死した鶴   作:Гарри

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21.「大いなる助走」

 刑務所では、時間が経つのが早い。無論これは感覚的かつ個人的な感想であって、普遍の事実とは言えないことだ。私のルームメイトという、それを証明する実例もある。三隈は安物の腕時計を持っていて、それで日に何度も時間を確かめては、「まだこんな時間ですの?」とがっかりしたみたいに頭を振るのだ。ほとんど無意識の癖になっていたのだろう、私がその仕草を鬱陶しいものとして指摘しても、彼女はきょとんとしてこちらの言うことを理解していないようだった。

 

 それにしても、光陰矢の如しとはよく言ったものだ。監獄島への到着から、早くも二週間が経過していた。やれやれ、二週間か! 驚くのはここで三隈と過ごした時間が、外で初月と過ごした時間と同程度か、それ以上に長くなっているということである。それにも関わらず、私と初月が短時間で築いたような濃密な信頼関係は、三隈との間に成立していなかった。まあ、私たちは三隈に用がない時限定で一緒に部屋にいて、日に三度食事の為に房室を出る生活をしているだけだ。龍田の追跡も、吹雪秘書艦からの逃走も、“瑞鶴”への復讐も共にはしていないから、仕方ないことなのだろう。

 

 第一、仲良くなってもいいことがなさそうだ。初月の性格の悪さは、慣れれば愛嬌として受け入れられる程度のものだ。それは菓子の甘さを引き立てる為に付け加えられる、一つまみの塩である。でも三隈のは、初月のそれと趣きを異にしていた。もっと子供っぽくて、それでいて他人を傷つける類の毒だ。状況が違えば、彼女の悪意に対して別の受け取り方をする度量が私にもあったかもしれない。が、()()()()の話は概して無価値で、多くは慰めにもならない。

 

 それを実感させられたのが、“瑞鶴”が三隈に寄越した一連の手紙の、後半部だ。ヴェールヌイに協力した彼女は、あの怪しげな駆逐艦娘が何を盗み出したのか、見当をつけた。彼女がはっきりとその見当の内容を書くことはなかったが、書くのを避けることで彼女は自身の推察の危険性を表現していたのだと思う。“瑞鶴”は協力関係が終わった直後から、注意深くヴェールヌイを監視するようになった。地道で得るもののない時間を費やした末に、彼女はとうとう監視対象の一枚上を行き、翔鶴姉との接触を掴んだ。

 

 後は読まなくても──胸の痛みをこらえて読んだが──分かった。“瑞鶴”は翔鶴姉から、盗まれたものを奪おうとした。動機は三隈に脱走計画を持ち掛けたのと同じで、後の保身だ。複製を貰おうとしたが、拒否された可能性もある。手紙の書き手は、どちらとも取れる書き方をしていた。それで暴力的な手段に出て、結局は失敗した。“瑞鶴”が相手を甘く見ていたからだ。彼女には、想像を超えて激しく抵抗する翔鶴姉を取り押さえたり、無力化するだけの余裕がなかった。だから彼女は死んだ。“瑞鶴”は龍田に睨まれたが、計画に感づきつつある厄介な捜査官を消しただけだと偽った。そしてそれを伝え聞いた誰もが、そうと信じた。()()()()()()()()()()()()()()()()。そうでなければ、翔鶴姉の家に司令の手が回っていなかったことの説明がつかない。

 

 ヴェールヌイに怒りを向けてもよかっただろう。どうせ彼女はここにいないから、好きなだけ文句を言える。前に私が疑った通り、翔鶴姉の死の遠因だったことで、非難したっていい。三隈は私が度を越えてうるさくしなければ、止めはしない。聞いてもいないのだ。私が非生産的な態度でいる間はいつも、三隈は那珂ちゃんの歌に耳を傾けている。雑音をシャットアウトし、牢獄での退屈な時間を少しでも楽しいものにしようとする、涙ぐましい努力の一つだ。

 

 けれども、怒って地団太を踏み、ストレスを発散するよりも大事なことが一つあった。ずばり、脱走計画である。“瑞鶴”の手紙には飛び飛びに計画のあらましが書かれていたが、三隈はそれらを繋ぎ合わせてブラッシュアップし、より実用に耐える強度の計画に作り替えていた。彼女は私にお茶を飲ませて腹を下させた次の日から、これまで黙っていた改良された計画について、少しずつ教えてくれるようになっていたのだ。

 

 嬉しい進展だったが、その話をする時は集中力と物覚えをよくする為との理由で、必ず彼女が手ずからあの濃いお茶を淹れるので、手放しには喜べなかった。二回目以降、少量を飲んだだけで腹を下すようなことはなくなっていたが、それでも少しは緩くなる。加えてきつい香りや苦みも好みではなかった。かといって砂糖を入れると、三隈いわく副作用が強まるという。この問題について私は、ルームメイトと気の進まない話し合いを持たなければならなかった。

 

 で、結果として、私たちは一つの合意に達した。淹れるお茶はマグカップ一杯分とし、それを二人で回し飲みすることになったのである。私としては三隈に全量を飲んで貰って構わなかったのだが、彼女は頑として、この飲み物を共有することを私に求めた。考えてみると、彼女なりに私との関係を強化しようとしたのかもしれない。高濃度のカフェインがもたらす強い覚醒作用は、非日常的で特異な体験だ。それを共に体験することで私を脱走の為の一時的な協力者から、より血の通った間柄に格上げしようという魂胆だったのなら、彼女の強硬さにも道理が見えてくる。

 

 更に三隈を責めづらくなることに、私の方でも(かたく)なな態度を取ることがあった。脱走時に出る被害を、可能な限り抑えたいと訴えたのだ。これは三隈の計画の一部に、攻撃的な破壊工作が含まれていたことから起こった議論だった。効率だけを求めるなら、看守たちを無力化……はっきり言えば殺害してしまうのは、簡単で有効な手立てだ。死んだ艦娘は何もできない。だが彼女たちは、その人格や性質に曇り一つまでもないとは言えずとも、死が相応しい人々ではないのだ。

 

 これは他の囚人についても、同じことが言えた。死が相応なら、軍は監獄ではなく絞首台に送っていただろう。三隈の予定していた工作で発生する大暴動と混乱が、私たちの脱走に大きな支援をもたらすことは否定できなかった。しかし、私の捻じ曲がった倫理観はその助けを拒否しようとしたのである。三隈はとても渋った。彼女には脱走の成功が何よりも大事で、無関係の他人に気を遣う良心もなかったからだ。でも最後には施す工作の程度を変更し、暴動のレベルを銃撃戦から乱闘まで引き下げてくれた。

 

 三隈はかなり明け透けに計画の内容を教えてくれたが、実行日については答えなかった。というか、彼女にも答えられなかった、と表現した方が正確で公平だろう。決行する為の最後の条件は、私たちの努力で満たせる類のものではなかったからだ。それは気象や天候と同じで、()()()()のを待つしかないものだった。

 

 ルームメイトが計画に関して現時点で言えることを全部吐き出してしまってからは、私の新しい日課、室内ランニングは前にも増して過酷なものになった。走らされるのは変わらないまま、途中で気まぐれに三隈から質問を投げかけられるのだ。それは計画の手順を言わされる簡単なものから、想定しうる突発的な出来事──看守との偶然の遭遇、開くことになっているドアが開かなかった、仲間とはぐれた、暴動に巻き込まれた、事前に無効化されている筈の封鎖用隔壁が作動し始めた、予定していた逃走手段が見つからなかった等──への対処を訊ねられる困難なものまで、多岐に渡った。それぞれの問いに設定された制限時間内に私が答えられないと、三隈はうきうきした様子で、復習会の為に特製のお茶を淹れ始めるのだった。

 

 それと並行して、外出の頻度も増えた。棟外へ出るのではなく、部屋の外に出るようになったのである。その頃には囚人が自由に行動できる範囲の地理的情報が頭に入っていたが、目で見るのと三隈が紙に書いた見取り図で見るのとは全く違う。実際に歩き回り、図上での線の一本一本が現実にその景色をどう描き出しているか、私は覚えなければならなかった。でも歩いて、刑務所内部の風景をよく見るだけでいいのだから、実質休憩みたいなものだ。それに、叩き込まれた情報を脳内に展開しつつ、視界に見えるものと照らし合わせていくのは楽しかった。

 

 外出には三隈がついて来ることもあったし、一人の時もあった。でも一人の時は、少しすると何処からかふらりと時雨が現れるので、数回目からは彼女が来るのを待ってから歩くようになった。歩きながら、私は彼女の話をよく聞いた。刑務所の中では、新旧どちらであれ、情報に触れるということが少ない。毎日同じ相手と顔を合わせて、変わり映えのしない、無感動で平坦な生活を送る。新しい本が誰かに一冊差し入れられれば、彼女はその日、刑務所の宰相様だ。三隈の部屋には一日遅れの新聞が毎朝届いていたが、そういう意味では、私は極めて恵まれていたのだろう。

 

 そんな刑務所の中で、時雨は他人の耳を喜ばせる才能に長けた、素晴らしい話者だった。彼女は同じ冗談を二度繰り返してさえ聴衆を笑わせ楽しませる、優れた話し手であるだけでなく、臨機応変な話術という点でも卓越していた。私といる途中に揉め事に出くわしても、彼女は「ちょっと行ってくるよ」と短く断ってから、気軽に仲裁に入る。そして彼女が仲裁してくれたということ自体で、その揉め事の当事者たちに一定の満足を与えてしまうのだ。囚人たちからも看守たちからも、時雨は友人として愛されていて、私も彼女のことが好きだった。

 

 けれど私は、時雨との間に一線を引くことにしていた。同室者、三隈が彼女を警戒していたからだ。三つ編みの看守補佐との間にわだかまりなど存在しないかのように振る舞いながらも、彼女は何処かで時雨への不信感を表現し続けていた。その感情を直接向けられているのではない私にも分かったのだから、本人はとっくに気づいているだろう。それでもちょくちょく涼しげな顔で部屋に来る彼女は、ステレオタイプ的な豪胆さを持った、駆逐艦娘らしい人物と言えた。でもある時、私が三隈にそう言うと、彼女は「くまりんこは」と呟いてから一呼吸の間を置き、それから苦々しげな顔で「そうは思いませんわね」と、私の意見を否定した。

 

「豪胆だというのは、他の人より恐れないというだけのことですわ。彼女を見ていて、私を恐れていないようにしか見えませんの?」

 

 彼女の言いたいことは、分かりづらかった。こういう、他者に容易く理解されることを求めない人々の話し方というのは、本当に好きになれない。説明されないとぴんとこないような寓話(ぐうわ)的表現、過度に持って回った言い回し、それと結論を自明のものとして省くやり方……私の気質には全く適さないところだ。中学生の時に数学の授業を経験していれば、普通はそんな喋り方にはならない。それとも三隈は十四歳の頃、∠ABCと∠DEFが等角であることを証明しなければならない時でも、両者が等しいことを詩的にほのめかしていたのだろうか? それはそれで十四歳らしいが、数学は補習確定だったろう。

 

 二人の微妙な関係を無視して、計画の準備は着々と進んでいた。脱走は、逃げるだけでは終わらない。むしろ監獄を逃げ出した後こそが重要だ。下手に動けば、あっという間に見つかって捕まってしまう。そうなれば次こそ、誰の庇護も得られずに牢獄で腐っていくことになる。嬉しいことに、私にはここを出てからのプランがあった。初月と合流して、後は彼女に任せるのだ。これこそ適材適所というものである。

 

 既に、合流地点については三隈から情報提供を受けていた。最後に彼女と初月が会った場所とは、まさしく三隈が班を離脱する結果となった任務で訪れた地、赤城が率いていた融和派グループの元アジトだった。山中にあり、秘匿性は高いが、山と言っても行くのにザイルやピッケルがいるほどの山ではない。道から外れて奥深くへ分け入らねばならないので、ハイキングを楽しむ人々と鉢合わせる恐れもなさそうだった。隠れ家としては好条件の立地だ。それで疑問に思って、私は当時を知る貴重な証人に質問した。

 

「どうしてそんな場所がバレたの?」

「その頃、赤城が接触しようとしている人物がいましたの。それでその人に監視をつけたら大当たり、まんまとアジトまでくまりんこたちを連れていってくれましたわ。まさか、港湾棲姫がいるとは思いませんでしたけど」

 

 この思い出話が与えてくれるのは、追跡には気をつけなければいけないという教訓だ。追跡されることを避けるには、まず何よりも捕捉されないことが重要になってくる。街には監視カメラがあるし、昼に喉が渇いて水でも飲もうと公園に寄れば、そこで遊ぶ子供の面倒を見ている母親たちの視線を引き寄せる。目的地まで距離があるからと言ってタクシーになんか乗れば、降りた場所まで知られてしまう。移動に使うとすればバスや電車などの公共交通機関だが、鉄道駅は戦争前からカメラだらけで、行くなら対策が必須だ。

 

 考えることは沢山あった。脱走の為のトレーニングの最中に考えることで、私はそれらの難問に一つずつ自分なりの答えを出していった。その答えが軍警司令と彼女の手腕に通用するかどうかは、最後には未来が判断してくれるだろう。それまでは、三隈の「まあ、いいんじゃありません?」という消極的な承認で我慢するしかなかった。

 

*   *   *

 

 刑務所には、囚人にとっての贅沢が幾つかある。一つは甘味だ。融和派たちの為の収容所だった時代から、夕食ごとに囚人一人に一つ、市販の小袋入りチョコパイが配られていた。三隈が言うには、収容所時代はこのパイが通貨的な役割を果たしていたらしい。脱獄の偉大な先行者氏も、那珂ちゃんの歌を聴くに当たり、パイを積んで三隈の力を借りたそうだ。終戦で収容所が解放され、艦娘専用であるだけの刑務所になってからはその文化は下火になっているようだが、それでも囚人たちの小さな快楽には違いない。

 

 二つ目は、本である。この監獄には図書館があり、受刑者はそこで本を借り、房室に持ち帰って読むことができる。だが本を用意したのがお役人なので、読んで楽しい作品は基本的に置いていないし、備えられた冊数もお粗末で、とても図書館とは言えないレベルだ。図書室と呼ぶのもおこがましい。そこで差し入れの本が人気になる。この刑務所は外界から切り離されているが、手紙や物品のやり取りが完全に禁止されている訳ではない。外に知り合いがいれば、その知り合いが用意してくれる範囲で、かつ刑務所の規定にそぐわないもの以外、何でも手に入れることができるのだ。差し入れられる中で最も喜ばれるジャンルの本は服や家具のカタログで、何でもいいから未知の情報で脳を刺激したい情報中毒者に大人気である。

 

 三つ目は音楽。これは服務期間中に一定以上の評価を受けた、模範囚専用の娯楽だが、音楽室への入室許可を貰う為に得なければならない評価のハードルは比較的低く、厄介ごとを起こさずに暫く過ごしていれば誰でもその内許される程度だ。私も少ない自由時間を費やして行ってみたが、聴けるのは十中七くらいが著作権切れのクラシックで、残り三の中の二が雑多なジャンルの詰め合わせ、一が那珂ちゃんであった。

 

 そして四つ目に来るのが、陽の光を浴びることである。三隈や私のような例外を除き、囚人は毎日、労役の為に工場へ移動する。だけれども、立地や建造物の構造上、外に出ることはないのだ。小さな島を監獄化する為に、どの建物もぎゅうぎゅうにくっつけて建てられたせいか、もしくは以前収容していた融和派たちに、脱走のチャンスを与えない為か……ここの設計者が何を考えていたにしても、囚人たちは棟内を歩いて工場へ向かい、仕事をして、また房室へ戻っていく。新鮮な外の空気を胸一杯に吸うことも、日光を全身に浴びることもない。廊下の格子付き窓や採光用の天窓などから差し込む、か細くて頼りない陽光が精々なのである。

 

 でもそれは、私たちが全く棟外に出ることがないということではなかった。予約制で時間制限付き、更に監視員や用いることのできるスペースの関係から一度に出られるのは少人数だが、青空の下、塀とフェンスに囲われた裏庭めいた場所で軽いスポーツさえできるのだ。季節によっては絶妙な角度で陽が差し、そんな時は囚人一同、何もせずに日光浴に勤しむらしい。私はまだここに来て日が浅いからさしたる実感はないが、一年二年と建物の中に押し込められて生活していれば、陽が恋しくなるのは想像できる。今でさえ、息が詰まる感じはしているのだから。

 

 時雨と三隈からここの用語で言う“棟外活動”へ誘われた時、彼女たちの申し出を断らなかったのは、そういう理由でだった。同じ体を動かすのでも、部屋の中をぐるぐる走り回るのとスポーツをするのとでは気分も全然違う。意味も見いだせずにハムスターのように走らされれば疲れるだけだが、何らかの運動で楽しんで疲れることは、肉体の疲労と引き換えに心の疲労を取り去る。思考停止した精神論は愚かだが、精神を実体のないものと侮るのも誤りだろう。メンタルヘルスは重要なのだ。士気の差一つで、交戦の結果だって変わってくる。心の擦り切れた艦娘は、往々にして敵よりも艦隊を危険に晒すものだ。

 

 昼過ぎ、看守や看守補佐の時雨、計四名に先導されて、棟内の廊下を進む。普段は通行を禁止されている区域に入り、通路を一つ二つ曲がると、観音開きのドアがあった。厳重に施錠されており、扉自体も頑丈そうだ。看守の一人がそのドアを開錠し、押し開ける。びゅう、とタイミングよく風が唸り、通路に新鮮な空気を吹き込んだ。私の背後には他の囚人たちもいたが、彼女たちの感極まったような溜息が重なって聞こえた。

 

 外に出てみると、半月ぶりの外は思っていたよりも私の気持ちを高ぶらせた。自由な人間に戻ったかのような気さえした。周囲から監視され、フェンスや建物に囲まれ、ここから見上げる空は額縁に入れられたみたいにちっぽけだったが、それでも空は空だった。珍しく時雨以外の囚人、一人の重巡艦娘と話している三隈から離れて、日当たりのいい場所に行く。そこにはベンチが置かれていた。腰を下ろし、背もたれに寄りかかる。地面はゴム舗装されており、ほどよい熱がこもって足元からも温められているかのようだった。

 

 心地よさに目を閉じてうとうとしていると、横に誰かが座った。匂いで三隈と知れたので起きようかと思ったが、「そのまま」と言われたので目は閉じたままにしておく。周りからはうたた寝をしているとしか見えないだろう。「十分ほどしたら、騒ぎを起こしますわ。それに乗じて棟外に出なさい」その後は? 口を小さくもごもごと動かして、そう尋ねる。「三十分ほど逃げ続けて、それから捕まってくださいな」「捕まれですって?」寝たふりを忘れそうになったが、何とか私は平静を保った。

 

「一人でこの島から逃げ出せるのなら、逃げてもいいですけれど。できますの?」

「そんなつもりはないけどね、撃ち殺されて棺で脱走するつもりもないのよ」

「なら、撃たれないように頑張って隠れることですわね。真面目な話、すぐに捕まって貰っては困りますの。警備が混乱している間に、私と時雨で済ませてしまわないといけないことが、山ほどあるのですから」

 

 返事はしなかった。時間を過ぎゆくままにさせておき、騒ぎが起こるのを待つ。そろそろかという時になって、隣のルームメイトが立ち上がり、ベンチを去ろうとするのが分かった。薄目を開けて、その行先を見る。三隈は先ほど話をしていた囚人の元に向かった。二人で何事かを囁き合い、頷きを交わすと、突然その重巡艦娘は刑務所の女王の頬を殴りつけた。周囲に動揺が走り、三隈へ追撃しようとした重巡を止めに入った別の囚人が、襟首を掴まれて地面に投げ飛ばされる。そうなれば、乱闘が始まるまでに時間は掛からなかった。

 

 看守たちの中で、初めに動き出したのは時雨だった──彼女は暴れる艦娘たちの間に割って入り、騒ぎの中心人物である二人を引きはがそうと試みた。勇敢だが、無謀だった。彼女はただちに殴り合いに巻き込まれ、それを見た他の看守三人は警棒を抜いて無線で応援を呼ぶや否や、時雨を助ける為に自身も渦中に飛び込んでいった。今しかない、と私は判断して、小走りになってさっき通った内外を繋ぐドアへ走った。施錠はされておらず、私に気づく者はいないようだった。

 

 速度を落とし、足音を立てないように歩きながら逃走ルートを組み立てていく。棟内の監視カメラの位置はおおよそ記憶済みだったが、受刑者の進入が禁止されている区域のものについてはさっぱりだ。可能な限り、禁止区域は避けて行くべきだろう。もう一つ面倒なことに、本番の脱走で用いるルートは絶対に使えなかった。今回の逃走で刑務所側にそれを知られたら、脱走計画自体が頓挫(とんざ)しかねない。厄介なルールだが、後を思えば守った方がいい。

 

 一つ、変わったアイデアを思いついた。このまま三隈の部屋に戻って、ベッドに入るのはどうだろう? もし私の姿が消えたことを脱走と見なしたなら、看守たちは外を探す筈だ。一般的に、脱走者は外へ外へと向かう習性があるからだ。監房に戻っているとは思うまい。三十分どころか、一時間でも見つからずにいられるかもしれない。

 

 魅力的で、人を食った考えだ。しかし、三隈は()()()()()という表現を使った。自室のベッドに入っているというのは、どうもその表現の意味するところを満たさない気がしてならなかった。彼女から言われた通りに振る舞うのなら、もっと動的でなければならない。直感的に、私は工場(こうば)方面へ行くことにした。そちらに行ってどうするという明確な企てはなかったのだが、とりあえず乱闘現場から離れた場所に移動しようと思ったのだ。それに工場方面なら、立ち入り禁止区域が少なく、安全に動けた。

 

 監視カメラを避ける為に、ところどころ遠回りをしながら進む。暴動や脱走が発生した際はサイレンが鳴ることになっているそうだが、まだそんな音は聞こえてこなかった。思いのほか乱闘が長く続いているのだとしたら、看守たちは不甲斐ないことだ。彼女たちは自由な艦娘で、警棒やスタンガン、催涙スプレーで武装しているのに、日常的に不十分な食事と十二分なストレスを与えられている、徒手空拳の敵を鎮圧できないのか。嘲りを表す形に唇を動かすと、私の良心のアバター、最上の声が胸に響いた。

 

「質の違いがあるんじゃないかな? ほら、看守には戦後組が多くて、収監者には戦中組が多い、みたいな感じでさ」

 

 面白い観点だ。もう一つ褒めるなら、鎮圧できていないようだという推測を、単に嘲笑して終わらせるよりも創造的で建設的な意見である。戦中組だからと言って誰もが殴り合いに強いとは限らないが、確かに戦後組のアマチュア連中に比べて、私たちの方が暴力に躊躇しない傾向は強い。私のことを「三年寝太郎」とからかって歯を折られた、懐かしい艦隊員たちを思い出す。彼女たちは、言葉には言葉が返ってくるものと信じ切っており、いきなり拳で答えられるとは寸毫(すんごう)たりとも思っていなかった。

 

 その上、私が一人目を殴り倒した後、反撃のチャンスがあったのに彼女たちは躊躇った。最上や熊野、金剛、叢雲、そして翔鶴姉が相手なら、断じてそんなことはなかったろう。仮に、私が最上を理由なく殴ったとする。こちらの拳が最上の頬に触れる頃には、翔鶴姉のすらりとして真っ白な()()()が私の股間を蹴り上げ、金剛の肘が顔面を打ち、叢雲はとどめとばかりに手元にある武器になりそうなものを振りかぶっていた筈だ。熊野? 彼女は要領がいいので、ちょっと退いたところで観戦に徹し、人が集まってきたら姿を消すだろう。そういう奴だ、私は好きだが。

 

 ともあれ、他者を傷つけるという行為に対する心理的なリミット、容赦のなさは、それなりに長く戦場での時間を過ごすか、指折りに治安の悪い土地で悪い友人と共に育つかしないと、身につかないものである。戦後に艦娘になった連中に、そのどちらかの要件を満たすのは難しかった。特に後者だ。戦争の真っ最中なら非常事態ということもあり、多少のマズい前歴があっても艦娘になれたが、今では入隊拒否されるようになっているという。これもまた、時代の流れだろう。

 

 脱走中という状況にそぐわない奇妙な思考を続けていると、曲がろうとしていた角の向こうから、足音が聞こえてきた。囚人ならいいが、この時間に通路を一人でうろちょろする受刑者は滅多にいない。何らかの理由で労役を中断して移動することになったのだとしても、監視の為に看守が一人は付き添うことになっているからだ。私は隠れる場所を探して振り返り、トイレを見つけた。幸運の女神がついていることを感じるが、トイレかあ、なんて気持ちもじわりと湧いた。

 

 引き返してトイレに入り、そこで動きを止めて足音を聞く。やはり一人分だ。私は素早く判断すると、手洗い場の蛇口を捻って水を出しっぱなしにし、個室のドアを閉めずに、その後ろに隠れた。水音に混じって、軽い響きの靴音が聞こえる。近づいてきたそれは、そのままトイレの入り口を通過した。失敗か、とがっかりしそうになる。が、彼女は水音が止まらないのに気づいたか、戻ってきた。そしてトイレの中に入り、水の無駄遣いについてぶつくさ言いながら、蛇口を締め直す。きゅっ、と足元を鳴らして、彼女が外へ出る為に向きを変える。

 

 私はドアの陰から躍り出ると、彼女の襟首を掴んで引きずり倒し、馬乗りになって、左手で相手の口を押さえながら右手で首を絞め上げた。動きが止まり、失神を装っているのではないのを確かめてから、彼女の服を脱がしに掛かる。サイズが合うかどうかは賭けみたいなものだったが、正規の看守に駆逐艦娘はほぼいないので、分はこちらにあった。

 

 賭けに勝った私は首尾よく着替えると、代わりに私の囚人服を着せてやった。瑞鶴には情け深さがあるのだ。それから、看守が持ち歩いている対艦娘用の手錠を使い、片手と片足を個室の洋式便器、その便座を通して繋いでやった。瑞鶴には非情さもあるのだ。ついでに思いつきから、トイレの掃除用具入れからホースを取り出し、口に噛ませて結んでやる。無力化と拘束を済ませた私は、一歩退いて彼女の姿を見下ろした。満足だった。翔鶴姉でもこれ以上完璧にはできないだろう。

 

 その時、とうとうサイレンが鳴り出した。看守の中に私と同じ瑞鶴は一人二人いるから、今の恰好でうろついていても、ただちに見つかって捕まえられるということはないだろう。だが、何の策も弄さずに他の看守から離れようとすれば、怪しまれることになる。彼女たちに怪しまれず、一人にならなくてはいけない。それにはどうするか? 私はトイレの鏡の前に立ってにっこり微笑むと、反転した自分に向かって、思いっきり頭突きをかましてやった。

 

 血が流れ始める。割れていない別の鏡で、傷を確認する。いい感じだ。テコ入れに指で顔に血を塗り広げ、重傷を装う。俯いて片手で傷を押さえながら、ふらふらとした足取りでトイレを出て、慌ただしい気配のある方へと進んだ。やがて通路の向こうから、看守たちの緊張したやり取りが聞こえてきた。脱走がどうとか言っていたが、話を聞き終わる前に彼女たちが私に気づき、駆け寄ってきた。しどろもどろ、意識が混濁して呂律(ろれつ)も回らず、ろくに話せない負傷者を装う。我ながら上手いものだ、経験が違う。本当にそんな状態になったこともあれば、そうなった者を見たこともある。素人に看破できる筈もなかった。

 

 両脇を看守に支えられ、医務室へ運ばれる。戸口で艦娘ではない女性軍医に引き渡された私は、ベッドに寝かせられて治療された。傷の周りにあった破片を取り除き、修復材を一振りだ。それだけで傷も痛みもなくなった。艦娘のこういうところを、私は愛している。傷はなくなったが、頭を打っているのには変わりない。事態が解決し、より精密な検査を受けられるようになるまで、私はここに寝ているべきだと軍医は言った。逆らうつもりもなかった。

 

 ベッドに横になったまま、医務室の様子をうかがう。まだ、ここには私と軍医以外誰もいない。看護師なしに働いているなんて、軍医殿は大変だ。しかしじきに、乱闘の負傷者がわんさと運ばれてくるだろう。そうなる前にここを出るべきだ。さりとて、軍医を気絶させるのは避けたかった。彼女の医療的な視点が必要にならないとも限らないのだ。暴力は簡便で大体どんな時でも有効な手段だが、軽率に扱っていいものではない。

 

 ここでも幸運の女神が私を助けてくれた。内線電話が鳴り、それを取って話を聞いた女医が鞄に道具を詰め始めたのだ。事件の現場で処置するつもりなのだろう。艦娘の怪我の大半が高速修復材で何とかなるという事実からして、この判断は間違いとは言い切れない。乱闘の治療をその場でさっさと済ませ、医務室に引き返して脱走者によって負傷させられた人員の治療に備える。忙しいが、効率的だ。負傷者を運ぶ手間も危険も省ける。

 

 軍医殿は私に安静にしているよう重ね重ね命じると、白衣を翻して駆けていった。私が最初にやったのは、ドアの鍵を掛けることだった。そうしてしまえば、他者は入ってこれない。医務室にカメラはないので、警備室で監視している奴らの目を気にしなくてもよかった。薬品棚を漁って、高速修復材の入った未開封の金属容器を手に入れる。ラベルには内容量が二百ミリリットルと表示されていた。実弾で撃たれるかもしれないシチュエーションでは、同じ重さの黄金よりも価値がある代物だ。

 

 他にも私の興味を惹きつけるものは沢山あった。消毒用のアルコールと清潔な布とか、局所麻酔薬(リドカイン)とか、ここで戦争を始める気なら持っていて損のない品々だ。が、今日の私の予定表に「戦争を始める」との記述はなかった。医務室を去る前に、壁の時計を見る。逃げ始めてからもう三十分経っただろうか? 確信は持てなかった。けれども、ここでじっとしてはいられない。

 

 廊下に出て、小走りで外へと向かう。看守と何度かすれ違ったが、止められはしなかった。拍子抜けするほど呆気なく、私は刑務所の建物から出られた。出入口の脇で立ちすくみ、脱出を阻む最後の壁、刑務所を囲ってそびえ立つ高い塀を見つめる。その塀には等間隔に監視所が設けられており、外周を囲うバルコニーにはサーチライトも設置されていた。また監視所の壁は腰ほどまでの高さで、そこより上は大きな窓のようになっている。門は正面の一か所(メインゲート)だけで、周囲には遮蔽物が一切ない。出入りの管理は門外に小屋でも建てて、そこでやっているのだろう。

 

 私は目的地を知っている人間の足取りを偽って歩きだした。いつまでもぼうっと立っていたら怪しまれる。塀に沿って、建物の周りをぐるっと一周してみよう。次に何が起こるか警戒しつつ、歩き回る。一周の四分の一ほど行った場所で、塀の内側に繋がっているらしきドアを見つけた。塀は中空構造になっていて、中を通って監視所へ上がっていくのだろう。ドアはカードキーで開錠するようになっていた。奪った看守の服のポケットを洗いざらい探してみると、磁気テープ付きのIDカードが出てくる。それをカードリーダーに読み込ませると、ドアが開いた。

 

 塀の内部に入り、扉を閉める。中はすぐに階段となっていたが、何段か上がったところの踊り場にもう一つドアがあった。備品や、設備の簡単な修理に必要なスペアパーツなどを置いてあるらしかった。踊り場に監視カメラはなく、倉庫には鍵も掛かってなかったので、どんなものがあるか見てみる。サーチライト用と思しき細太二種のケーブルや監視所の照明用電球、その程度だった。私は太めのケーブルを数束掴むと、倉庫を後にした。

 

 上へ上へと上がっていく。塀の半ばほどの高さまで来たかというところで、長い通路に出た。守衛はここで、自身の持ち場に当たる監視所へ続く階段と分散していくのだと推量する。私は深く考えず、最も近くにあった階段を選んだ。海軍時代にしれ外・闇外(無許可外出)や、不足する燃料弾薬を補う為の物資調達(窃盗)で鍛えた忍び足は、まだ鈍っていない。

 

 階段の終着点は、監視所の中に直接繋がっているようだった。警備員が無線で誰かと話をしているのが聞こえてくる。その声の響きや足音から彼女の向きを判断し、私に背を向けたタイミングで、階下から顔だけ出す。看守と同じ制服、装備、違いはスリングで肩に回されたライフルだけだ。振り向きそうだったので、首を引っ込めて隠れる。彼女を寝かせるにしても、通信が終わるまで待たなければならない。

 

 無線連絡は長引きそうだった。会話の内容を盗み聞く限り、業務上必要な交信ではなく、こっそり暇潰しの雑談をしているらしかった。脱走者は未だに捕まっていないというのに、気を抜きすぎるにもほどがある。この愚かな警備の艦娘は、間抜け面のままバルコニーに出ていった。彼女は正門の辺りを見ながら下らない話をして、こちらを背後に回している。

 

 私は身をかがめてトカゲのように音もなく侵入し、監視所内の片隅に置かれた棚を荒らして、地図を手に入れた。それもこの島の地図だ。各地の警備状況や施設の位置が記されており、それぞれの施設に連絡するには無線をどの周波数に合わせればいいか、手書きで書き足してあった。詳しく目を通す為に、再び階下へ戻る。余人に見られる恐れのない場所で、私は戦利品を見た。塀を見た時の推測通り、正門の近くに門衛所があるようだ。当然そこにも人員は配置されているだろうから、見られないようにしなければいけない。

 

 階段を降り、通路を進む。カメラは相変わらず見当たらない。カメラによる警備は刑務所の各棟内に絞って、後は艦娘任せにしているのかもしれない。私には都合のいいことだ。通路の突き当りを曲がり、幾つかの階段室を通り過ぎて、お目当ての一つに到着した。息を整えてから、段を上る。警備員の声はしないが、時々歩き回っているのが分かる。先ほどの要領で彼女の位置と向きを掴み、私は監視所内に入り込んだ。敏速に見回し、棚の上にペンが置いてあるのを見つける。それを取り、階段室に逃げ込む。無論、わざとペンを落としながらだ。

 

 落とし物の音を、警備員は聞き逃さないでくれた。何が何処に落ちたのか調べる為に、私の居場所に近づいてくる。床には何も落ちていないから、彼女は階段の方に転がっていってしまったのだと見なす。よく見ようとして、しゃがみ、階下を覗き込む。私と目が合う。叫ばせはしない。私は彼女に組み付き、声と動きを封じる。トイレでやったのと同じ具合で、相手を絞め落とす。他の警備員が偶然こちらを見ていたとしても、腰の高さの壁に遮られて、何かが起こったようには見えなかった筈だ。

 

 持ってきた太いケーブルを繋ぎ合わせ、即席ロープにする。それから昏倒した警備員のライフルを奪い、下に降りる。倉庫から細いケーブルの束を回収し、今度はそれを結束して可能な限り長い一本の紐に仕立て上げた。その紐の先端に輪っかを作り、ライフルの引き金に引っ掛け、塀の中に入る扉の外に安全装置を解除したライフルを置く。ケーブル製の紐を持ったまま、私は紐の長さが許す限り、上がれるところまで上がった。

 

 息を吐き、吸う。それを三度繰り返し、紐を思い切り、何度も引っ張る。複数の発砲音が聞こえた。私は手に持っていた紐を投げ捨て、さっき警備員を無力化した監視所に駆け上がった。即席ロープをバルコニーの手すりに固定し、滑り降りる。手の平が摩擦熱で火傷するのが分かったが、手放せば墜落、重傷だ。捕まる予定ではあるが、どうせなら怪我なしに捕まりたい。

 

 ロープは塀の高さよりも短かったが、比較的安全な高さから飛び降りることを可能にしてくれた。勇気を出して手を放し、門衛所の裏に着地する。そちらに窓はなく、監視所の警備員たちは発砲が起きた方向を見ていて私に気づいていない。全速力で駆ける。目標は地図にあった、島の端、防波堤上の艤装保管庫だ。高度な知性を持った人型深海棲艦や、人間・艦娘の危険な融和派(テロリスト)が、囚人解放目的で刑務所を襲撃してきた場合に備えて、この刑務所には看守の艦娘たちの艤装と燃料・弾薬などが用意されていた。鍵が掛かっているだろうし、開くとは思えないが、脱走犯の行きそうな場所の一つではある。

 

 道を走り、脇目も振らずに保管庫前へ着く。歩哨は立っていない。海軍基地なら、二人は絶対にいたものだが。扉は固く閉ざされ、暗証番号型の電子錠で施錠されている。カードリーダーもあったのでIDカードを通してみるが、エラー音が返ってきた。無意味に暗証番号を打ち込むが、奇跡は起こらない。三度失敗すると、ロックアウトされてしまった。

 

 ざり、と後ろで地面を踏みしめる音。やれやれ、やっとだ。私は振り返り、こちらを取り囲んだ看守たちを見回す。と、その中に意外な顔を見つけた。我らが勇敢なる駆逐艦娘にして看守補佐、時雨だ。軍医の治療を受けていないのか、顔にはあざが残っている。脱走犯の捕獲の為とはいえ、本来は囚人である彼女が、こんなところまで出てこられるとは。私は人々の彼女への奇妙なほど深い信用に、思わず笑ってしまった。

 

 剣呑な目つきで警棒を抜いて、時雨以外の追跡者たちが迫ってくる。連中に叩きのめされて刑務所へ引きずり戻される前に、しなければならないことがあった。ポストモダン時代の棍棒で武装し、隊伍を組んだ艦娘どもに向かって突進する。一人二人跳ね飛ばし、時雨へと掴み掛かる。彼女を押し倒し、その懐へ修復材の容器と地図を押し込むと同時に、私は力強い数々の手で彼女から引き離され、地面に這いつくばらされた。後は、まあ……殴られた、としか言いようがない。

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