死した鶴   作:Гарри

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07.「佐世保の五十鈴」

 シリアルを食べ終えた私は、満たされたお腹を抱えて洗面所へ向かった。艦娘には、艦娘でない人間の女性と比べて、沢山の優れたところがある。どう見ても細腕なのに、大の男でも投げ飛ばせるほどの筋力。強靭な内臓機能。固有ではないということに目をつぶれば、健康で整った外見も手に入れることができる。だが、人間と変わらないところも多い。その中でも、最も切実で、無視することのできない共通点は何か? 私に言わせるならそれは、歯を磨かないと虫歯や口臭を引き起こすという点である。長期の軍隊生活で女性らしさを失う艦娘も少なくないが、仮に女性らしさを犠牲にしても、人間らしさまで失ってはならない。私はそう信じていた。

 

 洗面所で、人間であり続ける為の重大な時間を過ごして戻ってくると、初月はまだ食卓にいた。彼女の右手側にはティーポット、前にはシリアルを入れていた器の代わりに、ソーサー(受け皿)と、ティーカップが置かれている。カップの縁から数センチ下には、ベージュ色の液体が湯気を立てていた。「ミルクティー? 朝にぴったりじゃない」私のその言葉の最中に紅茶を口へと運んだ初月は、傾けたカップで顔の半分を隠したまま、目だけ縁の上から覗かせてこちらを見た。ゆったりとした、嫌みったらしく見える優雅さで、カップをソーサーに戻す。

 

「違うよ」

 

 と彼女が言い、私は小さく首を傾げた。

 

()()()()ミルクティーだ」

 

 心底しゃらくさい。私は彼女の滑稽な言い草に笑いながら、さっき自分が座っていた椅子に腰を下ろした。私の器も姿を消しており、代わりの小さなカップが置かれていた。空っぽだが、取っ手を持つと、熱が伝わってくる。ご親切に、私が洗面所から戻るタイミングを計って、温めておいてくれたようだ。初月がティーポットを取り、こちらへと押しやる。それを受け取ると、私は自分のカップに注いだ。

 

「あら」

 

 初月の飲んでいるのと同じものが出てくるのだと思っていたが、出てきたのは普通の紅茶だった。この格差は頂けない。責め立てる視線を性悪駆逐へと突き刺すと、彼女は肩をすくめてにやにやと笑いながら弁解した。「いや、僕も二杯分作ったんだが、あんまり美味しく淹れられたんでね。つい二杯とも飲んでしまったんだ」足を伸ばして、テーブルの下で初月のすねを蹴ってやろうとして、ふと彼女の鼻の下を見る。ベージュのラインが、薄く引かれていた。私はそれで勘弁してやることにして、人差し指で自分の鼻の下をぴたぴたと叩いた。

 

 だがどうも意味するところに思い至らなかったようなので、先ほど彼女が渡してくれたティッシュの箱を、そっと返却する。それでやっと理解したのか、彼女は気まずさを隠すように表情を険しくすると、引き抜いたティッシュでごしごしと鼻の下をこすった。私はその様子を楽しみながら、少し濃い目の紅茶をストレートで楽しんだ。全部飲み終えた後で、ほう、と一息ついた私に、初月が言った。「それ、ミルクティー用の茶葉で淹れたんだが。美味しかったか?」今度こそ、私は彼女のすねを蹴っ飛ばしてやった。

 

 駆逐艦娘は、どれだけ冷静な者でも、一皮剥けばみんなその下に荒々しい闘争本能を隠している。初月もご多分に漏れず、仕返しに蹴り返そうとしてきたが、悲しいかな、彼女の足の長さは私とは異なった。体長に対する比率的には十分に長い方なのだが、元の身長が違う。私は嘲りの笑みを満面に浮かべて彼女を短足呼ばわりし、はやし立てた。初月はにこりと笑い返すと、席を立って復讐を果たした。

 

 落ち着くと、ここを出るのに丁度いい頃合になっていた。「そろそろ行こっか」と声を掛けると、初月も頷く。私たちは必要な荷物を持って玄関から外に出ると、四日目の合同捜査を開始することにした。佐世保基地は遠いが、飛行機で行けばそう時間は掛からない。遅くなっても、向こうで一泊して戻ってくればいいだろう。安宿の一つや二つ、探せば見つかる筈だ。

 

 昨日や一昨日と同じく車で行くのかと思っていたが、初月はそれを否定して駐車場には寄りもせず、マンション前の道をとことこ歩き出した。近くの電車駅を使うという。空港の駐車場の使用料金がかさむのが嫌なのだそうだ。料金というのがいかほどになるのか、興味本位で聞いてみると、二十四時間で三千円ほど、四十八時間で五千円程度にもなるのだと彼女は言った。避けたがるのも納得の価格である。私たちは旅行に行くのではないのだ。佐世保で何があって足止めを食らうか、分かったものではない。あの“瑞鶴”に襲われた時、積み重ねられてゆく駐車料金を気にしているようでは、満足に戦うこともできないだろう。

 

 駅で切符を買い、電車に乗って、席に座る。家を出る前に変装を済ませてあるので、私が瑞鶴だと気づく者はいない。しかし、隣に座った初月はそのままの姿だ。時折、乗客が視線を向けるのが分かった。向けてすぐに外しているので、彼女の艦娘であるという前提を省けば特異な格好に、視線を誘導されたのではないかと推測できた。長い戦争の間に、艦娘の姿は日常風景の一つとなっている。気にする必要はないだろう。

 

 捜査について公共の場で話す訳にもいかないので、他愛のない会話を小声で交わしつつ、私たちは時間が過ぎるのを待った。途中で乗換えを挟みながら、一時間強で空港の最寄り駅に到着する。表示板の親切な導きによれば、空港へのシャトルバスが出ているらしい。案内板に描かれた矢印に従って歩を進め、ターミナルでバスが来るのを待つ。時刻表と、この前に渡された携帯の時間表示を見比べながら、いつ来るのか調べた。二十分ちょっとのようだ。店に入って待つほど長くはないが、ターミナルのベンチで座って待つにはやや長い、微妙な時間だった。

 

 他に待っている人も周りにいなかったので、初月に話しかける。「何だ?」と返してきた彼女の声は、セーフハウスでやり取りした時の悪戯っぽい嫌味さを欠いて、無機質に聞こえるものだった。彼女なりに、オンとオフを切り替えているのだろう。特に、“瑞鶴”という明確な敵が現れた今、外に出ている間は気を張っていようと思っているのかもしれない。ちょっかいを掛けるのは、余り褒められたことではない気がした。せめて、バスに乗ってからにしよう。どうせ時刻表が言うには、ここから空港までは五十分ほど掛かるのだ。

 

 初月に(なら)って、私も警戒する。あの“瑞鶴”は軍警向けの弾薬を装填した拳銃を持っていた。彼女が次は拳銃でなくてライフルを持ち出してきたとしても、おかしくはない。何処からかスコープ越しに私や初月へと狙いを定めている、なんてことだって、ないとは言えないのだ。恐怖で薄ら寒い気分になると同時に、私は自分が罪深い楽しさを感じているのに気づいた。()()()()()()()()。ぎょっとするのと、まあそうなるのも仕方ないか、と思うのを、私は同時にやった。

 

 恐れは、私たちが真実に近づいている証拠だ。それに死の危険とは、私たちが戦争の中で何度も覗き込んできたものだ。それを憎むのと同じぐらい、懐かしさと親しみを抱くのは、別に変ではないだろう。轟沈した艦娘がそう聞いたら憤慨するだろうけれど、私にとって死の危険やそれがもたらす冷たい恐怖心は、常に勝利や危地からの脱出という結末と結びついてきた。だから私にとってこの恐怖とは、その後訪れる勝利の、先触れ役だったのである。破綻した論理かもしれないが、この考えは私の心にしっくりきていた。

 

「なんて顔だ、瑞鶴。お前、誰も彼もこの辺りから追い払うつもりか?」

 

 言われて、声の主に目を向ける。すまし顔のつもりだったのに、険が出ていたようだ。失敗だが、そのことへの言い訳はある。私が学んできた警戒というのは、深海棲艦に対するものだった。海の上、味方でなければ敵しかいない環境での警戒だ。表情や気配などに気を使うことはしない。そんなものを読める距離まで敵に近づかれて、まだ接近に気づかないような艦娘は、みんな沈んで海の底だからである。初月はからかうように私の頬を手でぺちりと叩くと、「慣れないことはするな。少しは僕を信用しろ」と言った。そう言うなら、と、力を抜く。

 

 途端に、眠気が襲ってきた。二度寝を我慢して押さえつけた欲求が、ここで戒めを破って出てきたようだ。初月に任せるにしても、限度があるだろう。それに何かあった時、目を覚まして状況を把握し、対処するまでに掛かる時間は、私や彼女の生死を左右することになる。起きているべきだ。座るのをやめて、立ち上がり、背伸びをして深呼吸する。時刻表の掲示板に身を寄せて、じわじわと眠気が引くのを待つ。ようやく押し込めた頃になって、バスが来た。乗り込んで、席に座る。バス内は人が少なく、私たちを除けば運転手と、ほんの二、三人といったところだ。窓側を取った私は、さっき話そうとしてやめた話題を振った。

 

「飛行機に乗ったことってある?」

 

 戦中は、飛行機のチケットは非常に高額で、一般の民間人が旅行に使うようなものではなかった。現代の航空機は大量の航空燃料を消費するが、船と違い、深海棲艦の航空機が上がって来れない、ほとんど完全な安全空域を飛行することができる。大口径砲による対空射撃は、場合によっては届くこともあるが、あんなものは悪条件が重ならなければ、滅多に当たるものではない。だから国外からの支援物資の輸送だとか、軍や政府にとっての重要人物の移動などに用いられていた。

 

 私も飛行機に乗ったのは一度だけだ。昏睡の原因となった傷を受けた、あの大規模作戦時、私たちは行き先を知らされないまま軍の輸送機に積み込まれ、国外の基地へ送られた。パイロットの腕が悪いのか天候が悪かったのか、揺れて揺れて、おまけに窓は外からシャッターで覆われ、目隠し状態だった。酔いまくったのを覚えている。アイマスクを着けていても、波の揺れなら幾らだって耐えられるが、飛行機はダメだった。今回はそうならないといいが。

 

 初月は考え込んでから、端的に答えた。

 

「二回ある。海軍にいた頃に」

「うわっ、あれに二回もだなんてご愁傷様。どんな機会に乗ったのよ」

「一回は大規模作戦だ。ほら、終戦の一年前のな。もう一回については秘密だ。守秘義務がある」

 

 そういえば、初月が軍警に入る前にどうしていたのか、聞いたのは初めてだ。海軍にいたのは想定内だが──終戦の一年前の大規模作戦? 私は自分の顔にぱあっと笑みが広がるのを感じた。「あんたもあそこにいたの!」その時期に行われた作戦は幾つかあるが、大規模なものとなると一つだけだ。対深海棲艦用通常兵器の試験運用を兼ねた、あの作戦。私が一度だけ飛行機に乗ることになった、あの作戦時、初月もそれに参加していたのだ。

 

 奇妙な予感に襲われ、どの基地にいたのかも聞いてみる。私は行き先を知らされなかったが、着いた先でそこが何処なのかを知ることまでは制限されていなかった。初月に人並みの好奇心が残っているなら、それぐらい調べただろう。彼女は渋っていたが、やがて気が進まない様子で、私のいた基地の名前を口にした。奇縁というのは、こういうもののことを指すのかなあ、と間の抜けた考えが頭に浮かぶ。その時何の関わりもなかった私たちが、数年の時間を越えてここに二人、並んで座っているのだ。同じ目的の下に。面白い話だった。

 

 もっと彼女の海軍時代の話を聞きたかったが、バスの車内には他人の耳がある。余り突っ込んだことは聞けない。それなら、聞ける時まで待つ方が不完全燃焼にならずに済んでいいだろう。私は窓の上から日除けを引っ張り下ろすと、体をもたれ掛からせて目を閉じた。長いような短いような、混乱した時間経過の感覚の後で、初月が私の耳元で声を出しているのに気づく。「下りるぞ」「ん」短いやり取りをして、私たちはバスの前部に向かった。ちらりと料金箱の上の電光板を見て、金額を確かめる。千七百円? バスに乗ってそんなに払うのは、初めてだった。

 

 空港前のバス停から、ターミナルビルに歩く。シャトルバスの乗客が少なかったのでこちらも閑散としているものだと思っていたが、案外に大勢の旅客らしい人の姿が見られた。終戦から一年ほどで、航空機のチケットは民間人にもどうにか払える額になったと聞いている。まして四年も経てば、ということだろう。ここで私は、自分の抱えた問題に気づいた。飛行機のチケットを取って乗る手順が分からないのだ。前の一回は、軍の輸送機に押し込まれた。チケットなど買っていない。

 

 しかし、私は慌てなかった。こういう時の初月頼みである。彼女は私が完璧に、ここからの行動を頼りになるパートナーへ丸投げしたことに気づくと、呆れ顔で溜息を吐いた。「僕だってそんなこと知るか。今から案内所に行くところだ」ほら、実に頼れる駆逐艦だ。性格さえ矯正できたら、私が最後に所属していた艦隊の三番艦に入れてやってもいい。どうせ今の三番艦は、戦後組のお嬢様だ。挿げ替えたって、仲良し連中以外に悲しむ者はいないだろう。

 

 案内所で、私たちは親切な女性から懇切丁寧な説明を受けた。戦争が終わって四年経ってもまだ、初めて空路で移動するという人は山ほどいる。彼女はそういう人に何度となく説明してきたので、私たちが不安に思っていたポイントを先回りして、片っ端から教えてくれた。ついでに彼女は搭乗券の購入や、その他の手続きなどの要点をまとめた小冊子もくれたので、案内所を出た私と初月はもう何にも心配しなくてよくなった。

 

 チケット購入用のカウンターへ向かい、長崎空港に行く航空機の搭乗券を買い求める。当日購入ということで高くついたが、支払えない値段ではなかった。私は自分の分を現金で支払い、券を受け取る。高額ということもあり、初月はクレジットカードでも使うだろうと思っていたが、彼女も現金購入だった。カウンターを離れてから理由を聞いてみると、彼女は「カードの使用履歴を調べられた時、何処に行ったか知られたくない」と答えた。全く、一々もっともなことを言うものだ。

 

 出発ロビーで搭乗手続きを済ませる。自動チェックイン機の指示に従うことで、自分の目から見てもたどたどしい手つきながらも、失敗することなく完了できた。念の為の着替えを入れた鞄を預けて、パソコンや翔鶴姉のメモリーカードは持込み手荷物として処理して貰った。保安検査場ではドキドキしたが、私も初月も検査に引っかかることなく突破できた。よかった、と息を吐き出す。私は艦娘だ。深海棲艦と戦ってきた。彼女たちの弾丸が、私の肉体に埋まったまま残っている可能性があったのだ。しかし、それは杞憂だったらしい。

 

 搭乗ゲート前の待機所で半時間ほど待つと、私たちの乗る飛行機の搭乗が始まった。チケットをゲート前の機械に通した後、専用の仮設通路みたいなところを歩いて飛行機に乗り込み、自分たちの席を探す。左右どちらかの列の窓側席がよかったのだが、取れたのは真ん中の列だった。諦めて、リラックスすることに意識を傾ける。予定では、長崎空港まではおよそ一時間半ほど掛かるそうだ。酔ってしまったら面倒だし、今の内に眠ってしまおう。私は初月にその旨を伝え、彼女が頷くのを待って、目を閉じた。

 

*   *   *

 

 バスの時と同じく、初月は私を起こしてくれた。できれば着陸後に起こして欲しかったが、事前にそういう注文をつけていなかったので、文句は言えない。それに、思ったより気分は悪くならなかった。やはり尋常ではない揺れがダメだったのだ。私はほっとして、これなら帰りは寝なくても大丈夫そうだと胸中で呟いた。飛行機が着陸を済ませて降機が始まると、私たちはさっさと手荷物を受け取って、佐世保基地近くへのバスに乗った。

 

 車内の席で、携帯の画面に表示された時間を見る。もう昼を大分と過ぎた。食事してから五十鈴のところを訊ねる、という提案をしたくなるけれど、時間を無駄にしてはいられない。食事は後でもできるのだ。今すぐ佐世保鎮守府に乗り込まねば……そう思っていたのだが、初月はそれを否定した。無二の親友の間柄ではないにせよ、軍警は海軍と良好な関係を築いている。初月の主張によれば、その関係は両者の腐敗の上に成り立つものかもしれず、それなら海軍の目に留まるようなことは、可能な限り避けねばならないとのことだった。

 

 私にはいささか慎重すぎるようにも思えたが、命は一つしかない。大事にしたくなる気持ちも分かる。ならばどうするのかと問い返すと、彼女は私たちが持ってきたパソコンを開き、翔鶴姉の集めた参考人のデータを一つ呼び出した。それは私が年齢に着目して変だと述べた、あの五十鈴のデータだった。その時点で私は初月の言いたいことを理解した。浦風から貰ったメモの内容と、五十鈴の情報を見比べる。同一隊に二人も五十鈴がいるのでなければ、浦風のメモと翔鶴姉の情報は、同一人物に関するものだ。

 

 翔鶴姉の情報には、私が読み飛ばした続きがあった。「やれやれ、彼女はどうやってこんなことまで調べたんだ?」それを読みながら初月が小声で漏らした言葉に、私も内心で同意する。そこに書かれていたことは、この重要参考人のプライベートな情報を多分に含んでいた。住所は鎮守府のものになっていたので、艦娘用の宿舎に住んでいるのだろう。見逃せないのは、彼女がほぼ毎日外出許可を取って、出かけているという記述だった。そんな頻度で許可を出す提督がいることにも呆れるが、五十鈴も大概だ。彼女は夕方から夜中まで、お定まりの店を二つ三つと渡り歩きながら、ずっと飲んだくれているらしい。

 

 帰営時間には間に合うようにしている辺り、まだ理性が残っているようだが、そういった荒んだ生活を続けていては、いずれ何らかの形で破綻するのが目に見えている。これもおかしなことだ──彼女はどうしてそうなった? 戦争を経験していない、戦後組の艦娘の筈なのだ、彼女は。それが心に傷を負った戦場帰りみたく、酒に溺れている。警備任務中に運悪く深海棲艦と出くわし、僚艦を失いでもしたのだろうか。戦後組の連中の考えることは、私にはよく分からない。

 

「彼女が二つ目に使うという店で待ち伏せよう。もし逃げようとしても、酔ってれば追い掛けるのに苦労はしない。だが三つ目の店に来る頃にはきっと、まともに喋れなくなってるだろうからな」

 

 初月の提案に頷き、私はその店のある場所を調べた。佐世保鎮守府から、徒歩で三十分ほどのところだった。やや遠いが、行って待ち伏せの準備をする時間はある。そこは昼からやっている居酒屋なので、中に入って空腹を紛らわせながら待っていればいいだけだ。話し相手として悪くない初月もいるし、待機という苦痛はそれで緩和できるだろう。でも「私たちのどっちも、飲酒の誘惑に耐えられるかな」と冗談で言うと、初月はきょとんとして答えた。

 

「ん? 僕は入らないぞ」

「入んないって、何でよ?」

「外で見張る役が要るからな。中に入ったら、病院でやったみたいに僕に電話を掛けろ。五十鈴が来たら知らせる。気をつけろよ、瑞鶴。佐鎮には僕たちの目当てじゃない、別の五十鈴も複数いる。そこの見極めは僕がやるから、それに従ってくれ」

 

 難しい役目を引き受けてくれることに、苦情を申し立てるつもりはない。私は首肯で意志を表し、バスが目的地に着くのを待った。

 

 二時間後、私は店に入った。時間的に、五十鈴は一軒目で飲み始めた頃だろう。テーブル席に通された私は、軽いおつまみ系の料理とウーロン茶を注文すると、暇潰しに周囲の客たちの話を聞くことにした。趣味がいいとはお世辞にも言えないが、私は何処の誰だか知らない人々の会話に、こっそり聞き耳を立てるのが好きだった。たまにとんでもない暴露話なんかをする客もいるが、大抵は毒にも薬にもならない、穏やかな話しか入ってこない。それが何となく、好きなのだ。

 

 私が入った時点で店はそこそこ多くの客で賑わっており、聞く対象には困らなかった。私は初月に電話を掛け、片耳にイヤホンマイクを装着して彼女の声がきちんと聞こえることを確かめると、客たちの言葉に耳を傾けた。「今度の陸軍総火演の席が取れたんだ」「こっちは海軍記念館のオープニングセレモニーのチケットを手に入れたよ」……「どうだって?」「我らが天使は次の店で合流するってさ。つまりもう暫くは、僕と君の二人で旅先ひゃっはーできる訳だ」「ひゃっはー!」……「今度の選挙の話聞いたか?」「融和派の艦娘が出馬するらしいな」「あの辺の連中の被選挙権ってどうなってんだろ」……平和なものだ。私はとうとうそれに馴染めなかったが、その尊さは分かっている。それを守り、世にもたらした者たちの内の一人であることは、私を誇らしくもさせる。

 

 食卓上の皿と店内の客が何度か入れ替わった頃に、耳に初月の声が届いた。「来たぞ」短い返事で了解の意を示し、私はテーブルの端に置かれた会計ボタンを押した。テーブル会計なのがありがたかった。入り口の方を向き、五十鈴の姿を捉える。眠たげな半眼から判断するに、一軒目で既に結構な量を入れてきたようだ。妙に早足で、店の奥の座敷部屋に進んでいく。その背中を視線で追い、どの座敷に上がったかを見てから、私は首を戻した。

 

 タイミングよく、若い男の店員が支払いを求めてやってくる。財布からぴったり金を出し、レシートを断って、店を出る前にお手洗いを貸してくれと店員に頼んだ。彼が断る訳もなく、私は示された方向に歩く。女性用トイレに入って手を洗い、長時間座っていたせいで固くなっていた体を伸ばすと、店内に戻った。まだ外で待機している初月に、これから接触する、と告げる。彼女も中に入ってくればいいのにと思ったが、初月は外の方がいいみたいだった。徹底的に隠れて動きたいようだ。

 

 何気ない足取りで座敷部屋に向かい、五十鈴が入った部屋の()()()を開ける。けれど私が目前にしている、この緑色の髪をツインテールにした艦娘は、予期せぬ訪問者よりも卓上のグラスの方が重要だったらしい。俯いてこちらには目もくれず、氷の入った背の高いコップを揺らしていた。

 

 靴を脱いで上がり、ふすまを閉め、どすんと音を立てて彼女の向かいの席に座り込む。それでやっと、五十鈴は反応した。ゆらりと顔を持ち上げ、私に焦点を合わせると、彼女は言った。「部屋、間違ってるわよ」服のポケットから浦風のメモを取り出し、テーブルに置く。五十鈴は目だけちらりと下に向けて読み取ると、納得したように「ふうん」と呟き、胡乱(うろん)げな目で訊ねた。

 

「で、何の用?」

「単冠湾にいた浦風を知ってる?」

「知る訳ないでしょ、私は訓練所を出てからこっち、ずっと佐世保にいるんだから」

「あ、そう。けど、あっちはあんたのことを知ってたわよ。龍田について知りたいなら、あんたに聞けって言ってた」

 

 他人の顔が白くなっていく様子を見るのは、楽しいものだ。通常、そこにこもる感情は驚きや恐怖、怒りと多種多様だが、五十鈴が感じているのはそのどれでもなさそうだった。「別の場所で話すわ。ここじゃ丸聞こえだし」グラスを置いて立ち上がり、出るように促す。私は頷いて、座敷を出た。靴を履き、私に一人、連れがいることを言う為に振り返ろうとして、揺動と共に鈍い音が頭上で響いたのが、一秒遅れで分かった。意識はあったが、体に力が入らなかった。床に倒れ込む。足音が私の横を通り抜けていく。後ろから酒瓶か何かで殴られたのだ。

 

 痛みからの怒りが、私の体を再起動させる。頭を振りながら立ち上がると、私は入り口目指して突進した。五十鈴は客を突き飛ばして道を作りながら逃げなければならなかったが、私は彼女の作った道をそのまま走ることができた。お陰で、見失わずに済んだ。店を飛び出し、五十鈴の背を追う。だが酔っている癖に、走りは達者なものだ。走る方角からすると、鎮守府に逃げ込むつもりらしい。引き離されないようにするので精一杯だった。私はイヤホンマイクの向こうにいる初月に言った。「あいつが逃げるわ、何処にいるのよ、あんた!」返事はただちに戻ってきた。

 

「もし五十鈴が逃げるなら、佐鎮方面だと思ってな。網を張ってる」

 

 彼女の声を聞きながら、心の片隅で愚痴を言う。楽な役目を任された筈だったのに、土地勘もない街の中を走らされている。そう考えると、怒りがますます膨らんだ。五十鈴に追いついたら、ただでは済ませないことを誓う。私は他人にやられっぱなしになるのが、何よりも嫌いなのだ。こちらの苛立ちを知らない初月は、要求をエスカレートさせ始めた。

 

「お前の位置を携帯のGPSで捉えてるから、そのまま追い続けろ。それからできるだけ、五十鈴が何処でどっちに曲がったかを教えてくれ。奴はきっとお前を撒く為に、細くて入り組んだ裏路地に入るぞ」

「私は艦娘で、陸上選手じゃないんだけど!」

「知ってるよ。喋って気を散らすと見失うぞ」

 

 性悪駆逐とクソ軽巡へ向けた一まとまりの罵声を上げかけて、飲み込む。初月の言葉通り、それまで太目の道を走っていたあの腐れ軽巡が、路地へと駆け込んだからだ。彼女が曲がった角の位置を初月に報告し、後を追う。先ほどまでと違い、人目はない。捕まえた後、何発か殴っても、その姿を撮影されてネットにアップロードされる心配もない。わざわざこんなところに逃げ込んでくれてありがとね、だ。

 

 疲れてきたのか、飲んですぐに走ったせいで気分が悪くなってきたのか、五十鈴のスピードが落ち始めた。少しずつだが、開いていた距離が縮んでいく。やがて彼女は建物の角に片手を突いて止まり、肩を落として荒い息をし始めた。緩慢な動作で首を動かして、走ってくる私を見やり、ふらふらの足取りで角を曲がる。暗い喜びが私の全身を駆け巡り、彼女を捕まえようとその角に差し掛かった瞬間、体がぞっとして本能が警報を鳴らした。が、手遅れだった。

 

 曲がった先で待ち構えていた五十鈴は、腰の入ったパンチを私の顔面に打ち込んだ。曲がる為に速度を落としていなければ、歯や鼻が折れていただろう。上半身が止まり、勢いが乗ったままの下半身はそれでも進もうとして、私を仰向けに転ばせた。血がどろりと垂れてくるあの気持ち悪い感触が、鼻の奥から伝わってくる。拳打の衝撃にぼうっとしたまま、私は自分の体をまたいだ五十鈴の顔を見上げた。彼女はわざとらしく、感心したような喋り方で言った。

 

「あら、ただの人間にしては頑丈じゃない」

 

 艦娘だということは、もう分かっているだろう。これは報復に値する侮辱だ。拳を握る。彼女が私に仲間がいないのか確かめようとしてか、こちらから視線を外す。そこで彼女の足を殴りつけようとして、逆に私の腕を蹴飛ばされた。「この不屈っぷり、あんた戦中組ね? でも、五十鈴には丸見えよ」くすくすと笑うと、彼女は私の胸元を掴んで引きずり、建物の外壁にもたれさせた。幸いだったのは、待ち伏せ攻撃を受けた時に、イヤホンマイクが何処かに飛んでいってしまっていたことだ。初月の存在はバレていない。

 

「いつかこういう面倒ごとが起きるんじゃないかって、二年前から思ってたけど、まさか本当に起きるなんてね。また転属して一からやり直しなんて、最悪」

 

 しゃがみ込み、私の顔を見ながら五十鈴はそう言った。最悪という言葉を使った割には、そんなことはどうでもよさそうだった。

 

「ところで、謝ることがあるの。さっきは嘘を言ったんだけど、浦風とは一応、友達よ。それで、ここからが大事なところなんだけどね。知ってる? 彼女、最近誰かに襲われて、怪我したんだって。そんな時にあんな場所でいきなり“浦風から聞いた”だの“龍田の話を聞かせろ”だの……おまけに変装した艦娘? 厄介ごとの臭いしかしないわね。つまり、()()はなしよ。むしろ、あんたに話して貰いましょうか」

 

 よく舌の回る奴だ。穏やかな動きで手を伸ばし、五十鈴の腕を取る。「うん?」と彼女が面白そうに反応したところで、背後に忍び寄って来ていた初月の踵が、彼女の脳天に落ちた。腕を引っ張り、横に転がす。そして重みが倍にも感じられる己の体を持ち上げ、動けない軽巡に圧し掛かると、横っ面に肘を打ち込んでやった。とりあえず、これでスッとした。

 

 それから暫くして結局、五十鈴は彼女が知っている事実を喋ることに同意した。脅したり、拷問したのではない。彼女の誤解を解いたのだ。それは私たちの活動について知る人物を、新たに一人増やしたということだった。危険な行為であるのは重々承知だが、もしそうしなければ、五十鈴は死ぬまで痛めつけたって話さなかっただろう。私は彼女を戦後組の似非(えせ)艦娘の一人だとして軽蔑していたが、彼女が私たちを誤解していたように、私もまた彼女に誤った見解を持っていたという訳だ。

 

 単冠湾泊地で何があったかについて、私たちは真実を知った。それは爆弾テロなどではなかった。あろうことか、海軍の艦娘が泊地を脱走し、島一つを奪って立てこもったというのだ。軍が隠蔽工作に走るのも納得というものである。話によれば、立てこもった犯人こそが龍田であり、五十鈴は彼女に拉致され、突然の解放までの数日間、龍田と寝食を共にしたらしかった。その経験が彼女を、非凡な艦娘に作り変えたのだろう。そう考えると、軽巡艦娘にノックダウンされたのも、何となく受け入れられた。

 

「龍田はどうしてそんなことを?」

 

 私がそう訊ねると、五十鈴は大袈裟に肩をすくめた。「抽象的な話ばっかりだったから」と、言い訳めいたことを呟く。「けど、彼女は戦争を引きずってた。それは原因の一つよ。間違いないと思う」戦争の只中(ただなか)で過ごした人間は、艦娘であろうとなかろうと、変化を免れられない。その中にはよい変化もあるが、大概は悪い変化だ。龍田が戦中の記憶に苦しみ、突拍子もない蜂起に走ったことは、ナンセンスには感じられなかった。初月が私と交代に問い掛ける。

 

「事件はどういう風に片付いたんだ?」

「何個艦隊も出撃しては、ぼろぼろにされて追い返されてた。一回なんか、深海棲艦まで来たって聞いてる。私はその直前に救出されて、見てないけどね。最後には彼女の元教官だって艦娘が一人で行って、泊地まで連れ帰ってきたわ。その後は軍警が来て、あっという間に連行されちゃった。何だったか、そう、アドバイザーとして来てたんだって、海風から聞いたっけ」

 

 また軍警の名前が出てきたことに、私は顔をしかめた。二年前から、連中はこの件に取り組んでいたのだろうか?

 

「アドバイザー? 事件が二年前なら、軍警はまだ出来立てほやほやの組織だぞ。アドバイスできるほどの人材は少なかっただろう。責任者が誰かとか、覚えてないか? 普通の人間だったか、艦娘だったかだけでもいい」

「その辺はよく知らないの。艦娘だったとは聞いてるけど、艦名なんかは……」

 

 嘘を言っているようには見えなかったので、初月も引き下がらざるを得なかった。当時の五十鈴に、そんなことまで気にしている余裕はなかっただろう。殺されかけて、かなり酷な経験もした後で、この後の一生縁がなさそうな艦娘の名前を覚えていろというのも、無理な話だ。そんなことより、龍田について聞かなければならないことがあった。彼女が現在、何処にいるのかや、何をしているのかについてだ。

 

 しかし、これについても五十鈴は答えられなかった。事件から一年後に、手紙が一度届いたきりらしい。その手紙というのも当たり障りのない内容で、便箋の他には“今の職場”で撮った写真が一枚という程度だったそうだ。職場というのが死刑囚用の牢獄を意味するのでなければ、龍田は有罪にはならなかったようだ。事件当時は心神喪失状態だったということにでもなったんだろう。

 

 明日もう一度会ってその写真を見せて貰おうかと思ったが、そんな手間を踏むまでもなく、彼女は写真を持ち歩いていた。何となく彼女のことを忘れ去るのが気に入らなくて、財布の中にいつも入れているのだと、五十鈴は言った。取り出された写真をまず初月が見て、それから私の手元に回される。途端、私の体に稲妻が落ちたかのような気持ちになった。

 

 写真の中で、龍田が微笑んでいる。それはいい。私が驚いたのは、その背景だ。見たことがあるものが、そこに切り取られていた。()()()()()()()。それも浦風のいた呉の軍病院ではなく、昏睡状態にあった私がいたあの軍病院だ! 私はそこで何ヶ月かリハビリをしたし、退院した後も通院していた。風景だけじゃない、看護師たちの顔だって、それなりに記憶に残っている。それが、龍田の隣にある。見たことのある場所で、見たことのある人間が、龍田と一緒に映っている!

 

 私は初月に気づいたことを耳打ちした。彼女の表情が変わり、やっと龍田の尻尾を手に掴んだ喜びが、口の端のひくつきに現れる。私は許可を取って五十鈴の写真を携帯のカメラで撮影すると、ここでの仕事が終わったという判断への合意を初月に求めた。彼女は短い「そうだな」という一語でそれを認め、次に行くべき場所が何処かを明らかにした。「お前の古巣に里帰りだ、瑞鶴」私は鼻を鳴らして、その表現に対する不満を表現した。

 

 五十鈴と別れる時、初月が厳しく口止めをし終えた後で彼女は、龍田と会うことがあれば伝えて欲しいことがある、と言った。言えるかどうかは別にして、聞いておいて悪いこともないだろう。私は快諾して、彼女の伝令になることにした。五十鈴は少し躊躇った後で、「それがあんたのやりたかったことなの?」というメッセージを私に託した。記憶に残し、機会があれば伝えることを約束するが、五十鈴は期待していないようだった。

 

 時間は十時を過ぎかけていた。今からでは、空路で戻るのは難しいだろう。体の節々も痛む。私たちは休める場所を探し、明朝一番で戻ることにした。初月には悪いが、路地裏で私服に着替えさせる。彼女にも恥じらいはあるのか、嫌そうだったが、仕方ないと割り切ったのか動きに躊躇いはなかった。前にビジネスホテルを訪れた時と同じ手を使い、一部屋借りる。ありがたいことに、今度はベッドが二つの部屋を取れた。初月は私と比べると肉体を酷使することがなかったので、風呂に入ってから休んだらしいが、私はシャワーも浴びずに泥のように眠り、朝になってから体を洗った。

 

 昨夜の取り決め通り、朝一で長崎空港から飛行機に乗って移動し、私のいた軍病院に向かう。ここも呉と同じで、基地の外に建設されているので、面倒な検問は避けることができた。病院に入ると、私たちは看護師から龍田の情報を聞き出す役と、彼女の人事資料などがないか、こっそり探してくる役に分かれた。もちろん私が前者、後者が初月だ。五十鈴の時に私を散々走らせてくれた分、ここで厄介な仕事をするのがバランスというものだろう。それに、私では何処をどう探せばいいか、見当もつかない。

 

 私は一人の看護師に目をつけると、彼女に話しかけた。彼女は私が知っている看護師の一人で、明るい性格と、滑らかな舌の持ち主だ。変な意味ではなく、お喋りな性格なのである。龍田のことを聞くには、いい相手だった。それに、彼女なら軍警や龍田が関わっている暗闇と無関係だと確信できる。その理由は明白だ。喋りすぎる人物に、どうして秘密を教えられる?

 

 (しゃく)だが、初月が言っていたように運が向いてきているのか、彼女は龍田を知っていた。この病院で、艦娘の為の相談役を務めていたらしい。私も昏睡から目覚めて、簡単なリハビリや身体検査を受けていた頃、悩みがあったら相談することもできる、と医者から教えて貰ったことがある。艦娘でさえないカウンセラーなんかに用はないと思って忘れていたが、あれは龍田のことだったのだろう。そういえば、四ヶ月前までこの病院の退院者から失踪者がちょくちょく出ていたのを、初月が指摘していた。龍田がこの病院で働いていたなら、失踪者たちに接触していた可能性がある。もしかしたら彼女のやろうとしていることに、心が傷ついた艦娘を狙って引き込んだのかもしれない。

 

 お喋りな看護師は、どうでもいい話を済ませた後、ようやく二日前から龍田が無断欠勤しているのを教えてくれた。龍田には世話になったのでぜひ会って彼女の様子を見たり、お礼を言いたい、何処を訪ねればいいか教えて欲しいと頼んでみる。だが流石の彼女も他人の住所を勝手に教えるほど厚顔ではなかったようで、申し訳なさそうな顔で「個人情報ですので」という明快な拒絶を返すだけだった。なら、もう彼女に用はない。形式的な礼を言って離れ、ロビーの椅子に座って、パートナーを待つ。

 

 数分ほどすると、見覚えのない手提げ鞄を持った初月が隣に腰掛けた。彼女は前を向いたまま、私に言った。「話は聞けたか?」声は落ち着いた様子で、病院内にも変化はない。手際よく、見つからずに仕事を済ませてきたようだ。「まあね。そっちは?」一応そう訊ねると、彼女はにやっと笑って、鞄を叩いてみせた。

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