夕暮BLUES   作:おぱんぽん侍

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久々投稿記念パピコ
なお短文スマソ


混戦! ここから本番第二試験!

 ドラゴン達との戦いが終わって数時間が経った。巻物は奪ったがリー達に与えられた種類と同じ物だった。時間のロスは手痛い。夜になればなるほど森に潜むともがらの動きは活発になるだろう。体力の衰えたテンテンを庇い立てして生き残るには難度がいささか高くなった。

 

「それもこれもお前の勝手な行いが原因だ、リー」

 

 川底で眠りながら泳ぐ魚に目掛けクナイを投げ付け、ネジがそう憤る。木立にテンテンの身を隠し休ませながら、二人で狩りを行っている最中だ。糧食の調達は本来ならば昼から夕方にかけて終えている計算である。予定のズレは掛け違えたボタンのように、時間の経過とともに大きくなって行く。

 リーはそんな悪態をつかれ気まずそうにしつつも、遊泳中の魚をゆっくりと救い上げた。気を消し、自然の一部になることで魚を油断させ、労せず魚を捕ることができるようになったのだ。

 

「魚や獣肉は匂いが強く、保存するには燻しや日干の時間が必要となる。サバイバルをするにもこれじゃあ時間が足りやしない。一体どう責任をとるつもりだ」

「あんま騒がないでよ……」

 

 テンテンの気だるげで眠そうな声が咎める。多傷に軟膏を塗り、身体に巻いた包帯がいたましい。

 ネジが不満そうに鼻を鳴らし、魚に一撃刺突をかまして小枝で括ると、ぱちぱちと時折爆ぜる火にかけた。

 

「こうして火を焚いていることさえ自らの居場所を晒しているようなものだ。今オレたちに出来ることは偵察や狩猟じゃない。テンテンの体力がある程度回復するのを待つだけなんだぞ」

「はい」

 

 一本のクナイが地面に突き刺さる。ネジの透けた瞳がその一点を睨め付け、口惜しげに呟いた。

 

「……いいか、リー。オレやお前がいくら強くなったところでこれはチーム戦。つまり三人の内、誰一人として欠けてはならんし、欠けさせるような行動をとることもダメだ」

「……はい」

 

 ネジの視線と、リーの視線がまっすぐぶつかり合う。二人の足元で魚が跳ね、月光銀に閃いた。テンテンが白眼視して経緯を見守る。

 

「……予定を変更し、リーにはこれから、森に潜む疲労した獲物を探してもらうことにする。テンテンは落月の時まで俺が見張っていよう。その頃までには帰って来い。日が昇ってからはお前がテンテンを守り、オレが行く……、いいな!」

「……はい!」

 

 ネジは頭では理解していても、そうさせたくなかった。

 森にリーを放ったとして、彼一人でも負けることはまずない。

 だがチームとしての効率、この試験の意味、そして今のリーに好き勝手をさせることをよしとしたくなかった。

 苦虫を噛み潰したような顔をしてどうにか許可を絞り出す。その声色が低く唸る。

 許可を得たリーは忍犬さながらの勇み足で飛び跳ねるように闇夜へ背中を消した。

 

 

 

 

 所変わって、同じく死の森、とある樹の幹。春野サクラは気絶したうずまきナルトとうちはサスケを甲斐甲斐しく介護していた。

 泣きそうになる心を押えるため、膝の上の拳は強く握りしめられた。

 三人を襲った男は、一つの怪異であった。射殺す睥睨、命を愚弄する桁外れた悪意。サクラにとって見れば死が体現化された、文字通り死に神のように映った。

 それでも、手折るように敗北し、心の防壁も型なしの明確に『生かされた』状態であってなお、サクラは二人を守ろうとすることでしか自分を守れなかった。

 サスケが死にかけた時、動けなかった。

 ナルトが現れた時、救われたと思ってしまった。

 二人が戦い続けた間、自分は何もできなかった。

 

 サクラの小さく薄い身体に、死と生の責任が重荷となってのしかかる。

 

『かわいそうに、仔ウサギが震えているよ……』

『アハハ、ほんとだ』

 

「誰っ!」

 

 孤独が迫る夜の帳、茂みの奥から冷ややかな声が振りかかる。誰何するサクラの声に、三方向から忍が降り立った。額当ては音隠れ。うち一人は振るう打撃を避けても、何らかの方法で手傷を負わせる術を持つ。サクラにとっては前試験で薬師カブトを痛めつけた、記憶に新しい『危ない』奴らだ。

 

「うちはサスケ君を出してもらいましょうか……、僕達は大蛇丸様の命令に従い、彼を殺しに来ました」

 

 音忍リーダー、ドス・キヌタは丁寧な口吻で語る。彼らは音隠れの長、大蛇丸の命令に従い、うちはサスケを殺しに来た。サクラは激昂し、興奮して詰問する。

 

「何がサスケくんを出せよ! サスケ君をこんな目にあわせて、その次は戦え? あの首の傷といい、あの大蛇丸って奴といい、あなた達は何のためにこんなひどいことをするの!?」

「首の傷だって……?」

 

 包み蓑を震わせ、キヌタがゆっくりと心を振り返る。いきり立つザク・アブミが疑わしげにキヌタを見遣り、一歩前に出て腕をまくった。

 

「っるせえ! 大蛇丸様のお考えなんぞオレたちが知るかよ! とにかくそのサスケっつう雑魚を殺すのが『音忍』流の中忍試験なのさ。ってえことで……纏めてぶっ殺すぜ!」

 

 アブミが腕を土に突き刺すと、もぐらが掘り進むように地面が盛り上がる。直線、二本の筋がサクラ達が身を隠している樹洞に目掛けて進む。だが、その途中で大きな爆風とともに霧散した。

 突如消えた己の攻撃に鼻白む。土煙が晴れると、そこには人など簡単に埋まってしまう程の大穴が掘られていた。

 

「お前はバカですか、ザク……。ところどころ色の違う土。それにこの草。……こんなトコに生えないでしょ、この草は……」

 

 キヌタがそう言って草を毟った。見え透いた罠。危険性などない、子供が仕掛けたくだらないアトラクションでしかない。とくに、音忍のように相手を痛めつけることを何も思わない破綻者にとっては。

 

「チッ、オレが攻撃しなきゃ落とし穴にハマってたってことか……。だがその落とし穴にハマったところで何のダメージもなさそうだがなァ!」

 

 サクラは内心ほっとした。よくわからない攻撃が偶々自分が掘った穴によって避けられたことにではない。自分の罠が『見抜かれたこと』に安堵したのだ。サクラの拳が解かれる。震える膝を立ち上げて、隠し持っていたクナイを投げつけた。

 

「なんです、この情けない抵抗は? ……っ!」

 

 腕につけた装甲で軽々と弾き落とされる。攻撃にもならない、ただ当てるだけの一撃をバカにした三人だったが、それこそが戦う術だった。

 弾き落とされたクナイが四辺に割れ、中から零れ落ちる閃光玉。破れたそれが吐き出す光は、まぶたを閉じてさえ目を焼く程に明光した。だが流石に命のやりとりを手慣れた音隠れの連中と言うべきだろう。咄嗟に後ろを向いたり、木の裏に隠れるなどして危機を回避する。

 が、サクラの頭脳を越えられはしない。新たに投げたクナイが森に張り巡らせた紐を切り落とした。

 

「洒落臭え!」

 

 アブミの怒号の声とともに木々が揺れ、多くの巨木が吹き飛ぶ。サクラが仕掛けた罠は、触るだけで痺れさせる毒を含んだ矢を放つ簡単なからくりであった。だが、アブミの風遁忍術によって難なく突破『してしまう』。

 

(ビンゴ……!)

 

 木の上、散り切れた木の葉がひらり舞い落ちて、大きく爆ぜた。

 

 ―― 魔幻・桜花の舞 蘂降り ――

 

 三人を包む煙の膜。木の葉の裏に刻まれた術式札が示すしるしは『咲』一文字。膨れ上がる散り葉が翻り、桜色の影を作った。

 辺りを埋め尽くす厖大な桃煙が甘く身体を痺れさせる。

 これは散布力の強い毒薬と花粉、発煙性のある獣毛とを乾かし香水とよく混ぜ作った、サクラオリジナルの媚薬。

 更に音忍を襲う刺激。身体を這いまわる蛆蛭が、その皮膚を食い破って血を流す。

 地面に滴り落ちる様は、まるで晩春の道を彩る桜の蘂のようであった。

 

(これで少しは時間を稼げる筈……!)

 

 サクラに二人を背負える程の力はない。息を止め、鼻と口をタオルで塞いだ二人を引きずりそっとその場を離れた。

 

 

 

「サクラ……っ、その傷……!!」

 

 第十班の面々は非常に困っていた。自分よりも弱い相手が居らず、三人揃って慎重なメンバーばかりの彼らは、わずかに可能性が残る最弱候補・うずまきナルトを探していたのだが。目の前に現れたのは、今にも死にそうなうちはサスケと、気絶しているうずまきナルトを引きずる春野サクラの姿だった。真新しい傷ばかりが身体を痛々しく染め、顔を苦悶に満たし、精魂尽き果て倒れこむ寸前である。いのの脚が今にも駆け寄りそうになるのを見て、シカマルは溜息をつくほかなかった。

 

「……何の得にもなりゃしねーし。めんどくせえが、助けるぜチョウジ」

「うん」

 

 二人が率先してサスケ達の肩を支え、へたり込んだサクラの背中をそっと木に倒した。シカマルの胡乱な目が、いのの態度を見咎めるように刺した。

 

「サクラのヤロー、見かけによらず結構重いんだな……。おいいの、オレはとりあえず、助けられるなら助けることに決めたけどよ……。おめーはどうすんだ?」

「あたしは……、ッッ!!」

「いの……」

 

 言い欠け、そばを離れるいのの背中を見て、チョウジが心配そうに名前を呼んだ。

 

「放っとけ、チョウジ。よく知らねーし興味もねえけど、あの二人にゃ因縁ってもんがあんだよ。オレたちもこいつらをさっさと安全な場所に隠して……」

『安全な場所なんて無いよ……この森にはね……』

 

 シカマルとチョウジの背中に現れるキヌタ。その瞳は氷のように冷たく、有象無象のゴミを見るようで、二人は竦み上がった。

 

(こいつぁやべえ……、殺しに慣れた異常者の眼だ……!)

 

 気絶する三人を庇うように前に出るシカマルであったが、彼は全く戦闘タイプではない。更に言えば影の多い森は秘伝忍術さえ無力となる。怯えて縮こまっているチョウジを意識の中で見ながら、顎を流れる汗を拭った。

 

「そいつらを渡して貰おうか……、三人とも殺したくなったんだ」

「おい、殺すのはオレだ!」

 

 キヌタとアブミの殺意を込めた声が、さも挨拶のように交わされる。血に飢えた獣が舌なめずりをするように、よく磨かれた音の額当てが妖しく光った。

 

(おい……、おいチョウジ!)

(シ、シカマル……、こいつら間違いなく、とんでもなく強いよ)

(んなこたァわかってるよ。今はどうやってこの危機的状況を潜り抜けるかが肝要だ)

 

 視線さえ合わせずに心で会話する。シカマルが少しでも怪しく手を動かせば、その瞬間に殺される。怒り心頭甚だしい二人の敵を目の前に、灰色の頭脳が激しく回り出す。チョウジは太い身体をがたがたと震わせて、敵に吐息一つにさえ恐怖していた。

 

(相手を挑発しちゃダメだ。チョウジの怯えもどうにか止めなきゃなんねーし)

(それにしてもサクラの奴、あんなに重いと思わなかったぜ)

(サスケをあんな風にしたのはこいつらか……? ダメだ、情報が少なすぎる……!)

 

 数秒もせず、シカマルの思考が深層に達する。様々な言葉が泡のように浮かんでは消え、消えては浮かんだ。

 

(いや……待て、待てよおい! あの時いのは何を見ていた? 違うな。何を『感じていた』んだ?)

 

 ふとシカマルは『思い出す』。いのが脚を止めていた時、その視線がどこにあったのかを。

 

 

 

 春野サクラはいまどきの女児である。甘い食べ物が好きで、かわいい物や小さい子供をついつい世話してしまいたくなる優しい心根の持ち主だ。いのが教えた花がいつだって大好きで、中でも自分の名前と同じ桜を綺麗だと笑う顔は小憎らしいくらいにかわいい。密かにいのはそう思っていた。

 だが、やはりくノ一、木ノ葉の忍の一人だ。戦場に立つ覚悟がなくとも、女のプライドがその軟な足腰を支えている。アカデミーでのテキスト試験ならば一番を誇る知識を駆使し、サクラや他二人をああまで傷つけた敵から辛くも逃げたのだ。いのはそう気がついた。

 

(でもねえサクラ……っ、あんたいっつも匂うのよ……! いくら賢くってもやっぱりバカはバカね!)

 

 述べたように、春野サクラはいまどきの女児である。常に身だしなみを気遣う彼女は、日常的に香水をつけていた。その森に似合わぬ強い匂いが、あのサクラ達からは『感じなかった』。

 この試験は三人一組。そしていのはシカマルの後ろから近づく敵影を視認していた。ゆえに情報をシカマル達へ教えることも出来ぬままその場を離れ、こうして駈け出した。

 

「もう一人は気づいてる……、あのサクラ達が偽物だってことに!」

 

 いのは知らないことだが、音忍唯一のくノ一キン・ツチは、自分が忍びとして重用されるようになればなるほどに女性らしさを喪失していくことに、知らず知らずコンプレックスを抱くようになっていた。サクラの長く整った髪、隠れる気も感じない派手派手しい色の装束、気分が悪くなる香水の異臭。その全てがキン・ツチの神経を逆撫でしたのだ。

 

 いのは走りながらポーチからワイヤーと手裏剣を取り出し、くくりつけて高く投げる。高い枝に絡ませ、ワイヤーの後尾に備えた輪を掴んで跳び上がる。きりきりと締め付ける音が森に響いた。

 宙吊りのブランコのように大きく揺れ、往復するたびその幅を増す。頂点に達した瞬間手を離し、勢いのままに空へと弾かれる。高所からサクラの影を探すためだ。めまぐるしく変わる速度の中、重力にまさぐられ身体がねじ切れるかと、いのは思った。

 

(居た……! なにやってんの! 後ろに敵が居るじゃない……! ああ、油断しちゃってもう! ほんっとにもう!)

 

 ―― 忍 法 ・ 月 下 美 人 ! ――

 

 いのが寅の印を結ぶと、キン・ツチとサクラ達を囲うように紫香の花びらが吹きすさぶ。

 月を背景に、まるで高台から水中へ没入するような動作とともに美しい姿勢を整え、いのの身体も花雲へと落着する。

 むせぶような濃艷に包まれたキン・ツチは一瞬の逡巡ののち、退いて脱出を試みる。だが花びらは身に纏わりついたように付かず離れず視界を防いだ。

 

 

「チッ……!」

「見つけたわッ! 一番弱そうな奴ッ!」

 

 幹を滑り落ちてキン・ツチの前に現れたいのが声を荒らげて挑発した。




実は別作品の間違えて投稿してしまったバカな作者を許せ、サスケェトン

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