夕暮BLUES   作:おぱんぽん侍

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原作:NARUTOの闘いで目立つような主要キャラクターは、主に連続して巻き起こる大いなる試練を超えた回数によってその立ち位置を得ている、と私は思います。
リーはその点、与えられた試練の数と質がリーのレベルに合わなかったのでしょう。


心と力

「はああああああああ……」

「んー。ダメだな! てんで気のコントロールが出来ちゃいねえ。ぐっとやりゃポーンと気の塊が出てくるんだがなあ」

「ハアッ、ハアッ。全然ッ、わかりません……ッ」

 

 悟空に命ぜられるがまま、気のコントロールを練習するリーであったが、その成果は芳しく無い。生来、ロック・リーという少年はチャクラを外に放出することが苦手だ。その才能は少し、どころか全く無いと言っていいだろう。思ったよりも難航する修行に、少し離れた場所の丸太に仁王立ちする悟空の方が楽しそうに笑っている。

 

「なあリー。おめえはまず静の動きを学んだ方がいいかも知れねえな」

「静の動き、ですか?」

「ああ。剛、柔の練習ばかりおめえはしてきた筈だ。だけどよ、それじゃあ気を感じるってことはできやしねえんだ。静、つまり歩みを止めること。自然体になって全てを受け入れるような、何もしないっちゅう心の強さを得ろ!」

「何もしない強さ、……ッ!?」

 

 悟空の言葉の意味を口に出して確認するリーの眼前に、赤く鋭い線が走る。風圧で耳鳴りがする程だ。思わぬ挙動に驚いて数センチ身体を避けるように動かすと、次の瞬間悟空はどこからか取り出した棍棒を振り抜いていた。

 

「今なぜ避けた?」

 

 悟空は問う。

 

「なぜって、悟空くんがとても鋭い攻撃をその棍棒で……」

「この距離でか?」

「それは……」

 

 悟空からリーにめがけて攻撃するには棍棒が短すぎる。その距離十メートルはあるだろう。逆手に持った赤い棍棒を八字回しする悟空。円に見える程高速で回される棒の尺は、せいぜい悟空の背丈と同じくらいだ。リーは自分の行動が不思議でしょうがなかった。

 

「おめえは目で見て物事を判断してる。だからオラの気の大きさと棒の長さを勘違いした。実物より大きく見えたんだ」

「目で見る以外の方法など……あるのですか?」

「試してみるか」

 

 悟空はニカッと太陽のような明るい笑みを浮かべ、取り出した太布を顔に何重にも巻き視界を塞ぐと、自分の手に持っていた棍棒をリーに投げつける。吸い付くような正確さでリーの手元に投げられたそれは、変哲もない普通の物であった。悟空は丸太から飛び降り、リーの間合いに着地する。誘うように手の甲を見せ指を動かした。

 

「その棒使ってオラを攻撃してみろ」

「……お、押忍」

 

 そう言われてもリーは攻めあぐねた。構えることもせず、まるで自然体で素立ちする少年にどう攻撃すればいいか分からないからだ。悟空はリーが攻撃してくるまでじっと待った。十秒程の時間を待って覚悟を決めたのか、リーが恐る恐る、様子見程度に突きを入れる。胸元を狙って放たれた初撃。悟空はそれを指先一つで受け止めた。掴まれた棒は一ミリも進まない。一度引き戻し、今度は絶え間なく連突する。しかし服一枚にすら掠ることなく難なく避けられる。続いて薙ぎを混ぜ入れ硬軟含む流れ技を馳走するが、気がつけば薙いだ棍棒の先に悟空が尻尾でぶら下がっている。見えててもまず出来ない芸当を、こうも簡単そうにされてしまった。眼前で起こった出来事に、リーは悪寒と発汗で気持ち悪くなる程体調を崩された。

 

「な?」

「確かに、出来ましたね……。これがボクにも出来るようになるんですね!」

「ああ。これが気を読むって技だ。目や耳で知るんじゃねえ、気を感じて相手の全てを読む、気のコントロールよりも初歩の初歩!」

「これが初歩!? 中忍試験トーナメントの予選はもう直ぐそこなのに、ボクはどこまで習得できるでしょうか……」

 

 心配そうにするリーも気にせず悟空は笑う。

 

「なーに心配すんな。いざとなったらウイスさんの杖でも借りるさ。すげえぞ、1日で1年の修行ができる場所があんだ! その分歳食っちまうからそうならないのが一番いいんだけどな!」

 

 あっけらかんとした悟空の物言いに一瞬リーは耳を疑うが、悟空ならもうなんでもありだな、と考え直す。悟りの境地に入るとも、ドツボにはまるとも言うその認識は、悟空と知り合った誰もが感じる諦念のソレだった。

 

「んで、リー。おめえはまず余計なことを考えるのをやめなきゃなんねえ。心を無にすることが、気を感じ取ることへの第一歩だ。またあぐら組んで、今度は『何もするな』」

「何もしない……、さっきも言っていた静の動きですね」

「ああ。おめえは自分が自然の一部になったつもりでそこに居ろ。そうだな、石だ! リーは今から石になれ!」

「……押忍!」

「石は返事しない!」

 

 リーは悟空に肩をびしりと棒でしばかれる。今ようやく気を感じる修行が始まったのだ。ちなみに、リーは勿論悟空も知らないことだが、忍の世界には『仙遁』と呼ばれる術があり、その基本には仙術チャクラを身体に取り込むデメリットの一つに自らを石化してしまうという物がある。リーはその逆を目指す形となった。これは全くの偶然でしかない。だが、むべなるかな、ロック・リーという少年が『ただの下忍』でなくなるのは、この時からであった。

 

 

 

 リーが修行に苦闘している一方、ガイ一行は隠れ武具店に足を運んでいた。木ノ葉の上忍がこぞって来店し、自分のお気に入りの武器を購入したり、武器の修復などを依頼する人気の店だ。中には一族専門の店でしか売られていないような珍品や他里由来の掘り出し物などもある。里の上忍と、その上忍によって選ばれた限られし忍のみ、忍者登録番号を店主に見せることで物品購入ができるこの店は、テンテンにとって正に天国のような場所であった。

 よく研がれた刀剣の濡れるような鉄の匂い、奇々怪々いわくつきの武具の一つ一つを手にとっては、今でも頬ずりしそうな程に愛でている。いつもはつっこみ側のテンテンの異様に、あのネジもはっきりとドン引きしている。ガイは自分の財布とにらめっこしていた。

 

「あーん、迷っちゃーう!」

「付き合いきれん……、ガイ、俺は暫く外に居る。終わったら呼べ」

 

 ネジはそう言って眉をひそめ、生活費を削る思いに顔を青ざめたガイを一瞥、鼻を鳴らして窓から飛び出す。テンション高く武器を物色するテンテンであったが、そのどれもが上等な業物ばかりだ。女の買い物は長くなる。この店に限って変な物を掴まされることはないだろうが、付き添うも兼ねるガイは様子を見ることにした。

 

「こっちの手裏剣、卍手裏剣じゃない! あまり人気無いのよねー、扱いにくいしダサいし……。あっ、これ今流行りの簪ね! 今月の柄は柳かあ。毎月出るとコンプリートしたくなっちゃうからイヤよねー。こっちは何かしら? 綺麗な宝珠ねえ、オーブ? でも忍具なのよね……」

「どうだテンテン、良い物は見つかったか?」

「決まんない! どの子も使いがいがありそうで欲しい! どんな闘い方ができるんだろうって、そう考えるだけで悩ましいわ!」

 

 盗品防止の結界で守られた商品棚の中で高級そうな布の上に安置された武器の数々が、テンテンには宝石のように輝いて見えた。試行錯誤を好むタチで、面倒見がとてもいいテンテンにとって、まるでペット選びのように真剣な眼差しで楽しそうに話す姿を見て、ガイの口角も自然上がる。ああでもないこうでもないとガイに喋るテンテン。すると、黙って見ていた店主がガイに話しかけてきた。

 

「とても武器がお好きなんですね。彼女は今度の?」

「ええそうです。自慢の弟子の一人ですよ。必ず中忍になれると信じております」

「おお、それじゃ先祝いですかな。ちょうど自分だけの武器が欲しくなる頃合いでしょう!」

 

 アンクルを付けた紳士姿の店主が話す。彼は火の国の雇われ商人で、海を繋いで他大陸と貿易をする稼ぎ頭だ。時たま大名の臣下や彼の商船を護衛する為に駆り出される忍も多く、色んな意味で里内外に顔を知られた気のいい男性である。またこの大陸ではガトー程では無いにしろ顔が広い武器商人でもある。ガイはあまり武器を使う方でもないが、知らない中でも無い。

 

「では私からもお祝いしましょう。そこのお嬢さん、どんな武器をお望みですかな?」

「あ、あたしっ? あたしはその、今度中忍試験を受けるので、何か奥の手になる武器は無いかなっ、て……ありますか?」

「ええ、勿論。それもとびっきりオススメの物が!」

 

 少し待っていてください、そう言って店主は店の奥に消える。その背中を視線だけで静かに追って、伏し目がちに頬を赤くする。今になって自分が興奮しすぎたことに気がついたのだ。ついでにネジが居なくなっていることも。どうして言わないの、とガイを睨んでも、意味がわからないガイは親指をビシリと立てて歯を光らせるだけだ。増々恥ずかしくなってその場にしゃがみ込みたくなる頃、店主が後ろに店員を2人連れ、細長い木箱を二つ持って戻ってくる。懲りずに逸る気持ちを抑え、それでも嬉しさが勝つテンテンは、迎え入れんばかりに身を乗り出して待つ。店主のテンテンへの視線は孫でも見るようだ。商談用に江戸紫の絹布が張られた卓上に桐箱が開き置かれる。中には二つに別れた組み宝杖が入っていた。

 

「持ってみますか」

「はい!」

 

 店主に明朗な返事で応えると、棒の中心にある穴に艷やかに光る黄金の芯を挿し込み、二つを繋げるようにはめ組む。手伝いの店員が少しひねって、簡単に分解しないことを確認した後テンテンの手に渡った。

 頑丈な桂の木で出来た爽やかな手触りに、純金の重さがずしりと加わって、テンテンには重いと言うべきか軽いと言うべきかアベコベで分からなかった。飾り付けの石突には緑翠の石が妖艶に光り、かぶら巻きの少し先、出っ張るように一回り太いところがあり、外すと刀剣類が付けられるようになっている。どうやらこれは未完成品らしい。

 

「目ざとい! 本来この先端には月の反り刃がついていましたが、自分でカスタマイズ出来るように鉄の国の鍛冶師に頼み込んで槍の銅金から鋤鍬まで、どんな物でも組み合わせることを可能にした逸品です」

「それじゃっ、今頼んでもいいんですか?」

「ええ」

「ままま、待てテンテン! 完全受注生産となるととんでもない値段に……」

「プレゼントでしょ! お金のことは言わないの! あたしこれから店主さんと相談するから、今日はもう帰っていいですよ」

 

 どうせ即日払いじゃないでしょうし。そう言うテンテンの声色は極めて明るいが、ガイは真っ白な灰になったのであった。

 

 

 

 ネジという少年はプライドの塊である。腐りきった復讐心と、下忍最強という自負を自分の支えとして今を生きている。中でもリーという少年は、ネジにとって明確に格下の存在であった。忍術・幻術の類は一切使えず、体術に置いても一を聞いて十を知る自分と違い、百を学んで一を繰り返すような無能だ。しかし、その弛まぬ努力に対する心持ちという面だけは、ネジを以ってして下忍一であると考えていた。だが、その努力とは『無駄な努力』。どれだけ努力しても決して自分に比肩するどころか、足元にも及ばないという下劣な考えが根幹にあった。

 そのリーに今日初めて負けた。前回までは遥かに自分が勝り、その迫る影さえ感じなかったのに。どうやってあそこまで強くなった。自分は負けるワケにはいかないのに。思考がぐるぐる巡る。身体中に泥が纏わりついたように重く、全てが色褪せて見えた。

 

「……」

 

 分家とは言え旧家に生まれ、よくしつけを受けてきた身体は、悪態ついでに舌打つことさえできないように教育されている。饐える感情が染み付いて、胸元で気持ち悪さに変わり留まった。かぶりを振って気を取り直す。ネジは趣味の瞑想をし、荒れる心を沈めることにした。

 屋根をつたい、商店街を抜け、日向一族が棲む地区に入る。分家の身分であるネジの屋敷はそこそこに広く、伽藍堂で静かだ。瞑想にはうってつけの何もない部屋に座り、ただ無垢に向かう。意識を遠く遠くにやって、自分さえ失うように虚脱した。

 

 どれくらい経っただろう。もう日も陰り、とうに紫掛かった空が見える。一羽の鳥が庭の木に止まっていた。ネジは足を解き、掌を向ける。集中するように瞳を閉じ、瞬時に目を見張る。色の無い瞳を強調するようにこめかみから脈が浮く。これが白眼の特徴だ。今のネジの視界には、全ての物が透けて見え、チャクラの流れがはっきりと見える。差し向けた掌を軽く押し出す。その先からチャクラの圧が飛び出し、樹上の鳥にぶつかった。痺れるように震え、羽をはためかせながら落下する。地に落ちた鳥は、弄るように翼を動かし、整えられた庭の砂利をかき乱した。ネジはその鳥を捉え、自分の手の中に収める。痺れるようにビクつく鳥を見て、自嘲するように顔を歪ませた。

 目に見えぬ攻撃にパニックを起こし、大人しい鳥の首を掴み、別部屋にある籠にぶち込む。ネジは白眼を解こうと思ったが、外玄関を見て動きが止まる。ガイが猛烈ダッシュで自分の家に向かってくる姿が見て取れたからだ。そう言えば、自分はガイと闘う約束だった。ネジはようやくこの靄靄をぶつける相手が見つかり、より一層笑みを深めるのだった。

 

 

 

「…………」

(すげえぞリー。オラがガキの頃はてんで修行に身が入らなかったってのに、こうも素直にできるなんてよ……。あん時ゃポポの言葉の意味なんて何もわかっちゃいなかったからな……)

 

 リーは既に心を落ち着け無心になるということを出来るようになっていた。悟空が驚くのも無理は無い。焦りの感情を忘れることなど、そう簡単にはできないからだ。悟空にとっての誤算の一つ、それは悟空が修行をつけてきた中でリーは誰よりも『修行』に対する真摯さを持った者だったこと。痴れ言も言わず、愚直なまでに師事する相手に従える純粋さは、悟空の想像するスピードよりも遥かに早く、気を教えることができる。強くなるスピードは遅いかもしれない。だが、誰よりも大きくなる資質を持った若者との対面に、悟空は嬉しさでいっぱいだった。

 

「リー。もういいぞ」

「ふう……。なんだか身体が軽いですよ! 心なしか頭もスッキリして」

「だろうな。さっきまでおめえは自然の一部になっていたんだ。ここは悪い気じゃねえから」

 

 自分の手足を放り出し、確認するように動かすリーに、悟空は頭の後ろで手を組んでそう言う。木々に囲まれた無人の訓練場は既に満天の夜空を冠に頂き、森は眠っている。

 

「んじゃ次は、おめえが自然を自分の一部にする番だ」

「ボクと自然を?」

「気を広げろ。身体だけが武器じゃねえ。この大地も、天も、星だって世界の一部だ。おめえの身体と一緒なんだ。今のおめえなら、少しはできんだろ」

「や、やってみます! それでは……」

「あ!」

 

 自分で修行を申し付けながら、今度は大声出して邪魔をする。リーがコントのように蹴躓いた。なにごとかと悟空を見やると、腹の虫を鳴らして言う。

 

「その前にオラ腹減っちまったぞー」

「悟空くんもなにか食べるんですね……?」

「あったりまえだろ! オラちょっとそこら辺で飯になりそうなもん探してくるから、おめえそこで修行してろ! いいな、自然が自分になるんだ! わかったなー!!」

 

 そう捲し立てながら遠のいて行く声と姿。リーから見て本当に何気なく空を自由に飛び回る悟空の姿は、狐につままれたような気分にしてくれるのだった。




今のテンテンには少しだけ強くなってもらうゾ
今のネジにはもっと拗れてもらうゾ

鉄の国の技術>>中立国は鎖国状態というわけでは無い上、時代遅れで食いっぱぐれの侍や鉄の国の技術者が結構この手の物を流していると思います
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