どうびじゅまとめ   作:星見秋

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酒井桃音に対する第一印象を未だに引きずっている竹内黄奈子の話です。とても短いです。


優越感

 初め、私は桃音を馬鹿にしていた。何せ間違えて美術家に入ったのだから。……それも、出願書類の出し間違いという初歩的も初歩的なミスで。

 正直、すっごい間抜けだなと思った。間違えて入学した件については私も余りどうこう言える立場ではないのだが、理由が酷すぎる。不可抗力も何も発生していない。自分で回避しようと思えばいくらでも回避できたはずなんだ。もうちょっと注意していれば。もう少し疑問を持っていれば、こんなところに間違えて来ることはなかっただろうに。

 間違えて入学した人が他にもいるとはとは思わなかったし、それが自分よりも酷い理由とあっては尚更だ。だから私は桃音を発見したとき、心底安心した。

 自分と同じくらい、いや自分よりも馬鹿な劣等生がこの学校にいる。そのことが、私は嬉しかった。入学してからずっと感じてきた疎外感と失望が小さくなった感覚がした。

 多分、それは薄汚れた感情だった。

 

 ほどなくして、桃音は私が思っていたような人間ではないことに気付いた。

 嘘をつくのが下手で、純粋で、私でさえも目が点になるほど知識がなくて、居残りの常連で、そんな中でも物事を投げたりせずに立ち向かう力を持った、強い女の子。

 酒井桃音とは、そういう人間だった。私なんかよりずっと凄い子だった。私より劣っているだなんて、あるわけなかった。

 でも、だからといって恨んだり失望したりといったことはなかった。むしろ、私はそうした彼女の性格を非常に好ましく感じた。何も分からないのに、何にもないのに、間違って美術科に来たというのに。そんな状況下でも駄目になったりしないで愚直に挑戦しているところに好感を持った。それで、私も頑張ってみるかという気になった。自分よりも馬鹿な理由で入学した桃音が、自分と同じように間違えて入学した桃音が頑張っているのなら、私が頑張らない理由なんてない。

 謂わば、桃音は私のポラリスだった。夜を越えようとする旅人にとって不可欠な存在。真っ暗闇でどこに向かえばいいのかも分からない旅人に道を示してくれる存在。

 私にとって、桃音はいつの間にかポラリスだった。

 

 だから、桃音は私にとって不可欠の存在なんだ。暗い中で道を示してくれる存在。私と同じ、間違って美術科に入学してきた存在。私にはない強い力を持った存在。私よりも馬鹿みたいな理由で入学してきた存在。

 そんな桃音が好きだ。もう疎外感なんて感じない。失望感も大分軽減された。それもこれも、桃音のおかげだ。桃音に出会えたから今の私がいる。私は桃音が大好きだ。

 それは、たまらなく美しい感情で。けれど、汚れはまだ取れていなかった。

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