「何のために。ミニスカートなの」   作:高尾のり子

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第2話

 

 茫然と荊は二人の後輩がしていることを何もできずに見ていた。

「………タエ子………香菜……あんたら……」

 タエ子は看護にあたるような献身的な態度で、香菜は明るく親密な様子で、次々と作業員たちを肉体的に癒やしていっている。癒やされた作業員たちは恍惚とした表情で放射能除染作業の疲れも消し飛んだかのようだった。その流れを見ているだけの荊へ、二葉が言ってくる。

「荊ちゃん、まさか、あなた本当に後輩だけに任せる気?」

「ぅ…うちは……」

「コッペリオンのなんたるか、考えないで済まそうってわけ?」

「………うちらは都内に残った人の救出が使命のはず…」

「そうよ。救いが使命。でも、もう手遅れな人もいるよね? そんな人でも救ってあげたいと思うでしょ?」

「………け……けど、これは……」

「ねぇ、ちょっとは考えたことないの? どうして私たちが、こんな短いスカートを支給されてるのか」

「っ……」

「いくら傷の治りが早いからって荒れ地化した都内で行動するのに、このスカート」

 二葉が指先でヒラヒラとスカートの裾をあげる。ほとんど股間ギリギリの長さなので少しでもあげると、あげる度に股間が見えている。荊やタエ子たちが支給されているスカートも同じ長さで、そういう規格と定められていた。

「しかも、私たちは妊娠しない。なのに、穴はある」

「………」

「耳の穴は、音を聴くために。鼻の穴は呼吸のために。この穴は何のために?」

「…………」

「おまけに私たちの感覚も操作されてる。あなただって、そう。普通の女の子が気持ち悪いって感じるような、ひどい顔をした人を見ても普通の人に感じるでしょ?」

「っ…うちらの感覚が……まさか、そやから、…」

「そうそう、第一師団の師団長、国木田陸将の顔を見たときも普通に見えたらしいじゃない。あれ、ぜんぜん普通じゃないよ、普通の女の子は悲鳴あげるとこだよ。国木田さんも拍子抜けしただろうね。ううん、まんまと狙い通りに毒気を抜かれたってとこかな」

「うちは……そんなつもりは……ただ、普通の人間の目を……」

「今、ここに大勢いる病んだ人たちを見ても気持ち悪いとは思ってないよね?」

「当たり前やん! 犠牲者なんやで!」

「けど、普通の女の子は気持ち悪いって感じるよ」

「…………」

 二葉は指折り数えながら言う。

「極端に短いスカート。妊娠しない体質。どんな男の人も気持ち悪いとは感じない感覚。何日もお風呂に入らなくて同じ制服を着てても臭くなったりしない身体。あえて女子は女子だけで編成されることが多い部隊割り。ほら、忖度してみようよ」

「忖度……」

「三島教頭は、ああいう人だから、はっきりとは口にしないけど。その分、私たちも官僚組織の末端部品として忖度すべきだよね? 何を求められてるのか、何をすべきなのか。何のために?」

「……………」

「あと、ちゃんと気持ちいいよ。しかも常人の何倍も」

「………」

「傷の治りも早いから、かなり激しくやっても、すぐ次ができる。ある意味、天国。私たちは天国の天使」

「そ…そんな考え方、間違ってるわ!」

「そうかな? じゃあ、逆に訊くけど、もう死ぬことが確実な男の人がいて、看取ってあげるとき、優しく手を握って涙で見送ってあげるのもいいかもしれないけど、私たちの身体でできる最高の奉仕をして見送ってあげるのは、どう? しかも、逝く人が、それを望むなら」

「……………」

「ほら、反論は?」

「……」

「反論が無いなら、さっさと始めなよ」

 二葉が荊の背中をドンと押した。よろめいて前に出たけれど、すぐにさがる。

「…い……嫌や……」

「嫌? え、嫌なの?」

「………嫌や……こういうこと、うちは、できん…」

「そんなワガママが通ると思うの?」

「わ…ワガママって……うちらにだって自分の人生の選択…」

「何言ってるの。私たちに人生の選択なんてあった? 造られ、送り込まれ、そこで求められた役目を果たす。自分を犠牲にしても。そもそも犠牲になることそのものが役目。それがコッペリオン」

「……ち……違う! 違う違う! 絶対ちゃう! そんなんやない! タエ子! 香菜、もうやめい! そんなことせんでええ!」

「「………」」

 叫ばれて二人は荊に答える。

「これはこれで尽くし甲斐がありますよ。正直、出産の取り上げとか、まして帝王切開に比べたら、ずいぶん気楽ですし」

「なっ……比べるもんの……基準がちゃうと…」

「同じ生殖行為の始めか、終わりか、というだけですし」

「それは、そうかも……しれんけど……」

 香菜も言ってくる。

「すごく気持ちがいいですよ。ご飯だって栄養アンプルより、ちゃんと食べる方が満たされた気分になるじゃないですか。そんな感じです」

「……それも、また、ちゃうかと……」

 二葉が香菜とタエ子に頼む。

「荊ちゃんさ、最初の一歩が踏み出せないみたい。二人が手伝ってあげてよ」

「「わかりました」」

「っ?! タエ子っ?! 香菜?! なんで、そこまで素直に?! そうか! 卑口! あんたの能力、感情共感やったね! 使ったなっ?!」

「まあね。けど、完全に操れるわけじゃないんだよ。操れるなら荊ちゃんを操るよね? 私は、ほんの少し共感を求めてるだけ、ね? タエ子ちゃん」

「はい」

 タエ子が微笑み、優しく荊に言ってくる。

「大丈夫ですよ、怖くないですから。痛いのも一回目の最初の最初だけですし、たいした痛さじゃないですから。産みの苦しみに比べたら、蚊に刺されたくらいですよ。銃で撃たれるのに比べたら、痛くも痒くもないくらいです」

「タエ子……そりゃ……銃よりは……。けど、そういう問題やなくて……」

「荊先輩って、ちょっと食べず嫌いなところありますよね。食べてみたら美味しいですよ、ほら」

 香菜が白濁した粘液のついた手を差し出してくると、荊は夏目総理が放射性物質を避けるように逃げたので、ちょっと気を悪くした。

「荊先輩、そんな風に避けなくても……なんか傷ついたなぁ……汚いものみたいにされた…」

「ご、ごめん……け、けど! うちは嫌やねん! 嫌やもん! 後生やから勘弁したってよ!」

 タエ子が少し考えてから言ってくる。

「人間の女性が生殖行為を不特定多数の男性と行うことに嫌悪感を覚える学術的理由って、ご存じですか?」

「………し……知らんけど……」

「哺乳類の中でも人間は赤ん坊から成人するまでに、かなりの時間と費用を要します。結果、メスだけで子育てすることができないので、なるべく手伝ってくれそうなオスを選ぼうとする進化圧力が働きます」

「ぅっ……いきなり難しい真面目な話に……」

「そして、妊娠という現象の特性からして、メスは自分の子を確実に残せますが、オスは育てるのを手伝っている子が、本当に自分の子なのか、常に不安を抱くことになります。なぜだか、わかりますか?」

「……嫁が隠れて不倫してるかも、みたいな?」

「そう正解です。そうなると、メス、人間女性は自分の貞潔さを性質の一つとして身につける進化圧力も働いてくるのです。誰彼と無く交わる自分ではないことをアピールする必要が生まれるわけですね。よりよい男性と確実に生殖するために」

「………」

「ところが、私たちコッペリオンは妊娠しません。なので相手を選別する必要も、限る必要もなくなります」

「…………」

「おわかりいただけましたか?」

「……り……理屈の上では……け……けど、……か……感情の問題で……」

「「…………」」

 香菜とタエ子が説得を諦め、二葉が拳銃を抜いた。その銃口を荊に向ける。

「ちょっ、そんなもん向けんとってよ!」

「実弾じゃないよ」

 パスン!

 発射音で何か麻酔弾のような薬物だとわかった。弾は荊の腹部に命中している。

「痛っ……何を撃ったん?!」

「筋弛緩剤だから安心して。まあ常人だと致死量だけど荊ちゃんなら手足が動かせなくなっても心臓と呼吸までは止まらないと思うよ。止まりそうになったら薬物名を教えるから、タエ子ちゃん、解毒剤のスタンバイしておいて」

「はい」

「はい、って……タ…タエ子……うちを裏切る気……」

「いえ、そういうつもりではないのですが……本当に危ないと思ったら味方しますね」

「ぃ……いま、…も、…もうすでに…危ないから……」

 そう言っているうちに薬が回ってきて荊は膝から力が抜けて座り込んだ。さらに腕にも力が入らなくなり、背筋からも力が抜けて、座っていることもできなくなり崩れるように寝転がった。いつもなら超人的な注意力で寝転がってもスカートの中身が周りへ見えないようにしているのに、今は力が入らず股間が見えてしまっている。

「ぅうっ……手足が……動か…せん……首さえ……」

「香菜ちゃん、元気そうな作業員を5、6人、呼んできて。初物だよって言えば、すごく喜ぶし」

「はーい」

「…か……香菜……香菜まで……」

 荊は涙を滲ませたけれど、香菜は微笑んだ。

「荊先輩、大丈夫ですって。すぐ最高に気持ちよくなりますから。これ知らないで突然死するなんて、ご飯の美味しさを知らずに死ぬようなものですよ」

「……ご……ご飯と……同列に……」

 オニギリのためなら服を全部脱いで学校を走り回る香菜が走っていき、すぐに作業員たちを呼んできた。

「ひっ……嫌…っ……嫌や…」

 動けない手足で男たちに囲まれると、荊は感じたことのない恐怖を覚えた。男たちの視線が自分の股間に集中しているのも感じる。すぐに一人の男が荊の足首を持って開脚させてくると恐怖が臨界に達して、おしっこを漏らしてしまう。

 じわっ…じょわぁぁぁぁ……しょーーーっ…

 漏らしてしまった荊を二葉が笑う。

「きゃはははは! おもらししちゃったよ、学級委員長がビビって漏らした」

 どちらかというと筋弛緩剤の影響で括約筋まで揺るんだことが大きかったけれど、怖くて漏らしたという方が可笑しいので大声で笑っている。

「「………」」

 タエ子と香菜は気の毒そうに見ているけれど、二葉が余計なことを言って笑わせてくる。

「先生! 成瀬さんがおもらししました。鳴る瀬だけに、しょわしょわと音を鳴らして、せせらぎに成ってます!」

「「っ……プくっ…」」

 うっかりタエ子と香菜が笑いそうになってしまい、手で口をおさえて耐える。なのに、さらに二葉が続ける。

「学級委員長が、おもらしなんかして、これからの学校生活が、イバラの道になりそうです、荊だけに」

「「ぷっ……くっ…くくっ……もう無理っ!」」

 感情を共感されたのか、タエ子と香菜が笑い出してしまった。なおも二葉が続ける。

「せせらぎに成ると書いて、成瀬、おもらしでイバラの道を行く荊ちゃん。成瀬荊、可笑しい名前! きゃははっはは! このために生まれてきたんだね、きゃっはは!」

「わ、笑ってません! あはははっ! わ、私は笑ってませんよ! プっ…ごめんなさい。きゃはははっ…プくっ」

「うーっうーっクスクスっ…くくっ! あははははっ! し、死ぬ、笑い死ぬっ! お、お腹が痛い! うーーっうーっプくく!」

 タエ子と香菜は笑ってはいけないと思っているのに、笑い続けてしまった。やっと、笑いの衝動がおさまった頃には、深く傷ついた荊が大声で泣きたそうな目をしたまま、表情筋にも喉にも力が入らないので、静かに大量の涙を流していて、笑ってしまったことを後悔した。

「荊先輩……ごめんなさい…香菜は、そんなに笑ってないですよ……少しだけ…」

「きゃははは! 香菜ちゃんは転がって笑ってよね。ま、ちょうど濡れて挿入してもらいやすくなって都合いいよ。作業員のみなさん、どうぞ続けてください」

「っ…嫌……嫌や……お願いです、やめて……やめてください…」

 荊は涙を流しながら作業員たちに懇願したけれど、スカートの中へ手を入れられた。

「ひっ?!」

 筋弛緩剤で運動神経は封じられても、感覚神経は残っているので下着がさげられていく感触が伝わってくる。荊は最後の力を込めて脚を閉じようとしたけれど、ごく弱い力で膝を合わせることしかできなくて、ズルズルと足首まで脱がされてしまった。もう何も守ってくれるものが無くなり絶望的になる。

「いや……いやや……た……助けて……遙人……たすけ……遙人……」

「あ~あ~、やっぱり未練あるんだ。死んだ男の名前なんか連呼しちゃって。コッペリオンが恋なんかしても余計に不幸だって、わからないかな」

 二葉が冷めた声で指示する。

「さっさと忘れさせてあげて。っていうかさ、この作業員のみなさんを黒澤くんだと思って抱かれてみたら? どうせ、妊娠しないんだから誰に突っ込まれても同じだよ」

「…遙…人……遙人……」

 もう荊は誰の声も聴かず涙を流している。助けに来てくれることを信じて、そして助けは来た。

「しょーがない、オレが助けてやるよ」

「っ、遙人?!」

「ごめんね、期待した奴じゃなくて」

 荊を襲っていた作業員たちを死なない程度の電撃で薙ぎ払った小津歌音が微笑んだ。

 

 

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