「はい」

 

そばで話を聞いていた小一が返事をする

大きくてしっかりとしたいい返事だ

聞いてるだけで気分がいい

なんだろな、この気持ち…

小一を見ていると何でもできる気がする

 

農民「小一ちゃんの田んぼをお侍さんに見せてあげてくれんかみゃー?」

 

小一「え?おばちゃんの田んぼを?」

 

農民「今からそこに行くんだろ?だったら丁度いいみゃー」

 

小一「それはいいけど…」

 

小一が農民の方から俺の方に目を移す

キラキラ光るお星様のように輝く瞳

心配そうな顔をしているのにその瞳には力があった

 

八幡「なんだ?」

 

小一「お侍さんはいいんですか?おばちゃんの田んぼは小さいし…」

 

八幡「何言ってんだ。小さい方が端から端まで見やすいだろ。むしろ小さいの歓迎だ」

 

小一「おお、なるほど」

 

ぽんっ、と小一は手を打つ

おお、この利点が解るとは

そうだよ何事も効率的に行かなきゃね

 

八幡「それよりお前はいいのか?俺らに田んぼを見せても」

 

どんっ、と小一は胸を叩く

 

小一「だーいじょうぶ!見られてこまっちゃうことはないよ」

 

八幡「そっか、ありがとな」

 

だーいじょうぶ!

この子にそう言われるとそう思ってしまう

素直で明るい小一だからそう感じるのだろう

体型は幼稚園児そのものだが

女子供も関係なく魅了してしまいそうな力が小一にはある

 

小一「おじいちゃん、この人たちをつれてってもいい?」

 

小一に聞かれた長老さんは周りにいる村人たちの顔を見回す

そしてなんとか微笑んでいる、といった感じの強張った笑顔で答える

 

長老「…うむ、すまんの小一ちゃん」

 

小一「いいの、おじいちゃんにはおせわになってるから」

 

長老「小一ちゃん…」

 

ここまで分かり易いと流石に俺も気づく

この村は何かを隠している

それは明白

…だがそれよりも

 

秀勝「お米かー、うーん何か忘れているような…」

 

犬千代「……あ、トンボ」

 

この村人たちの反応を見ても何も行動を起こさない犬千代と秀勝が気になった

この地を治める大名

織田家の家臣であればここまでに怪しげな行動を見過ごすとは思えない

ただ気づいていないだけか?

それとも…

 

八幡「あ、ホントにトンボいた」

 

犬千代の見ていた方に何トンボか分からないがトンボが飛んでいた

うわ、虫だ

俺は虫が苦手なんだ

こっち来んなこっち来んなこっち来んな

 

小一「お侍さんっ」

 

八幡「ん?ああ、悪い」

 

考え込んでいたら長老さんとの話しを終えた小一が話しかけてきていた

 

小一「お名前、聞いてもいい?」

 

八幡「比企……いや、ハチだ」

 

小一「ハチだね、うん!」

 

犬千代「……わたしは犬千代」

 

秀勝「あたいは秀勝だよ!」

 

小一「犬千代さまに、秀勝さまですね。今日はよろしくお願いします」

 

ぺこっ、と犬千代と秀勝に頭を下げる

んん?

俺の時だけ敬語じゃない?

…ま、まさかな〜

こんなにいい子が俺を差別するわけがない

 

 

小一「では、おばちゃんの田んぼに案内するね、ハチ」

 

 

やっぱり俺だけタメ口でした

まあこんな小さな子に敬語を使われるのも嫌だしな

…言っておくが、敬語系ロリが嫌いってわけじゃないぞ?

 

八幡(……)

 

そんな事より

俺の手を引いて前を行く小一の姿に既視感を覚えた

どこかで見た光景だ

どこだっけ…?

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

小一「こっちがおばちゃんの田んぼだよ」

 

案内役を元々のヒレカツから地元の子である小一ちゃんにシフトチェンジ

自分の家の田んぼを見せてくれた

そこは村の住人が持っている田んぼが密集している

小一の田んぼは縦と横が一定の長さに切り分けられ

土が水に浸されていた

 

八幡「小さくて簡単なのはいい事だが、想像してたより小さいな」

 

小一「むう、やっぱりダメ?」

 

八幡「いいや、だからこれでいいんだって。それよりも、こんなに少ない収穫量…いや米の数でお前の家は大丈夫なのか?」

 

小一「…この前まではもうちょっと大きかったんだ。でも、おいちゃんが出て行っちゃって、おばちゃんだけじゃ田んぼのおせわはむずかしいの。それで村長のおじちゃんが、ご飯はワシがあげるからおばちゃんはムリしないで、って言ってくれて。田んぼをちっちゃくして、ご飯はおじちゃんにいただいてるの」

 

おいちゃん?

誰かはわからないが

小一の悲しそうな顔を見ると

気軽に踏み込んではいけない家庭の事情らしい

話しを変えるように小一に聞く

 

八幡「今は何をしてるんだ?」

 

小一「春はね、お米の苗を育てるんだよ。でも大きくならなくちゃ、田んぼに植えてもうまっちゃう。だから苗は田んぼじゃなくて、土とお水があるところで育ててる。それで、苗が大きくなる前に、田んぼをきれいしておくの。こうぺたーとさせるんだよ」

 

手のひらを水平にしてぺたーを再現してくれる

 

小一「今日はね、そろそろ田植えをするから、田んぼの様子を見に来たんだ」

 

ふむ、米は別の場所で成長させ

ある程度大きくなったら田んぼに植えると

まるで大きくなったら将来が約束されている金持ちの御曹子みたいだ

苗を育てるのは春…

この時代の季節は何月単位で変わるんだ?

俺が知っている米の作り方は

4〜6月に田植え

7、8月で米が成長

9月に収穫

…だったはず

牧○物語をしてたから何となくだが分かる

 

八幡「犬千代、今って何月だ?」

 

犬千代「……永禄三年の四月、それの終わりくらい…だっけ」

 

秀勝「ううん、この前に月が変わって、五月の始めだよ」

 

八幡「春と夏の中間くらい…か」

 

秀勝「ん?どう言う意味?」

 

八幡「五月だから春から夏にかかる月だろ」

 

秀勝「え?月で季節が変わるの?」

 

首を傾げる秀勝によると

例えば

3月から5月が春

6月から8月が夏

9月から11月が秋

12月から2月が冬

という、これら現代にある

この月はこの季節だよね、なんて風潮がない

何でも三年に一度、五月が二回ある年があるらしく

そのせいで季節と月がずれてしまうらしい

ちなみに五月が二回ある年を閏月という

まあ現代でも最近は冬に暑い日があったりするのであやふやになっている気がするからなぁ

 

八幡「ふーむ、季節の移り変わりをカレン…いや、日付で分からないのは厳しいな」

 

犬千代「……外に出たらわかるけど」

 

八幡「ああ、うん」

 

言い方にトゲがある

お隣に住んでいる犬千代は家から出ない俺を知っているからだ

一昨日、ダラダラ寝っ転がっていた俺の頭上で

無表情の犬千代が蔑んだ目で見下ろして来たのはいい思い出

3日連続で外に出ないのはおかしいのだろうか

 

秀勝「んー、ハチはもう少し活発に動いたらいいんだよ。この村にいる農民だって、朝から晩まで田んぼの世話をしてるんだよ?」

 

八幡「あ、朝から…晩まで…」

 

小一「おいしいご飯を食べるためだからね。みんながんばるんだよ!」

 

ぺカーと言う効果音がつきそうな元気いっぱいの笑顔を見せる

く、なんて眩しいんだ…

でもこれがこの時代の当たり前なんだよな

 

ぐうぅ〜

 

秀勝「あっ…///」

 

ヒレカツの腹から音が鳴った

小一がご飯の話しをしたからか

単純なやつ…

 

八幡「…そういやここに来る前に昼飯を食べてなかったな」

 

秀勝「こ、これは…」

 

八幡「あーいたいいたい、子供に叩かれたところがいたいなー、帰って治療しなきゃー」

 

犬千代「……白々しい」

 

八幡「うるせぇ」

 

仕方ないからまた明日来るか

まだまだ聞きたい事もあるし

 

小一「えっ、もう帰るの?」

 

八幡「ああ。今日はありがとな、小一」

 

小一「あ、待って!お腹空いたから帰るんだよね?だったらあたしの家で食べていったらどう?」

 

八幡「いや、それは流石に図々しいだろ。お前のおばあちゃんにも悪いし…」

 

小一は胸を張りどんっ、と叩く

 

小一「だーいじょうぶっ!おばちゃんは優しいからきっとお侍さんにご飯を食べさせてくれるよ!それにお城に帰る前に倒れちゃったらいけないでしょ?」

 

秀勝「小一ちゃん…。あたいの事を気遣ってくれるのは嬉しいけど、やっぱりご迷惑になるかなって…」

 

小一「うーん…。あ、じゃあじゃあ!少ないけど、お城まで歩けるくらいのご飯ならいいよね?それならおばちゃんもこまらないし、みんなも元気に帰れるよ!」

 

八幡「……ちょと待て、小一。どうしてそんなに飯を食わせたがる」

 

小一「人はね、こまってる人がいたら助けるんだよって、おばちゃんが言ってたから!」

 

八幡「税金…いや、この時代だと年貢か?その年貢を納めないといけないのに、俺たちに食料を分け与える余裕があるとは思えない。ここまで案内してくれて言える立場じゃないが、無理をするくらいなら俺らのことなんか放っときゃいいだろ」

 

小一「うん!ま、いいじゃん!なんとかなるよ!」

 

八幡「ええぇ!?」

 

諭したつもりだったが

バッサリと切り捨てられた

 

小一「さ、みんな行こー!おばちゃんにも紹介したいし!」

 

八幡「お、おい、引っ張るな」

 

小一「あ、そうだ!あたしの名前、まだ言ってなかったね」

 

俺の腕を引きながら笑顔でそう言う

その時

この小一の輝く笑顔

どこかで見たような既視感

そうだ…

人を惹きつける力といい

快活な行動といい

ぐんぐん先頭を歩く姿といい

これは

これは…

 

 

 

小一「あたしの名前は、木下小一郎!みんなからは小一って呼ばれているよ!」

 

 

 

 


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