諜報部隊タコさんチーム   作:生カス

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secrecy:秘密、内密


4 : 【隠】Secrecy

「……泥棒って、一体どういう……」

 

「窃盗、不法侵入、その他諸々」

 

 天宮の問いに、会長はわざとらしく見当違いな答えを述べる。どうしてこうもまあ厭味ったらしいのかと思うが、いちいち考えてもキリがないので、俺は無視した。

 

「な、なんすか。わざわざそんな冗談」

 

「冗談じゃないよ」

 

 喰い気味に、そしてやや威圧的に。会長のそれに気圧され、斎藤は黙ってしまった。

 

「ちょっと今込み入った問題があってさ。確実に解決するために、君たちにはちょっとだけ危ない橋を渡ってほしいんだ。もちろん断ってもいいよ? ただ、その後この学校に居場所があるかは保証できなくなるけど」

 

 何ともまあにこやかな笑顔で宣えるものだ。要約すると、この傍若無人な会長様はこう言っておられるのだ。『自分の目的のため汚れ役をやれ、さもなければ退学させる』と。そんなバカな話があるかと思うだろう。けどコイツに限ってはあるのだ。

 一度そう決めたら、あの手この手を使って本当に言った通りのことを敢行する。その手腕と傲慢さの果てが、現在の生徒会の過剰な権力の根幹になってるとすら言える程、彼女の交渉術は恐ろしい。そういう女なのだ、コイツは。

 

「そもそもなんで泥棒なんだよ。もの盗りなんて戦車道と全然関係ないだろ」

 

「あるんだな、それが」

 

 会長はそう言い、大仰に椅子にもたれかかる。

 いよいよ何をやらされるのかわかったもんじゃない。戦車でも盗んで来いってのか?

 

「ま、それは追々話すとして……そうだね、とりあえず今は理由を言おっか」

 

「理由?」

 

「そう。どうして君たちを選んだのか、その理由」

 

 そう言うと、会長は薄い笑顔を崩さず、淡々とその話を続けた。

 

「一つ、君たちがうちの学校の男子生徒であること」

 

 彼女は一拍だけ溜めて、そして続ける。

 

「実は、この学校の正式名称はまだ『大洗女子学園』なんだ。この学校は去年から共学だけど、学園長が申請を忘れたせいで、まだ世間の認知は女子高なんだよね。

 で、女子高なんだから、男子がいるなんて当然思われないよね? 制服もただの学ランだし、他も学校を特定できるものじゃない。学籍はさすがにあるけど、そんなものその気になればすぐに学校側(コッチ)で改ざんできるし」

 

 出来なくても無理矢理しそうだけどな、コイツの場合は。

 

「……で、学校側が君達のことを知らないって言ったとする。するとどうだろう。あら不思議、君たちは『高校にも行ってないチンピラ』ってことになっちゃう」

 

「……使い捨てて、足きりするにゃもってこいか」

 

「正解」

 

 つまり俺たちは危なくなった時のトカゲの尻尾だ。なりふり構わなくなって来てるな、コイツも。

 

「そして一つは、5人がそれぞれ『そういうこと』するのに使える技術を持ってること」

 

「そんな技能を持った覚えないぞ、俺」

 

「いやぁ、永ちゃんのドラテクとメカニックはすごいじゃない。機械の気持ちいとこ全部わかるレベルなんでしょ?」

 

「それ誰が言ったのよ?」

 

「同級生の自動車部」

 

 「鈴木先輩だな……」とひとりごちる雨水をよそに、俺は話を進めることにした。

 

「俺はなんなんだよ。そんな手が後ろに回るようなことしたことねーぞ」

 

「蜜柑ちゃんのは簡単だよ。君じゃないと他の4人をまとめられないから」

 

 なんだそりゃ。と思いながらも、俺は雨水含む4人を見回す。……なるほど、統率力が全く期待できない面子なのは確かだ。

 

「……で、あとの3人は?」

 

 そう聞くと、会長はゆっくりと、下級生3人の方を見た。最初は斎藤だ。

 

「さいとーちゃん。宿題やってきてくれた?」

 

「え、は、はい……」

 

 斎藤はカバンからノートPCを取り出し、机において開いて見せた。画面にはいくつかの映像が映されている。道路や街並み、艦内の様子、そしてうちの学校。

 これは……監視カメラの映像か?

 

「これ、どうしたんだ?」

 

「えーなに、盗撮?」

 

「ち、違うよ天宮。えっと……会長に言われたんです。このラップトップで艦のセキュリティシステムに侵入してみろって。やんなきゃ退学させるって言われて、昨日……」

 

「おいおい……」

 

「もちろん、管理側には抜き打ちテストって名目にしといたから大丈夫だよ」

 

 そういうこと言ってるんじゃない。平然と後輩を脅してハッキングさせるその性格が本気で心配になってきただけだ。

 それにしてもハッキングか……。専門外だから詳しいことは知らないが、確かに映画で見るような泥棒の代名詞みたいな技術だ。しかも会長の助力ありとは言え、セキュリティシステムに一日で入り込めるってことは、斎藤のレベルがかなりのもんだろうことが伺える。

 

「ちなみに、さいとーちゃんはどうやってやったの?」

 

「はい……今回の場合は管理システムがオープンネットワーク上だったからあまり時間がかからないで済みました。セキュリティの管理人リストを調べてから、勤務中の彼らに偽装した解析ファイルを送って開かせて、何とかアクセス権限のあるIDを手に入れました。次はポートスキャンでサーバの入り口を見つける作業です。TCPスキャンでも良かったんですけど今回テストということでSYNスキャンで試してみました。これで向こうにログは残されていないと思います。侵入したときに意外だったのは、試しにCgi-Exploitでやったら入れたことですね。最終的にプルートフォースアタックに頼らなきゃいけないかと思ってたんですけど……あ、でも、UNIXならリモートスタックオーバーフローでも」(※読み飛ばしていいです)

 

「わかった、うんもういい。十分にわかったから」

 

「あ、はい……」

 

 急に饒舌に話し続ける斎藤に、会長は早口で抑止した。

 ……まあとにかく、コンピュータの分野で戦力になるってことはわかった。

 

「それで? マジで協力するつもりかよ?」

 

「て言われても、聞いた限りじゃ断る選択肢は……」

 

 斎藤がそう言いながら会長の顔を見ると、彼女は得意顔で答えた。

 

「うん、あんまり賢いとは思わないね」

 

「……わ、わかりました、受けます」

 

 斎藤が諦めたようにそう言うと、会長は他の1年に向き直る。次の説得に移るのだろう。

 説得と言っても、俺たちには選択権など初めから用意されていないようなもんだが。

 

「まぁ、斎藤のことはわかった。それで、後の2人は?」

 

「そうだね、次は服部ちゃんの宿題を……」

 

「待ってくださいよ」

 

 会長の言葉に、さっきまで黙っていた服部が声を出した。

 

「自分はまだやるなどとは言ってません」

 

 意外にも、いや見た目通りと言えばいいのか、そいつはそう言った。

 

「おや、それは学校に居られなくなってもいいと?」

 

「お好きにどうぞ。もともと厄介払いでここに来たようなものでしてね。今更どうなろうと未練はない」

 

「うーん、それは少し困るなー」

 

 本当に困ってるのかどうなのか、会長も負けず劣らず真意をくみ取らせないような、わざとらしい表情をつくって服部にそう答えた。

 厄介払い……か、たまに聞く話だ。学園艦っていうのは特殊な場所で、例外はあれどほとんどは親元を離れてここに来る。自主性の尊重と言えば聞こえはいいが、実は別の利点がある。問題のある生徒を引き受けて更生するのに良い環境なのだ。

 陸と違って閉鎖された空間だから管理がしやすいし、陸に害が及ばず、問題は艦内で全て片が付く。何より問題を起こした奴に逃げ場はない、冗談で監獄学園(プリズンスクール)なんて呼び名もあるくらいだ。まあ要は、不良を檻に閉じ込める意味合いもあるのだ。あァ、ちなみに逃げるときに海に飛び込むのはお勧めしない。それやってスクリューに巻き込まれて、バラバラになった奴が知り合いにいた。

 

「とか何とか言ってー、ホントは出された宿題ができないからそう言ってるだけじゃないのー?」

 

「……どう取っても構いませんが、話がそれだけなら、俺は失礼します」

 

「いやいや、ちょい待って」

 

 流石にこのまま帰られるのは面倒なのか、会長は未だ焦りを見せないが、席を立って服部を抑止する。しかしそれに耳を貸さず、服部はドアノブに手をかける。

 

 

 

「帰るんなら財布は置いてけよ、服部」

 

 

 

 天宮のその言葉で服部は動きを止め、部屋を出る寸でのところでこちらを振り返った。どういうことだ?

 

「……カツアゲは時と場所と人を選ぶことを薦めるぞ」

 

「それは失礼。『何個も』財布を持ってるのが見えたもんでね。最近金欠で、つい」

 

 と、ここまで聞いて俺は話の内容を察し、後ろに置いていた自分のカバンを開けた。

 

「……財布がない」

 

「え……あ、俺のもない……」

 

 俺だけじゃなく斎藤も気付いたのか、自分のポケットを弄ってあたふたしていた。服部のやつ、いつの間に……。

 

「雨水、お前の財布は?」

 

「そもそも忘れて持ってきてない」

 

「……そういう奴だよ、お前は」

 

 兎にも角にも、知らないうちに服部は俺たちの財布をスッたらしい。天宮が何か言わなければ、買い物するまで気づかなかっただろう。

 ……噂なんぞは基本当てにならないもんだが、こと服部の素行不良のことについては、もっぱら正しいかもしれない。そう思った。少なくとも何の躊躇も理由もなくスリができるくらい手癖が悪いのは間違いないだろう。

 

「……いつ気付いた?」

 

「河島さんたちが帰るときからずっと。あそこで君、わざわざスッた後チャックも閉めて。顔に似合わず丁寧だよね」

 

「……あの時お前は見てなかったはずだ」

 

「人間ってのは想像以上に視界が広いんだよ。意識が向いてるかそうじゃないかってだけで。勉強不足だね、だから僕の財布は盗れなかった」

 

「……」

 

 わかりやすく天宮は煽るが、服部は何も言わなかった。服部は服のどこからか4つの財布を取り出し、その中には俺のものもあった。

 もはや怒りを通り越して感心した。河島たちが部屋を出たときからさっきまで、ここにある全ての財布を盗んだ。確かに顔に似合わず器用な奴だ。てっきりパワー系だと思ってたが。

 

「……と、まあこれで服部ちゃんのこともわかったかな? この子がいれば百人力でしょ」

 

 会長はあいも変わらずにこやかな表情。こうなるってわかってたから余裕だったのか?

 

「何かやってるだろうなってのは、なんとなくわかってたんだけどね。いつどうやって盗んだかまではわかんないよ。私も財布忘れてきて正解だったね。ね、蜜柑ちゃん?」

 

「シレっと頭の中を読むな」

 

 会長は俺の言葉を聞き流して、服部の方を見た。

 

「まぁ、出した宿題とはちょっと違ったけど、思わぬ収穫だったよ。じゃ、やってくれるよね?」

 

「……スイマセンが、学校を辞めさせたいなら好きにしてくれて」

 

「まぁそう言わないで、ご褒美だってあげるよ。単位免除に学食食べ放題、それに」

 

「だから俺はッ」

 

「親御さんの借金問題の手助け、とか……」

 

「ッ……」

 

 会長がそう口にした途端、服部が目を見開いた。『何故知っている』とでも言いたげな顔だ。それに対し、会長は涼しい顔で服部を見つめる。

 なんてことはない、多分服部にはいろいろな事情があるんだろう。そこを彼女に付け込まれたというだけの話だ。

 こういうところだ、彼女は。こういう、絶対に断らないように仕向けるのが抜群に上手い。こういうところが恐ろしいんだ。

 

「……わかりました。不本意ですが、お受けします」

 

「ありがとー。じゃあ最後は天宮ちゃんだね」

 

 最後に会長は天宮に向き、交渉に入った。

 

「僕ですか? やらせてもらいますよ」

 

 が、当の天宮本人は最初から乗り気らしく、二つ返事で会長にそう言った。

 

「ありがと、じゃあ、自己紹介がてら、他のみんなにやってきた宿題を見せてあげて」

 

「ええ、『初対面の女子のパンチラ写真3枚。しかし盗撮ではなく本人の了承を得て』ですよね?」

 

 ふざけるな。というよりも先に天宮はその写真を出し、会長に見せた。……本当に女子の下着がハッキリ写ってる。顔は映ってないが自分でスカートをたくし上げてる以上、本人の了承があるってのも本当だろう。

 

「お、おいちょっと待ってくれ杏ちゃん。流石にシャレになんないぞ」

 

「大丈夫だよ永ちゃん、自動車部の子たちじゃないから」

 

「いや、そういうこと言ってんじゃ……」

 

「こ、これって全部1年?」

 

「うん? あー大丈夫だよサイトー。近藤ちゃんには手ぇ出してないから」

 

「は!? な、なんで知って……いや、なんでそこで近藤が出てくるんだよ!」

 

「……で、つまりコイツはたらし専門ってか?」

 

 色仕掛けか……まぁそういう奴がいたほうが色々便利だってのは認めざるを得ないだろう。

 そう思いながら、脱線しそうになる会話を何とか修正しようと、俺は会長に話を振る。

 

「それもできますけど、どっこいそれじゃないんですよ」

 

 しかし問いに答えたのは会長ではなく天宮だった。すると天宮はゆっくりと俺の方を見て、再び口を開いた。

 

「いや、これに繋がってるってのが、正しいかな? 僕のメインは……」

 

「目が良い……か?」

 

「……さすが」

 

 俺が聞くと、少しだけ間をあけて、天宮はそう言った。

 

「ちなみに、どうしてそう思いました?」

 

「お前だけが服部の盗みを気づいていた。目が良いってのは何も視力の話だけじゃない。どれだけのものを意識的に見れるかってのもある。お前もさっき得意げに話してたろ? 視力も高いのかもしれねーけど、それ以上に目からの情報を処理する能力が格段に高いんだ。それこそ、意識せずとも相手の一挙一動を見逃さないほどにはな」

 

「……じゃあなんで女の子にモテるんですかね?」

 

「自分で言うかよ……一挙一動を見逃さないって言ったろ。人間、どんなに隠しても必ずどっかに心情が出るもんだ。それがどんなに僅かでも、お前の目は人間の心情を見逃せない。あとは女の顔色を窺ってご機嫌取りってとこじゃないか? ……ゴマすりにゃ最高の才能だな」

 

「可愛い顔の割に、おっかない人だな……」

 

 天宮はため息をつくと、おもむろに手に何かを持った。あれはコインだろうか? それを5枚持っている。そう思ってると、向きを変えずにこう言った。

 

「雨水さん、キャッチしてください」

 

「え、うぉっと!」

 

 突然雨水が話しかけられた途端、天宮はコインを投げ、雨水は何とかそれをキャッチ……できず、床に落ちて散らばってしまった。投げた方向は天宮の後ろ、天宮はコインを投げた方向を見ないままだ。

 

「締まんねえな」

 

「苦手なんだよこういうの」

 

 そんなことを雨水と話してると、天宮は後ろを向いたままおもむろに口を開いた。

 

「僕に近いとこから表、裏、表、表、裏……ですよね? ちなみに2番目に近いコインは3番目に近いコインと重なってます」

 

「……正解」

 

 散らばったコインを見ると、天宮のいったことと全く一致していた。後ろのことまでわかるってことは、実際に見えてるものだけじゃなく、事前に入った視界の情報から正確に予測できるのかもしれない。俯瞰視点ってやつか。それも並とは精度が桁違いだ。

 目が良いって言うレベルじゃない。異常視覚と言ってもいいかもしれない。

 

「……とまあ、僕はすごく目が良いんですよ。どうですかね?」

 

「……予想以上だよ」

 

 流石の会長もこれには驚いたのか、素直に感心しているようだった。

 

「……さてと、まあこれで顔合わせは済んだね。じゃあこれからは蜜柑ちゃんをリーダーにして活動してね」

 

「おいちょっと待てよ、活動って具体的に何させるつもりなんだ?」

 

「それは追々話すよ。じゃあ、明日から早速戦車道の授業あるから、とりあえず顔合わせよろしくねー。じゃ、解散!」

 

 そう言って、聞きたいことも碌に聞けぬまま、俺たち5人は生徒会室をいきなり追い出された。

 明日から戦車道の授業か。この面子でか。不安しかねーぞ。そう思いながら、俺は帰路につくことにした。

 

「……このままどうなるんだろな、俺達……」

 

 雨水の問いになんぞ答えられるはずもない、俺が聞きたいくらいなのだから。

 

「……俺帰ります」

 

「俺も用事があるので」

 

 そういって斎藤と服部は足早にその場を離れ、廊下に消えていった。

 

 

 

「会長、何だか焦ってましたね」

 

 

 

 不意に天宮がそう呟いた。やはりこいつも気づいたらしい。アイツが何だか切羽詰まっているのは、俺も雨水も勘付いてはいたことだ。コイツが気づかないはずもないだろう。

 

「何かあるんですか、この戦車道に?」

 

「……知らねえよ」

 

 天宮の問いかけに、俺はそう答えるしかなかった。そう言うと天宮は「そうですか」とだけ言って、帰って行った。

 

「……俺たちも帰ろうぜ」

 

「だな……」

 

 最後に俺と雨水の2人が動き、そして数刻の後、廊下には誰もいなくなった。




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