勇者であるシリーズの設定は今だ明かされていないものが多いですが、その分は独自の解釈で補完して書いていきたいと思います。(なるべく原作を立てる形で)
-西暦-北の大地-
徐々に速度を上げていく観光バスの上から、私は生まれ故郷へ続く道を眺めている。
空は青く澄み渡っていて、空の切れ目にある山の頂には春も終わるというのに雪がかぶっている。その山間部へ向けて、見慣れた一本道が長く続いている。
私達を乗せているこのバスは、女性と子供からなる数十名の避難民を抱えている。その前後を車体を何処かしら歪ませている大小様々な種類の乗用車十数台が、このバスを護衛するように走っている。乗用車には避難民の男性達と避難誘導の為に派遣された人員が乗っている。
「もうこの道を見ることもなくなっちゃうのかな~。」
スカートの裾を抑えつつ座っている私はつぶやいた。特に返事を求めたわけではなかったのだが、背後から言葉が返ってくる。
「いつか帰れる予測のカデゴリーだ。」
黒い学生帽を被り黒いマントを羽織った、全身ほとんど黒ずくめの男子が答えた。普段来ている服も学ランである事から分かるように、彼も私とさほど年の変わらない学生である。
彼は私と同じくバスの上に腰かけ、私とは逆に前方を向いている。
「あはは、だとしてもなんだか複雑な気分だにゃあ。」
その声に私は後方を向いたまま、話を続けることにした。
「此処の人達を守れなかったプロセスか?」
声の感じからして背後の彼も此方を見ずに話しているらしい。けれどその声には僅かに此方に気を使っている響きがあった。
「うんにゃ。前にも話したけれど、私は人だけじゃなくこの道から見える景色も守りたかったのかもしれない。この道を通ってどこか別の場所に行く事は考えていたけど、この道をこんな状況で見るとは思わなかった。」
そう言って私はしばらくの間、道を曲がって見えなくなるまでその景色を眺めていた。
道の先が見えなくなった後、私は徐に振り返っていった。
「さーて、これからどこに行くのさ。」
さっきは少し湿っぽい雰囲気になった気がしたので、少し明るい口調で彼に尋ねる。
「海を渡って四国へ向かう、途中で補給も兼ねて東京へ行くプロセスだ。」
私とは対称に、彼は変わらない雰囲気で答える。相変わらず顔を此方には向けていないので、勿論表情は読み取れない。
「まあ、何処だろうとついて行くよ。もうすぐ勇者としては戦え無くなるからね。
君に守ってもらわなくちゃ。」
-「勇者」-
勇気ある者を指し示すその言葉は、以前なら御伽噺などの物語のみで語られる言葉だった。
けれど3年前から続いている大災害をきっかけにその言葉の意味は変わった。
大きな地震と同時に空から飛来した謎の生命体「バーテックス」。それらは私たち人間を襲い、次々と殺して回った。人類は反撃を試みるも、奴らはいかなる現代文明の武器を持ってしても傷一つつけることは出来なかった。
その存在を唯一打倒出来るのは神様の力を与えられた少女たち。大災害以後は彼女らのことを勇者と呼ぶようになった。
そして私は北海道を守る勇者として選ばれ、日本で最も北で位置するこの土地と人々を守ってきた。
そんな私はもうじき戦う力を失う。私に力を与えてくだざる神様「カムイ」の力は3年近くに渡る戦闘でほとんど尽きてしまっているから。
拠点としていた神社から避難する直前、神様が最後にありったけの力を込めてくれたなんの変哲もない木片。掌に収まるサイズのこれが有れば、避難までの十数日は勇者の力を振るうことは出来るけれど。
「にしても東京って残ってたんだね、やっぱり人が多いところはまだ戦えるんだねえ。」
以前なら一度は都心のファッションのお店に行きたいなと思ったけれど、今はそれ程でもないなと思う。
「いや、多分ほとんど人は残っていないセオリーだろう。残っているのは
「君のようなサマナー」……そうだ。」
私はからかい混じりに彼の言葉に被せるように言った。
日本で唯一、勇者がいないのに存続しているらしい都市「東京」。
実は彼と共に派遣されてきた人達と北海道民をまとめ上げている人物の会話を、私はこっそり聞いていた。敢えて質問することでちょっとしたイタズラに成功した私は、彼がどんな表情をしているのか気になった。
まあ、顔は相変わらず前を向いていて見えないのだが。
私が3年担ってきた「勇者」という役割が終わり、勇者でない彼らが私たちを守る。そう考えると奇妙なものだ。
勇者としてこれまで色々有った記憶と様々な行き場の無い気持ち、思い浮かぶそれらを大きなため息と一緒に吐き出す。大きなため息と一緒に吐き出す。彼がこちらを向いてなくてよかった。今の私の顔を見せたら彼は心配するだろう。
私はため息の理由を彼に悟られたく無くて。次の言葉がその理由だと思われたくて、話題を切り替える。
「ところで、そのカタカナ交じりの変な言葉、どうにかならない?ゲイリン。」
「承知しかねるセオリーだな、雪花。」
年の割には落ち着いた声が、苦笑交じりに聞こえてきた。
(非公式?ですが)ゲイリン語と呼ばれるカタカナ交じりの話し方。
歌のんとも微妙に違っていて読みづらいかと思いますが、なるべく前後の会話でニュアンスで分かるように努めて書きました。
また、ゲイリンが最後までこの話し方をするわけではないので、続きも読みたいと思っていただけた方はしばらくご辛抱の程よろしくお願いします。