諜報部隊タコさんチーム   作:生カス

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queen:女王、王妃、または女神


8 : 【妃】Queen-聖グロリアーナ編.1

『……ということで、最後になりますが、ダージリン隊長にとって戦車道とはどういうものなのでしょうか?』

 

『一言で表すとなると難しいですが、そうですわね……強いて言うのなら、成長でしょうか。生まれながらに偉大な者はおりません。偉大に成長するから偉大なのですわ。戦車道とは成長の精神の表れだと、私は考えております』

 

『なるほど成長の精神ですか、含蓄あるお言葉ですね~! 本日は貴重なお時間を頂きありがとうございました!』

 

『こちらこそ、意義のある時間を過ごさせて頂きましたわ』

 

『はい、ありがとうございます! 以上、聖グロリアーナ女学院、戦車道隊長、ダージリンさんのインタビューでした! 続いては……』

 

 

 

 

 

「あれが、ダージリン……さん、ですか……」

 

 夕飯時だからか、それなりの客が入っている、アンティークな趣をしたレストラン。そこに備え付けられているテレビの放送を、四角いテーブルに座って見ながら、斎藤は遠慮がちにそう言った。

 

「へェ、写真以上に美人じゃないですか。言うこともユニークがある」

 

ユニーク(独特)だと? マリオ・プーゾのパクリだろ」

 

 このレストランの名物である紅茶とスコーンを頬張り、小山蜜柑は天宮が言ったことに反論した。少なくとも7時間は船に揺られたというのに、よく相も変わらず元気に捻くれた態度を取れるものだと、そう思える。

 

「マリオ……なんです? ゲームのキャラ?」

 

「マリオ・プーゾ。知らねェのか天宮? ゴッドファーザーの原作者」

 

「生憎、映画も小説も興味ないのでね」

 

「知らないのも興味がないのも結構だ。だが調べもしないで、知らなくて当然だって態度は頂けないな」

 

「失礼な人だな、僕だっていろいろ調べてますよ。例えば……そう、このお店のローストビーフはとても美味しいコトとか」

 

「どこで?」

 

「ネットで」

 

 天宮のその言葉に小山蜜柑が溜息をすると同時に、店員が大きな皿に盛られたローストビーフを持ってきた。テーブルに置かれて店員が去ると、各々がそれをつまみ始める。先程までしょうもない言い合いをしていた2人も中断し、フォークを持った。

 

「食い物ほど、他人の評価が信じらんないものもないだろ……まァ、これが美味いってのは認める」

 

 そう言いながら、小山蜜柑は分厚いローストビーフ一切れを一口で頬張る。

 

「……毎度思うけど、その華奢な体のどこにそんなに入るんだ? これの前にケーキ食べたよな? デカいホール3個分」

 

「あれ見てるこっちが胸焼けしたっすよ……」

 

 雨水永太の言ったことに、斎藤はそう付け加えた。ついさっきまで小山蜜柑は異常なほどに洋菓子類を摂取していた。ケーキだけじゃない。スコーンにビスケット、チョコレート……見てるこっちの気分が悪くなるという点では、斎藤の言葉には俺も同意できた。

 

「うるせェ、どうせ費用は生徒会もちなんだ。このくらい食わないでやってられるかよ」

 

 そういって小山蜜柑はデカいローストビーフをもう1切れ口に運び、すぐに呑み込んだ。

 

「んなことより、話すことが他にあるだろうが。どうやってあの紅茶女の懐を探るかだ。そのために来たんだ」

 

「何か良い案でも?」

 

「ない」

 

 俺が聞くと、小山蜜柑は自信満々にそう答える。天宮と斎藤がガクッとうなだれた。答えた本人はそれを見ながらゆっくりと紅茶を飲み始めた。よくもここまで不遜になれるものだ、もはや感心する。

 

「……レシピもなく料理なんてしたら、イタイ目見ますよ?」

 

「そうだな、だがレシピがなくても下準備くらいならできる」

 

 天宮の文句への回答なのか、彼はポケットから出したハンカチサイズの紙切れを広げて、テーブルに置いた。どうやらそれは聖グロの見取り図のようで、至る所に赤い丸がついている。

 

「この赤マルは?」

 

「この学園艦にある監視カメラと、警備員がいる場所だ。外にあるやつは多分これで全部だろう、天宮の眼を信用するならな」

 

「着いて早々いきなり車で走りまわされたと思ったら、そういうことかよ……でもだから何? 死角でも見つけて忍び込むのか?」

 

 雨水永太がそう聞くと、小山蜜柑は「フン」とバカにしたように鼻を鳴らした。

 

「ゲームじゃないんだ、死角なんてねェよ。少なくとも外はな」

 

「なら、どうすれば映らないようにできるんですか?」

 

「服部よ、何で監視カメラに映っちゃダメなんだ?」

 

 俺の質問に小山蜜柑はそう返事をする。俺にその真意はわからないし、多分彼以外の3人も同じだろう。それに応じたのか、彼は淡々とこう言った。

 

「何にせよ、まずは下ごしらえだぜ」

 

 そして、彼は最初の計画を説明した。

 

 

 

……

 

 

 

 午後7時、食事を終えた俺達はレストランを出て、宿泊先のホテルに向かうべく、夜の街道を歩いていた。辺りは霧が少し出ている。聖グロの学園艦は湿気の多い場所をよく航行するようで、それ故に霧や小雨などの天候が多いというのを聞いたことがある。

 

「学院に入る方法はわかりました。でもその後どうするんですか? 入ってからウロウロしてるだけじゃ、どっちにしろ怪しまれますよ」

 

「問題はそこなんだよ、どこに何があるかもわかんないんじゃあな……」

 

 そう、さっきの説明で、どうやって女学院の中に潜入するかは決まった。だがその後の肝心要の部分である、どこで何を得るかを決めあぐねているのだ。

 だがそれも無理はない、学院の内部構造など、それこそ中に入らないとわからないだろう。第一、それがわかったとしても、どこに『会長の欲しいもの』があるかまでは、わかりようもない。

 ……確かにこれは、手詰まりかもしれん。

 

「……あ、服部!」

 

 天宮が俺のことを呼んだ、その瞬間に、肩……というより腕の部分に、人が当たる感覚がした。

 

「キャッ!」

 

 短い悲鳴がしたので、下の方を見てみると、1人の小柄な女学生が荷物を散乱させ、尻もちをついていた。その状態は、俺にぶつかったせいでこうなったのだ。ということが簡単に予測できるものだった。

 

「これは……すいません、こちらの不注意で」

 

「いえ、こちらこそ……申し訳ありません」

 

 俺とその女生徒はお互いにそう言い、荷物を拾い始めた。

 

「よかったら僕も手伝いましょうか?」

 

「いや、構わない。そこで待っててくれ」

 

「……了解」

 

 手伝いを買って出た天宮に対し、俺はそう言った。散らばったと言っても荷物の数自体はそこまで多いものでもなく、天宮が手を貸すほどでもないからだ。

 

「本当にすいません。何か壊れてるものがありましたら、弁償します」

 

「いえいえ、大丈夫ですので、お気になさらないでください。拾っていただいて感謝いたしますわ。それでは」

 

 拾い終えたものを女生徒に渡すと、彼女は上品にそう言い、粛々とその場を去った。恐らく聖グロの生徒だろう。ぶつかったのが彼女でよかった。これが大洗の船舶科にいるようなチンピラだったら、面倒どころじゃないだろう。……まったくもって

 

「……天宮」

 

「ああ……」

 

 

 

 

「『見つけた』よ」

 

 

 

 

 大当たりだ。

 

「……いいレシピは見つかったか?」

 

 今の会話で察したのだろう。小山蜜柑は不敵な笑みを見せて、天宮にそう聞いた。

 

「ええ、最高に美味しいスコーンが焼けそうですよ」

 

「……どういうことだ?」

 

 2人の会話に、雨水永太は困惑した顔をしている。小山蜜柑はそんな彼に振り向いて説明を始めた。

 

「さっきの女、誰かわかるか?」

 

「誰って、どっかで見たこと……あ、『オレンジペコ』」

 

「そう、幹部クラスである『紅茶の園』のメンバーであり、あのダージリンの腹心だ」

 

「それはわかりましたけど、見つけたってのは何なんすか?」

 

 斎藤が小山蜜柑にそう聞くと、彼の代わりに、天宮が得意げな顔をして、言った。

 

「『特別棟 4階 第5事務室』」

 

「それって……!」

 

「そう、彼女が持ってた鍵に書かれてた文字だ」

 

 斎藤が言いたいことを補足するように、俺は答えた。

 種明かしをしようと思う。天宮が最初に俺の名を読んだ時、それは暗に目の前にいる女にぶつからないようにしろと言ってるのだと思った。

 だが違う、彼女が『オレンジペコ』となったら、話は逆だ。『わざとぶつかって懐を探り、何か重要なものがないか調べろ』という意味になる。

 案の定、彼女は荷物と一緒に持っていた鞄の内ポケットに、部屋の場所が書かれた鍵を持っていた。それを確認し、彼女が散らばった荷物に気を取られている隙に、自分も拾うふりをして、鞄の中から鍵を拾い、天宮に一瞬だけ見せ、そしてすぐに戻した。

 相手の意識を別のところに向けるというのは、スリの基本中の基本だ。

 

「……よし、ホテルのチェックインだ。レシピをもっと詰めなきゃな」

 

「ハァー、あそこのホテル、めちゃくちゃ安いからか、シャワー冷水しか出ないらしいんですよね。憂鬱……」

 

 天宮は小山蜜柑に愚痴をこぼし、しかしそれを最後に会話は終わった。どうなることかとも思ったが、思わぬところでいい拾い物をしたらしい。これは思ったよりも簡単に終わるかもしれないという希望が、俺の中で生まれた。

 

 ……無論、先程のが怪しまれてなければ、の話ではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20分後、聖グロリアーナ女学院

 シンプルながらも上品な内装の部屋に、2人の少女がいた。どちらも紅茶を手にしており、その様子はとても様になっており、これを見てる第三者がいれば、まるで映画のワンシーンのようだと、嘯くほどであった。

 

「……そう、そんなことがあったの」

 

 紅茶を置き、優雅に声を発した少女の名はダージリン。聖グロリアーナ女学院において名誉ある戦車道隊長、そして『紅茶の園』の長である。

 

「はい、正直なところ、大柄で少し怖いと思ってしまいましたが、とてもお優しい殿方でした」

 

 ダージリンに少し照れくさそうに話す小柄な少女。彼女の名はオレンジペコ。ダージリンの乗る戦車の装填手であり、1年生ながらに幹部となり、紅茶の名を賜った、ダージリンの右腕だ。

 

「そう、良かったですわね……ところでペコ、そのことについて少し聞きたいことがあるのだけれど」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 ダージリンの問いに、オレンジペコは不思議そうに顔を傾げる。しかしそのことに特に言及もせず、ダージリンは言葉を続けた。

 

「その殿方は、お一人でいらっしゃった?」

 

「いいえ、他にも3、4人の人達とご一緒していました」

 

「その中で、他に拾うのを手伝った御方はいる?」

 

「いいえ、お一人、手伝おうとした方がいらっしゃいましたが、拾ってくれた方が遠慮なさったので」

 

「……そう」

 

「あの、何がおっしゃりたいのですか、ダージリン様?」

 

 質問の意図を測りかねたオレンジペコが、ダージリンにそう聞く。しかし彼女はその問いに明確に答えることをせず、紅茶を再び口につけた。

 

「ねぇ、ペコ」

 

「はい?」

 

「こんな格言を知ってる?」

 

 ダージリンは、静かに、しかし面白いものでも見つけたかのように、微笑んだ。

 

 

 

 

 

「王者に安眠なし」

 

 

 

 

 

「……シェイクスピア、ですね」

 

 オレンジペコが答えると、ダージリンは嬉しそうに、カップに残った紅茶を、再び口につけた。




今回少し短いです。

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