信行「って、ちがーーーう!」
大人しく餅を食べていたと思ったら突然信行が立ち上がり叫んだ。
八幡「おい、餅食いながら騒ぐな。喉に詰まらせるぞ」
信行「あ、はい。ごめんなさい…もぐもぐ、もぐもぐ、ゴクンッ!じゃなくて!」
キチンと噛んで飲み込んでからまたも叫び出した。
八幡「どうした、砂糖醤油がないのが気に入らないのか」
犬千代「……きなこ美味しい」
信行「もう餅から離れろ!それよりも僕は、姉様が連れて来たハチとやらを見に来たんだ!」
八幡「それならここにいるぞ」
自分を指差すと信行がジロジロと見てくる。
きゃー痴漢よー。
信行「ふん!噂通りのスカしたやつだな!目も腐っているし、うつけと呼ばれる姉様にはピッタリだ!」
うつけ?
バカな奴とかおかしい奴とかの意味だっけ。
へー信奈はうつけだったのか、今度そう言ってからかってみようか(死亡確定)。
八幡「なあ、俺って噂になってんのか?」
ねね「はい!信奈様がハチと名付けた腐った死体を拾ってきたと」
八幡「清洲にいる連中はそれを信じてるのか!?だとしたら信奈が死体を可愛がる、かなりの異常者になるぞ!?」
信行「ははは、やはりうつけ者の姉様にピッタリではないか!」
誰が流したんだよそんな噂。
俺が今川との戦中で信奈に拾われた事を知ってるのは、あの場にいたのは……、
八幡「あの乳でか女か!?」
六「誰が乳でか女だ!」
ズカズカと六こと柴田勝家がお座敷に入って来た。
八幡「お前……清洲の連中に変な噂を流しやがって。お陰で俺は死体であの姫さんは死霊使いだ」
六「あたしじゃない!見ていた足軽どもが勝手に言ってるだけだ!」
信行の隣に座りながら俺に怒鳴り散らす。
八幡「だったらキッチリと取り締まれよ。ここにいるボク君が変な言葉を覚えて、自分の姉をバカして……姉?」
信行の顔を見る。コイツ信奈の弟なのか?似てるっちゃ似てるが。
信行「ふふん!僕は織田家の長男、織田信行様だ!」
八幡「おお、そうか。乳でか女、浅野さんから頂いた餅、食うか?」
六「い、いや今は仕事中だから…。てか、いい加減乳でかはやめろ!」
八幡「わかったよ、バッタ」
六「バッタ!?何であたしがバッタなんだよ!?」
八幡「柴田→しばた→ばた、でバッタ」
六「やだよ虫なんか!もっと可愛いあだ名にしろ!」
八幡「タスマニアデビル」
六「何だよソレ!?聞いたことないよそんな動物!」
八幡「バッタ→タスマニアデビルの流れだ」
六「しりとりなのか!?あたしの名前で遊ぶな!」
信行「僕にもかまってーー!!」
信行は大声で叫んだと思ったら走って出て行った。
何しに来たんだアイツ。
六「の、信行様っ!」
六はそれを追いかけようと立ち上がる。
八幡「ちょっと待った、どうせアイツは家に帰っただけだろ?だったら少しお前に聞きたい事があるんだが」
六は心配そうに信行の去った方を見つめたが、ため息をつくと座り直す。
六「なんだよ、あたしは頭が悪いからあんまし答えられることはないぞ」
八幡「え?お前って解説役じゃないの?ほら今日も正徳寺に行く途中で色々説明してくれたし」
六「違うよ!」
全く失礼な奴だ、と俺の差し出した餅を食べる。
あ、やっぱ欲しかったんだ。
六「あたしは、信行様に仕える家老だよ」
八幡「だったら分かるか?アイツがあそこまで織田の姫さんを見下しているのか」
六「……周りの家臣が悪いんだよ。信行様が信奈様より優れているから、信行様が家督を継いでくれってそそのかしてる。それで信行様もその気になって…」
八幡「自分の姉をバカにしていると」
六は俯く。
犬千代「……信行様は何度も信奈様に謀反を起こしている」
秀勝「その度に信奈様は信行様を許しているんだけど」
八幡「はぁ……、でもそれが間違っているって判断できる頭がないから、家臣達のいいように利用されていると」
犬千代「……信行様には夢がない」
秀勝「信行様は家督を継いだら、大好きなういろうを広めたいとか、女の子を集めて楽しく過ごしたいとか、そんな夢ばっかり」
おおう。
信行の家臣達は本当にコイツを当主にしたいのか?
いや、これほど愚鈍な当主なら自分達の思い通りに操れる。そしたら金も食べ物も好きなだけ手に入る。自分達のために信行を利用しているに過ぎない。
六「あ、あたしが悪いんだ……。あたしがもっと家臣どもをまとめられれば」
八幡「………」
連中を止められればいいが、六にそれが出来るか?
出来ればもう止めている。止めたくても止められない。
六はこんなにも悩んでいるのに信行派の奴らは自分の保身や出世のために……。
八幡「ちっ」
ねね「ハチ殿?」
俺の顔を見上げるねねを膝から下ろす。
八幡「浅野さん、今日はありがとうございました」
浅野「おうおう、いつでもおいで」
不思議そうに首を傾げるねねの頭を撫でる。
八幡「ねね、今日はありがとうな」
ねね「えへへ」
くすぐったそうに身をよじるねねを可愛いと思いつつ、犬千代と秀勝に目を向ける。
八幡「お前らは先に帰ってな、俺はもう少し清洲を見て回るよ」
秀勝「え?」
犬千代「……ハチ、平気?」
心配する犬千代に平気だ、と伝えると立ち上がる。
それから未だに俯いている六の頭に手を置く。
六「……っ!?な、何を」
六は驚いて顔を上げた。
八幡「お前も、遅くならないうちに帰れよ」
六の頭から手を離して、座敷の襖に手をかける。
八幡「っとお、そうだ」
振り返らないまま肩越しに六を見ながら伝える。
八幡「勝家」
六「え、名前……」
八幡「これなーんだ!」
ポケットからある物を取り出す。
それを見た六は目を見開く。
六「え!?そ、それって…」
六は自分の身体を探る。
六「な、ない!あたしの財布が、ない!」
八幡「バーイビー」
戸惑っている隙に俺は六の財布を持って浅野さんの屋敷から走って出る。
六「い、いつのまにーー!!こら待てー!」
後ろからは六の怒声が聞こえてくる。
それを聞きながら夕日で赤く染まった清洲の町へ向かった。