陽の光を直に受け、俺は目を覚ました
あ、あれ?
俺は何で庭なんかで寝てんだ?
え、えーと、確か…あり?なんも思い出せねぇ
ま、まさか記憶喪失!?
八幡「なわけないか」
しっかりと自分が比企谷八幡だと認識しているし、俺の転がっている場所がウチの庭だとも理解している
だからイキナリ記憶喪失になるなんて突拍子のない展開はないだろう
そんな節もフラグもなかったしな
八幡「って、はっ!!し、しまった!!」
記憶がないままだったら戸塚が男だって覚えてないわけだから
すんなりプロポーズ出来たのに…!!
八幡「く、くそぉ!なんと言う失態…!俺とした事がっ…!」
だが例え、記憶喪失を利用して告白しても色んな問題を抱えている
記憶喪失で戸塚の真実を忘れていても、戸塚はこの時代にはいない
ちくしょう!
戸塚にプロポーズしても、断られる可能性が大幅にある
ちくしょう!
そして何より、戸塚が汚してはならない天使だという事実…!
ちくしょう!
お、俺に救いはないのか!?
この想いを伝えるのは…いつになるってんだ!!
ダレカタスケテー!
「うっほおおぉぉぉーーーい!!」ブシャァ
八幡「ヒッ!?」ビクッ
チョットマッテテー、の代わりに変な奇声と噴射音が聞こえてきた
音のした方を見るとそこは俺の部屋で…
床に倒れている女の子と血溜まりが…!?
八幡「ええっ!?こ、今度は殺人事件!?」
あまりの展開の早さに困惑する
な、なんだってんだこの時代は!
戸塚と会えないわ、小町と会えないわ
旗は喋るわ、それに死にかけるまで筋トレさせられるわ
同僚にう○こがいるわ
記憶喪失未遂になるわ、殺人は起こるわ
もう散々だ!
八幡「……って、あれ?」
よく見ると倒れている女の子には見覚えがあった
えーと、確か昨日信奈のとこに行った時に、信奈の後ろに侍っていたポニテコンビの片割れ
そのおっぱいがデカい方だ
そう言えば、この巨乳ポニテが信奈もとい茶マゲや犬千代と共に、俺の部屋に来ていたのを記憶の片隅に覚えている
ああ、その後に茶マゲから昇龍拳を喰らって気絶したんだっけ
「……ハァ、ハァ」ダバダバ
…それで、なんで信奈にくっ付いていた奴が鼻から血を流して倒れているんだ
しかも息が荒いし
てか名前なんだっけ、この人
八幡「おーい」
恐る恐る話しかけると、巨乳ポニテは慌てて起き上がった
ボイン
その動きだけで揺れただと!?
ダバダバ
それより鼻血が滝のようだ!
可成「っ!あ、す、すみません!私、信奈様の命でここに残るように言い渡された森可成です!初めまして…ではないですが、よろしくお願いします!比企谷どの!」ダバダバ
鼻血を垂れ流しながら自己紹介された
森可成、ね
とりあえず変人だってのはわかった
八幡「その鼻血、止めなくていいのか?」
可成「こ、これは、その…。とある事象の気配を察知し、頭の中に生まれると自然に出てしまいまして…」ダバダバ
八幡「と、とある事象?」
いや、説明よりも先にその鼻血を止めろよ
俺の部屋が血まみれじゃねぇか
可成「その、具体的に言えば、男性と男性の好意的な行為を想像すると…」ダバダバ
なんと思わぬ腐った地雷でした
八幡「待て、もうわかったからそこまででいい。鼻血を止めろ」
可成「は、はい!すみません!」
まさかこの人はソウイウ趣味の人だったの?
キャラ濃いな
ソウイウのってこの時代じゃあ当たり前の事だったんじゃなかったっけ?
珍しくもないんだから特別に興味を持つようなものではないんじゃ
有名なのは信長とか武田の大将とかその辺が…
はっ!信長って、ここでは信奈と言う女になってんじゃねーか!
と言うことは他のお偉いさんなどの男もみんな女になっている可能性が…
だとしたらソウイウのが価値を持ってくる
ならばソウイウのが好きな女の子が出てくるのも充分あり得る
てか、それよりも…あれ?
信長が男色なのはどっかで聞いた事があるから知っている
そして、そのお相手って確か…名字が『森』だったような…?
…ま、まあ、あんまり触れないようにしよう
俺にとって得がないからな
可成が鼻血を止めたのを確認してから話しかける
八幡「それで?そもそもアンタは…いや茶マゲもか、なんでウチに来たんだ?」
可成「それはですね、比企谷どのがこちらをお忘れになられていたのでお待ちいたしたからです」
可成が傍らから黒いお盆を見せてきた
それには小判が乗せていた
これ、昨日に信奈から米を買って来いって仕事の元手の金か?
八幡「あん?なんでそれ持ってきたんだ?」
可成「はい?いえ、仕事を達成するにはこのお金が必要ではありませんか。ならば比企谷どのが持っているのが道理では」
八幡「いや、まだ倍の米を買う目処が立ってなかったから茶マゲんとこに置いといて欲しかったんだが。そんな大金持ってんの怖いし」
可成「そうなんですか?ですが犬千代によれば何か秘策があるのでは」
八幡「秘策って程じゃねぇけどな。しかもその大金を使う必要がないし」
可成「ほほう?それはどのような?」
ずずい、と俺の方に寄ってくる
何、その興味津々の顔
鼻血のせいで口の周りが赤く染まってるから怖いんだけど
八幡「言うわけないだろ?この作戦は最終手段だからな。そうだな…なんも目処が立たなかったら実行するかな」
可成「秘密にすると?しかし、それでは少々危険かと思います。ここで私にその作戦を言っておくのが身のためですよ?」
八幡「へ?なんでだ?」
可成「良いですか?あなたは今からお金かお米を手に入れなければいけません。それも大量に。となると、その手段は限られてきます。その中には非人道的なものや、卑劣な方法がありますでしょう?」
八幡「ふむ」
可成「そのために、もし比企谷どのにあらぬ疑いがかけられてはあなたの身が危ないでございます。特に、今の尾張では」
なるほど
今の尾張は姉弟が織田の覇権を巡って争っている
そんな中、茶マゲの家中に俺みたいな身元不明の怪しいやつが変なことをしていれば、それに疑いをかけて茶マゲにその事を追求し、茶マゲの立場を怯やかす輩も出てくる
確かにそうやって怪しまれないため、誰かに身の潔白を証明しておけば角も立たないだろう
八幡「たしかに、織田家側の誰かを味方につけとけば何かと動きやすくなる、か」
可成「はいっ。それに私は信奈様の側近でございます。貴方に疑いの眼差しが向けられた時、私が弁明すればある程度の信頼は得られるでしょう」
八幡「しかしそれは信奈に向けての信頼だろ?対立している信行側はどーすんの。あっちからとやかく言われた方が厄介だろ?」
可成「それはどうしようもありませんね。ただ、織田家の現当主は信奈様です。なので信奈がそちら方面の方へ『がおー』と威嚇すればとりあえず大丈夫でしょう」
威嚇って…
信奈はライオンか何かか
あと、『がおー』って言った時の動きが可愛かった
八幡「とにかくアンタの協力が必要そうだな。でも、本当に弁明してくれるのか?」
可成「場合によります。もし悪どい手段を使おうとしているならば止めますし」
八幡「ま、そうだろうな」
うん、その方が俺としても安心できる
可成「それで、どのように米を揃えるつもりなのですか?」
八幡「募金」
可成「は?」
八幡「だからー、町におりて民衆様にご協力して頂くんだよ。どうせ今の俺より生活のいいヤツとか城下のどっかにいんだろ。だからその人達からお慈悲を頂く」
可成「ええぇ!?すごい秘策があると思ったのに、よりにもよって乞食の真似事ですか!?」
八幡「ちげーよ。協力だって言ってるだろ」
可成「で、でも、すでに城下の者からは集金しているので、信奈様側からの集金となれば大した金額は期待出来ないですよ?そもそもそんな方法で得られるお金なんてほんのわずかです」
八幡「いや、今からやったって、一銭も手に入らないかもな」
可成「ええー…。わかっているなら何故その方法を?」
八幡「いや、他に方法がねーし。そもそも元手より倍の米を用意するなんてできねーよ。茶マゲの方も出来るとは思ってねーだろ。もし出来ると思ってんのなら、頭の中にその根拠があるって事だ。そんなん知ってんのなら俺に任せるんじゃなくて自分でするだろ」
可成「う、ううーん。たしかにそうですけど、仕事を果たそうとするやる気はないのですか?成そうとする努力は?」
八幡「してるし、するよ。最初から言ってんだろ。そのための手段は考えてるし、考えつかなかったら募金するって」
可成「そうではなく、完璧にできる方法を探した方が良いのでは」
八幡「募金して金が揃ったら完璧だろ」
可成「揃ったら、の話しであって確実ではないですよね」
八幡「何だよお前、さっきから文句ばっかり」
可成「貴方の策がどうしようもなく頼りないからですっ!というかもうそれは無策に近いですよ!」
八幡「うるさいな。俺が思いつくのはこれくらいだっての」
可成「あー!もう、いいです!信奈様が連れてきたからどんな凄い人かと思ったら、とんだやる気のないロクデナシのおバカさんでした!募金なんてどう考えても利益なんてないですよ!」
八幡「そりゃお前と俺の考え方が違うからだ。利益よりも不利益を考えて金儲けが始められるかよ」
可成「貴方の考えなんてもうどーでもいいです!貴方には失望しましたから!私はこれで失礼します!」
可成は立ち上がると、足早にウチの玄関まで行った
そこまで行って、何かを思い出した様に振り返り
可成「あ、それから前田どのと溝口どのは各々お仕事に戻られたので、いまはお城にいます!それだけを貴方に伝えて欲しいとの事でしたので!それから、貴方に他の方法があったとしても募金以外の事は弁護しませんので!それじゃ!」
バンッ!
それだけ言うと、扉を乱暴に閉めて出て行った
八幡「……………………………あんな文句言ってたのに募金は弁護してくれんのかよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
川ボイス『ねぇ』
八幡「あん?」
可成が出て行った後、部屋にこびりついた血を掃除をしてから
ぼーっと……否、考え事をしていると旗から声が聞こえてきた
なんだ珍しいな
川なんとかボイスから話しかけてくるの
意外だったが、とりあえず設定を無視して話しかけてくんのには慣れた
八幡「何だよ」
川ボイス『昨日、なんかあったの?』
八幡「は?」
川ボイス『だってアンタ、昨日外から帰って来てずっと様子が変だったし』
八幡「………んー、あー。もしかしたら、村に行った時にガキに襲われたから、どっか痛めたかもな」
川ボイス『…………、わたしらはアンタに置いてかれたから、その村に行った時のことはサッパリ分からないけどさ。なんかあったなら話しなよ?』
八幡「いや、だからガキに襲われたって…」
川ボイス『ねぇ、なんでわたしらが振り分けられた担当の番号以外で話してるのか分かる?』
八幡「は?それは、お前らの自己顕示欲が強いからだろ」
川ボイス『アンタが自分から、誰かに物を尋ねるようなヤツじゃないからさ』
八幡「…………」
川ボイス『特に自分の事に関しては、ね。アンタが一切話しかけてこないから、わたしらは自分達から話さないといけない』
八幡「そりゃ悪かったな」
川ボイス『アンタ、わたしらにこっちでの事を何も教えてくれないよね?知ってるのは、アンタが天下を目指している事と、アンタがこっちで生活している事だけ。でもその知っている2つだって、天下の事は龍神とか言うヤツから聞いて知ったし、生活は見れば分かる』
八幡「……それは」
川ボイス『アンタは織田家での仕事の事や、わたしらがこっちに来る前の事は全く教えてくれない』
八幡「…それは、お前らに話す必要がないから」
川ボイス『分かるよ?わたしらがどれだけアンタの知っている声で喋ろうが、わたしらはただの道具。本質的にアンタの支えになんてなれない事くらい分かってるよ』
八幡「…………」
川ボイス『でも、話しを理解する事はできる。アンタの知っているわたしじゃないかも知れないけど、ソレと似た感覚は持ってる。だから、何も出来ないってわけじゃない。わたしらも、アンタの力になりたい』
八幡「………」
川ボイス『だから、お節介だろうけど言わせてもらうよ』
八幡「……何だ?」
川ボイス『逃げるんじゃないよ』
八幡「……っ」
川ボイス『アンタは伝えるべき事を伝えるべきだ。アンタの抱えているものは、相手にとっては大切な事なんだ。大切な人が居なくなるのは、その人にとって辛い事かも知れない。でも、その辛さは失った者として知らなければならない感情だよ』
八幡「……」
川ボイス『アンタだってそうだろ?アンタだって、誰かが死んだって事を何も知らなかったら、悲しむ事も、弔う事も出来ないんだよ』
八幡「………、…………っ」
川ボイス『……わたしから言えるのはこれくらい。あとはアンタが頑張るんだよ。わたしらは手も足もない道具だから何も出来ない。だから伝える人はアンタしかいないんだよ』