夕暮BLUES   作:おぱんぽん侍

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リーはNARUTOという作品に置いて主人公補正のない現実的な面を魅せる為のキャラだと言われ、確かにそこを評価する人も居るだろうと思います。
ですがそれは同時に、脚本の犠牲になったとも言えると私は考えます。


運命の出会い

 一年ぶりに行われる中忍試験を目前に、木ノ葉隠れの里は八方慌ただしく。

 無理もない。久方の他里合同で行われる祭り事だ。危険性を警戒しつつ、群衆は心を踊らせている。

 体術訓練を行う演習道場でもまた騒動、取り越して一勝負行われていた。

 

「ハッ」

「遅いッ」

 

 対戦カードはロック・リー対うちはサスケ。天才、エリートと呼ばれるサスケ少年のほうが攻めあぐね苦悶しているようである。

 先に一蹴りで伸されたうずまきナルトや、サスケに恋慕する春野サクラが、あのサスケをもってして勝ちきれないことに動揺しているようだ。

 

「写輪眼を使っても無駄です」

「チッ」

「キミの身体は未熟だ。そのもの写輪眼でボクの動きを見逃さなかろうと、ボクの速さについてこれやしない……、つまりは修行不足ということッ!」

 

 ―― 影 舞 踊 ッ ! !――

 

 サスケの背中に猛烈な蹴撃。下忍レベルでも中位の外野には瞬動にさえ見えただろう。試合目付けの忍亀だけが理解できていた。

 

「一年待ったんだ。ただ年を取ったわけじゃないんです……。ボクのこの一年分の研鑽……、そう簡単に辿り着けるとは思わないでください」

「グッ……、ナメ、るなぁっ!」

「!」

 

 身を捻って弾き飛ばされながら、地面に転がされる度チャクラで身を守り勢いを軽減させ、壁にぶつかる瞬間翻るようにして突き刺さる。凹む壁から砕け散った瓦礫の間隙を縫って貫くように暗む紅き瞳。その瞳が影を残して揺らめいた。

 リーの心胆は冷えついた。春氷を踏むような緊張感に咄嗟、腰をかがめて右側頭部を守る。サスケは上段蹴りを好む癖がある。リーの計算通り頭に攻撃が来た。だがその威力は計算外であった。

 痺れる腕と解かれるガード。腰を据えても2歩後退りする自分の体幹に内心生きた心地がしない。

 リーはここではたと気がついた。サスケは既に前哨戦の気でなく、実戦での殺し合いのペースで戦っていると。

 相手を殺すということではない。自分自身を殺してでも勝つという飽くなき渇望。リーは自分を恥じた。思わず謝罪でもしようと思うほどだ。だがしない。覚悟を決めた男にとって、言葉などという軟弱な武器は必要ないからだ。

 

「表蓮……ッ!!」

「そこまでだ……」

「ッ!?」

 

 せめて己を賭けた必殺技を見せつけ恥を雪ごうとするリーを、だが止める者があった。

 

「ガイ先生!」

「リー、約束はどうした」

「ハッ! ……め、面目ありません。失念していました」

「あとで反省、里外周500回だ!」

「押忍!」

 

 突如現れた大の男にどぎまぎするサクラとナルト。殺気みなぎるサスケも含めて濃ゆいキャラにドン引いている。

 

「サスケ君だったね。キミも無理はするな。これは任務でもなければ試験本番でもない。その砕けた脚では本戦に影響が出るぞ!」

 

 ガイはいい微笑みで白い歯を輝かせ、親指を立てて一方的に言い放つとリーを連れて去ってしまった。

 

「な、なんだってばよ!」

「サスケくん! 脚を怪我してるってホント!?」

「チッ、不完全燃焼だ……、だが、あいつも強い……、ナルト、サクラ」

 

「オレたちも、まだまだ強くなれる……、ナルト、オレはお前とも戦いたい」

「……ああ!!」

 

 残された第七班は小さなな一歩を踏み出したようだ。その道先になにが待ち受けているかを誰も予想できないまま。

 

 

 

 一方のリーとガイはと言うと。

 

「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん」

「ほいほいほいほいほいほいほいほいほいほい」

 

 言葉通り外周を回っていた。……逆立ちで。

 2人はとにかく努力を好む。心と身体が流す汗と涙が明日の自分を強くすると信じ修行を続けることが趣味であり生き甲斐。トレーニングの為にトレーニングをするような2人の姿は周囲から見てキモかった。

 いつもは雑念のないリーの炎熱が今日は燻っている。それはガイにも当然わかった。その原因も。

 

「サスケ君の最後の動き」

「!」

「あれは偶然などではない。自分の限界の範疇で繰り出した、裏打ちされた実力だ」

 

 ガイの真剣な眼差し。リーの視線は下がりっぱなしだ。

 

「そう沈むな、リー! お前の努力はオレが一番よく知っている。お前の限界があの程度じゃないということも……。まだ中忍試験まで時間はある。徹底的に鍛え直すぞ!」

「……押忍!!」

 

 肩に置かれた筋張る拳のあたたかみに涙が流れる。ガイの頬にも涙が一筋。それが夕日に反射して星のように輝いた。2人の世界は青春の二文字で形作られている。これまで誰もこの瞬間に入り込んだものは居ない。単に入りたがらないだけなのだが。

 しかし、奇妙なことに今日は違った。一人の少年が声を掛けてきたのだ。

 

「お、おおー! おめえら面白いことしてんなー。修行か、ソレ?」

 

 あっけらかんとした明るい声音。まだアカデミーも卒業していなさそうな幼い少年。いくら比較的安全な里内とは言え、子供1人で居ていい場所ではない。一つ壁を隔てた先は里の外だ。他里の動向も気になる時期にこんな場所に居る事自体が変である。

 

「なーなー、逆立ちしてなんの修行になんだ? 腕か? それとも体力づくりか?」

「あ、ああ。体力トレーニングになるが……」

「キミの名前はなんというんですか? ここは外に近い。あまり安全ではないですよ」

「お? おお、自己紹介がまだだったなあ。オラ悟空! 孫悟空ってんだ! よろしくなー!」

 

 敵意のない子供の朗らかな笑顔に逆立ちをしつつも気の緩んだ2人は、顔を見合わせて笑いあった。

 

 

 

「親が居ない?」

 

 そう聞き返したのはガイ。保護者のもとに送り帰そうとしたことを後悔していた。

 

「オラ赤ん坊の頃に山で捨てられてたんだってさ。たまたま山ごもりしてた爺ちゃんに見つけてもらって育てられたんだ!」

「捨て子ですか……」

「それじゃあ、そのお爺さんはどこに居るんだい?」

「死んじまったぞ! オラがうっかり殺しちまったらしくってなあ」

 

 まるで懐かしむように言う子供の異様に瞠目する。喋る話題はそんなレベルじゃないが。

 

「こ、殺す……ですか?」

「ああ! オラなんでも満月を見るとでっけえ猿になっちまうらしいんだ。おんなじような奴らそういう種族なんだとよ。ほら見ろよ、猿みたいな尻尾があんだろ?」

「は、はあ……尻尾!?」

「まあそういう一族も居る……のか?」

 

 茶色い剛毛の尻尾がふりふりと揺れる。リーはともかくガイも驚いているようだ。

 見たこともないのもしょうがない。この少年はまさしく異世界から来た客人なのだから。

 

「まああの世に行ったらいつでも逢えるんだ。そんなに悲しくもねえさ」

「深いな……」

「深いんですか?」

「まあ、オラのことはどうでもいいんだよ。それよりおめえ達だ。強くなりたいんだろ?」

 

 言葉は単純だが不思議と迫力があった。飾り気のないその態度と表情に幼気さすら感じていたガイとリーも心を改める。と言っても、その想像した余地はプレートレベルで断層違いであったが。そのことを2人はすぐに知ることになる。

 

「オラも強くなりてえんだ! しばらくぶりの手合わせしたい。鈍ってねえか心配もあるし。な! オラといっちょ、組手してくれねえか」

「組手か……」

 

 見たところ少年にしては体つきがいい。体格は良くないが、体動の持ち運びに影響が出ない程度に鍛えられている。アカデミー卒業試験を前に鍛錬の相手を探しているのだろうと予想した。

 

「相手してやれ、リー」

「よろしいのですか?」

「リー、ここまでの意志を持つ者がかつて居たか? オレたちに直談判までしたんだ。この子もオレたちと一緒に青春したいのさ! そうだろ悟空君!」

「せーしゅんってのがなんだかわからねえけど、まあ相手を探してんのはそうだな」

「な! リーもしっかりと相手をしてみろ。体格差のある相手との闘い方を学ぶいい機会になる。忍の世界には年端もいかない奴で既にオレより強い奴もいる。子供だからと言ってナメてはいけないぞ!」

「押忍! 了解しました! 悟空君、良き手合わせにしましょう!」

「ああ!」

 

 お互い5歩分ほど距離を取り、悟空は拳と掌を合わせ礼を、リーはクナイを咥えて指を交差する。どちらも相手に敬意を示している。

 5秒後、リーから動いた。単純な速さでは中忍レベルを超えている。気だるげに動くうちは流とは違う、初速から滑るように動くのが木ノ葉流体術の基本的な流儀だ。風に乗る木の葉のように勢いに身を任せつつ、弧を描く柔の走りから繰り出される一撃は自然重くなる。先程サスケを蹴り飛ばした威力の蹴りが悟空に当たるその時、悟空の身体をすり抜けるようにリーの攻撃は宙を漂った。

 

「分身!?」

「ほう……!」

「別に分身じゃねえよ。残像拳ってんだ。超スピードで動き回って残像を残す」

 

 揺らめく影から声がする。原理は単純だ。須臾の隙に攻撃を避け、同じ場所に同じ体勢で戻る。小手調べに使うにしては効率が悪い技だが、術を使わずにこの動きを出来る人間はそう居ない。ガイ、リーともに認識を改めなければならない。もっとも改まったところで勝てるわけでもないのだが。

 回し蹴るようにして繰り出した一撃をあっさり避けられたリーが、その足先の勢いで地面にぶつけ、反対の脚で削ぐように返し蹴る。背面を狙った槍のように鋭い一撃もまた、悟空には通用しない。よく伸ばされた脚を、肩を傾げるように腰から曲げ、ふん掴んで背負投げ。投げ飛ばされて宙空で受け身も取れず乱回転するリーを、いつの間にか移動した悟空の肘鉄が出迎える。的は喉。細身のリーではまるで貫通したように感じられた。

 いつ動いたのか。それはガイでも捉えられていない。

 

「これほどとは……、明らかにレベルが違う。間違いなく中忍以上! いや、精鋭の暗部よりも……」

「お前なかなか素早いなあ。咄嗟の勘も力の使い方もなかなかのもんだ。人の何倍も頑張ってんのがよくわかる」

 

 息ができず地面に転げ落ちてのたうち回るリーを見て、悟空がそうつぶやく。喜色の笑みを浮かべ。

 

「だけどまだまだ無駄が多い。余裕が足りてねえな? 重りを付けて枷にしてるようだけど、今のお前じゃあんまり意味がねえ。本人のリキがしっかり発揮できてねえから、知らず知らずその重さを力に利用しようと動いてるんだ。だから無駄な力を流される。本来のお前はもっと雷みてえにバチバチ動き回れんだろ? せっかくのスピードも落ちて持ち味が活かせてねえぞ」

 

 リーはそうは思っていないが、ガイはドキリとさせられた。下忍同士の話であれば、今のリーのパワーでも十分強い。だが努力に成長が追い付いていないのもまた事実。筋肉量もチャクラ量も年齢とのバランスを考えて鍛えてきたからだ。これは一年余り中忍試験を見送った理由の1つでもある。ようやくそのバランスが調度良く整えられてきたからこそ今年参加を決定したわけだが、同時に枷がリーを中途半端にしていることは真理を突いていた。上手には通じないどころか、敵の前では意地を張って初撃で殺される危険があるということも。

 しかし、このリーへの枷。ただの制限ではない。ガイがリーの師匠として教えた「自分ルール」という志に根差すのだ。忍者の才能というモノで言えば凡人以下と表されるリーに、必殺技の封印・既に完成されつつある持ち前のスピードの制限・修行に次ぐ修行とその反省の修行。これらを三本の矢として、努力以外の道を断つ背水の陣とする、男同士の約束。リーは未来という希望を掴むために、言葉のいらぬ約束を果たす覚悟をしている。空気の抜けるような呼吸を整えつつ、リーは悟空を見続けた。

 

「……いい表情だ。諦めたくないって目をしてる……、よしっ!」

 

 出会った頃のウーブに似ている。悟空はそう思った。ガイという師匠は居るらしいが、自分の中に眠っている全力には気がつけず、そうすれば自ずとどこか歪んだ成長になる。ウーブは最初空を飛べず、だが試合用の本気を出した悟空に一度は比肩した。あれ程とは言わないが、このリーにも必ず潜在する爆発的な残存能力あるはず。努力は決して裏切らない。裏切ることがあるとすれば、それは努力と対面した自分自身なのだ。

 悟空は倒れても縋るような視線を己に向けるリーに近寄り、頭に掌を乗せた。トリートメントがしっかりとしたサラサラの髪をぐしぐしと撫で付ける。自分よりも小さい相手にそんなことをされて、リーはただ、なにをしているんだろう。と、呆ける。だが、傍から見ていたガイにはハッキリと見えていた。悟空が伸ばした掌がリーに触れる瞬間、まるで閃光弾が爆ぜたように輝いたのを。

 

「おい、起きれんぜ。もう大丈夫だろ?」

「……、そう言えば」

 

 悟空が伸ばした手を取るリー。気づけば呼吸も直っていた。いや、先程よりも元気が漲っているようにさえ見える。悟空は鋭く突いたが、相手を壊すような暴力ではなかったということもある。が、さりとて悟空の実力だけが原因ではない。ガイは尋ねた。

 

「今、リーに何をしたんだ?」

「え、ボクなにかされたんですか?」

「おう! したぞ! 少しリキ込めてみろよ」

 

 白く大きい歯がにいと開かれた口からよく見える。言われた通りリーはやってみた。

 

「!!!」

「こっ、これは……、どういう、ことだ……!?」

 

 忍にとって力を込めるとは=チャクラを練ると言える。リーは普段通りに少しだけチャクラを拳に込めたつもりだ。驚いたのは、そのリーの意志を越えて溢れ出た膨大なチャクラ量。ガイは目を疑った。

 

「おいリー、お前大丈夫なのか! これではまるで……」

「わ、わかりません! でも全然苦しくない……」

 

 ガイの確かな目で見て、これはリーが八門遁甲を2つ3つ開いた時ほどのエネルギーである。弁えなくば命取りとなりかねん程のチャクラの放出。しかしガイの心配は無用だ。あれは開放する度抑えきれなかったチャクラが目に見えて現れる。だがリーの身体からは気迫と良質なチャクラしか感じられなかった。

 

「驚いたぞ、リー! オラが思ったよりもお前の経験値を積んでたみてえだな」

「悟空君、それはどういう意味だ? いやそれより、この子はこのままで平気なのか!?」

「平気さ、今そいつから溢れたパワーはそいつ自身が気づいてなかった潜在能力だ。人ってのは鍛えれば鍛える程自分の成長が見えてくる分、逆に限界ってもんが見えて来ちまう。だけどな? 限界ってのは次の目標へのスタートなんだ。自分がその限界をとっくに突破できる地力があるのに殆どの場合気づかねえ。リーもそうだ。だからオラが引き出してやった!」

 

 言い換えれば、人として課せられた制限のある八門遁甲を開く無理やりのビルドアップではなく、悟空という外部からの刺激でスキルアップしたようなもの。大元の実力を上げれば結果は後からついてくる、と言えば簡単なことだが、そんな秘術は聞いたことがない。大抵の場合は意識をしなければ自分の才能など伸ばせないからこそ、それが出来る一握りの人間が天才と呼ばれるのだ。そしてリーこそは自分の才能がないと思っていた。だからこその積み重ねた努力。

 リーは自分がずるをしたんじゃないかと思って、泣きそうになるのを唇を噛んで我慢した。思わずガイを見てしまう。ガイもその心を汲みとった。

 

「悟空君、これではリーが納得いかないだろう。まるで自分の与り知らぬところで強くなってしまっては、今までのリーの頑張りが無駄になってしまうんじゃないか」

「ああ、オラもそう思っちまうだろう。けど仕方ねえだろ、オラが勿体ねえと思っちまったんだ」

 

 悪びれもせずそうのたまう。ガイは軽く流されショックを受け固まった。

 

「んしょっ! この技はよ、そいつがしてきた頑張りを無駄にしない為にあるんだぜ。自分で自分の才能に気がつけりゃそれが一番いい。だけどそれが難しいことってのもよくわかる……、ほっ! これは手っ取り早いドーピングでもパワーアップでもねえ。さっき言ったろ、リーが思ったより頑張ったから、今そんだけの力が出せてんだ。紛れもなくお前自身の実力だよ。それに、なんもしてねえ奴にこの技使っても大して変わんねえかんな。よく努力したな、リー!」

 

 才能を伸ばす。悟空にとっては過程に見出すものである。これはいつでも自分が目指す最強の自分を、しっかり見据えることができた悟空だからこそ持つ視点だろう。言い換えれば努力の結晶が才能なのだ。血や生まれが必ずしも才能を決めるわけではない。悟空は悟飯という息子を持つことで、身に染みてそれを知っている。自分の才能に気づけず、それに気づいた時はいつも手遅れだった、優しすぎる長男坊。結局学者になって闘いから遠ざかり、悟空が最後に見た自分を遥かに上回る潜在能力は深い眠りについたままだ。

 他方。血に満ちた修行の末の末に少しだけ見えてくる結果。リーとガイはそう思って生きてきた。勿論努力を認める気持ちは人一倍強い。今の下忍の中の誰よりもリーは努力していたからだ。だがリーとガイの夢はまだ道半ば。その結果がついてくるのはもっと遅く、そして未来という先に輝くものだと漠然と考えていた。下忍故に実戦経験がまだないことが仇となり、リーもガイもその強さを侮っていたのだ。

 

「そうか……、そうだったのか……、リー!!!!」

「ガイ先生! ガイッ先ッ生ーーーー!!!!」

 

 悟空が言った、限界とは次のスタートという言葉。リーもガイも己の忍道を認めてもらいたい一心で研鑽を積むあまり、自分を見失いかけていたのかも知れない。ガイはとくにそうだ。リーの努力を一番に認め、信じている人間はガイなのだ。だが、2人の掛け替えのない忍道を皆に認めてもらうことに気取られ、自分達がしてきた努力への評価が知らず知らず己の中で過小されていたのだろう。リーとガイの心にあった勇気が足りていなかっただけのこと。無理をさせまいと言う優しさを抱え、リーとガイは悟空に背中を押されることで、ようやっと殻を破ることが出来たのだ。

 滝のような涙を流して熱い抱擁を交わす師弟を見て、奇妙なものを見るような視線を送る悟空。絵面は中々にひどい様相を呈していたが、これがリー、ガイ師弟の驚くべき飛躍の始まりだった。

 

 

 

「んじゃ、ガイのおっちゃんもさっさとやんぞ」

「オ、オレも強くなれるのか!?」

「当たり前だろ、どうせガイのおっちゃんのほうがいっぱい頑張ってんだからな。歳なんかに負けんなよ!」

「オレはまだ20代だ!!」

「ガイ先生、結構歳のこと気にしてますから……」

「なははは、オラなんてもう60過ぎの爺ちゃんだぞー!」

「ねえ悟空くん、テンテンやネジっていうボクの友達もいっぱい頑張っているんですが、その子たちも強くなれますか?」

「うーん、会ってみねえとわかんねえなあ。オラも色々ワケアリだかんな! それよりも今はお前らの実力確認が先だ。自分が本来どれくらいの実力があったのかよく知っておかなきゃなんねえぞ!」

「押忍!」

 

 夕日が沈んでから、興奮冷めやらぬリーとガイの2人の特訓は更に熱を高め、悟空もそれに参加して朝まで続くのであった。




リー「あれ、ちゃっかりとんでもないこと言ってませんでしたか?」
ガイ「60過ぎとはどういうことだ!?」
悟空「孫もいっぞ。あ、もう玄孫も居たっけな?」
2人「「!?」」

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