「もし、ここがアニメや映画の世界だとしたら、俺たちはこれからどうなると思う?」
ある日、ある時、とある場所、流行りのポップスが流れる喫茶店の席で、小柄な少年は言った。少年とは言っても、そのとっつきにくい表情を補って余りある端正な顔立ちは、知らない人が見れば少女と見まごうほどだった。
「……そもそも、俺たちはどういう役回りなんだ? メイン、サブ、モブ……それで扱いなんてどうとでも変えられそうだけど」
少年の隣にいる、メガネをかけた長身で細身の男がそう答える。男はけだるげな表情と、光を全く感じさせない目が相まって、いまいち何を考えているのかが読み取れない。答え終わるとその問答にあまり興味がないのか、男は頬杖をついて、窓の外を見始めた。
「多分、モブか良くてサブですよ。これがアニメだとしたら、メインは間違いなく戦車道の女の子たち」
今度は向かいの席にいる、目の隠れた男が遠慮がちに口を開いた。無造作にぼさぼさと伸びた髪型と、少し幼い顔立ちのせいか、男の内気な性格が外見としても現れているようだった。
「というかまず、俺達みたいなのはアニメだったらいらないと思います。女の子たちが戦車に乗っているのを見るのが楽しいのであって、それに男なんか出しゃばったら、蛇足もいいとこですよ」
「そう? 僕はいいと思うけど」
「まあ、アニメのことはあまり知らないけど」と続けながら、内気な男の意見に異を唱える。声の主はその隣、腰まである長い髪を軽く結っている人物だ。その柔かい笑みは、美男子と言っても差し支えないような男だった。
「女の子が主役の作品だって、たまには男性が出てきてもいいんじゃない? 女性をエスコートするのは男性の役割だよ」
「……そういうキザったらしいのが蛇足だっていうんだよ」
「あはは、手厳しいね。ね、
「知らん」
巻き込まないでくれと言わんばかりに、服部と呼ばれた男は腕を組んで目を閉じ、そっけなく言う。その大柄ながら細く、無駄を削ぎ落とした筋肉質な体格と、鷹のような鋭い目つき。彼のことを知ってる人間でなければ、その佇まいだけでも威圧感を感じることだろう。
「……
服部は小山……一番最初に口を開いた、小柄な少年に対して苦言を呈した。それを聞くと小山は「そうだな……」と言いながら、内気な眼隠れの男を見る。
「
「45分後ですね。でもさっき、艦の監視カメラにデカいコンテナ船が近づいてるのが映りました。あれなら多分10分後くらいに来ます」
「そうか」
眼隠れ……斎藤は手に持っているスマートフォンを操作して、件の映像を小山に見せる。小山はそれを少しの間見て、今度は先程の問答からずっとぼんやりと外を眺めている、気だるげなメガネの男に話しかけた。
「
「ん? ああ、さっき走ってた時、建設中の架け橋が見えた。あそこなら多分、追っ手も撒ける」
雨水と呼ばれた男はそう答える。光のない目で、ただ淡々とそう答えるので、いまいち彼がそれについてどう思っているのか、というのは計りかねた。
「あそこって、まだ繋がってないじゃないですか。大丈夫なんですか、雨水さん?」
髪を結った美男子は雨水にそう質問する。
「ダメなら高校生がバカやって死んだで終わる話だよ」
「はぁ、そう言うと思いましたよ」
「不安か?
そして、このやわらかい笑みの美男子は天宮という名らしい。雨水にそう言われた天宮は、人懐こそうな微笑みを絶やすことなく、しかし何も言い返さなかった。
「天宮、ちゃんと戦車と生徒、把握してきたか?」
小山は少し呆れた顔をしながら、天宮に頼んでいた調べ物の内容を聞いた。
「もちろん、みんな可愛かったですよ。アッサムって子が個人的にはお気に入りかな」
「お前な……」
「冗談ですって小山さん、恐いなぁ。……いろいろ『試して』みましたけど、あのダージリンって人、危機察知能力と洞察力がずば抜けてる。あれを試合で出し抜くのは骨ですよ」
「おまけに実戦経験豊富で、指揮能力も高い、か……思った通り、デカいお山の大将なだけあるってこった」
「本気で会長は勝つつもりなんですか? こっちは全員素人ですよね?」
斎藤はそう疑問を口にするが、それはこの場にいる5人全員が考えていたことだった。それは質問された小山も決して例外ではない。
「西住以外はな……大体にして、なんで会長がいきなり戦車道に手を出したのかがわからない」
「……何か、のっぴきならない事情があると?」
服部のその質問に、小山は「さぁな」とだけ返して、手元にあったオレンジジュースを一気に飲み干した。
「なんだっていいさ、今はな」
それを最後に小山は席を立ち、上着を着て店から出る支度を始めた。
「もう出るのか?」
「ああ、『彼女ならそろそろ気づく』だろう。お前らも早く片付けろ」
そう言われると、小山以外の4人は早々に飲み物を空にする。その後、それぞれ飲み物代の小銭を会計係の天宮に渡し、彼が若い女性の店主に支払いをする間に支度を整えた。
「ありがとうございます。とても美味しかったです」
「はい、ありがとうございます。ところで、お客さんたちあまり見ない人ですけど、観光ですか?」
「ええ、そうです。美しいところですね、聖グロリアーナ女学院は。こうして、きれいなお姉さんにも会えたわけですし」
「や、やだもう、お上手なんですから! ……でも、気を付けてくださいね、なんかついさっき、侵入者だか何だかが入ってきたらしくて、今学院がてんやわんやなんですよ」
「……へえ、それは物騒ですね」
「確か、何だっけ……? 戦車道? の情報だとか……」
「おい、まだ終わんねえのか」
女性の店主と天宮が話し込んでいると、とっくに支度を終えた小山が少し強めの口調で天宮に言った。それに対し天宮は、大仰に肩をすくめる。
「やれやれ、無粋な人だ。顔は可愛いのに……じゃあお姉さん、また来ます」
「え、は、はい……お待ちしてます……」
惚けた女性店主に天宮は笑顔で返し、そして5人はゆっくりとした足取りで店を後にした。
「……あれ、なんであの人たち、わざわざ裏口から出たんだろう?」
――喫茶店の外
「天宮、その女癖は恥ずかしいからやめてくれよ」
「無駄だ斎藤。コイツはきっと、刺されて死ぬまでわからんだろうな」
「酷いなあ、斎藤も服部も、女性に優しくするのは男としてのマナーってだけだよ」
雑談する3人をしり目に、小山は道を真っ直ぐ見る。彼の頭は最も効率的に目的地に着く方法と、その可能性を考えていた。
「雨水、目的地まで車でどのくらいで着く?」
「性能的に4分……て言いたいとこだけど、あのクルマ、思ったより『怖がり』でな。少しセーブしてやりたいから、6分くらいか」
「わかった。じゃあ、早いとこ、車取りに行こう」
「騒がしくなってきたし、頃合いだ」
そう言って、彼は通り過ぎる車両を眺めた。
「HQ! HQ! 未だ侵入者発見できず! 対応を願う!」
『こちらHQ了解、逃走経路の予想ルートを送る。各員、持ち場から一番近い場所にバリケードをつくれ』
「なんで誰も気づかなかったのよ! あれだけ人がいたのに!」
「それらしい人は見当たりません。先回りして逃げたのかと」
「全部後手後手になってるわね、姿すら見えないなんて……」
「とにかく草の根分けても探すのよ! あれが流れたら、我ら聖グロの戦車道チームはおしまいよ!」
「誰なんだ? 黒森峰かプラウダか、それとも……」
けたたましい怒号、道を塞ぐ数多の車と、そして戦車。それを物陰で見ていた斎藤は、思わず呟いてしまう。
「お、思ったよりはやい……大丈夫なんですか、このままじゃ、道路が閉鎖されちゃうんじゃ……」
「ああ、知ってる。『だからずっと喫茶店で待ってたんだ』」
「え……」
その言葉に困惑する斎藤をよそに、小山は服部に聞いた。
「服部、手に入れたのは?」
「部員のプロフィール、保有戦車及びその整備記録、1年分の練習メニューと、弱点、反省点がまとめられたワードファイル。全てこのUSBにコピーしてあります」
「よし、斎藤に渡せ。斎藤、確認しろ」
「は、はい……」
USBメモリを渡された斎藤は、変換ケーブルを繋いですぐにスマートフォンに接続し、歩きながら内容物の確認を始めた。
「……なあ、小山」
雨水がふと、小山に話しかけた。
「なんだ?」
「さっきサ店で話してた。この世界がアニメだったら俺たちはどういうキャラだって話」
「ああ、それが?」
「あれ、お前はどう思ってるんだ?」
単に緊張をほぐすためか、それとも今の状況はその問答に関係があると思ったのか、雨水はそんなことを小山に聞いた。
それに対し、小山は「そうだな……」と一拍置いてから、とても淡泊な雰囲気で、こう答えた。
「画面には出ないだろうよ」
「画面『には』?」
「ああ、どのシーンにも映らない。映っても、姿を変えてるか、じゃなきゃいるのかいないのかわからない程度。最後まで俺たち自身は知覚されず、
「……」
「けど、確実に存在する」
「
「それが俺たちだ」
「俺たちはそれだけだ」
次回から、何がどうしてこうなったのかをかきたいと思います。もしよろしければお付き合い頂ければと思います。