「センシャドー?」
「……テコンドー的な?」
朝のHR終了後、1限目があるのにもかかわらず、突然生徒会の3人に呼び出された
「違う違う、戦車道。知らない?」
「戦車道って……あれか? 確か、乙女の嗜みとか言っときながら戦車でドンパチやる……」
「そうそう、男の子なのによく知ってるねー。さっすが蜜柑ちゃん」
「下の名前で呼ぶんじゃねえっつってんだろ」
「おい! 会長に向かって何だその態度は! 口を慎め!」
小山の態度が気に入らなかったのか、やいのやいのと騒ぎだす生徒会書記、
「でも杏ちゃん、なんで突然、戦車道の話を?」
「察しが悪いなー永ちゃんは。今回この話を持ち出したってことはもちろん、うちの学校でも戦車道やろうってことだよ」
「大洗学園で?」
「なんだよ、1限目サボらせてまで何かと思えば、またいつもの思い付きかよ」
角谷の言葉を聞いて、小山は至近距離で怒鳴っている河島の顔を手の平で押しのけ、鬱陶しそうに苦言を呈した。
「うぶッ……この、お前は少しは礼儀というものを覚えんのか!」
「わーかったよ、わかったら耳元でピーピー喚かないでくださいよクソヒス片眼鏡」
「柚子ちゃん、もうコイツやだぁ……」
「桃ちゃん、落ち着いて。蜜柑もダメでしょ? そんな言い方、お姉ちゃんは許しません」
「……ふん」
生徒会副会長である
「んで、永ちゃんと蜜柑ちゃんはどう? 20年前もやってたみたいだし、再開してもいいと思わない?」
「どうって言われても……」
「やりたきゃやれば? 野郎の俺達にゃ関係のない話だろ」
「え?」
小山がそう言うと、角谷は心底不思議そうに口から発声し、首を可愛らしく傾げながら、きょとんとした表情をつくった。
「何言ってんの? 2人もやるんだよ」
「「はぁ?」」
言われた2人も首を傾げる。だが今度は角谷のように可愛らしいものではなく、柄の悪いと言わざるを得ないような仕草であった。そんな声まで上げた2人の疑問が伝わったのか、角谷はその理由を話し始めた。
「やっぱさー、戦車なんて重いもん扱うんだから何かと男手がいるじゃん? それに乙女の嗜みだし、集まるのは当然女子! 上手くいけば女の園でハーレムでモテモテだよー?」
からかうような顔と口調でそう話す角谷に対し、2人は未だ少し思考に困惑を残しながら、とりあえず彼女に素直に思っていること……つまり苦情を告げることを優先した。
「……村八分になるほうがあり得そうだけど」
「そんなことないって永ちゃん、私だって永ちゃんたちのこと、干しイモくらいには好きだよ」
「あっそう、ありがと……」
「大体、なんでいきなり戦車道やろうなんてことになってんだよ? 理由を言え理由を」
小山が苦い表情を隠しもせずにそう聞くと、角谷は少しだけ考えるそぶりを見せ、そしてすぐにシレっとしたように言った。
「そろそろウチにもアンコウ鍋以外の名物が欲しいなって思って」
「教室戻ろうぜ雨水、もう1限目終わってる頃だ」
「おい、いいのか?」
「ち、ちょっと待てお前ら!」
呆れ顔で生徒会室から立ち去ろうとする小山。狼狽えながら河島はそれを止めようとするが、耳を貸さずそのまま帰ってしまいそうな雰囲気だった。
「この学校にいられなくしちゃうよ?」
その言葉に、小山は立ち止まり、驚いたように目を見開いて角谷の方に振り返る。角谷は顔から笑みを消して、生徒会長の席に座っていた。
「杏ちゃん……?」
「永ちゃんも、もちろんやってくれるよね?」
雨水も唐突な角谷の言葉に困惑していた。今まで彼女には散々付き合わされてきたものの、ここまで脅迫じみたことを言われたことはかつてなかったのだ。
生徒会室の中に、わずかばかりの沈黙が流れた。その重苦しい空気の中、一番最初に口を開いたのは小山だった。
「……いいぜ。戦車道、協力するよ」
どこか諦観の念を示すように、小山はため息をつきながら、角谷の『お願い』を受け入れることにした。
「ホント? いやー持つべきものは信頼できる仲間だねー……んで、永ちゃんは?」
「……わかった」
雨水もまた、淡々とした口調でそう答えた。それを聞いた角谷は、先程と同じ笑顔を浮かべ、一転して緩慢とした空気を発した。
「うんうん、助かるよー。まぁ戦車道やれば色々特典つけてあげるからさ、頑張ってよ」
「それで? 最初に何をやりゃいいんだよ?」
「まぁま焦んないでよ蜜柑ちゃん。そうだね、かーしまー」
角谷にそう言われ、河島は「かしこまりました」と一拍置いてから、仕事内容を2人に伝える。
「お前たちには、人員補充のためのスカウトを行ってもらう」
「スカウト?」
「ああ、今から言う者に選択授業の戦車道を選ばせろ、ほらコイツだ」
河島は、机の引き出しから一枚の写真とプロフィール、そして選択授業の希望用紙を2人に見せた。写真には、ショートボブの髪型をした女の子が写っている。
「誰だ?」
「『
柚子は小山たちに、人物の大まかなプロフィールを伝える。小山が目を通すと、先程の柚子の概要の他にも『引っ込み思案』、『押しに弱い』など、なるほど無理矢理にスカウトするには持って来いの情報だと、彼は心の中で皮肉を吐く。
「じゃそういうことだからお願いね。もう教室に戻っていいよー、お疲れさーん」
「いいか、絶対に戦車道を選択させろ! 出なければ貴様らには責任をとってもらうからな!」
「蜜柑ちゃん、雨水君。頑張って!」
「……戻ろうぜ、雨水」
「そうだな……」
生徒会の面々に意気揚々とした言葉を投げられながら、2人は疲れた顔をして生徒会室を後にしようと出口まで歩いて行った。ドアを開け、立ち去ろうとしたその時、小山はただ一言、しかし聞こえるくらいの声量で、角谷を見て呟いた。
「ずいぶん必死だな、会長さん?」
どこか含みのあるその言葉を、彼が皮肉のように言い捨てたのを最後に、ドアは静かに閉じられた。
「……やっぱ怖いなぁ、蜜柑ちゃんは」
口を噤んでしまった河島と柚子の中で、ただ角谷だけが小さくそう言った。
◇
「よかったのか? あんなあっさり承諾して」
生徒会室から出て廊下を歩いている最中、雨水はそんなことを小山に聞いた。
「それを言うならお前もじゃないのか、雨水?」
「そうなんだけどさ……今回の杏ちゃん、何だかいつもみたいにふざけてる感じじゃなかった。なんか引っかかったんだよ」
「お前にしては珍しく察しが良いな。明日は雪か?」
「じゃなきゃいいけど……てことは、小山も?」
「ああ、なんかあんのは間違いない。ま、向こうが何か話したくなるまでは無茶振りに付き合ってやるさ、どんな御大層な理由かは知らねぇけどよ」
「無茶振り……そうだよな、最初にやる仕事がこれだと、いやな予感しかしないな」
「まぁな……と、ここのクラスか、行こうぜ雨水」
「はぁ、やっぱやんなきゃダメか」
そうこうしているうちに、2人は件の人物がいる教室にたどり着き、早々に仕事に取り掛かることにした。
「次の授業まで時間ないし、さっさと終わらせるぞ」
「……嫌な予感しかしねぇ」
「よし……邪魔するぜ、西住ってのはいるか?」
小山は勢いよく引き戸を開け、よくとおる声で簡潔に用を告げた。
突然の来訪者に教室は一瞬だけ静かになり、先程とはベクトルの違ったざわめきが起こる。しかしそんなことも厭わず、小山は教室を見渡し、件の人物を探した。
「……西住みほさん、だな?」
写真と同じ顔の人物を見つけると、蜜柑はその人物に近づき、机の前まで来たところで、そう名前を聞いた。しかしその人物である西住は急な事態に対応できず、答えることができないでいた。
「あ、えっと……」
「……いや悪い。小山蜜柑、生徒会の人間だ。アンタ、西住みほさんで合ってるか?」
「え、えっと、そうですけど……」
「それは良かった、アンタに生徒会からのお願いを伝えに来たんだ」
「私に?」
小山は「ああ」と肯定したところで、学ランのポケットから先程渡された、選択科目の希望用紙を西住に見せた。
「単刀直入に言う。今度の選択科目、戦車道をとってくれ」
「え……で、でも、この学園には戦車道はないって、私聞いて……」
「ところがどっこい、今年からあるらしいぜ」
「そんな……」
西住はどこか怯えた表情を見せる。小山はそれを見て、過去に何かあったのかという考えを巡らせたが、それはこれが終わった後にでも調べればいいと思い、すぐにその思考を切った。
「ちょっと小山! いきなり何なのよ!」
西住の後ろからそんな声が聞こえてくる、西住から視線を外すと、その後ろに、ウェーブのかかった栗毛の女の子がいた。
「んだよ、
「用かよ、じゃないでしょ! いきなりそんな乱暴に女の子に無理矢理迫るなんてダメ、そんなんだからモテないのよ!」
「それ、お前の自己紹介か? なら当ってる」
「なッ!?」
「まあまあ
ウェーブのかかった女の子に、おっとりとした容姿の、やや背の高い子が止めに入る。栗毛の子は
「お前ももう少し言葉遣いどうにかしろよ、小山。いらん敵をつくることになるぞ」
「上等だよ、あとお前も少しは手伝え」
「ヘイヘイ……」
そういって、今度は雨水が西住の前に出る。ぐいぐい行くタイプの小山とは違って、しかし彼はこういう交渉ごとにはめっぽう弱く、結果言葉を探しながらしどろもどろに話すことになってしまった。
「その、あー……すいませんね、アイツ根は悪い奴じゃないんだ……それで、その、ちょっとこじれちゃったけど、どうにか戦車道、やってもらえませんか?」
「……す、すいません、私は……」
「……そっか」
それで会話は途切れ、西住は顔を見上げた。
「……あ」
すると、彼女は何かに気づいたように、思わずといった調子で声をあげ、雨水の顔をよく見た。
「あ、あの……」
「ん?」
「う、雨水……くん?」
「あれ、俺名前言ったっけ?」
「あ、あの、私たち前に……」
と、西住が言ったところで、授業開始のチャイムが学校に響いた。それを聞いた生徒は、次々に自分の机に向かう。
「やべ、行こうぜ雨水」
「あ、ああ……じゃあ、一応用紙ここに置いとくから、考えるだけでもお願いします」
「あの、あ……」
それだけ言うと、2人は走って教室を出て、自分の教室へと戻っていった。
「雨水くん……」
ところ変わって廊下にて。
「なあ小山」
「なんだよ?」
「西住さんって、今年度から転入してきたんだよな?」
「ああ、それが?」
「いや、なんか」
「どっかで会ったこと、あるような……」
――
時間は少し遡り、小山たちが生徒会室を出て行った少しだけ後、そろそろ2限目にも突入しようという中、生徒会の面々は未だ生徒会室で話し合っていた。
「会長、本当にあの2人以外の協力者を?」
「そだよー、あの2人だけだといくら何でもきついでしょ」
机に散らばった資料に目を通しながら、角谷は河島の問いに答えた。資料には今年の新入生の主な経歴、内申、その他の情報があり、彼女はその中から何かを探しているようだった。
「しっかし、せっかく去年から共学にしたってのに、相変わらず女子ばっかだねー」
「それが、学園長が『大洗学園』に名前を変えたのを発表しわすれたらしくて、本や広告に『大洗女子学園』のまま、載ってしまったらしいんです。それが原因でしょうね」
「聞いた聞いた。もうちょいしっかりしてればなーあの人も」
柚子の言った情報が原因かは計りかねるが、事実新入生の比率は圧倒的に女子が高く、男子は1割いるかいないか程度だった。「でも……」と角谷が、散らばった資料から数枚を集める。
「なかなか粒ぞろいみたいだよ。ほらこれ」
そう言って、角谷は集めた資料を河島と柚子に見せる。資料の中には、3人の男子についての情報が記載されていた。
「この3人ですか?」
「見事に男の子ばっかりですね」
「男だけなのは、アイツらがやりやすいようにですか?」
「まーそれもあるけど、この子たち、あの2人と似たような雰囲気持ってそうだなって」
角谷のその含んだような言い方に、柚子は疑問を感じ、そして素直にそれを聞いた。
「雰囲気……ですか?」
「そ、雰囲気」
「イケナイことできそうな、ね」
『
『
『
資料の名前には、それぞれそう記されていた。
話が思ったより進まない、ゴメンな作者のせいだ。