尾張へと続く道を歩く。
別に尾張へ帰りたいわけではなく、この道しか知らないから仕方なくだ。
周りに草木しかない道の真ん中にくると俺は後ろから声をかけられた。
蜂須賀「ご主君」
振り返るとそこには忍びっ子が。
八幡「…お前か」
道三には天涯孤独と言ったがそういやコイツがいたな。
蜂須賀「何故あのような事を?」
八幡「どの事だ?」
蜂須賀「とぼける事はないでござる。道三殿との問答…あれは信奈殿のためでごじゃろう?」
八幡「さあ?」
肩をすくめる。
蜂須賀「ご主君の目は道三殿との問答中ずっと信奈殿を見ていたでごじゃる。それににょぶにゃどのもにゃにかにきづいたようすでごじゃった」
八幡「後半なんつってんの?」
信奈殿も何かに気づいた様子と言っています。
蜂須賀「あの2人は似た者同士、どちらも合理的主義者、どちらもちえもにょ、どちゅりゃもごうじょう、しょしてどちゅりゃもいきゅしゃじゅきでごじゃる」
八幡「ごめん、わかんない」
合理的主義者、知恵者、強情、戦好きと言っています。
蜂須賀「ぢゃからあのみゃみゃはにゃしあってみょ、どうみぇいにゃどゆめのまたゆめ、さりゃにいいあいぎゃはじゅまったのでもうあにょときはみじゅをしゃすほかごじゃりゃんかった」
八幡「何で前のセリフから続いてんだよ!30文字が限界じゃないの!?てか流石にここまで酷くないだろ!?」
だからあのまま話し合っても、同盟など夢のまた夢、さらに言い合いが始まったのでもうあの時は水を差すほか、と言っています。
蜂須賀「だから。ぅん。ご主君は。ぅん。信奈殿と。ぅん。道三殿の。ぅん。間に。ぅん。割って入り。ぅん。注目を一身に受け。ぅん。話しの流れを。ぅん。強引に変え。ぅん。ましたで。ぅん。ござろう」
八幡「あー確かに単語と単語の間で落ち着いて一呼吸ついたら噛まずに済むなー…って馬鹿!まどろっこしいよ!ぅん、の時小さく頷くの可愛かったけども馬鹿!」
ぅんを読まずに読んでください。
蜂須賀「それに道三殿との言い合いにも意味があったでござる。にゃあ。会話の中に隠語を使っておったでござろう。わん」
八幡「うん?どした?何で急ににゃあとかわんとか萌え悶え殺しに来やがって…っては!ま、まさか、変な語尾をつける事で後に続く言葉を噛まないようにしているのか!?」
結論、忍びっ子はとっても可愛い。
八幡「はあ…隠語ってほどじゃない。最後の方は雑になってたし」
蜂須賀「拙者にもわかったでござるからな。しかしそれも狙いのように見えて仕方がにゃい」
八幡「何もねーよ」
ふっ、と忍びっ子は小さく笑った。
その口が小さく動く、『わからなければ信奈殿には伝わらない』。
言葉には出さずそう伝えてくる。
なるほど喋らなかったら噛まないか。
蜂須賀「さて、それはいいとしてでござる。これからどうするでござるか?」
八幡「あー、お前と川中衆の出世も面倒見なくちゃいけなかったんだっけ。悪い」
蜂須賀「いいでござるよ。ただし、次はないでござる」
八幡「まあ別に織田へ士官しなくても、大名なんか腐るほどいるからな。どうにかなるだろ」
蜂須賀「では、どこに狙いをつけるでござる?」
八幡「俺は戦が嫌いだからなー、織田がこれから大きく動くとしたら、いやそれ以前に京の都は戦火に焼かれるだろうな。だったら京から遠ざかるように探そうか。大方、北条か最上川かな」
蜂須賀「むう、どちらの主君も気難しいと有名でござる」
八幡「どう言う風に?」
蜂須賀「北条は引きこもり、最上川は狡猾な狐と」
八幡「ははは、俺に似合いそうな2人じゃねぇか」
蜂須賀「……されどご主君」
八幡「ん?」
忍びっ子は俺の目を真っ直ぐに見つめる。
蜂須賀「龍神を呼び出したほどのお方が誰かの下に着くとは思えないのでござる」
龍神、とはおじゃが池の話しだろう。
ちなみにおじゃが池は『雄蛇ヶ池』と書く。
八幡「別に俺が呼んだ訳じゃないし、本当に龍神が出たのかも不明だ。ただあの村人達が龍神の気に入らない事をし続けていたから天誅が降っただけだ」
恐らくあの村人達はもうおじゃが池を拝む事はないだろう。
下手をすれば龍神の加護がなくなりそのうち滅びるのでは。
蜂須賀「だとしても、ご主君は初め、龍神の考えを分かっているかのように言っておりましたでごじゃる」
八幡「その辺は俺自身もわからん。最初は本当にハッタリのつもりだったんだが、喋ってたら変な言葉が頭に浮かんできたから、そのまま伝えただけだ」
アレは俺にとっても不可思議な現象だった。
だって振り返ったら池の水が無くなってんだもん。
びっくりした。
蜂須賀「しかしながら、古来より龍は王を表すと、ならばご主君は……」
八幡「それはないだろ、俺が王になるなんか想像出来ないし、何より王とか面倒くさい」
蜂須賀「ではなる気はないと?」
八幡「木下さんとの約束だから一国一城の当主にはなるけど、それ以上は望んでねえよ」
蜂須賀「ふふ、まあ拙者もご主君に無理をして欲しくはござらん」
八幡「そっか」
俺たちは小さく笑い合う。
八幡「さて、それじゃあとりあえず北東に向かって行くか。何にせよ働き口を探さないとな」
蜂須賀「そうで……む?」
同意しようとしていた忍びっ子は何かの気配を感じたのか後方を伺う、そっちは正徳寺の方向だ。
八幡「どうした?」
蜂須賀「……ふふ、どうやら働き口には困らないようでござるよ」
八幡「へ?」
次はキチンと士官するでござる。ポンッ!と煙を起こして忍びっ子は姿を消した。
士官……まさか、俺は目を凝らす。
そこには長い茶髪を振りながら馬に乗ってこちらに来る、綺麗な姿の織田信奈がいた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
信奈「あーー!!いた!ハチ!」
大声で俺を指差す。
馬から飛び降りて俺の元まで走ってくる。
信奈「アンタ!何で勝手にどっかへ行ったのよ!この服で追いかけるのがどれだけ大変か分からないの!?」
ぐいっと詰め寄ってくる。
その勢いに一歩引いてしまう。
八幡「何しにきたんだよ?」
信奈「アンタを連れ戻しに来たに決まってるでしょ!」
八幡「そうか。道三が怒って俺を打ち首にするって話しか。だったら俺は行かないぞ、そそくさと逃げて……」
俺がそう言うと信奈は俯いた。
どうした?お腹すいた?
信奈「蝮は…わたしを娘にするってさ」
娘?どう言う事?
義理の娘になるって事だよな。
信奈「美濃の譲り渡し状ももらったわ。蝮の1人娘もわたしの妹として尾張に送ってくる。つまり今日から美濃はわたしのものよ」
八幡「道三がお前に美濃を譲る決心をしたって事か」
信奈「アンタと道三の話し…アレってわたしや道三へ何か伝えようとしてたんでしょ?息子達の馬を尾張まで、とか。人生をかけて溜めた美濃のお金を譲る、とか」
八幡「さあ?」
信奈「道三は言ってたわ。アンタが道三を決心させたって。あのままだったら道三は、自分の夢を正直に託す事が出来ずにいたに違いないと。だからアンタ道三を諭させた事を有り難いって」
八幡「俺はただの部外者だ。部外者が何か言おうが石を投げようが、当事者達にはなんの関係もない。だから俺がそうさせたんじゃない、お前自身が道三を動かせたんだよ。お前の才能が、性格が、天下盗りの気概が、な」
信奈「……アンタは認めないのね。ま、いいわ、それならそれで」
彼女は俺を睨みつける。
信奈「それじゃあ、次はアンタの処遇ね」
八幡「うげ、やっぱり打ち首か?」
信奈「そうね、道三の決心を促したのがアンタじゃないなら、礼も給与もないわね」
八幡「……給与?」
信奈「何?何かおかしい?」
八幡「いや給与って部下にやる金じゃねぇか。俺はお前に士官してないんだから」
信奈「何言ってるのよ」
何でもないように言い放つ。
信奈「アンタはもう、わたしの部下でしょ?アンタの意思なんか知らないわよ。美濃が手に入るとなれば、天下統一は目前。その分忙しくなるわ。わたしは少しでも人手が欲しいんだから、ハチの手も借りたいのよ」
ポカンと口を開けて固まった。
どんだけ自分勝手なんだよ。
コイツ、全部が全部自分を中心に回っていると思ってるんじゃないのか?
…いや、コイツが本当に信長なら歴史的に実際に回っているな。
八幡「はぁ、つまり俺を織田家に加えると」
信奈「ええ、足軽としてね」
八幡「………」
頰をかく。
路頭に迷っていたところだからこれは降って湧いた幸運だ。
だから断る理由がない。
ただ……。
八幡「なあ、1ついいか?」
信奈「何よ?ていうかアンタはもうわたしの僕なんだから口の聞き方に気をつけなさい」
八幡「士官する以前の問題だ」
信奈「何」
八幡「お前、俺を連れ戻したり、士官しろと言ったり。それって当主であるお前がやらなくても、他の奴に命令すればよかったんじゃ?それならその服で馬に乗らなくて済んだはずだろ?」
信奈「あ」
信奈は顔が赤くなった。
信奈「べ、べべ、別にアンタのためにわたしが来たんじゃないんだからっ!アンタを手に入れたいがために急いで追いかけたとかなくて!そう…その方が効率が良かっただけよ!」
八幡「そ、そっすか」
一気にまくし立てられて頷く事しか出来なかった。
信奈「それに…アンタって捻くれてるからね。説得出来るのはわたししかいないって思ったし」
八幡「は、はあ」
信奈「と、とにかく!さ、早く戻るわよ!」
八幡「いや、待ってくれ。どうせ尾張に帰るならこの道を通るだろ?だったら俺はここにいる、戻るの面倒くさい」
信奈「はあ!?それだとわたしだけが無駄な体力を使う事になるでしょうが!」
八幡「お前が勝手に来ただけだろ。何でその為に俺が動かないといけないんだよ」
信奈「なによ!当主であるわたしと同じ苦痛を味わえるんだから、喜んでついて来なさいよ!」
八幡「相手と一緒の痛みを感じて喜ぶって特殊過ぎるだろ!何、お前はそんな奴がいいの!?どんな趣味してんだよ!」
信奈「うっさい!わたしが苦を受けてアンタが楽になるのが気にくわないのよ!」
八幡「お前には馬があんだろが!その分、お前の方が楽だし速いだろ!だからお前がさっさと戻って、兵を連れて来いよ!その方が効率的だ!」
信奈「アンタ!足軽のくせに反発して来てんじゃないわよ!わたしの言う事は絶対よ!」
八幡「俺は足軽だから戦の為に体力を温存するという仕事があるんだよ!」
信奈「さっきアンタ、戦が嫌いって言ってたじゃない!」
八幡「でも足軽という立場なら、嫌でも戦に繰り出さなきゃいけないだろ!」
信奈「アンタみたいな弱っちいのなんか、その辺の子供にすら勝てないんだから!どうせ一戦で散る命なら、わたしの気分の為に散りなさいよ!」
八幡「酷!お前は酷!いくらなんでもそこまで俺の命は軽くない!てかお前の気分って人を殺すの!?怖いよお前!やっぱ織田家やめるわ、こんな恐ろしい女が当主の家なんて願い下げだ!」
信奈「ああそう!わたしもアンタみたいな言うこと聞かない奴なんか要らないわよ!今川でも武田でも、どこへなりとも行っちゃいなさい!」
八幡「言われなくてもそうするわ!じゃあな」
俺は手を振って尾張方面へズンズンと大足で進んで行く。
誰があんな酷い上司の元へ好きこのんで行くもんか。
あーあ、やっぱり俺には雪ノ下部長しかいないんだな……あ。
………い、今の発言は撤回で///
1分くらい進んだ所で服の裾を引っ張られた。
八幡「あん?」
振り返ると俺から目を逸らして顔を真っ赤にした美少女がごにょごにょと言っていた。
信奈「ほ、ほんとにいくんじゃ、ないわよ……///」
八幡「………………………………………うす」