謎の少女と光忠【燭台切光忠】との戦闘の後、ぱったりとジュエルシードの反応が途絶えた。
ただ単に暴走することなく何処かで安置か、放置されているのか、もしくは少女達がなのは達より先に回収しているかだ。
その間、廣光【大倶利伽羅】は剣の修行と共にユーノに教えを請い、魔法の練習をしていた。だが、早い期間でユーノはお役御免となる。
例えるなら、廣光はまるで水を吸うスポンジの様に直ぐに覚えていったのである。
「なのはもすごいけど、廣光もすごいね!こんなに早く魔法のほとんどを覚えちゃうなんて!攻撃魔法以外だけど……」
ユーノが絶賛する。
”こんなに”と言ったのはたったの”3日”でサポート系の魔法をほとんど覚えたからだ。
普通ならもっと日にちを必要とするのにである。
まぁ、”ほとんど”であるのでまだ覚えていない魔法もあるが。
ユーノの魔法は大体がサポート系魔法を扱う。
その為、攻撃魔法は習っていない。
だが、元々の剣術の腕と”小太刀二刀御神流”という剣術流派を習っているので剣の腕が鈍る様な事はない。
あと、小太刀二刀御神流は名前の通り2振りの小太刀を扱うので本門下生になった時に「変態撃退用に」と刃の部分を潰して切れなくした2振りの小太刀を恭也から受け取っている。
因みに刀とは関係のないとっておきもあるのだが、それは後日。
そうやって剣と魔法の両方を習い、少しづつ強くなっていくのが分かるが、ここで付け上がる訳にはいかないのだ。
付け上がったら絶対に光忠に勝てない。
だからこそ、油断もなく、隙もなく、己を研ぎ澄ます様に修行をする。
なのははそんな廣光を見ていると父親が入院している時の兄を思い出し、不安になったのだが、修行以外の時はいつもどおりの廣光だったのでホッとしている。
そんな日常が続いたある日、
「温泉?」
「ああ、忍達も行くから廣光もどうかと思ってな」
恭也からのお誘い。
廣光は少し新鮮に感じていた。大体がなのはとアリサによって選択肢が無く、いつも強制だったのでこうやって聞かれる事が新鮮に感じるのだ。
「……向こうでも稽古をつけて下さいますか?」
普段ならお断りするのだが久々の選択肢。
普段しない事をしてみたいと思ったので条件付きで行く事にした。
「お前はほんと、ブレないなぁ……ああ、勿論。こっちも勝ちこしが落ちて来たからな。負けられない」
そう、廣光は何度か恭也に勝っている。
今まで廣光が恭也と試合いした回数は丁度100回。
20勝44負36引き分けである。
勝率は少ないが試合いをすると大体が”あと少しの負け”なのだ。
恭也も兄弟子として負ける訳にはいかない。
しかし、今は人間で子供ではあるが刀剣男子の頃の実戦経験、刀を扱う強さにそうそう負けるハズがない廣光に勝ちこしている恭也は正直人間止めてると思う。
どこか遠い三角ハート世界から「【戦闘民族高町家】だから仕方ないね!」という声が聞こえた気がしたが気のせいだろうとスルーした。
と、いう訳で休日を利用して温泉に行く事になり、車で移動。
旅館に着いた。
女性の多い旅行の為、各自自由となり思い思いの行動をとる事にしたのだが女性陣は全員すぐさま「温泉!」と言い、入りに行こうと足を向けたが、
「なのは」
「うん?なぁに?ひろ君」
「ユーノは俺が預かる。なのは達と行くのは嫌みたいだからな」
実際温泉に行くと言ってなのはに捕まれて手の中で暴れているユーノ。
「(なのはは本当にユーノが人間で、男である事を知っているのか?)」と疑問に思う廣光だった。
「え?そう?ユーノ君温泉嫌い?」
『ぼ、ぼ、ぼ、僕、廣光と入りたいです!なのはさん!』
「んー、わかったよぉ。はい、ひろ君。ユーノ君をお願いね?」
「ああ」
ユーノを手渡されて皆が待つお風呂に向かうなのは。
姿が見えなくなったところでユーノが廣光に念話で話しかけてくる。
『た、助かったよ。廣光!ありがとう!』
「貸しにしておいてやる」
『う、うん!』
そして、温泉に入る前に恭也の元へ向かい、一汗掻きに行くのであった。
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恭也との稽古で汗を掻き、温泉で汗を流そうと風呂場まで向かうと廊下が騒がしい。
目線をそちらに向けると、なのはが見知らぬ女性に何か言われているところだった。
廣光はユーノを抱える体勢から近くにあったテーブルの上に降ろす。
そして走り出した。
小走りに近いが、十分に速い速度だ。
あっと言う間に女性となのはの間に入り込む。
「誰だ、お前」
キッと女性を睨みつける。
「ひ、ひろ君」
「おやおや、ちょーっと遅い王子様の登場だねぇ」
その言葉を聞いた廣光は今度は女性のみを対象に殺気をのせて再度睨みつけた。
「あ、あ、あーっと!ご…ごめんね~人違いだったみたい。知ってる子によく似てたからさ」
女性はその殺気に当てられ冷や汗を掻いている。
どうやらこれで去るつもりらしい。
だが、廣光を見ない様にしながらもなのはに念話を送る。
『子供はいい子にしてないとガブッといくよ』
ジト目で女性を見送り、念話の内容は分からないハズなのにまた鋭く睨まれる。
「(こ、このガキんちょ怖い……)」
「(光忠とどっちが怖いかな…?)」っと思いながら小走りで風呂場に入っていった。
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「なのは、平気か?」
「う、うん。ありがとう、ひろ君」
さっきまでの無表情の睨みから一変、なのはを見る目は穏やかで。
先ほどの廣光の雰囲気は嘘の様に消えた。
ちょっぴりそんな廣光にドキドキするなのはだった。
「何だったのかしら、あの人」
「さぁ…?気にしなくていいんじゃないかな?」
皆が先ほどの女性の感想をのべているところで廣光は、なのはとかなり近い場所に立っている事に気が付き、離れる。
「すまない、なのは。汗臭いだろ」
「え?……! ううん!全然大丈夫だよ!ひ、ひろ君はこれからお風呂だよね」
「ああ」
『分かっているとは思うが、さっきの女に気を付けろ』
『う、うん』
『ユーノは俺が稽古をつけている時に先に入ってもらった。安心しろ』
『ん?……うん』
”先に入ってもらった”という言葉で疑問に思ったが”ユーノを先に洗ったと解釈し、そこでユーノをなのはに渡して温泉に向かう事にする廣光。
「じゃぁ、また後で」
そう言って風呂に入りに行った廣光だった。
だったが、
「はー、良い湯だねぇ」
物凄く見覚えがある人物がそこに居た。
「早く身体洗ってコッチ来なよー」
まさか、こんな所にもジュエルシードがあるというのか?
「ね!伽羅ちゃん」
温泉に浸かる光忠が居た。
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髪と身体を洗って無表情で温泉に浸かる廣光。
夜空を見ながら笑顔でいる光忠。
実は今温泉に居るのは2人だけであった。
どうやら廣光が入る瞬間に結界を張ったらしい。
確かに入る時に違和感を感じたが結界だったのに気付かないとは気が緩み過ぎたかっと舌打ちしたくなったのだった。
「今頃、フェイトちゃんと白い女の子、戦ってるだろうね。」
そう言われ廣光が身体を洗って温泉に浸からずに、すぐ様なのはの元へ行こうとしたら
「多分、魔法を使える様になっただろうけど、覚えたてで練度が足りないでしょ?この結界、そう簡単に突破できないよ?」
っと、言われ仕方なしに温泉に浸かっているのである。
そして、さっきの続きと、言わんばかりに語りだした。
「この結界は僕オリジナルの結界でね。外敵から守る結界じゃなくて捕縛結界なんだ。結構上手く出来てるでしょ?ここから出る方法はね……」
星を見上げていた光忠と視線が合う。
「僕を倒すしかないんだよね」
光忠は立ち上り、脱衣所まで行って少ししたら戻ってくる。手には黒と見間違うほどの濃さを持った紺色の三日月の形をした宝石を持ち、握り叫ぶ。
「ムーンウィル(月の意志)!セットアップ!」
[stand by ready.set up(スタンドバイレディ、セットアップ)]
一瞬でバリアジャケットを身に纏う。濡れていた髪も渇いている。
しばらく廣光も戦う姿勢を見せるまで待つ。
しかし、こちらを見つめてくるが中々立ち上がろうとしない。
「どうしたの?伽羅ちゃん」
反応もしてもらえないので本当にどうしたというのか。
白い女の子が心配じゃないのか。
そして、やっと立ち上がる廣光。
「光忠」
真っ直ぐ光忠の瞳を見つめて来る。
「いいんだな?」
その言葉を聞いた瞬間わかった。
こちらの状況をいつの間にか理解されていた様だ。
「うん、いいんだ」
廣光にまるで”仕方のないヤツだ”と言わんばかりに頭を横に振られた。
それを見て苦笑する。
廣光が脱衣場に入って行ったその瞬間
ガシャンッ!
っと窓が割れ、すごい速さで小さなナイフが投擲される。
その後に
ドカァンッ!!
という音が響いた。
思わずポカーンっとした顔で監視の為の小型機械の残骸が温泉に落ちるのを見た光忠は、次の瞬間大笑いしていた。
「あはははは!こんな!あっけなく!結構すばしっこくて、光学迷彩で見えないうえに、すごく小さいし、壊すのは無理かなって思っていたんだけど……!」
光忠が笑っている横を脱衣所からバリアジャケットを着た廣光が出てくる。
「光忠、笑い過ぎだ。うるさい」
「だ、だってぇ!」
「あんなに頑張ってたのに!」っと中々笑いが収まらないのは安心からくるもので、監視の事で何もかも諦めていたのかもしれない。
いくら実戦向きでも温厚な光忠がいきなり襲い掛かってくるのはおかしいと思っていたのだ。
ならば、その原因は何かという事を見定めてみなければならない。
そしたら案の定というか、監視されていた。
ご丁寧にも光学迷彩で見えないという要らないオマケつき。
空気が震える感覚と景色が一部揺れる様に見える事で発見できた。
廣光が見つけたのは、まさに偶然の産物と言って良いだろう。
監視の目が無くなり、光忠は話してくれた。
一緒に居る女の子の名は【フェイト・テスタロッサ】。
その使い魔で人間に化けれる本来の姿は犬の【アルフ】。
そしてジュエルシードを必要とし、フェイトとアルフ、光忠に探させている黒幕、【プレシア・テスタロッサ】。
プレシアはフェイトの母親にして、捨て子だった光忠、長船光忠(おさふね みつただ)の育ての親なのだそうだ。
名前がテスタロッサではないのは単に拾われた時に名札があったからそのまま使っているだけなのだった。
その名前なのは良いのだが、使った理由が不満というのは本人談である。
それはいいとして、(よくないよ!)
そもそもプレシアが何故ジュエルシードを必要としているかは理由を知っているが話せないという光忠。
光忠はプレシアからヤンデレの如く愛されているらしく、外(街)に出ると光学迷彩によって姿が消える小型機械で常に監視されている。
なんとか影ではちゃんとフェイトの助けになる様に色々と行動しているとの事。
「それにね伽羅ちゃん。プレシア義母上は病気なんだ。末期らしくてもう治らない…フェイトちゃんにも言えない。どうしよう」
「………方法がない訳じゃない」
「! 本当?」
「ただし、最終手段だ。絶対とは言えん。期待はするなよ」
「うん、でも、ありがとう!」
「後、ジュエルシードとテスタロッサに関しては、なのはが納得するまでジュエルシード争奪戦は続くだろう。それまでは光忠、俺はお前に集中する事にする。
その方がお前も都合がいいだろう?」
「………そうだね。真剣勝負だし、僕も負ける気はないよ」
「望むところだ……」
その会話が終わった時には旅館の風呂には誰も居ないかの様に静かであった。
普通こんなに敵対している相手に話す訳がない燭台切くん。
こんな口の軽いのが燭台切のハズが無い!と、思う方。すみません。反省します。