ここの信奈の弟は信勝ではありません信行です
六「待てー! このハチがー!」
あたしの財布を盗んで逃走するハチを追いかける。
ほんと、いつのまに抜き取ったんだよ!手癖が悪い!
ハチは清洲城下町に向かって走っている。
もうっ!あたしはそろそろ帰らなきゃいけないのに!
信行様は今頃、あたしがいない事を不審に思ってるだろうなー。ただでさえあたしは信行様が反旗を翻した時、信奈様に全く攻撃しないとして家臣どもから怪しまれているってのにー!
六「なんなんだよ!アイツー!」
何であたしの財布を盗んだりするんだよー!
……あれ?ちょっと待って?
あたしは財布を着物の胸元に入れてたから……、
六「アイツ!あたしの胸を触ったなー!」
あの野郎ぶっ殺す。
どさくさ紛れになんて事するんだ!
でもそれに気づかなかったあたしも……くそー!
あのハチを斬り捨てた後は気配を察知する修行だー!
六「ん?」
前をよく見るとなんかの店の前でハチの奴は足を止めていた。
好機!
六「ハチーー!この野郎ー!あたしの財布を返せー!」
八幡「ほらよ」
間近に迫っていよいよ捕まえられると思ったらハチがあたしの財布を投げ返してきた。
六「え!?おとと…」
そんな事ないだろうと思って油断していたあたしは不意を突かれて、慌てて受け止める。
八幡「ちゃんと持ってろよ?失くしたら大変だろ」
六「ぬ、盗んでおいてよく言えるな!」
八幡「いや、盗んでねーよ」
六「へ?」
八幡「座敷の襖の所に落ちてたから拾っただけだ」
六「……ほんと?」
八幡「おう」
そ、そんなー!いつ落としたのかな?
はっ!
浅野の爺さんとこに行った時に胸元が苦しくて着物を着直したんだっけ。
だから座敷に入る時に落ちて……。
六「って!だったら逃げずに返してくれたらよかっただろ!あたしの不注意で落としたけど、やっぱりお前は財布を盗もうとしてたんだ!」
八幡「盗むつもりなら返すわけないだろ」
六「え、あ。じゃ、じゃあなんで逃げたんだよ!」
八幡「軍資金のためにな」
六「へ?」
よく見るとハチは何かを持っていた。それって……!
ハチの立ち止まった店の看板をよーく見る。
八幡「お前、信行の家って分かるか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕は姉様が連れてきたと言うハチとやらを見に行った後、末森城に帰って来ていた。
1人で窓から外を見ると真っ暗。
信行「もう夜だと言うのに、勝家は帰ってないのか?」
勝家は見物について来てくれたが帰って来た時にはいなかった。
まだハチのとこへいるのだろうか?
同じく同行してくれた家来たちはこう言っていた。
家来「勝家殿のお屋敷に訪ねても帰っておられませんでした」
家来「もしかすると、あのハチとやらに何か吹き込まれたやも……」
そんな事を言っていたが僕は勝家を信じる。
というか信じるしかない。
何故なら勝家は尾張最強の武将だ。
あのすっごく強い成政や信盛でも勝てないんだから。
信行「もしかして、僕を裏切って姉様のところに…」
うう……、勝家がここに攻めてくると考えたら身体の震えが止まらない。
……こ、怖いんじゃないぞ!た、ただ窓から吹く風が冷たいから震えていただけ!
もう遅いし寝ようかな。勝家も僕が心配しなくても帰ってくるだろう、大丈夫……。
そう考えて窓の外をもう一度見た。
信行「ん?」
すると門の前に誰かがいた。
2人いて、片方は勝家だ。その姿を見て喜んだのもつかの間、勝家は僕を見つけると隣にいるもう1人に教えている。
信行「あ、あれは、ハチ?」
腐っている目をしたハチだ。
頭の天辺に1本の髪がピョンと立っている、間違いない。
信行「な、何しに来たんだ…」
ハチはこちらを見るとイジワルそうな顔を浮かべた。手招きをしてくる。
ひっ、と悲鳴をあげてしまう。
信行「も、もしかして僕を捕らえに来たのか…?」
アイツは信奈姉様のお気に入りだ。
だから僕が謀反を沢山している事を知って姉様の元へ僕を突き出そうとしているんだ。
信行「た、大変だ……。だ、だだ、誰か助けを……。でも勝家いるしなー」
助けを呼ぼうとしたが勝家の姿を見て冷静になった。
勝家に勝てる家臣はいない。どうしよう。
そもそも何で勝家はハチと一緒に?
信行「あれ?何か持ってる……」
ハチは僕に向けて何かを掲げて見せてくる。
黒と白、4つの球が串に刺さっている。見ただけで口の中が甘ーくなるあれは……、
信行「う、ういろう!?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
信行「な、何で僕をこんな所に呼んだんだい?」
俺と勝家、そして信行は城の外にいる。
近くにあった手頃の石の上に持って来た皿とういろうを置く。
八幡「ほれ、お前の大好きなういろうだぞ」
信行「やったー!……って、はっ!危ない!そんな手に引っかかってたまるか!どうせ僕をういろうで誘って、信奈姉様の所へ連れて行くつもりだろ?」
勝家「そ、そんな事しませんよ!」
信行「か、勝家……。どうしてハチと一緒にいるんだい?」
勝家「そ、それは……」
八幡「お前に話しを聞くためだ。いいから座れよ」
俺はういろうの隣に腰をおろす。
1本食べる。
八幡「お、美味いな」
名古屋名物ういろう。
初めて食ったが甘くて美味しい、団子もモチモチしてる。
信行「う、うう〜」
八幡「どうした、食わねえなら俺が全部食っちまうぞ」
信行「う〜う〜!やっぱり食べる!いただきまーす!」
ういろうを挟んで反対側に座った信行は嬉しそうにパクつく。
信行「うーん!美味しい!」
八幡「お前も食えよ、勝家」
六「で、でもあたしは……」
八幡「お前の金で買ったんだから、遠慮しなくていいだろ」
六「お、お前が勝手にあたしのお金を使ったんだろ!もう、食べてやる!」
六は俺と信行の正面に座るとういろうを取る。
八幡「地面に座らなくても……」
六「主人と同じ高さに座れるか!あたしはここでいい!それより話しがあるんだろ!」
俺は隣にいる信行の顔を見る。
信行「もぐもぐ」
それはそれは幸せそうにういろうを頬張る美少年だった。
俺はため息をつく。
八幡「お前、何で信奈に謀反を起こしたんだ?」
信行「……っ」
信行の動きが止まった。
ういろうを皿に置く。
信行「……それは、姉様がうつけ者で、織田の家督を継ぐに相応しくないからだ」
八幡「うつけうつけって言うけどよ、どんな風にうつけなんだ?」
信行「姉様は乱暴者だ。いつも色んな人とつるんで街中で悪さばっかり。口も悪いし、格好も変だし、口も悪いし、強情だし」
八幡「うん分かる」
信行「南蛮なんかにも手を出してさ。母さまもそんな姉様の行動に嫌気がさしていたんだ。父上の葬儀で姉様が何をやったか知ってるか?遅刻はするわ、格好は変だわ、坊主は脅すわ、挙句の果てには父上の位牌に抹香をぶん投げるわで」
八幡「……ごめん、ちょっといいか?」
信行「ん?」
俺は信行に聞かれないよう六の側に行き小声で聞く。
八幡「なあ、お前は信奈が好きなんだよな?犬千代とかも信奈を尊敬しているみたいだが、今の話しを聞く限りただの暴れん坊じゃないか」
六「……それは、あれが信行様が信奈様を見た話しだからだ。信奈様はあたし達が到底分からない事をやってのける方だ」
信行「ハチ?」
八幡「あ、ああ悪い悪い」
信行の隣に戻る。
八幡「それで?」
信行「それで、母さまも姉様に愛想が尽きたんだ。今は清洲城ではなくて、この末森城に住んでるよ。僕の家臣達も、姉様が嫌いな人たちで。だからみんな、姉様より僕の方が家督に継ぐに相応しいって」
八幡「で?」
信行「え?」
八幡「それだけか?」
信行「うん」
その返事を聞いて今まで以上に大きいため息をつく。
八幡「はあ〜〜〜〜。あのな信行君。いや織田信行君。俺が聞きたいのはそんな事じゃないんだ」
信行「でも、どうして謀反を起こしたか聞きたいって」
八幡「お前がな」
信行「え?」
八幡「お前が、弟であるお前が、何で姉の信奈に謀反を起こした理由を聞きたいんだよ」
信行「え、えっと……だから家臣達が、僕の方が家督を継ぐに相応しい…」
八幡「それはお前もか?お前自身も、信奈が相応しくないと、この国を背負うのに相応しくないと思うのか?」
信行「そ、そうだよ!父上の葬儀で姉様がやった事はいけない事だ!そんな人が尾張を治められるはずがないんだ!」
八幡「ふむ、お前も信奈の行動が分からないのか」
黙って聞いていた六が慌てるように言う。
六「の、信行様!恐れながら、信行様は誤解されておられるのです!」
信行「誤解?」
六「信奈様は何の意味もない行動するようなお方ではありません!その、我々には分かりませんが、なんて言うか見ている物が違うと言うか……」
八幡「無理しなくていいぞ」
六「う、うるさい!」
代わりに俺が話す。
八幡「要はお前が信奈の事を何も見ていないって事だ」
信行「僕が……姉様を……?」
八幡「アイツは凄いやつだ。あの斎藤道三相手に1本も引けを取らない気概を見せた。それに自分はこうなんだ!ていう強い意志を持っている。誰の意見も気にせず、ただ合理的に物事を考え、世界の先を見据えている」
信行「………」
八幡「お前にそれがあるの……」
信行「ふ……」
八幡「ん?」
六「信行様?」
信行「ふざけるな!!」
八六「「!」」
信行「僕が姉様を見ていないだと?」
八幡「……違うのか?」
信行「誰が1番姉様を見てきたと思っている!?姉弟である僕に決まってるだろ!」
六「の、信行様……」
信行「姉様が強い意志を持っている事なんて、君に言われなくても分かってる!誰の意見も気にせず行動できる人だってのも知ってる!だって僕は姉様の弟だ!そばで姉様の事を見ていた!だから…分かってる。僕が、姉様に及ばないなんて事は、自分がよく分かってる…。謀反なんて、本当は、心の底では嫌だった!でも仕方ないだろ!周りのみんなが僕の方がいいって、僕に家督を継いで欲しいって言ってくるんだ!姉様の行動は誰にも分からない!1番見ていた僕でさえ、あの父上の葬儀での事は分からなかった!弟の僕でも分からないんだ、他の人が分かるわけない!」
信行は泣いていた。
信行「……僕は姉様が羨ましい。あんな風に、自分の好きなように生きられる姉様が羨ましい……。でも僕には、家臣達がいる。僕を頼りにしてくれたみんなが……。だから姉様の様には生きられない。みんなには、僕しかいないんだ。姉様の事が理解出来ない人たちには、僕しか……」
八幡「………」
六「………」
八幡「……悪かった。俺も、お前の事を見ていなかった」
信行「ハチ……」
八幡「だがな、信行。そこまで考えているんなら、謀反を起こす前に、どうしてそう言う事を信奈に言わなかった?」
信行「馬鹿だなハチは。言っても、あの姉様がみんなの意見を聞くと思うかい?行動を改めると思うかい?」
八幡「……想像できねーな」
信行「だろう?」
大人しい信奈……、ありえん。
信行「ハチ……話しを聞いてくれてありがとう」
八幡「別に」
信行「勝家も」
六「いえ……」
信行は立ち上がる。
信行「それじゃあ僕は城に戻るね!遅くなったら母さまが心配するし」
八幡「おう」
それから残ったういろうを見て、
信行「あ、あと、ういろうを貰っていってもいいかな?」
八幡「勝家に聞け」
六「か、構いません!なんなら全部持っていってもらっても……」
信行「やったー!」
皿ごと持って信行はウキウキと城に帰って行った。
六「ハチ……」
八幡「ん?」
六「あたしはどうすればいいのかな……」
八幡「……」
六「信行様があんな風に考えていたなんて知らなかった。あたしは、今でも信奈様の方が尾張の当主に相応しいと思ってる。でも、信行様の話しを聞いて、あたしは……」
八幡「……余計な事したか?」
六「……いや」
しばらくの沈黙の後、俺は立ち上がる。
八幡「今日は悪かったな」
六「本当なら叩き斬っているところだ。けど信行様に免じて許してやる」
八幡「そりゃどうも」
六「清洲に帰るのか?」
八幡「おう。お前は?」
六「本当は屋敷があるんだけど、この城にしばらく泊まるよ。信行様が心配だし、それに考えたい事も……」
八幡「お前が考え事ねぇ。こりゃ明日は雪が降るな」
六「どういう意味だ!」
八幡「じゃあな、タスマニアデビル」
六「その名前はやめろ!」
怒っている六に背を向けて清洲に帰る。
全く、ここに来てまだ1日目だと言うのに何でこう面倒な事が次々と起こるんだよ。
ま、明日は筋肉痛で動けないという理由で休めるはずだ。
やったぜ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
しまったぜ
迷子になっちまった