木下藤吉郎。後の豊臣秀吉は目の前で死んだ。
その両手を胸の上で組み合わせる。
キョロキョロと見回し、木の根元に花が咲いているのを見つけた。
そのそばを木下さんが持っていた槍でザクザクと掘る。
……手で掘った方が早い事に気付きそちらに変更。
「木下氏が死にもうしたか、南無阿弥陀でござる」
掘り進めていると何かの気配を感じた。
だが敵意は感じない。
そちらを見るとちっこい忍者がいた。
口元は隠れているのでわからないが、目は赤く頭巾からはみ出す髪は銀色。
ぱっと見で女の子と分かる。
……待てそれは早計か。
俺には戸塚という可愛い天使がいるではないか、その前例を前にして軽々しく性別を判断するものではない。
八幡「誰だ?」
蜂須賀「拙者、蜂須賀五右衛門と申す、木下氏に代わり主人におちゅかえいたちゅ」
八幡「噛んだ?」
蜂須賀「せ、拙者長文は苦手ゆえ」
八幡「で?主人てーのは?」
蜂須賀「ご主君には拙者の相方となって頂く、木下氏とは共に出世を目指したのでごじゃる」
八幡「……俺でいいんだな?」
蜂須賀「木下氏が認めた男でござる。文句はござらん」
八幡「ま、一国一城を目指すんだ。人手は多いに越したことはない、よろしくな忍びっ子」
蜂須賀「忍びっ子…?それはともかく、拙者率いる郎党川中衆もご主君の連れでごじゃる」
八幡「あいよ」
舌足らずな忍びっ子が仲間になった。
声からして女の子だろう(確定)、それから川中衆と言う川賊もついでに加わったらしい。主従の証として髪の毛を1本とられた。
全員出世を目指していて、全ては俺の肩にかかっている。
これから共に戦うのだからこれくらいは当然かな。
忍びっ子から目を離して俺は地面に穴を掘る作業を再開する。
蜂須賀「あの、先ほどからご主君は何をされておるのでござるか?」
八幡「木下さんのお墓」
人間が入れるくらいの大きさに掘るとそこに木下藤吉郎を入れる。
その遺体に土を被せた後、木の枝を1本折って墓の立石にする。
墓に向けて拝む。
悪い木下さん俺にはこれくらいしか出来ない。
出世したらキチンとした墓を建ててやるからな。
蜂須賀「木下氏へのお心遣い、感謝いたす」
八幡「これくらいは恩人に対して当然だ」
忍びっ子も手を合わせる。
忍びっ子が木下さんのお参りが済んだのを確認すると、槍を持ち立ち上がる。
八幡「さて、そろそろ行こうか。織田の陣はあっちでいいんだよな」
俺は義元の陣と反対方向を指差す。
蜂須賀「そうでござる」
八幡「戦況は分かるか?」
蜂須賀「織田軍が優勢との事」
八幡「ふむ…」
蜂須賀「先ずは織田の本陣へ向かい、戦が終わり次第、大将にしゅかんのおうかがいをちゃちぇればよかろう」
では拙者はこれにて、と木の葉を舞い上がらせて姿を消した。
…最後噛みすぎだろ。
多分30文字が限界っぽいな。
俺は林を出る。
少し開けたところから菊の紋が見えた。
織田の本陣だろう。
すると前線の方から武将の指揮が聞こえた。
『騎馬隊奮い立て!もう少しで我らは勝てるぞ!足軽、誰か本陣へ戻り姫さまをお守りしろ!』
だが手柄に夢中で足軽は戻ろうとしない。
これは俺があそこに見えている本陣へ向かって守ろうか……織田の…あれ?姫さま?
疑問が生まれたがとにかく大将を守れば少しは手柄になるか。
しかし敵が本陣に来るとすればその数は桁外れのものになるだろう。
俺1人で行くのは愚行、ならば話しは簡単。俺は前線に向かって大声で叫ぶ。
八幡「ガハハハーー!!織田の本陣は貰ったーー!!織田家敗れたりーー!!」
『な、何ぃ!?』
馬にまたがった武将がこちらを見る。
目が合った。
それを見てから俺は本陣へ向かう。
これで何十人かはついて来るだろう。
……あの武将が意図に気づいてくれれば、だが。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
本陣には兵がおらずガラガラ。
大将を守る兵を引き裂くとは、それほど織田は少ない兵で戦っていたのか。
八幡「ん?あれか?」
なんか大将らしき人がいる。
あれが信長なのか?
にしては違和感が……。
『『わあああ!!』』
八幡「っ!」
っとお、お出ましだ。
本陣に兵が攻め込んで来た。
さっき呼び込んだ兵とは違う。
敵だ。
俺は織田の大将を守るように敵兵と対峙する。
思ったより少ないな。
『みやー!織田の大将の首をとれー!』
『なんだ、あのヘンテコな服を着たやつは!』
『構わん!アイツごとやっつけろ!』
兵士達が襲いかかってくる。
その後ろを指しながら叫ぶ。
八幡「あー!今川義元が全裸で踊ってるぞー!」
『『『なにいっ!?』』』
全員が後ろを振り向く。
もちろん嘘だ、そんなわけないだろ。
……でもコイツらが引っかかるって事はそれだけ義元はやる可能性があるってことなのかな。
八幡「ていっ!」
バシッ
『ふぎゃっ』
1番前にいた兵士の頭を槍で叩く。
その兵士は頭を抑えて崩れ落ちた。
しかしそれに気づいた他の兵士が向かって来る。
『みゃー!よくも騙したなー!』
『死ねーー!』
槍が迫ってくる。
それを迎え撃つ。
八幡は槍の素人。
なので槍の先を兵士に向けて牽制する。
しかしそれだけでは決死の覚悟で大将の首を狙って来たコイツらを止める事は出来ないだろう。
八幡(でも今はこれしかない。時間稼ぎが出来れば、前線の兵士が戻って来るはず。それまで耐える)
あの前線の指揮を執っていた武将は馬に乗っていた。
俺が走ってここに着いた時間を計算すると、あと5分ってとこか。
……数学苦手だから不安だけど。
『みゃー!』
牽制が削がれたか。
1人が俺に槍を突き立てる。
それは予測出来ていたので槍で弾いた。
しかしその隣の奴の攻撃は防御出来なかった。
しゃっ……
頰をかすめる。熱い、血が出て来る。
八幡「ぐっ…」
痛え!
早く来いよ前線!
俺が怯んだのを好機ととったのか、一斉に攻撃してくる。
八幡「ぬおおーー!!」
それに俺は槍を水平に持って掬い上げるように受け止める。
線で防いでも死ぬだけだ!
だったら面で防ぐ!
『『でやあーー!!』』
八幡「ふん、ごごご……」
1人でこの人数の重さを耐えるのはキツイ……。
膝が折れて地に着く。
八幡「待て!」
『?』
俺は待ったをかける。
目の前の兵士達に言ったわけではなく、視界の隅に忍びっ子が何かをしようとしていたのが見えたからだ。
俺を助けようとしてくれているのだろうが。
八幡(ダメだ…ここでアイツに甘えたら…。俺はぼっちだ。ぼっちならぼっちらしく、1人でやれるってところを見せてやらなきゃな)
ぼっちパワー全開!
八幡「ふん、ぬら、ばあぁぁ!!」
『『なっ!?』』
膝を死ぬ気で伸ばし、押さえつけていた何本もある槍を押し返す。
だが完全に押し返せばこの拮抗は崩れる。
この状態で耐えろ。足がガクガクになっていようが、腕がプルプルしていようが、耐えろ、耐えろ、耐えろ。
ぼっちは耐える事において最強だろ!!
八幡「おら!テメェらの力はその程度か、この野郎!もっと力を入れやがれ!」
『『うおおおーー!!』』
さらに重くなる。
だがそれでいい。
その方が維持することが出来て楽だ。
『姫さまーー!!』
その時、さっきの武将が馬を走らせて本陣へ戻って来た。
八幡「おっせぇーー!!」
最後の力を振り絞って兵士の槍を跳ね返す。
仰け反ったそいつらを後ろから来た武将が刀で切りつける。
その武将は強かった。
バッタバッタと兵士達をなぎ払いあっと言う間に本陣にいた敵兵士は全滅した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
八幡「ぐへぇ」
俺はその場にへたり込む。
力が抜けて力が出ないよー、明日絶対筋肉痛だよー、助けて小町ー。
あ、やっぱダメお前はこんな危険な所に来ちゃダメ。
「姫さま!ご無事ですか!?」
駆けつけた武将は大将の方を向いた。
俺と目が合う。
途端に武将の顔が強張っていく。
「貴様はー!姫さまから離れろー!」
案の定俺を見て刀を向けながら怒鳴ってくる。
てかよく見ると女じゃねえか。
「待ちなさい六、そいつはわたしを助けてくれたのよ。褒美をやらなきゃ」
六「し、しかし此奴は先ほど我らと敵対するような事を言っていた男ですよ!きっと今川の者です!」
八幡「そりゃーてめーらの兵が愚鈍だったから仕方のない策だっつの」
六「な、何だと!?織田の兵をバカにするか!」
槍を放り捨てながらその六とやらに憎まれ口をたたく。
この槍重いんだよなー。
八幡「アホにしてんだよ。俺が居なかったら大将がやられるような指揮とってるテメーが悪いだろうが」
六「な、な、な、な……っ!」
俺の言葉に拳を震わせて怒り心頭の六と呼ばれた女武将。
殴りかかろうとしたところでそれを変な格好した女の子が止める。
「止めなさい!」
六はその怒号にすくみあがる。
変な女は織田の大将だろう、信長か?
信長(仮)は俺を睨みつける。
こっわ!
顔は可愛いくせにどうやったらそんな恐ろしい顔が出来んの?
信長?「アンタ、さっきは助けてくれたけど、わたしの軍をバカにした罪は重いわよ?」
八幡「何されんの俺」
そう聞くと信長?は俺を値踏みするように見てくる。
信長?「そうね、アンタ名前は?」
八幡「比企谷八幡」
信長?「長い、ハチでいいわね。それでハチ、わたしの命を救ったことは褒めるてあげる。でも侮辱した事で罰を与えるわ」
八幡「そうすか」
信長?「それで罪を償わせるためにアンタに仕事をあげるわ」
八幡「いらない」
あ、やっべ。
条件反射で断っちまった。
信長?「へえ、それとも斬り殺されたいの?」
八幡「す、すまんすまん。仕事を断ったのは勢いだ。で、その仕事ってのは?」
信長?「六!」
俺の疑問は無視。信長?が六に撤収の命令を下す。
ちなみに戦は引き分け。
信長?はそれからツカツカと早足で歩いて行く。
あれに着いて行けばいいのか?
俺は信長?の後を追ってヨボヨボ歩く。
信長?「よっ」
が、信長?は馬に乗ってしまった。
あれに着いて行くの?無理だよ。
八幡「おい…」
文句を言おうと思ったがそれよりも先に信長?が発進してしまった。くっそ何がしたいんだあの信長もどき!
俺は走って追いかけようと思ったが気がつくと首に縄が巻かれていた。
その縄の先には信長?の手が……。
……いやな予感。
その予感は的中。
ズルズルと馬に乗った信長?に引きずられて目的地まで俺は首が閉まらないようにするので手一杯だった。