信長?「着いたわ。ったく、今川が邪魔してくれたおかげで時間がかかってしまったわ」
八幡「…へえ」
首に巻かれた縄をほどきながら生返事を返す。
目の前には池。こんな池になんの用?と首を傾げていると、いてっ!しゃもじを投げつけられた。
信長?「さあ、くみなさい」
八幡「しゃもじで?ねえしゃもじでやれって言ってる?」
信長?「いいからさっさとしなさい!全部くみ終えないといけないんだから!」
八幡「この池の水、全部?」
信長?「そうよ」
なんつう罰ですかそれ。
てかやっぱりしゃもじでやるんすか、何でよりによってしゃもじなんすか、何で持ってたんすか。
不満が募るがやらないと殺されそうなので仕方なくすくい始める。
だが何度も言うがしゃもじだ。
すくい上げたところからザバーとこぼれ落ちて、水滴でしか取れない。
八幡「あの、桶とかないんすか?」
信長?「ないわよ。あ、あの村ならあるかもね」
八幡「村?」
信長?「この池の水を全てすくい上げる理由はね、ほらあそこ、六の隣に女の子がいるでしょう?」
10代くらいの女の子が怯えながら六の隣にいた。
信長?「あの子はね、人柱なの」
八幡「は?」
信長?「この池の名前は『おじゃか池』。何でも龍神が棲み着いているって噂なの」
八幡「え?そうなの?」
俺は池の方を見る。
ここは元いた世界と似通っているからそういうファンタジーはないと思ってたんだがな。
信長?「いいえ、ただの迷信よ。村の連中が勝手に信じ切ってるだけ」
八幡「えー」
あ、そういう路線?
何だよ先に言えよ、勘違いしちゃったじゃん。
信長?「あの女の子はその龍神に捧げる人柱として沈められるってわけ」
八幡「うわぁ」
結構面倒くさい事になってんな。
人柱の女の子は若い、まだまだこれからって人生で村人の妄想で殺されるのか。
はあ、そんなオッさんどもがあんな可愛い女の子の命を奪っていいわけねーよな。仕方ない。
八幡「なあ、その村に一度行かないか?水を抜くにしても、元凶であるそいつらの目の前でやった方が効率がいいだろ」
信長?「そんな暇はないわ。でもアンタの言うことも一理ある。だから人を遣わして、村人をここへ連れて来させるわ。その間アンタは少しでも水を汲んでなさい」
八幡「おうふ」
ザワザワ
ほどなくして人のざわつきが近づいてきた。
八幡「ん?来たか」
俺がしゃもじを使って池で遊んでいると(そのあいだずっと信長?に睨まれていました)村の住人が来たようだ。
さてここからは俺の演技力が試される。
すうー……はあー……
村長「おーい、何の用ですだぎゃ、織田様……」
村長らしき人が信長?に話しかける。
八幡「ばっきゃろーーー!!」
それに対して俺は大声で叫んだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ぱきゃん!
その足元にハチぶん投げたしゃもじが勢いよく飛んで行った。
村長「ひいぃーー!?な、何なんですか!?」
村長さんは足元のしゃもじを見て尻餅をついた。
そんなハチの奇行に私は戸惑う。
信長?「何してるのアンタ」
それを無視して村の連中にハチは話しかける。
八幡「おいテメェら、やる気あんのか!」
村長「や、やる気?」
村人「な、何の話しだぎゃー!それより村長に向かって何してるんだ坊主!」
八幡「おま、ほんっと!ほんとダメだな!いまテメェらはどこにいんのかわかってんのか!ああぁん!?」
村人「おじゃが池」
八幡「そーだよその通りだ!それでこの池にあらせられるお方は誰だ!」
村長「龍神様だみゃー」
八幡「だったらテメェらが先ず始めにするべきは、龍神様への挨拶に決まってんだろ!?それをなんだ?『どうかしましたか織田様?』だと?テメェらは龍神よりも織田家の方が上って考えてるんだな!」
村長「なっ……!?」
村人「そっ…それは……」
村長も村人も池と信長?を交互に見る。
信長?(コイツ…何が言いたいの?わたしの目の前で織田を見下したような…あ!そう言う事か!)
この村人達は何も本気で龍神の存在を認めているわけではないだろう。
ならば土地を治める織田家当主がいる場で、龍神に頭を下げれば織田に仇なす、織田に頭を下げれば龍神に仇なす。
どちらを取ると言われれば間違いなく現実にいる織田を選ぶ他ない。
何故なら不忠の罪として殺されるから。
そうすれば龍神に対してそれだけしか義理を向けていないと指摘する、ならば人柱も必要ない事になる。
信長?「けど……」
村人達が龍神を奉っているのは災害や不作の理由をそれに縋りたいからだ。
心の拠り所として龍神を崇めている。
それらを神罰として捉えて人柱を捧げることで龍神を慰める、そうする事を善と考えてきた連中だ。
今さらそれを止めろと言われても止められない。
例えそれが命令だとしても。
信長?(わたしがここにいるから、ハチの策はかなり有効でしょうね。でもアイツらに決断を委ねるのは時間がかかりすぎる)
ここはハチに任せていいのかしら、わたしが出張れば早く終わりそうだけど。
ちら…とハチを見る。
アイツの実力を見るのも一興。
八幡「おいおい!本当に龍神様を尊敬しているなら、あそこにいる織田っ子に背を向けて、池にお辞儀が出来るだろ!どうなんだ、ああ!?」
織田っ子って誰?わたし?
……後でぶん殴ろう。
村長「……我らは龍神様のお膝元で暮らしている身。例え相手が誰でありましょうとも、龍神様を崇めるのに問題はないんだみゃー。土地神様に敬意を表するのは当然だみゃー」
そう来たか。
日の本には神や仏がいる。
それらを崇めるのに何故当主が関係してくるのか、崇めるのは我らの勝手、そう言いたいのだろう。
八幡「ほう?ならば龍神のためなら織田に弓を引いてもいいと?」
村長「龍神様がそう仰るならそうする。しかし今はそんな下知を下されてはいないみゃー」
私は動こうとした。
これは不忠ととっていい。
そばにいる六に指示を出そうとする。
八幡「まて」
それを小声でハチが止めてきた。
何故?と顔を見るとまだ策があると言う顔をしていた。
ならば任せよう、俺は六に留まるよう指示する。ハチの話しが終わるまでは絶対に動くなと。
八幡「ふむふむ、お前らは龍神様の下された命に従って暮らしているのか。人柱もその為か?」
ハチは人柱の女の子を指しながら言う。
村長「彼女には悪いがみゃー…仕方のない事なんだみゃー」
八幡「でもよ」
ハチは一呼吸置くと、
八幡「龍神様はお前らを追い出したいみたいだぞ?」
村長「は?」
村人「へ?」
私はは眉間にしわを寄せた。策ってそんな下らないハッタリ?
そんなん信じるわけない。
ましてや自分達に都合の悪い事をコイツらが受け入れるはずがない。
村長「な、な、何を言ってるだぎゃー!!龍神様が我らを追い出す?ふざけるのも大概にするんだみゃー!!」
村人「テメェ!龍神様を語るとは!この不届き者!」
案の定ハチは村人に胸ぐらを掴まれた。
だがハチは涼しい顔で告げる。
八幡「アンタらが龍神様に人柱を捧げるようになったのは、作物が育たないからとか、人死が出たからとかそんな所だろ?」
村人「何が言いたい!?」
八幡「つまりテメェらは自分達の都合が良いように、龍神様を利用していたんだ。あれもこれも龍神様の罰だってな。本当なら非難されるべきはこの地を治る織田に向けられるはずだ。なのにお前らは龍神様のせいにした。龍神様はそんな不当な評価を受けるのが嫌になっておられる。住処の近くにそんな奴らがいれば、そりゃあ追い出したいよな?だから俺が代わりに1回だけ忠告してやる。今から村を出て行け」
村人「す、好き勝手言いやがって!!」
村長「皆の者!この子供は龍神様を語る愚か者だ!これ以上龍神様の前に置くわけにはいかん!怒りを買う前に!」
村人「やっちまえ!」
村人達が憤慨しだしハチを袋叩きにしようとする。
私は慌てた。ハチがどうなろうが今はどうでもいい。
ただこのままだと村人の反感を買う。
池の水を抜くのを止められ、龍神の存在を否定する事が出来なくなる。
だが、
それでも、
八幡は変わらず涼しい顔だった。
幾度の死線を越えて来た信長?ですら恐怖する程に、その目は冷たかった。
八幡「テメェら、池を見ろ」
「「は?」」
八幡「龍神様の心意がわかる」
八幡は池を背に村人達を見つめる。
見つめる。
そしてなんの前触れも無く、八幡の後ろにある池がボコボコと水泡が浮いてくる。
まるで何かが出てこようとしているように、
そして—————
八幡「ほうら龍神様も呆れて帰っちまった」
瞬きした瞬間におじゃが池の水は全て消えていた。