諜報部隊タコさんチーム   作:生カス

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inaptness:苦手
dislike:嫌い


6 : 【嫌】Inaptness,Dislike

 『最悪』だ。なんて言葉は、今の状況を表すにはあまりにも月並みで説明不足で、そしてひねりも何も無いと思うよ。けど、俺は国語の先生でも小説家でもないから、それ以外で表せるようなボキャブラリーはなかったんだ。

 ところで、スポーツは好きだろうか? それに殉ずるような根性論は? 俺はどっちも反吐が出るくらい嫌いだ。根性論そのものだけじゃない。やたらとそれを奨励してくる奴も、それを人生のすべてかのように信仰してるやつも、そうじゃないやつに押し付けてくる奴も、全員嫌いだ。

 さっきの話と全然関係ないって? あるんだよ、残念ながら。

 もう一度言わせて欲しい、『最悪』だ。

 

「助けてくれ! 死ぬ! 死んじまうッ!」

 

「サイトー落ち着いて! 暴れちゃ危ないって!」

 

 バスケ部連中と命綱一本でクライミングなんて状況、最悪以外に何があるって言うんだ。

 

「磯部さん? 磯部先輩!? なんでこんなことに俺が巻き込まれなきゃいけないんですかァ!?」

 

 しかもよりによって磯部先輩にけん引されてる。これがまたキツイ。

 

「聞いた話だと、この崖の洞窟に戦車があるって言うんだよ。なら確かめなきゃ」

 

「誰からの情報なんすかそれ、ソースは!? ちゃんと信憑性のあるとこから情報なんでしょうね!?  それに見つけたとしてもどうやって運ぶんすか!? そもそもなんで学園艦に崖があって、なんでそんなところに戦車があって、なんで俺もアンタらと一緒に懸垂下降しなきゃ……」

 

「心配するなサイトー! 根性があれば大丈夫!」

 

 ……何度だって言おう、『最悪』だ。

 

「よし着いた! 頑張ったね斎藤! ……斎藤?」

 

「キャプテン、キャプテン」

 

「? どうした近藤」

 

「斎藤君、ノビちゃってます……」

 

「ありゃ……」

 

 

 

 

 

 

 人間、誰にだって好きなものがあるんじゃないだろうか。僕だって例外じゃない。

 女性が好きだ。強くてきれいで、何より痛みと恐怖にとても強い。そんなところが好きだ。羨ましいとすら言える。カワイイならなおさら。

 だから女の子には全身全霊で優しくしてるつもりだ。どんな子にだって、求められたら全部応じて、察してほしいところもできる限り察して、そうやっていろんな子と接してきたし、それに必要な女の子に対するデリカシーとかマナーは、ある程度身に付けてる方だと思う。少なくとも、接し方が全く分からない、なんてことがなかったくらいには。

 

「何か見えるか甲子太郎? この池の中にあるらしいぜよ」

 

「待て、彼奴はクルピンスキーじゃなかったのか?」

 

「いや、かの好色っぷりは、まさしくルキウス・ケイオニウスだ」

 

「「それだ!」」

 

 ……そして今さっき気づいたんだけど、苦手なものもある。出会って間もない僕に歴史上の人物名をつけるような人だ。嫌いじゃないけど、苦手だ。接し方が全く分からないから。

 

「……ハハハ、素敵な名前をありがとうございます」

 

「うむ。して息子よ、この池の中にかの戦車が没しているというのがエルヴィンの見立てなのだが、お前は水没した戦車なんて動くと思うか?」

 

「いや、僕は戦車のことはあんまり……」

 

 カエサルさんの言葉にそう言うしかなかった。息子というのは、さっき言われたルキウスがカエサルのそれなんだろうか?

 実のところ、一番最初に彼女を見たとき、その存在感が妙に気になって、近づいてみたいと思って追いかけた。結果こうなってる。まさか忍者(ないしはアメンボ)みたいに池で浮くことになるとは思わなかったよ。

 

「何を言う! ロシアで水没した戦車は少し整備しただけで動いたという! そもそも戦車は戦場という過酷な環境の中で……」

 

「まあ、今は左衛門佐を待つのみぜよ」

 

 軍帽を被ったエルヴィンさんに、羽織をまとったおりょうさんが答える。ちなみに左衛門佐さんって人は、さっきから忍者みたいに水の中に潜伏して戦車を探してる。水遁の術だっけな。前にテレビか何かで見た気がする。

 ……答えを先に言ってしまうと、件の戦車はちゃんと池の中にある。相当深いのか、ごくわずかだけれど、光の屈折に不自然な部分が見える。それに、少し鉄粉が水に浮いている。茶色ッ気があるから、錆びてると思う。

 見つけたんなら、言っても良いって思うけど、この眼の良さは出来れば女の子にひけらかしたくなかった。

 

「お、見つけたらしい」

 

 エルヴィンさんが池を見る。左衛門佐さんが上がってきているのが見えた。

 

「見つけたぞ、皆の衆! 名古屋山三郎、お前も手伝ってくれ!」

 

「ルキウス・ケイオニウスだ!」

 

「それだ!」

 

 ……ほんと、嫌いじゃないよ、こういう人たち。

 

 

 

 

 

 

 女は嫌いだ。一度目を付けられたら潰れるまで奪われる。そのくせ、終わったらすぐに捨てて別の場所に行く。親父の末路と母親を見ていると、全く持って、関わるとろくなことにならないとつくづく思う。

 昨日の生徒会長を思い出しながら、改めてそんなことを考えていた。あの時は承諾したが、だからと言ってただ言いなりになる気も毛頭ない。

 延々と続く薄暗いダクトのような通路の先、この艦の最深部の店に用があった。船舶科の、それも一部のチンピラ共しか利用しないような店だ。

 この時間は静かで、この先の『店』がまだ営業時間外なことを物語っている。だがそんなことは関係なしに、店には必ずあの女がいることを知っている。むしろ邪魔が入らなくて好都合だ。そう考えていると、薄暗い中に目当ての店のドアが見えた。見えにくいったらない。そう思いながらドアの前に立ち、あまり音を立てないよう開けた。中に入ると案の定、店の明かりは少ししかついてなかった。

 

「……営業時間外だ、服部。出直してきな」

 

 店のカウンターの方を見ると、テーブルを拭いている女がいた。相変わらず、ジトリとした、何を考えてるのかわからん眼付きだ。気に食わない。

 

「他の連中は?」

 

「寝てる。私は仕込み中」

 

「バーテンは苦労するな」

 

「用件は?」

 

「経歴を調べてくれ」

 

 そう言って、俺は写真を取り出して奴に渡す。例の生徒会長が写っている写真だ。

 

「過去の活動と対人関係、入学前のことでもいい。とれる情報は全部とってくれ」

 

「……ストーカーにでも転職?」

 

「もっと適役な男がいるだろう。そいつに繋いでくれるだけでいい」

 

 俺はそう言って、必要な金をバーテンに渡した。船舶科には、金さえ払えばケツの穴まで全部調べ上げるような男がいる。いつもフードを被っていて、不気味な雰囲気のある変態だが、腕だけは確かだ。今は身動きが取れない以上、癪だがアイツに頼るしかない。

 生徒会がこちらの弱みに付け込んで利用するなら結構なことだ。彼女らの権力と不透明さはある種、魅力的だ。せいぜいこちらもその横暴の恩恵にあずからせてもらうとしよう。

 

「俺は地上に戻る。頼んだぞ」

 

「ちょっと待ちな」

 

「何だ? 金なら払ったはずだ」

 

「チャージ代」

 

「……開店前だろう?」

 

「それはそれ、これはこれ。それと別途仲介手数料と時間外営業の追加料金それと……」

 

 ……二度目になるが、女は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 人間は苦手だ。理由は、不気味で、おっかないから。集団行動とか、グループの輪に入って和気あいあいとか、想像もつかない。そもそも、人そのものがそこまで好きではないんだから、どうしようもないのかも。……自動車部? あの人達とはそんなんじゃない。趣味が一緒だから俺に構ってくれてるだけ。あの人達の輪に入れてるわけじゃない。

 話を戻そう。問題は丸山さんだ。なんでこの人が俺についてくるのかはついぞわからないけど、俺が初対面の無口な女の子の後輩と上手なコミュニケーションなんぞ取れるわけもなく、正直お手上げな状態だった。

 

「……」

 

「ん?」

 

 裾を引っ張られたことに気づいて丸山さんの方を見てみると、何やら向こうの方を指さしていた。

 

「うさぎ……」

 

「……あァ、うん」

 

 この子は何故かさっきから蝶なり小動物なり見つけると、毎回俺に伝えてくる。俺は俺で気の利いたことなんて言えないから、適当な相づちしか打てないし、正直困っていた。

 

「あ、いたー!」

 

 と、うさぎに目を奪われていると、奥の角の方から声が聞こえた。そっちの方に目をやると、懐中電灯の光と共に、数人の子がこちらに来ていた。

 

「沙希! どこ行ってたの?」

 

「探したんだよ?」

 

 どうやら念願の丸山さんのお友達みたいだ。彼女らは一斉に丸山さんに駆け寄って、彼女の無事に安堵していた。

 

「……あ、あのー……」

 

「ん?」

 

「ヒッ……」

 

 この空気に少し居心地が悪くなっていると、俺がこの子と一緒にいたことが不思議だったのだろう。この中では比較的背が高い、短髪の子が委縮したようにオレに話しかけてきた。……というよりも、怯えてると言ったほうがいいかもしれない。

 他の子たちも俺を見ながら、怖がってるような、はたまた未知のものを見るような表情をしている。

 

「あー、えっと……この子のこと、お願いします」

 

 慣れない言葉を何とか並べて、たどたどしく喋った後、その場から立ち去ることにした。早いとこ退散して、どこぞで飯でも食おうか。

 ……と思ったのも束の間、不意に服の裾を引っ張られ、阻まれてしまった。

 見ると丸山さんがまた裾を掴んでいた。なんでだろう。

 

「……丸山さん、申し訳ないけど、離して貰えると助かるんだけども」

 

「……」

 

「丸山さん?」

 

「……」

 

 ……やっぱり、人間は苦手だ。

 

 

 

 

 

 

 何が嫌で鬱陶しいかなんて言い出したら、それだけで丸一日潰れちまう。そして何よりも、嫌なものを素直に嫌と言ってしまったら、余計にその嫌なものと付き合うハメになるのが常だった。少なくとも、俺の場合は。

 嫌なものに会った時の対応はただ一つ、『その通りですね』って顔をして、さっさとそいつの横を素通りすればいい。相手の反感も買わず俺も手間がかからず、みんながハッピーになれる。

 この方法で世渡りしてけば、少なくとも突っかかられることは極端に少なく済むはずだ。仮に突っかかって来ても、少し経てば向こうもすぐに離れていく。

 こうやって生きていけば、ウザったい奴に必要以上に干渉されることはない。俺は今までそうだった。

 

「……はずじゃねェのかよ」

 

「どうしたの、一人でぶつくさ言っちゃって。あ、もしかして~恋の悩みとか?」

 

 相変わらず鬱陶しく話しかけてくる武部に対し、俺は思い切り舌打ちした。

 

「ちょ、今舌打ちしたでしょ!」

 

「今のが俺の悩み。こうやってわざと聞こえるように舌打ちしても、突っかかってくる変な女がいるんですがどうすればいいですかね?」

 

「あんたホンットにいつか友達いなくなるからね!」

 

 全く持って不本意この上ないが、俺は何故か西住さんたちと鉢合わせ、何故か共同で戦車を探す羽目になり、何故かこうやって武部にイチャモンつけられてるわけだ。

 

「それにしてもお2人とも、仲がよろしいんですね」

 

「うェ!? どこが!」

 

 何か勘違いをしたらしい五十鈴に対し、武部は思い切り反論する。俺は何も言わないが苦虫を噛み潰したような顔をしているはずだ。ここまで笑えないジョークを初めて聞いたんだ。無理もないだろ?

 

「あ、あの……小山君。それで、こっちに行けばいいの?」

 

 さっきまで黙っていた西住さんは俺にそう聞いてきた。そうだった、あの阿呆に付き合ってる場合じゃない。さっさと戦車を探して、終わらせてやる。

 

「ああ、この森の中にLT-38っていう戦車があるはずだ。恐らくはな」

 

「おお、LT-38! 38(t)とも呼ばれるチェコ製の戦車で、ポーランド侵攻やノルウェー・デンマーク侵攻に配備され、かのオットー・カリウスも乗ったと言われてるあの! あ……すみません、つい……」

 

「……ああ、そうだな。そのLT-38」

 

 戦車の名前を出した途端いきなり捲し立て他と思ったら、いきなりクールダウンする秋山に対し、俺はそう答えるしかなかった。コイツこんなキャラだっけ?

 

「なんでそんなのわかるのよ?」

 

 秋山が黙ると、また武部が突っかかってきた。

 

「戦車道の授業があった20年前以前の活動記録や、学園艦にある車両の売買記録、改装記録などに基づく資料を全部見て位置を予測した。俺達から一番近い場所にあるのが、多分LT-38って戦車だ」

 

「ぜ、全部!? そんなことできるの?」

 

「お前はできない。俺はできる」

 

「もお! アンタ私の悪口言わないと会話できないの?」

 

 ……考えてみれば、なんで俺は俺でわざわざ武部に挑発してるんだ? ウザったいならそもそも相手にしなきゃいい。いつだってそうしてきたんだ。

 そう考えると途端にアホらしくなる。そうだよ、今度からは武部が何言っても聞き流しゃいい。俺は決意した。これからは武部に対して馬耳東風を貫こうと。

 

「では、38(t)を目指して、パンツァーフォー!」

 

「パンツのアホー!?」

 

「アホはお前だバカッ!」

 

 やっぱり俺は武部が嫌いだ。

 

 

…………

 

 

 ……小1時間弱経ったころだろうか。結果だけ言うと戦車は見つかり、俺達は再び学園のグラウンドに集合していた。見つかった車両は5両。情報からの期待値よりかは少ないが、1日ならこんなモノだろう。

 しかし、戦車はどれもボロボロで、動くかどうかも怪しいと思えるほどだった。こんなんで本当に動くのか? 俺はそう雨水に聞いた。

 

「劣化してるのはほぼガワだけで、野ざらしにされてたとは思えないほどきれいだったよ。随分丁寧にモスボールされたみたいだ」

 

 本当か? 廃車のような出で立ちの戦車を見てそう言いたくなったが、やめた。それがどっちでも俺のやることに変わりはない。なら聞くだけ無駄だ。

 

「そりゃよかった、明日には間に合いそうだね」

 

 そう言いながら、角谷が俺達の間に入ってきた。

 

「明日ってのは?」

 

「かーしまがいってたじゃん? 明日、自衛隊から戦車道の指導教官がくるってさ。それまでに自動車部に戦車を動かせるようにしてもらおうと思ってたの。だから『そりゃよかった』」

 

「……本当に自動車部だけで? 明日まで? 動かせるように? 5両の戦車を?」

 

 雨水が気怠そうに、しかし顔をひくつかせてそう聞いた。自動車部は確か雨水と土屋を入れて5人。明日の朝までにあのサビまみれのを5両直す……ああ、なるほど、かわいそうに。

 

「まあ大丈夫でしょ。ちゃんとモスボール? されてるみたいだし、永ちゃんたちの腕前なら朝飯前だって。ねえ小山ちゃん?」

 

「そうだな、アンタが会社員になって重役にでもなったら教えてくれ。絶対その会社に入らないようにするから」

 

「まあまあ……じゃあこれから戦車を洗車するとしましょうか」

 

 ……もしかしてコイツ今、狙って言ったのか?

 

「え、お、俺たちは手伝わなくていいんですか?」

 

「おや斎藤ちゃん。体操着姿で水浸しになった女の子たちをじっくり見たいわけだ。エッチだなー」

 

「い!? いや俺は……」

 

「あ、僕は残っていいですか? 風邪をひかないようケアしないと」

 

「そこまでにしておけよ天宮」

 

 いい加減相手するのも嫌になるが、俺は天宮を窘めた。コイツの場合、いても女子が何も言わなそうなのがよりたちが悪い。

 

「まあどっちにしろ、君たちには今から生徒会室に来てもらうから。授業はもういいよ」

 

 アンタが決めることじゃないだろうと言いたかったが、それよりも気になることがあるので、そっちの方を聞くことにした。

 

「生徒会室? なんでまた」

 

「君たちと親睦を深めるために雑談でもしようかと思ってー」

 

「そんなのに付き合う必要性は?」

 

「他の人には聞かれたくないんだ。『今私が欲しいもの』の話は」

 

「……ああ、なるほど」

 

 ……俺は角谷の、こういうところが苦手だ。悪だくみしてるようなにやけ面の彼女を見て、俺はそう思った。




だいぶ遅くなりました。申し訳ございません。

めちゃくちゃ私事ですが、最近「suits」ってドラマに大分ハマってます。その影響に引っ張られてる描写もあるかも……。アマプラにあるので興味があったら「suits」観てみてください。
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