俺がいる戦国時代   作:龍@pixivでも活動中

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前田利家

『………しなさい』

 

早朝

隣の部屋から聞こえる、私によく似た声に起こされた

この声はハチの持ってる奇妙な旗から出るやつだね

ハチがこの長屋に住むようになってから毎朝聞こえる

その後にハチが起きて、別の女の子の声も出てきて騒がしくなる

旗があるといっても1人で騒がしくなれるのってすごいね

けど今日はなんだか様子が違う

どうやら真面目な話しをしているみたい

 

『えー……』

 

まあ、真面目な話しをしていようがなんだろうがハチのダラけた返事が聞こえてるのはいつものこと

 

犬千代「………」

 

起き上がって着替える

今日は信奈様の所に行ってお仕事

一応ハチにも言っておこうかな?

いや、いいか

別に言わなくても何もないよね

私は家を出て清洲の城に行く

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

お城の廊下を歩いていると色んな人に出会う

みんな信奈様の家来や家臣

つまり私の同僚ばかり

今はとても忙しいからみんな慌ただしく働いている

 

犬千代「……それに比べて」

 

私はハチが来てから一度も働いているところを見たことがない

していることといえば

家でダラダラしてること

旗と話していること

本を読んでいること

私に美味しい鳥屋さんをナイショにしてたこと

ちょっと外に出たと思ったら一刻もしないうちに帰って来たこと

昨日、民が暮らしている村へ足を運んだこと

…その時なんだかハチの様子がおかしかったこと

このくらい

 

犬千代「……ふぅ」

 

思い返せばため息しか出ない

こんなに怠けてて大丈夫かな?とお隣さんの同僚としては心配だ

それに…昨日のこともある

でも、やっと仕事をもらえたんだから頑張ってもらわなくちゃ

私も手伝っていいって事だからハチも頑張るはず

いや、頑張らせる

 

犬千代「……よし」

 

私は握り拳を作って意気込む

すると廊下の向こう側から人影が見えた

その人影は私に気づくとビクッとした

 

「げっ」

 

犬千代「げっ…」

 

人影は女の子だった

肩までの長さのボサボサした黒い髪をしていて、身長はハチと同じくらい

そしてムカつく事に乳がデカい

 

犬千代「成政」

 

成政「犬」

 

佐々成政

織田家家老の武将

歳は勝家と同じくらい

いつもは牛と一緒にいるけど、今は違うみたい

成政は私の事を犬と呼ぶ

そして————

 

犬千代「あっちいけ」

 

成政「あ゛?コラ、いきなりそれか?流石は犬だ。噛み付く事は一丁前」

 

犬千代「くそ…」

 

そして私は、成政が嫌いだ

成政も私の事が嫌い

成政とは馬が合わないと言うかもうなんて言うか、嫌い

理由はないけどコイツは受け付けない

 

成政「テメェこそどっかに行きやがれ、こっちは仕事できてんの」

 

犬千代「こっちも仕事」

 

成政「聞いてねぇよ」

 

イラッ

話す言葉は少ないけどそれだけでムカつく

もう口を開かなければいいのに

どうしよう、もうコイツとは喋りたくないから別の道から信奈様の所へ行こうかな

あ、でも信奈様がいるのはコイツのいる先の部屋だ

 

犬千代「どいて」

 

成政「やーだね。アタシはいま牛を待ってんだ。それに信奈様はいま牛の相手してるからテメェはここで待ってろ犬」

 

犬千代「…あ、そう」

 

私は仕方ないので壁に寄りかかって待つことにした

おんなじ空間に成政がいるのは嫌だけど、何分か我慢すればいなくなる

だけど面倒くさい事に、成政が私に話しかけてきた

 

成政「なあ」

 

犬千代「…何」

 

成政「テメェ、ウチの馬子を知らねぇか?最近見ねぇんだよな」

 

犬千代「馬子…?知らない。あと、誰?」

 

成政「あ?それはな…」

 

ギギィ

 

その時、信奈様の部屋から女の子が出てきた

 

成政「あ、牛」

 

牛「ま、待たせたね成政。ってアレ?め、珍しい組み合わせだね」

 

成政と私を交互に見て、たどたどしい口調で言う女の子

この女の子は牛こと佐久間信盛

肩までの長さの癖っ毛のある黒髪

身長は成政と同じか、それより大きいくらい

胸も…大きい…ムカつく

今日はムカつく事ばかりだ

信盛はいつも成政と一緒にいて、2人とも戦の実力が高いので信奈様に重宝されている

ちなみに牛というのは信奈様がつけた信盛のあだ名

 

犬千代「……組み合わせじゃない。一緒にいるのはたまたま」

 

成政「そーだぜ牛。アタシがコイツと一緒になるわけねーだろ」

 

牛「そ、そうだね。そ、そんじゃ行こうか」

 

成政「おう、一刻も早く犬から離れてーからな」

 

犬千代「ち」

 

成政と牛は2人して帰るようだ

この乳デカ2人組め…

いや、牛は別に嫌いでも何でもないからいいか

……って

 

犬千代「……ねぇ、さっき言ってた馬子ってのは?」

 

別に興味ないけど

中途半端に区切られたら気になる

 

牛「ま、馬子?も、もしかして成政、き、聞いたの?」

 

成政「おう、一応聞いておこうかってな」

 

牛「で、でも、あの人はもう馬子じゃないよ?こ、この前、立派な侍頭になったでしょ?」

 

成政「ふんっ!アタシに顔を見せないやつなんか馬子で充分さ。ったく、あの野郎。アタシがどれだけ目をかけてやったか忘れたのかよ…」

 

牛「は、はいはい。き、きっと忘れてないから、だいじょうぶだよ」

 

成政「当たり前だ!忘れてたらぶっ殺す!」

 

……あれ、私が置いてかれてる

 

犬千代「……あの」

 

牛「え、あ、ああ、ごめんごめん。わ、わたし達、さ、最近知り合いが、か、顔を見せてくれないから気になっててね?だ、だから成政も聞いたんだと思うけど…し、知ってたら教えてほしい」

 

成政「無駄だ、牛。コイツはアイツの事を知らないらしい」

 

牛「あ、ああ、そうなの?」

 

犬千代「……うん、誰?」

 

牛「え、えっとね…説明すると…」

 

成政「牛、言わなくていいよ。もしかしたらコイツが知らない方がアイツの出世のためかもしれない」

 

…え?どういう事?

私がその馬子を知らないのと、その馬子が出世する事になんの関係が…?

すると成政は私に顔を近づけてきた

やめて、気持ち悪い

しかし、成政は真面目な顔で言った

 

成政「いいか犬?気をつけないと、あっという間にアイツに追い越されるぞ?」

 

犬千代「え?」

 

成政「アイツは、実力だけ見ればお前並みだ」

 

犬千代「な…」

 

成政「そんじゃ、アタシが言ったこと、忘れんようにな」

 

成政は牛を連れ、手を振って去っていった

その後ろ姿を私はぼーっと見つめていた

私と同じくらいに強い馬子…?

そんな人が成政の下にいたって事?

 

「犬千代ー!?いるのー!?」

 

その時、信奈様の部屋から声が聞こえてきて私は我に返った

急いで部屋に入る

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

信奈「犬千代?何を騒いでいたの?もしかしてまた成政と喧嘩してたの?」

 

部屋に入ると、奥の御座に信奈様がいた

その両隣に森可成さんと菅谷長頼さんがいる

私は静かに膝をついて、信奈様の元へ近づく

 

犬千代「……ううん、ちょっと人を聞かれた」

 

信奈「人?まあいいわ。それで…」

 

犬千代「……ハチの事」

 

私は昨日の事を話す

実はハチを信奈様が拾った時、私はハチの監視及び管理を信奈様から申しつけられていた

だから私の報告で、信奈様はハチが何をしているか知っている

けど…

 

犬千代「……と言っても、特に何もない」

 

信奈「え!?せっかく仕事をやったのに!?」

 

そう、始めに言った通りハチは何もしていない

だから信奈様も焦っていた

だってハチを拾った信奈様としては立場がない

なので昨日、信奈様はハチに仕事を授けた

 

犬千代「……考えはあるみたい、でも昨日は農家に行っただけで何も…」

 

信奈「あんの馬鹿!」

 

可成「ま、まあまあ信奈様。そんなに怒らなくても、まだあの人は来て1週間しか経っていないのですから…」

 

ご立腹の信奈様を森可成さんがいさめる

可成さんはこう言う丁寧な口調で喋り、そして優しい所が信奈様に気に入られている

私もこの人はとても尊敬できる人だ

…あの隠れた性格を除けば、だけど

 

信奈「う、そ、そうね」

 

長頼「いえ、そうも言えないかと」

 

信奈様が落ち着いてきたところで長頼さんが口を挟む

この人は可成さんとは違い、厳しい性格

怒ると怖いので、私は長頼さんが苦手

しかしこの厳しい性格が信奈様の重宝する所

 

信奈「え?」

 

長頼「これをご覧下さい」

 

長頼さんは何かを取り出した

黒い箱で、布が被されている

それは私も見た事がある物だった

というか昨日見たばかり

 

信奈「え、そ、それって…」

 

長頼「比企谷殿に兵糧を購入するようにと授けた元手の三千貫で御座います」

 

私と信奈、可成さんは首をかしげる

 

信奈「なんで長頼が持ってるの?」

 

長頼「信奈様、昨日の事をよく思い出して下さいませ」

 

昨日の事…?

その時、私の頭の中にここで起きた事を思い出された

 

——信奈の目の前に本を置き

——そのまま犬千代とともに部屋を出た

 

 

あ、ハチ

お金持っていくの忘れてる

 

 

信奈「………」ぷるぷる

 

あまりの馬鹿さ加減に信奈様は怒りで震えている

これには可成さんもお手上げ、弁護のしようがないみたい

…どうしよう、このままだとハチが信奈様に切られちゃう

えーと、そうだ

 

犬千代「信奈様」

 

信奈「…何?」

 

犬千代「ハチのところへ行こ?」

 

信奈「えっ!?」

 

犬千代「……ハチのこと、気になるよね?」

 

信奈「はあ!?そ、そんなことあるわけないじゃない!わたしがアイツの事が気になるなんて…」

 

犬千代「本当…?」

 

信奈「うっ…」

 

犬千代「……」じー

 

私が見つめると信奈様は縮こまってしまった

そんな様子を見て、長頼さんが私と信奈様に助け舟を出してくれた

 

長頼「信奈様」

 

信奈「な、何?」

 

長頼「どちらにせよ比企谷殿にはこの金を届けねばなりません。それに仕事の途中報告を聞きに行くという体で訪ねれば誰も文句は言われることもありますまい」

 

信奈「なるほど、そうすればハチに会いにって…わたしは別にアイツに会いたいわけじゃないわよ!」

 

流石は長頼さん

信奈様の調子をあっという間に戻した

それに私の考えも汲み取ってくれている

 

信奈「ま、まあ仕方ないから行ってあげましょうか。ホント、世話のかかる…」

 

長瀬「し、か、し、です」

 

だが長瀬さんは一筋縄ではいかない

しっかりと信奈様に釘を打つ

 

長瀬「今はとても忙しい時期です。仕事も溢れるほど沢山あります。なので会うのは少しの時間だけにして下さい。いいですね?」

 

信奈「えっ!?」

 

長瀬「い、い、で、す、ね?」

 

信奈「わ、わかったわよ」

 

さ、流石は長瀬さん

抜け目がない

 

長瀬「では可成さん。わたしはここに残りますのであなたが付き添いに行って下さい」

 

可成「はい」

 

私がお米を買うお金を持って

信奈様、森可成さんの3人でハチの家に行く

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

信奈「ったく…」ぶつぶつ

 

ハチの家に行く途中

信奈様はずっとぶつぶつ言っていた

その後ろを私と可成さんがついていく

可成さんはそんな信奈様が気が気でない様子

私はと言うと…少し悩んでいた

 

犬千代「……」

 

さっき成政に言われた事が頭から離れない

私くらいに強い馬子がいると言う話しだ

…もしその人が出世して、信奈様に気に入られたら

 

私はどうなるんだろう……

 

織田家には私以外にも武の心得がある者が沢山いる

その中でも私より強いのは

柴田勝家、牛こと佐久間信盛、あと悔しいことに佐々成政もだ

あと、今一緒に歩いている森可成さんもかなり強い

 

そんなに強い人が沢山いる中で、私くらい強い人が出てきたら…

 

私は口が回る方じゃないし

政治なんて苦手だし

…無愛想だし

 

私は、信奈様に必要とされるのかな…

 

昔から信奈様とは一緒にいるけど

信奈様が大きくなるにつれて不安になる

そうこうしているうちにハチの家に着いた

 

信奈「ハチー?入るわよー」

 

信奈様は扉を開けるとズカズカと中に入って行く

私は可成さんと顔を見合わせて、その後を追って部屋に入った

庭と部屋の縁側にハチはこちらに背を向けて座っていた

隣には秀勝がいる

どうやら2人は話しに集中してて私達には気づいていない様子

どうしようかと思っていたら、ハチの話しが聞こえた

 

 

八幡「信奈はねーだろ。アイツ性格わりーし」

 

 

ぶちっ

隣にいる信奈様のこめかみから何かが切れる音が聞こえた

どうしよう、信奈様の機嫌を直すために連れてきたのに

このままじゃ悪化しちゃ……

 

 

八幡「付き合うなら犬千代だろーな。アイツは素直で優しいし、それに可愛いし」

 

 

犬千代「————ッ!?!?!?//////」

 

 

えっ!?えっ!?えっ!?

は、ははは、ハチ!?

わ、私が、可愛い!?

それに…つつつ、付き合うって…///

 

秀勝「ん?———っ!?」

 

秀勝がこちらに気づいたようだ

だけど、私はそれに反応できない

顔が熱くてとても話せるような状態じゃなかった…

 

犬千代「うう〜///」

 

その後の事は知らない

秀勝によれば信奈様がハチを殴り飛ばしたみたいだけど

私はあまりの恥ずかしさに顔をうつむかせていたから

ハチの馬鹿…

 

 

 


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