新世紀エヴァンゲリオン・鉄華。   作:トバルカイン

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やっと、完成した。ここまでモチベーション上げは‥‥キツかったです。どうか、不快がありません様に。祈ります。


第9話・決戦第3東京市・終。

「しかしまた、無茶な作戦を立てたものね、葛城作戦部長さん?」

 

 ミサトとリツコは、新たな作戦の準備のために早速現地へと飛んだ。

 

「無茶とはまた失礼ね、残り9時間以内で実現可能、おまけに最も確実なものよ?」

 

 ミサトは、ヘルメットを被って建設中の作戦現場を進んでいた。そして、列を成す大型ダンプカーの間を通って目的の場所へと向かう。

 

「ヤシマ作戦。その名のごとく、日本全土から電力を接収し、戦自研が極秘に開発中の、大出力陽電子自走砲まで強制徴発。未完成で自律調整できない部分はエヴァを使って精密狙撃させる。国連軍はいいとして、よく内務省の戦略自衛隊まで説得できたわね」

 

ミサトとリツコは、次々と資材が運ばれる現場を確認しながら歩く。

 

「ま、いろいろ貸しがあるから・・・・なんだけど、なんかみんな潔く協力してくれたの」

 

「・・・・そのようね」

 

周りを見渡すリツコ。よく見れば、戦自研の人間もキビキビとネルフスタッフ達に説明と作業の手助けをしている。

 

「思ってたよりも、早く準備できそうなの。なんか気味悪いわね。前はグチグチ言っていた連中がいた所からも、OKの連絡が来たのよ・・・・不思議」

 

「そうね。特にあの、戦自研のお偉いさんの・・・たしか」

 

一緒その場で戦自研の施設で会った戦自研のすべてを担う男を思い出す。

 

「やー葛城君、赤城君。上手くいってるかねっ!?」

 

すると声が大きい男性が二人に声をかける。彼こそ、兵器開発の全てを担う人間。篠山遊馬兵装技術審査部長。36歳。鼻下の髭とオールバックヘアーとキッチリとしたスーツ服が特徴の男が大きな声で声を掛けた。

 

「これはどうも、篠山さんっ!お陰様で早く作戦の準備が出来そうですっ!」

 

「それは、良かったっ!!後は君達の武運を祈ってるよっ!!」

 

大声で話す二人の様子を見ているリツコに篠山の付き人が来て彼女に声を潜めて話す。

 

「すみませんねぇ。篠山部長は難聴でこうでも話さないとダメなんですよ。長年兵器開発を務めてましたから」

 

「そ、そうね・・・・」

 

リツコは納得しながらも、一つ疑問を浮かべた。何故、兵器開発のトップが此処に来ているのかと言う事に。

 

「ところで、どうして貴方ほどの人が、わざわざ現場に来ているのですかぁ!!」

 

その疑問をミサトが聞いた。

 

「いやー。君達の所にいる。3人目のパイロット。シンジ君に会いたくてねぇー。あと、私は会議室より、現場派だから、来るのは当たり前っ!!」

 

その返答にリツコの眉が動く。なぜシンジの名が出て来るのか?兵器開発の人間が、一人のパイロットにわざわざ会いに来るなんて・・・・何故だと。

 

「どうやら、いない様だねっ!!いやー、彼の戦い見てたけど凄いよーっ!!見事な戦いぶりに、私は思わず魂が震えたよっ!!実に素晴らしいっ!!」

 

「は、はぁ・・・・」

 

篠山閣下はシンジの戦いを思い浮かべているのか、少し興奮気味に語る。その様子にミサトは返答に詰まる。

 

「ミサト君っ!!頑張りたまえっ!!彼なら、きっと全ての使徒を倒せるよっ!!私も更なる兵器を作る事に全力を尽くすよっ!!もちろん、君達からのオーダーがあれば手をかそうっ!!」

 

「良いのですかぁ!!なにか、見返りでもっ!?」

 

思わぬ台詞にミサトは途惑いながらも、篠山に返答する。

 

「いやっ!!大丈夫だぁ!!とりあえず、この企画書に目を通しておいてくれっ!!素晴らしいモノだよ!!」

 

そう言って篠山はミサトに抱えていた資料を渡す。企画書名は

 

 

『試作型・ダイン・スレイヴ取り扱い説明書』

 

 

第3東京市・市街。

 

 

『今夜、午前0分より未明にかけて、全国で大規模な停電があります。皆様のご協力を、お願いします。繰り返します。午前0分より未明にかけて、全国で大規模な停電があります。皆様のご協力を、お願いします』

 

市街地では、至るところで市民向けのアナウンスが繰り返されていた。トウジとケンスケは非難所に向かう前に、公衆電話である場所へ電話を済ませる。

 

「じゃ、いくで」

 

「うん」

 

 二人は確認し合って避難所へと向かう。

 

 

初号機・格納ケイジ。

 

シンジは整備員達の邪魔にならない距離から初号機の様子を床に座りながら見ていた。何時でも出撃できる様にか、プラグスーツのラフ姿で初号機を調べている整備員達を横見に何かを食べながら自分の機体を見ていた。隣にはレイが一緒に座っていた。

 

「碇君、なに食べてるの?」

 

シンジの食べてる様子にレイは気になって聞いた。

 

「これ?『ナツメヤシの実』。食べる?」

 

「・・・・うん」

 

シンジがレイの手に一つまみ渡し、初号機へと視線を移す。そしてレイはシンジがくれたナツメヤシの実を見て口に入れる。食べる。そして・・・・

 

「・・・・甘い」

 

彼女の食べた実は、甘いの一言に尽きる味であった。鬼道先生の表情を見た時の味が来るのを予想していたのだがレイはシンジが与えてくれたのを受け取りたかった。ちなみに甘さは濃すぎず、苦すぎずの味である。つまり程々で、ある。

 

「レイのは当たりかな。良かったね」

 

「・・・・うん」

 

シンジは次の実を食べながら初号機を見ていた。その様子を見てレイの中で何かが芽生えるのを感じた。そして、思い出す。彼は訓練が終わった後も、時々ネルフで暇があればEVAの所に来ては筋トレをしたり、EVAの頭の上まで登り寝ていた時があった。それを見たリツコとミサトはちゃんと注意をしたがシンジ曰く。

 

『いいじゃん。バルバトスは喜んでる』

 

との事であった。レイもその様子を見かける時がある。珍しい時はEVAを見つめながら座り込んでいる時がある。

 

(何かしら?この感じ。もやもやする。・・・・好きじゃない)

 

今でも初号機を見ているシンジの横顔を見てレイは意を決して聞いてみた。

 

「碇君」

 

「?なにレイ」

 

彼女の声にシンジは視線をレイに移す。その視線にレイの胸が少し熱くなる。レイはこの高鳴りを抑え、シンジに話しかける。

 

「碇君は、EVAが・・・・好きなの?」

 

レイの突拍子の台詞にシンジは首を傾げ、あー、と思い付いた。

 

「好きと言うよりは、相棒の様子を見に来たくらいかな・・・・これからも戦うにはバルバトスが必要だし」

 

「バルバトス・・・・名前をつけてるの?」

 

「うん。『昔』一緒に戦ったのと同じ。乗った時・・・・懐かしいモノを感じた。いや、同じだ。だから、コイツはバルバトスなんだ」

 

EVAにつけた名前の事を話し、シンジはまた『ナツメヤシの実』を食べる。

 

「レイもEVAあるんだよね?」

 

「・・・・えぇ。私のは、零号機」

 

「そうか・・・・一緒に戦う事になるかもね」

 

「うん・・・・」

 

 

 

 

 

日が西に傾きかけた頃、使徒は未だ第3新東京市の地下へ侵攻を続けていた。一方、ヤシマ作戦の準備は着々と進めれれていた。膨大な資材と人が投入され、作戦本拠地周辺は異様な熱気に包まれていた。

 

「使徒の先端部、第7装甲板を突破」

 

シゲルが使徒の状況を報告する。

 

「エネルギーシステムの見通しは?」

 

トラックの荷台に作られた仮設の司令室でミサトが状況を確認する。

 

『電力系統は、新御殿場変電所と予備2箇所から、直接配電させます』

 

『現在、引き込み用超伝導ケーブルを、下二子山に向けて敷設中。変圧システム込みで、本日22時50分には、全線通電の予定です』

 

オペレーターの通信が次々と流れ込んでくる。

 

「狙撃システムの進捗状況は?」

 

ミサトが確認を続ける。

 

「組立作業に問題なし。作戦開始時刻までには、なんとかします」

 

「エヴァ初号機の状況は?」

 

ミサトは素早く振り返り、次々と指揮を執っていく。

 

「問題なし。ATフィールドを応用したスラスター系統異常なし。専用のB型装備に換装中。あと2時間で形に出来ます」

 

「零号機は?」

 

「狙撃専用のG型装備に換装中。こちらも2時間で完成します」

 

「了解。後はパイロットね」

 

ミサトは一通りの確認を終えると、モニターをじっと見つめる。

 

「シンジ君は問題ないと思うけど・・・・零号機とレイの方ね」

 

リツコは少しミサトが思う不安を具体的な言葉にして出す。

 

「えぇ。彼女はまだシンクロに成功したとは言え、零号機がちゃんと機能するかどうか不安な所があるわ」

 

 

NERV本部の司令室。

 

 

冬月は、本作戦においてゲンドウがどういう思惑を持っているのかを確認する。

 

「初号機パイロットの処置はどうするつもりだ?」

 

「ダミープラグは試験運用前の段階だ。実用化に至るまでは、いまのパイロットに役立ってもらう」

 

ゲンドウは、あくまで乗ることを前提に考えを進めているようだった。

 

「そう言えば・・・・・レイがシンジ君の事を気に入っている様だが、あのままで良いんだな?」

 

冬月のその言葉にゲンドウの眉が少し動く。握っている手に力が入ってる様子を冬月は見逃さなかった。

 

「真実を知ればシンジは拒絶する。今のうちに仲良くしたところで・・・・・レイは私の手に戻って来る」

 

次のゲンドウの言葉に冬月は少しだけ懸念の色を見せる。

 

「ふむ。そうだと・・・・いいな。それに、戦自研が最近おとなしいと思わないか?」

 

「構わん。こちらとて都合が良い。老人達が何を企んでいるにせよ如何なる手段を用いても我々はあと8体の使徒を倒さねばならん。全てはそれからだ」

 

ゲンドウは、先にある目標に到達するためには犠牲を問わない覚悟を見せる。

 

「そうだな。まぁ、『頑張ろう』か」

 

そう言って冬月は右手で口元を隠し、内側で『嗤った』。

 

 

 

 

レイは電車の中に乗っている夢を見ていた。車窓から夕日の光が差し込んでいる。電車の車輪が線路の継ぎ目を乗り越えていく音が聞こえる。

 

「私は碇君を見た時、何か温かいのを感じた。碇司令とは違う。包まれて・・・・安らげる。そう、胸の中が温かいの・・・・碇君の料理を食べて、初めて美味しいと言う気持ちを理解した。私にお弁当を作ってくれた。碇君の手は・・・・・温かい。とても、安らぐ。碇君の事を考えると、また会いたいって考える。この気持ち。何かしら?わからない。でも碇君ともっと話したい。碇君の料理が食べたい。初めてなの、この気持ち。碇君に会う前はただ碇司令の命令を聞いて、EVAに乗って、それで良いと思ってた。でも・・・・・私・・・・」

 

「本当は苦しかったんだろ?」

 

オレンジ色に照らされたレイの正面には『黒い人の形をした』何かが座っていた。隣には『幼いレイ』が座っている。黒い人と『前』の自分を眺める。

 

「苦しかったよな?あー苦しかった。『生まれ方』稀有だけど確かな命はお前にはあった。しかし碇司令はそんなお前自身を見てなかった。本当は別の視点で見ていた。自分の、自分だけの肉人形・・・・・あー!!悲惨っ!!なんて、なんて、なんて可哀そうなんだっ!!ぼかぁ、悲しいよぉ?なぁ?苦しいからシンジに手を伸ばしたんだろ?彼なら自分を救ってくれるって。そう思ったから手を伸ばしたんだろ?良い事言ってくれたからなぁ?」

 

何時の間にか黒い人がレイの前に立っていた。黒い人から荒んだ声がする。黒い人から三つ目が浮き出る。三つ目がぎょろぎょろと動きレイを見た。

 

「・・・・・私は自分がどうして生まれたのか、解らなかった。でも、何時も碇司令がいてくれて、私を助けてくれて、私を必要としてくれたから・・・・碇司令の為に生きて無に還ればそれで良かった」

 

「だが、お前の中には碇シンジが大きな存在へとなった。碇司令と違い、過ごした時間は違いがあれどお前を『人間の少女』として、人形ではなく。人間の一人として見てくれて、心配してくれて、手作り料理を食べさせてくれて、助けてくれた。お弁当もくれた。味噌汁温かかったなー。そして、手を繋いでくれた。優しかった?嬉しかった?そうだよなー。碇司令は・・・・冷たかったんだろ?美味しくなかっただろ?考えさせてくれなかったんだろ?人間では、なく。自分に従う道具として見ていた。本当は気づいていたんだろ?自分だけを見ていない事も。だってお前は・・・・」

 

 

 

黒い人の首がぐにゃりと横に曲がり。三つ目は彼女を見ている。座っている小さなレイは歪に笑っていた。レイは恐怖する。幼い自分の顔があんな表情で此方を見ているのが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂笑の相。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ヤメテ」

 

それ以上聞きたくない様にレイは表情は苦痛に歪み自分の両耳を塞ぎ蹲る。しかし黒い人の声は聞こえ、次の言葉が彼女の心を騒めかせる。

 

「ゲンドウはあの時、目で言っていたはずだ。『あそこで』彼は言うつもりだった。レイ。お前は人間ではない人ではないお前をシンジが受け入れてくれる訳がないとな。お前の正体は本当に『人形』みたいに生み出せる。幾らでも替えが効く。幾らでも生み出せる。何度でも、何度でも、何度でも、何度でも生産できる。ゲンドウの愛玩具。可愛げが無くなれば何時でも代わりを生み出す。都合が悪ければ、言う事聞かねば、逆らえば、『今』のお前は簡単に殺される。処分される。捨てられる。それがお前。運命も、未来も切り開けない・・・・・哀れな、生き人形。人形に心など必要ない。考える事も。感じる事も、創造主の都合のいい様に動けばそれで良い。それだけがお前の存在理由。それが綾波レイだ。人間の振りをした化け物。それが、綾波レイだっ!!」

 

 

「やめてぇっ!!」

 

レイが目を瞑って叫ぶと周りから大きい音がした。その音が二度、三度と続くその音はまるで巨大な何かが『歩く』音だった。

 

 

 

 

ズシンッ!!!

 

 

 

今度は近い。黒い人は距離を取り上に三つ目を動かす。

 

 

 

「あー。もう終わりかぁ・・・・・頑張れよ嬢ちゃん」

 

 

 

 

ゴシャァッ!!!

 

 

 

 

空間が割れて、巨大な塊が黒い人と小さいレイの上から圧し潰すように落ちて来た。レイは恐る恐る顔を上げて目の前の光景を見る。両耳から手を離し、周りを見る。電車は止まり、目の前には巨大で白い装甲に覆われた鉄拳が振り下ろされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Wooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獣の様な咆哮が轟き、空間を書き換える。電車の中だったのが赤い大地の世界へと変わった。特徴的な二本角。鋭い緑色の輝く双眼。禍々しい形状ながらも、神聖な白狼の様なフォルムの巨人。不思議と恐怖は感じない。とても気高い圧を感じた。そして、レイの背後に白衣の女性が優しく抱きしめて彼女の耳元に囁く。

 

 

 

 

 

 

『イキナサイ』

 

 

 

 

その囁きがレイの心に新たな芽吹きが開花したのを感じてレイの紅い瞳から涙が一滴流れ、世界が光りに包まれる。そして、感じる浮遊感。真っ白な世界で巨人がレイを掬う様に包む。その中でレイは安らぎを感じた。

 

 

「レイ。大丈夫?」

 

レイは夢から覚めてシンジの膝枕から目を覚ます。自分の状態を確認してレイはシンジと一緒に居て不安を消したくて彼と話したくて、一緒にいたくて、彼の膝の上に頭を乗せて横になり寝ていた。シンジの方は目が覚めたレイを見て目尻のあたりに触れて何かを拭ってくれた。

 

「泣いてたよ。苦しそうだったし。何か嫌な夢を見た?」

 

そう言ってシンジは自分を見つめるレイの頭を撫でていた。

 

「い、かり・・・くん」

 

レイはシンジの手に触れ。その手を自分の頬に優しく擦りつける。彼の温もりを感じる為に、シンジが傍にいたと安心する為に。

 

「大丈夫。大丈夫だよレイ。僕はここにいる」

 

「うん」

 

「僕は死なない」

 

「ん・・・」

 

シンジはそう言って、レイの手を優しく繋ぎ。空いた手で彼女の頭を撫でる。

 

「レイも死なない。一緒に生きる」

 

「うん。碇君」

 

「一緒に戦える。もうレイは一人じゃない」

 

「・・・・私。碇君、私がもし使徒と同じ人じゃない存在だったら・・・・碇君はわたしも殺すの?」

 

「レイ?」

 

レイの様子にシンジは気づく。彼女を撫でていた手を彼女の頭部に乗せたまま見る。

 

「碇君。私、私ね。本当に、『代わりが』いるの・・・・」

 

そう言ったレイの手が震えているのを感じ取るシンジはレイの話を聞く。

 

彼女は語る。自分の存在と生まれた意味をシンジに話す。彼には生きて欲しいと思ったから。自分を拒絶するかもしれない事を恐れながらも、彼女は話した。これが最後かもしれないと・・・・・。

 

 

 

「そうか」

 

シンジはレイからすべて聞いた。聞いてもシンジの表情に変化はなかった。

 

「わたしも、同じ。碇君にとっての敵と同じ。だから・・・・わたし」

 

「そんな事ないよ」

 

シンジはそう言って横になっているレイの頭を優しく撫でる。

 

「前にも、言ったよね?僕の知っているレイは僕とこうして膝枕して頭を撫でられて。ご飯を美味しく食べてくれた此処にいる綾波レイだけだよ。他に代わりがいたとしても、僕はこうしているレイだけを選ぶ。奴らと同じでもレイはミサトやリツコと同じ『ヒト』だよ」

 

「でも、わたし・・・・」

 

「あげても良いの?」

 

「え?」

 

レイが少し顔を上げ、シンジと目を合わせる。

 

「その代わりに、レイの思い出。全部、そいつにあげても良いの?」

 

レイは想像した。彼女が経験して来た。温かい初めての食事。碇シンジと触れ合った思い出。初めて自分を見てくれて。自分だけを見てくれたシンジの存在を。美味しいと感じた温かくなる気持ちも、シンジとの出会いで得た安心感と思い出を造りたいと言う気持ちが全て、『代わり』に持ってかれる喪失感を。

 

困惑。焦り。不安。喪失。苦痛。絶望。拒絶。レイの頭の中でその結果を考えた時、起き上がりシンジに抱き着く。必死にしがみ付く。シンジは受け止め、子供をあやす様に背中を優しく撫でて。ポンポンと優しく叩く。

 

「いや・・・・いやっ!」

 

「うん。それでいいんだよ。それが綾波レイと言う『ヒト』の証だ。大丈夫。レイは死なせない。だから、一緒に行こう?絶対に。死なせない。殺させもしない。一緒に進もう」

 

「うんっ!碇君っ!一緒に、私も一緒に行きたい。生きたいっ!いかりくんと・・・・一緒に!」

 

シンジもレイに手を回し、優しく抱きしめた。親が生んだ愛おしい命を抱きしめる様に。その様子を陰で見ている者達から暖かい視線の存在に二人はまだ、知らない。

 

完全に日が落ちた第3新東京市では、使徒がサーチライトの光で照らされていた。それは巨大なモニュメントのように街の上空に浮かび上がっていた。

 

『敵先端部、第17装甲体を突破』

 

作戦本拠地周辺の準備は滞りなく進められていた。

 

『NERV本部到達まで、あと4時間55分』

 

『西箱根新線及び、南塔ノ沢架空3号線の通電完了』

 

 連結したディーゼル列車に乗せられて大量の変電設備が運び込まれる。陸路で輸送を行っているトラックが次々と到着する。

 

『現在、第16バンク変電設備は、設置工事を粗鋼中』

 

『50万ボルト通常変圧器の設置開始は予定通り。タイムシートに変更なし』

 

『第28トラック群は5分遅延にて到着。担当者は結線作業を急いでください』

 

街中の電源を集めるための変圧器が郡をなしてしてひしめき合っている。

 

『全SMBusの設置完了。第2収束系統より動作確認を順次開始』

 

『全超伝導・常超飽圧対象変圧器集団の開閉チェック完了。問題なし』

 

エヴァが射撃を行う場所に陽電子砲がクレーンで運び込まれる。

 

「これが大型試作陽電子砲ですか」

 

マコトは発射台に設置された鉄の塊を見て感想を口にする。それは大型の船くらいもある常識外れの巨大なものだった。

 

「急造品だけど、設計理論上は問題なしね」

 

リツコは組みあがった作戦の要を見上げる。

 

「零点規制は、こちらで無理やりG型装備とリンクさせます」

 

マヤはノートパソコンに向かって問題点を解決していく。

 

「ま、あてにしてます」とマコトが言う。

 

「後はパイロットね・・・・・ミサトうまくやるといいけど」

 

ビルの間に掛かった空中の渡り廊下で、シンジは手すりにもたれて夜を眺めていた。

 

「シンジ君、集合時間が5分前よ。話ってなに?」

 

シンジからの呼び出しに来たミサトは、ビルの外へ出てシンジに歩み寄る。シンジはミサトが来たのを確認して振り向き。彼女を見る。矛盾のない目がミサトを見て。彼女の首筋がぞわりと身震いした。

 

「どうしたのかしら?シンジ君」

 

平静差を装い。ミサトは大人の自分を取り繕う。シンジがただの子供ではない事を思考の片隅におき、シンジと対等な立場になる様に余裕を見せる。

 

「ミサト、聞きたい事がある。どうして使徒は此処に来るの?」

 

「ッ・・・・」

 

シンジの声と台詞に心拍が少し上がる。彼のこの雰囲気に何時も飲まれる自分が歯痒いと何度も思った。

 

「ミサト。僕は自分の意思で此処に残って、使徒と3回戦った。『此処に』、『3回』現れた。人間をただ殺すなら第3東京市にだけ来る事は無い筈・・・・そして、今回。あの使徒が本部?の上に来た。どうして、ミサト?」

 

ミサトはシンジの様子が真剣である事を察して彼に『アレ』を見せる決心をした。

 

「シンジ君・・・・ちょっち。付き合って」

 

そう言ってミサトはシンジに手を差し出す。シンジはミサトの手を取り。一緒に歩き出す。

 

エレベーターに乗り込んだ二人は、手をつないだまま肩を並べて地下へと降りていく。

 

「15年前、セカンドインパクトで、人類の半分が失われた。今、使徒がサードインパクトを引き起こせば、今度こそ人は滅びる。一人残らずね」

 

正面を見たままミサトが真面目な口調で話し始める。シンジは授業の知った事とミサトとリツコが前に話してくれた事を思い出す。ミサトの真剣な表情を見る。

 

「私たちが、ネルフ本部レベルEEEへの使徒侵入を許すと、ここは自動的に自爆するようになっているの。たとえ使徒と刺し違えてでも、サードインパクトを未然に防ぐ。その覚悟を持って、ここにいる全員が働いているわ」

 

「そうなんだ」

 

シンジの様子にミサトは構わず話を続けていると、エレベーターのカウンターが「L-EEE」を指す。そして最深部に到達したミサトは、最後のゲートの前に立ってロックを解除する。

 

「ミサト。これが」

 

「・・・・えぇ」

 

ゆっくりと開かれた重い鉄の扉の向こうには、十字架に貼り付けにされた巨人の姿があった。真っ白な体をした巨人は、下半身が無く、手に杭を打ち付けられ、胸には巨大な槍が刺さっている状態だった。

 

「これこそが、この星の生命の始まりでもあり、終息の要ともなる、第2の使徒リリスよ……」

 

「リリス・・・・・」

 

「そう。サードインパクトのトリガーとも言われているわ。このリリスを守り、エヴァで戦う。それはあなたにしか出来ないことなの。私たちは、あなたとエヴァに、人類の未来を託しているわ」

 

「レイも・・・・託されているの?コイツを守る為に戦わされてるの?」

 

「そうね」

 

「どうして?僕はともかく、レイまでやらなきゃいけないの?」

 

シンジがミサトの方へ顔を向ける。

 

「ごめんなさい。理由はないの、その運命があなたとレイだったてだけ。ただし、シンジ君とレイの二人が、命を賭けて戦っているわけじゃないの。みんな一緒よ。リツコも、そして私もあなた達が使徒に勝って死なせない為に‥‥ね?」

 

ミサトは手をつないで横に立っているシンジの方に振り向いて、明るい表情を見せる。

 

「運命とかどうでも良いけど‥‥みんなが此処で戦う理由はわかった。後は前に進むだけだね」

 

「シンジ君‥‥」

 

「ミサト。ミサトはさ、この居場所よりも良い所があるって信じる?」

 

リリスを見上げるシンジを見てミサトもつられて一緒に見上げる。

 

「そうね‥‥そんな所、あればこんな処にいないわよ。あったとしても‥‥私は」

 

「『俺』はあると思う。ミサトにも、レイにも、みんな。必ずある。『俺』はその場所に辿り着いた事がある。だから‥‥ミサトも辿り着ける。まずは使徒を倒さないとね」

 

ミサトは俯き、目元を抑える。シンジは隣にいるミサトの手を優しく握る。

 

「‥‥ごめんね。シンジ君。‥‥ごめん」

 

「『俺』は死なないよ。ミサト」

 

すすり泣くミサトはシンジの手をぎゅっと握り締める。

 

作戦現場にエヴァが運び込まれると、その機体がサーチライトに照らされて浮かび上がる。

 

「では、本作戦における、各担当を伝達します」

 

ミサトは手を腰に当ててシンジとレイに指示を出す。

 

「シンジ君」

 

「ん。⦅もぐもぐ⦆」

 

「初号機で防御を担当」

 

「«ゴクッ»任せて」

 

「レイは零号機で砲撃を担当して」

 

「はい」

 

二人の返事の後で、リツコがより詳細な指示を説明する。

 

「今回は、より精度の高いオペレーションが必要求められます。そのため、未調整ながらも砲撃だけでも可能な限り調整を施した零号機で正確に使徒のコアを一点集中で貫く。レイ。陽電子は地球の自転、磁場、重力の影響を受け、直進しません。その誤差を修正するのを忘れないでね」

 

「リツコ。コア何処かわかるの?」

 

リツコの理路整然とした説明を聞いたシンジが何となく質問を飛ばす。

 

「大丈夫。目標内部に、攻撃形態中だけ実体化する部分があるわ。そこがコアと推測されるわ。狙撃位置の特定と、射撃誘導への諸元は、全てこちらで入力するから。レイ、貴方はテキスト通りにやって。最後に真ん中のマークが揃ったタイミングで、スイッチを押せばいいの。あとは機械がやってくれるわ」

 

リツコが説明する背後では、零号機を射撃位置へ輸送する作業が進められていた。

 

「ただし、狙撃用大電力の、最終放電集束ポイントは、一点のみ。ゆえに零号機は狙撃位置から移動できません」

 

「だから僕がレイを守るんだね?」

 

シンジは作戦内容を聞いて、ATフィールドを思い浮かべた。

 

「そうよ。本来なら、初号機を砲撃に担当したかったけど‥‥シンジ君は前の射撃シュミレーションで77.7%。狙撃には向いてないわ。今までの戦いから見て、シンジ君は使徒の注意を引き付けて欲しいの。貴方の強力ATフィールドと使徒が初号機を狙っていると言う事を最大限に使います。初号機には盾を持たせるからいざと言う時はそれで零号機を守ってね。ところで、シンジ君」

 

「?」

 

リツコが少し俯き考えている。レイはその様子が気になった。そして顔を上げて話す。

 

「初号機の装甲が『変異』を起こしているの。その所為で今はB型装備しか換装できないわ。シンジ君。貴方、本当に心当たりない?」

 

「うーん。ないなー」

 

シンジはピンと来ない表情で首を傾げる。その反応にリツコの眉がピクリと動いた。

 

「はいっ!時間よ二人とも着替えて」とミサトが促す。リツコの表情が少し曇ってる気がしたのか早々に切り上げる様に誘導する。少し冷や汗が流れるのを感じた。シンジとレイはそれぞれ返事をして仮説の更衣室へ移動する。

 

仮説更衣室の中で二人は着替える。シンジはふと、自分プラグスーツがまた少し変わってる事に気付く。主に背中の脊髄の辺りが少し痩せて角がないフォルムになった。とりあえずシンジは着替える。そしてプラグスーツのスイッチを押すと前よりも背中、主に脊髄の辺りがよりフィットした感じである。少しストレッチするシンジ。スーツが彼の逞しい筋肉質ながらもどこか中性的なボディラインを出している。

 

「悪くないや」

 

二人の間は薄いシートで視界を遮られていた。レイが着替える姿が黒いシルエットになってシートに映る。

 

「レイー。そっちは大丈夫?」

 

「うん。碇君はもう着替えたの?」

 

「ん。思ったより背中が軽い。前のは少し重い感じがした」

 

レイは制服を脱ぐと、裸のままプラグスーツに体を入れていく。ふとシンジの視線が床にレイの下着が落ちたのを見た。

 

『いいか。シンジ。男は常に紳士だぞ。軽率な行動と反応、そして心の持ち様と目尻。そして視線に気をつけろ』

 

女子に袋叩きにされた別の中学のクラスメイトの言葉を思い出した。シンジは視線を外しベンチに座り。レイが着替え終わるのを待つ。そう、昔の『友達』がシンジにサムズアップしながら屈強な女子に引きずられて行くのを思い出し笑うのを堪えた。

 

「碇君、いる?」

 

「‥‥うん。いるよー。どうしたの?」

 

レイがプラグスーツのスイッチを押すと、ぴったりと体になじむ。

 

「一緒に行きたい」

 

着替え終わったレイが出て来てプラグスーツに包まれた姿がシンジの傍に近づく。シンジは立ち上がりレイと一緒に更衣室を出て行く。ふとレイの手が自然とシンジの手を握る。若干震えているのを感じた。

 

「レイ大丈夫。僕は死なない」

 

「碇君‥‥」

 

「レイも死なない。僕が守る」

 

「‥‥うん」

 

そう言ってシンジはレイの手を優しく握り返し大丈夫と意思表示を彼女に示す。

 

「あ、シンジ君っ!!」

 

「ミサトどうしたの?」

 

ふと気づくとミサトが手にボイスレコーダーを持って歩み寄って来る。そしてシンジへ手に持っていたボイスレコーダーを渡す。

 

「本部広報部宛に届いていた伝言よ」

 

シンジは、その場でレコーダーを再生させて耳に当てる。

 

『センセ。鈴原や。負けんやないでー絶対に、帰って来てくれや。ワイもっとセンセ、いや。シンジと話したいんや』

 

『えー、相田です。碇、頑張れよ』

 

『洞木です。碇君。貴方が今、どれだけ大変かわからないけど‥‥ちゃんと帰って来てね。色々言いたい事がまだあるから‥‥それじゃあ。頑張って。綾波さんと一緒に帰って来てね』

 

シンジの耳に聞こえてきたのは、今のクラスメイトからの励ましの伝言だった。シンジは無言のまま、流れる音声に聞き入る。その時、ヤシマ作戦の第一段階である大規模な停電が始まった。街の明りが徐々に消えていく。街灯が消え、信号の明りも消えると、辺りは暗闇に包まれた。そして、作戦にエネルギーを一点に集中させるため、日本全国が消灯して夜と同化する。

 

シンジは、作戦開始を待つ間、エヴァ搭乗のために立てられた足場に座って夜を眺めていた。

 

「レイ。怖い?」

 

シンジの隣でレイが寄り添うように身を預けていた。まるで別れを惜しむかの様に。

 

「前はこんな事、なかった。私には碇司令やEVA。みんなのとの絆があったから‥‥でも今、本当に怖いのは碇君がいなくなりそうなのが‥‥怖いの。私にはみんなのいるその先に碇君がいるの。碇君がいれば‥‥私、怖くない。だから、碇君‥‥」

 

「言ったでしょ?レイ。僕は死なない。僕もレイも一人じゃない。ミサトやリツコ。マヤさん達がいるから大丈夫。怖くない。大丈夫だよレイ。僕もレイがいるから、みんながいるから怖くない。大丈夫。みんなを、レイを置いて絶対に死なない。僕もみんなと生きて前へ進む」

 

そう言って、シンジはレイの手を握った。レイの手にシンジの手の温もりが全身に流れ。恐れを緩和する。

 

「うん。私も一緒に進みたい‥‥死なないで碇君」

 

シンジはレイの頭を少し撫でた後、握っていた手を離し一緒に立ち上がる。

 

「時間だね。行ける?レイ」

 

レイはさっきまでシンジが握ってくれた手を大事そうにもう片方の手で包む様に胸元に当てた。少し俯いた後、顔を上げシンジを見る。

 

「うん。碇君がいるから大丈夫。私も碇君を死なせない」

 

「うん。一緒だね。じゃ、行こうか。みんなと使徒を倒しに」

 

『ただ今より、午前0時、丁度をお知らせします』

 

「時間です」

 

マコトが時計を見て予定の時間が来たことを告げる。

 

初号機は盾を左手に持ち。右手にはロングライフルを装備。背中にマウントが可能になったジョイントが自己進化で精製されリツコ達はそこに新型メイスを取り付ける事にした。

 

「ミサト。使徒倒したら何食べたい?」

 

シンジはミサトに通信を入れ、終わった後の事を話す。

 

「え!?そ、そうね。それじゃあ、前に食べた『コロッケ』が良いわ」

 

「わかった。あとレイにもご飯作ってあげたいから絶対に勝って来る」

 

「えぇ‥‥シンジ君。EVAに乗ってくれて本当にありがとう。感謝するわ。だから‥‥死なないで」

 

「大丈夫だよ」

 

互いに話終えた後、作戦を開始する号令が響く。

 

「ヤシマ作戦発動!陽電子砲狙撃準備。第1接続開始」

 

ミサトの号令と共に、今まで待機中にあったものが一斉に動き始める。

 

「了解、各方面の1次及び2次変電所の系統切り替え」

 

マコトが順を追って作業を進める。それに続き、次々とオペレーターの通信が始まる。

 

『全開閉器を投入、接続開始』

 

『各発電設備は全力運転を維持。出力限界まであと0.7』

 

『電力供給システムに問題なし』

 

『周波数変換容量、6500万kWに増大』

 

『全インバータ装置、異常なし』

 

『第1遮断システムは順次作動中』

 

「第1から第803管区まで送電回路開け」

 

マコトが次の指示を出す。

 

『電圧安定、系統周波数は50Hzを維持』

 

「第二次接続」

 

ミサトが次のフェーズへの移行を宣言する。

 

『新御殿場変電所、投入開始』

 

『新裾野変電所、投入を開始』

 

『続いて、新湯河原予備変電所、投入開始』

 

『電圧変動幅、問題なし』

 

「第3次接続」

 

オペレーターの各報告を受けてミサトが指示を続ける。

 

「了解、全電力、二子山増設変電所へ」

 

マコトがミサトの指示をつなぐ。

 

『電力伝送電圧は、最高電圧を維持』

 

『全冷却システムは、最高出力で運転中』

 

『超伝導電力貯蔵システム群、充填率78.6%』

 

『超伝導変圧器を投入、通電を開始』

 

『インジゲータを確認、異常なし』

 

『フライホイール回転開始』

 

『西日本からの周波数変換電力は最大値をキープ』

 

大量のケーブルでつながれた機材に電力が供給されていく。発令所ではゲンドウと冬月が事の成り行きを見守る。

 

「第3次接続、問題なし」

 

 現状、作業は順調であることをマコトが確認する。

 

「了解、第4、第5要塞へ伝達。予定通り行動を開始。観測機は直ちに退避」

 

 ミサトの合図で、地上に設置されていた攻撃ポッドから大量のミサイルが発射される。ミサイルは群れとなって使徒へ一直線に向かっていく。射程範囲内に敵を捕らえた使徒は、小さなパーツに分離して時計のような陣形を取ると、荷電粒子砲を照射しながらぐるりと一回転させて応戦する。

 

「第3対地攻撃システム、蒸発!」

 

ミサイル郡が一瞬にして消え去ったことをマコトが伝える。

 

「悟られるわよ、間髪入れないで。次!」

 

ミサトは怯まずに次の攻撃を指示する。続いて、丘の上に設置された砲撃要塞から長距離射撃が実行される。砲弾は使徒の至近距離まで到達するも、A.T.フィールドによって弾き飛ばされてしまう。使徒は砲台のような形に変形すると、強力なエネルギーを一点に集中させて荷電粒子砲を放つ。

 

「第2砲台、被弾!」

 

主モニターに映し出された攻撃用マップが次々と塗り替えられていく。

 

『第8VLS、蒸発!』

 

『第4対地システム、攻撃開始』

 

『第6ミサイル陣地、壊滅!』

 

『第5射撃管制装置、システムダウン!』

 

『続いて、第7砲台、攻撃開始』

 

予想通り、通常兵器は使徒に対して全く歯が立たなかった。事前に分かっていることとは言え、NERV本部の焦りは強まっていく。

 

『陽電子予備加速器、蓄電中、プラス1テラ』

 

『西日本からの周波数変換電力は3万8千をキープ!』

 

『電圧稼働指数、0.019%へ』

 

『事故回路遮断!』

 

『電力低下は、許容数値内』

 

『系統保護回路作動中。復帰運転を開始』

 

『第4次接続、問題なし』

 

通常攻撃で使徒の目を眩ましている間に、零号機の陽電子砲につながれた充電装置に湯気が立ち込めてくる。

 

「最終安全装置、解除!」

 

ミサトが号令を掛ける。

 

「撃鉄を起こせ!」

 

マコトの指示で、ヒューズが装填され、うつ伏せの体勢で陽電子砲を構えた零号機の顔の前に照準が下りる。

 

初号機は盾を構え、使徒の動きを見る。どんな挙動も見逃さない様にパイロットのシンジはジッと見る。

 

(焦るな。焦るな。木化けだ、木化け)

 

零号機の距離を直ぐに盾になれる動きをシンジは頭の中で何度も復習する。

 

(先生達の教訓を思い出せ。死なない為の『創造』)

 

「照準器、調整完了」

 

マヤが零号機側の準備が整ったことを伝える。

 

『陽電子加速中、発射点まであと0.2、0.1』

 

「第5次、最終接続!」

 

続いて、ミサトが次の段階へ進めるように指示を出す。

 

「全エネルギー、超高電圧放電システムへ!」

 

マコトが現場へ指示を回す。

 

『第1から、最終放電プラグ、主電力よし!』

 

『陽電子加速管、最終補正パスル安定。問題なし』

 

外で慌しく準備が進められる中で、レイは使徒への狙いを定める。あの使徒を倒せばみんなもシンジも助かる事を考える。レイは集中する。小さく呼吸して雑音を消す。全ては生き残る為、シンジが言っていた。居場所へ行く為に。そして、通信からカウントする音声が聞こえる。狙撃に必要な情報の音だけをレイは拾う。

 

「13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……」

 

「発射!」

 

ミサトの合図でレイは引き金を引く。充電された電力が、陽電子砲の先端から一気に放出される。陽電子砲の放ったエネルギーの塊は、使徒のA.T.フィールドを貫通して使徒を捕らえたかに見えた。使徒は体を黒くして硬直し、悲鳴を上げた後に大量の血を辺り一面に撒き散らす。

 

「やったか!?」

 

ミサトは拳を握り締めてモニターを見る。しかし、使徒は下の正八面体の姿に戻ると、ひび割れた体を修復すると赤い光が正八面の中心から一回転して何かを探す様に動きその光が此方を見た様に見えた。

 

「……外した!」

 

ミサトがそれを見て身を乗り出す。

 

「まさか、このタイミングで!?」

 

マコトが叫ぶ。

 

「目標に、高エネルギー反応!」

 

モニターに映し出された変化に気づき、マヤが報告を入れる。

 

「総員、直撃に備えて!」

 

ミサトが叫んだ瞬間、使徒はヒトデのような形体に変化し、シンジたちのいる方へ向かって強力な荷電粒子砲を発射する。使徒の放った一撃は、矢のように鋭く山に到達すると、その高温であらゆるものを融解させる。

 

「ッ!!」

 

シンジは盾を翳し。爆風の高熱から零号機と自分の身を守る。シンジは一早く行動した。使徒の気をこちらに引き付ける行動を使徒にライフルを構える。シンジは照準を見て使徒に入ったのを確認。そして引き金を引き発砲。弾丸は使徒に当たるが効果なし。赤い光が動き初号機を捉える。

 

「感覚で撃つ。前と同じ。ミサトとリツコの命令を果たす」

 

初号機がATフィールドのスラスターを噴射しホバー移動する。零号機から使徒の注意を自分の方へと集める。ライフルを使徒に向け、連射。あくまで自分はおとりの様なモノ零号機との距離を確認。使徒に感づかれない様に前に出る。

 

「……エネルギーシステムは?」

 

大きな揺れで吹き飛ばされたミサトは、歯を食いしばりながら起き上がってマコトに聞く。

 

「まだいけます。既に、再充填を開始」

 

マコトは注意深くモニターを見据える。

 

「陽電子砲は?」

 

ミサトは膝をついたままマヤに尋ねる。

 

「健在です、現在砲身を冷却中、でもあと一回撃てるかどうか……」

 

使徒の攻撃から守られたものの、爆風の衝撃で零号機は後ろへ体勢を崩していた。

 

「確認不要、やってみるだけよ。レイ、大丈夫?急いで零号機を狙撃ポイントへ戻して」

 

「了解」

 

レイは零号機を起こし、陽電子砲を抱かえ上げ。狙撃位置へと戻り態勢を整える。

 

(碇君っ!!)

 

「目標に変化ありっ!更なる高エネルギー反応っ!」

 

マヤの声にモニターに映る使徒の形態が結晶の様な形状に変り。その中心の赤い光が初号機を見る。使徒の中心で何かが作られていた。

 

「何なの?まさか‥‥零号機の射撃準備は!?」

 

「銃身、固定位置!」

 

「零号機、G型装備を廃棄、射撃最終システムを、マニュアルに切り替えます」

 

マヤが第2射の準備に入る。使徒の動きにミサトは使徒の狙いが初号機へと移っている、そこまでは良い。シンジには陽動と防御を担当しているが‥‥嫌な予感がした。

 

ぞわり。

 

(あれ?なんか‥‥この感じ。前にも味わった気がする。たしか、アレは)

 

初号機は使徒が此方を見ているのを確認すると零号機から離れすぎない様に考えたが、シンジの感が今すぐ距離を取った方が良いと行動を開始する。ATフィールドのスラスターを全開にし高く跳躍する。

 

ぞわり。

 

レイの中で悪寒がした。初めて味わう見えない危険への圧が彼女の心に圧し掛かる。そして、使徒の中心から杭状のモノが出て来たのを確認する。湯気を出しながら精製されたそれは何かを捉える様に動く。結晶の形態が回転し『それ』を打ち出そうとしているかの様に。初号機に向ける。

 

「敵先端部、本部直上、ゼロ地点に到達」

 

シゲルが使徒の侵攻について報告する。

 

「第2射、急いで!」

 

ミサトが焦りを抑えきれずに声を上げる。

 

「ヒューズ交換、砲身冷却終了!」

 

「射撃用所元、再入力完了。以降の誤差修正は、パイロットの手動操作に任せます!」

 

「目標に、高エネルギー反応っ!」

 

マヤが使徒の攻撃を察知する。

 

使徒から火花が散り、杭が目にも止まらぬ速さで打ち出された。跳んでいた初号機は反射的に盾を前に出すが‥‥

 

グシャァァァァァァァァァッ!!

 

盾を貫通し、左手が割き。初号機へと激しく突き刺さる。その威力は初号機の装甲を貫通し深く突き刺さるその衝撃で初号機は後方へ吹き飛んだ。激しく地面へと撃ち突かれ倒れ伏した。左手から腕の付け根まで吹き飛び無くなっていた。

 

「シンジ君っ!!」

 

ミサトが叫び。

 

「初号機、左腕破損、損傷不明!」

 

シゲルの声が状況を知らせる。

 

「シンクロ率低下、パルス逆流、活動維持に問題発生、パイロット意識不明っ!」

 

マヤが事態を告げる。

 

「レイ、次はこちらに使徒が攻撃してくるわっ!照準合わせて、・・・・・レイ?」

 

リツコが切羽詰まった声で零号機に通信を飛ばす。しかしレイは目を大きく見開き、呼吸が乱れ我を忘れていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ぁ、ぁぁぁぁ。い、か‥‥り」

 

発令所のモニターにレイが苦しむ声が聞こえる。

 

「レイ、しっかりしなさい、レイっ!!まだシンジ君が死んだ訳じゃない。しっかりしなさいっ!!」

 

リツコが必死に通信を飛ばしてもレイの耳には届かなかった。そうしている間に使徒が形状を変え、と此方へと向きを変える。此方を捉え、光りが収束していく。

 

「目標に再び、高エネルギー反応っ、撃ってきますっ!!」

 

マヤが使徒の攻撃を察知する。

 

「やばいっ!」

 

ミサトがモニターの方に振り返って叫ぶ。使徒は零号機に向けて強力な荷電粒子砲を発射した。

 

「あ‥‥」

 

レイが声を上げた時、零号機が狙いを定めた山は高熱のエネルギーに包まれた。

 

「レイっ!!」司令席にいたゲンドウが思わず立ち上がり叫ぶ。

 

 

 

何処もない空間の中、シンジはゆっくりと落ちていく感覚のなか目を覚ました。

 

 

(あれ‥‥?ここは、前にも来た事あったけ?あー思い出した。オルガの命令を果たす時だ‥‥明弘、ハッシュ。俺はみんなの所に行けなかった・・・・)

 

ふとシンジの手を握り引っ張り上げてくれる手が伸びてきた。

 

(僕たち、一緒に行くって言ったよね?)

 

聞き覚えのある声に顔を上げる。そこには幼い自分がいた。

 

(僕にないモノを君が埋めてくれて、君にないモノを僕が埋める。助け合って、一つになったよね?)

 

(あぁ、そうだな)

 

(ここで終わるの?)

 

(まさか、此処から更に行くんだよっ!)

 

 

ズンッ!!!

 

何か大きな物が落ちた音にレイが目を開けると、目の前に信じがたい光景があった。左腕から、左胸部まで無くなっていた初号機が右手で巨大なATフィールドを張って防いでいた。初号機の目が赤く稲光して輝く、各装甲部から蒸気が度々噴出していた。

 

「碇君っ!」

 

「シンジ君っ!」

 

レイとミサトの声が同時に上がり、皆がその光景に驚く。

 

「再起動っ!?いつの間に‥‥」

 

リツコが驚いているのを他所に後ろから篠山開発部長が彼女の肩に手を優しく叩く。

 

「どうだね?これが『神の子』の可能性だ、素晴らしいだろう?」

 

美しい絶景を見る様な顔でモニターに映る損傷した初号機を見る篠山開発部長。

 

「さぁ、今がチャンスだ」

 

「ッ!レイ、今よっ!」

 

篠山開発部長の台詞に我に返り、零号機に指示を飛ばす。

 

「チャージは!?」

 

ミサトが充電完了を待ちわびる。

 

「あと20秒!」

 

マコトがすぐさま報告を入れる。

 

(急いでっ!・・・・・)

 

焦るレイのコクピットに音声が飛んでくる。自分を連れてってくれる彼の声が。

 

「大丈夫だよ。レイ」

 

「っ!!」

 

「『俺』は死なないって言った。後は進むだけだ。頼んだよレイ」

 

初号機が更に前に出る。使徒の強力な荷電粒子砲にも拘わらず、初号機のATフィールドは衰える事がない。中破したにも関わらずその力強さは衰えなかった。前に出した右手が焼けるのを見るが動じない初号機の姿に誰もが驚く。そして光明を見た。

 

充電が完了し、第2射が可能な状態になると、レイが覗いていた照準が使徒へと定まる。レイは間髪居れずにトリガーを引く。発射された陽電子砲は、使徒の荷電粒子砲を押し返し、使徒のコアを一直線に貫く。使徒は攻撃を止め、後方から火を噴きながら正八面体へ戻る。そして次の瞬間、突然無数の棘状の形体に変化すると、悲鳴を上げながらコアを破裂させた。

 

『やったっ!!!』

 

ミサトは思わずガッツポーズを作る。リツコは思わず手を握り勝利を喜ぶ。篠山開発部長は拍手を上げる。付き人も一緒に拍手を送る。マコトとシゲルが互いに肩を叩き合い、マヤは思わず声を上げた自分を落ち着かせ深呼吸。ジオフロントの天井を突き破って降下していた使徒の先端は、血の雨に変わってNERV本部へ降り注いだ。

 

使徒の攻撃を絶えたレイは初号機の元へシンジの名を呼んだ。

 

「碇君っ!」

 

膝を着いた初号機を支えると少し熱を感じるがお構え無しに初号機のエントリープラグを取り出そうとするが、初号機のハッチが勝手に開き。プラグが露出する。レイはそのままエントリープラグを取り出し、零号機の手でシンジの乗ったプラグを地上に運ぶ。レイは零号機から降りるとシンジのエントリープラグへ駆け寄ろうとすると、膝を着いていた初号機が動き出した。そのまま立ち上がりその巨体の向きを変えてシンジのエントリープラグの近くに片膝立ちで右手をプラグの上に翳す。ATフィールドの光が初号機の右掌に集まり細長い光線がプラグのハッチを器用に切り取る所業を見せた。レイは勝手に動いた初号機に驚いたが、それよりシンジの元へ駆け寄る。プラグの上に翳した手を離した初号機は事切れた様に停止した。レイはシンジのコクピットに入り、ぐったりしているシンジの傍へ駆け寄る。

 

「碇君っ!目を開けて、碇君っ、碇君っ!一人にっ‥‥」

 

レイの必死な呼びかけにシンジは直ぐに反応し、左手を動かしレイの頬に触れる。レイはその手を大事に掴み彼を見る。シンジは眠りから目覚める様に顔を上げる。レイはシンジが無事なのを確認して安堵に涙を流す。乱れていた呼吸を沈める。

 

「よかった・・・・碇君、無事で、良かった」

 

「あぁ、気を失ってたみたいだね。心配かけてごめん」

 

そう言ってシンジは上体を起こし、レイに笑いかける。

 

「ううんっ、・・・・碇君は生きてくれた」

 

レイは首を小さく振り、シンジの左手を大事に握る。

 

「‥‥レイ。笑ってるじゃん」

 

「私、今、笑ってるの?」

 

「うん。可愛い笑顔だよ」

 

シンジのその言葉を聞いて、レイは自分の中に沸き起こる不思議な感覚に驚かされる。

 

「・・・・・・」

 

レイは、シンジに向かって優しい微笑みを向ける事が出来た。これが笑うと言う事だとレイは学んだ。

 

「そうだ、レイ。ご飯、何食べたい。ミサトと約束したんだ」

 

「私も、良いの?」

 

「あたりまえだよ、何が良い?」

 

「・・・・碇君の豆腐ハンバーグ」

 

レイの返答にシンジは微笑み「わかった」と答え、一緒にプラグから降りた。向こうからミサト達が来るのを確認すると、ミサトはシンジが無事なのを深く安堵し抱きしめた。すすり泣くミサトを宥めつつ皆に迎えられ勝利を分かち合って生きていることに誰もが安堵した。

 

 

 

 

その頃、とある宇宙空間の位置から地球を見ている使徒がいた。その使徒は背中に大きな羽を生やし、二本の剣を持った人型の使徒であった。その人型の形はEVAに近い形状でそこから、地球を眺めていた。

 




次は破だ。シンジ君は止まらない。前と未来を見て進むんだぜ★

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