新世紀エヴァンゲリオン・鉄華。   作:トバルカイン

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2020年明けましておめでとうございます。今年は最悪でした。クリスマスに、オトンが保菌してインフル・エンザA型に感染、そしてひゃっくりも、止まらない始末。すげー苦しかった。二度と味わいたくない。今回は少し短いかもしれませんが、これでも精いっぱいネタを絞りました。よろしくおねがいします。


第11話・生き血よ育て。天に召されよ。

第3東京市に新しい朝が来る。太陽が山のふもとから顔を出すと、集光システムが備え付けられたビルが稼働を開始する。街が動き始める。早朝、シンジの朝は早い。

 

「・・・・っ!・・・・っ!」

 

マンションの屋上で筋トレから始まり、骨休めからの朝食の準備。住人が一人増えたので朝食のバリエーションを考える。朝ランチの本を軽く読む。

 

(ドイツかぁ、一度どんな飯があるか見てみたいけど。まず式波のご飯をどうするか?)

 

アスカはパンが良いと言った。朝食。朝食。とシンジは思考する。

 

「クェ」

 

「ペンペン。おはよう、何?」

 

鳴き声に気付くとペンペンがシンジにある本を見せる。本のタイトル『食パンから始まるほっこりご飯』。

 

「なるほど、ありがとうペンペン」

 

そう言ってシンジはペンペンの嘴の顎の下から頭部へと撫でる。いきなり頭から撫でようとすると小さい動物は驚くとかシンジは叔父に教わったのを思い出す。次にペンペンはシンジに腹を見せ、服従のポーズを取った。それを横目にシンジは朝食の準備を始めた。

 

「良い匂い。もしかして七光りもう起きてるの?」

 

ふと朝の食欲をそそる香りに目を覚ますアスカ。ラフな格好で起きてキッチン方へ行ってみる。野菜を切り刻み。卵の殻を器用に片手で割り。中身の黄身をかき混ぜ。

フライパンで焼き、箸も使い器用にひっくり返す。トーストを焼き、ベーコンを焼き完成したのが・・・・。

 

「こんなモンか・・・」

 

スープ。サラダ。トースト。そしてオムレツと焼いたベーコン。完成したのがオシャレなカフェで見かける程の『モーニング・セット』である。

 

「七光り、これ全部アンタが?」

 

「うん。おはよう、式波。朝食の準備終わったから食べて良いよ」

 

「これ、全部?」

 

「うん。式波のご飯。要望通りパンを主軸にえらんだ品だから食べてみて」

 

色鮮やかに並べられた朝食にアスカは内心驚き。ボロが出ない様に虚勢を張る。

 

「まぁ、七光りにしてはよく出来てるじゃない。外見は良くても問題は味よ。アタシはうるさいわよ?」

 

「うん。わかった」

 

 

顔を洗い、軽く整えると席につく。改めて見るシンジの『モーニング・セット』

 

「式波」

 

「ん、何よ?」

 

「ご飯は食べる前に手を合わせて『いただきます』と言うのがこの国の食前の挨拶で大事な事だからちゃんと言うんだよ?」

 

「はいはい。わかったわよ。いただきます。これで良い?七光り」

 

「シンジでいいよ」

 

そう言ってシンジはアスカに優しく微笑んでミサトの分の料理を準備する。

 

「アンタ・・・・」

 

「僕たち、これから一緒に使徒を倒していく仲間でしょ?だから、名前で良いよ」

 

振り向き様にアスカに明るい表情を向けて、マグカップをアスカの朝食の隣に置いた。

 

「何よ、コレ?牛乳‥‥いやスムージ?」

 

「うん。口に合うと思うから飲んでみて、不味かったら飲まなくていいよ」

 

「‥‥そう。じゃあ、冷めるうちに食べるわね?」

 

そう言ってアスカは食器を取り、食べ始める。

 

「うん。召し上がれ、そろそろミサトを起こす時間だ行って来る」

 

「わかったわ」

 

そう言ってアスカはまず、オムレツから食べ始める。オムレツの真ん中にスプーンを突き立てると抵抗なくスプーンが入る。

 

(柔らかくて、ふわふわしてる。アイツもしかしてプロ?)

 

スプーンで掬って眺めていると、柔らかくふわふわしたオムレツがそこにある。

 

(こうして見るととろけてなくなりそうね。食べちゃおっ!」

 

そして口の中に入れて噛み締める。すると、どうだろうか口の中でも柔らかく。優しい香りに胸の中がいっぱいになる。

 

(野菜なんて、綺麗な水浴びしたみたいに爽やかさ!)

 

色鮮やかに水洗いしたサラダ。

 

(ん!しっかりと油が乗ってるベーコン!香ばしさと塩辛さが最高じゃない!)

 

オムレツと一緒の皿に乗せられたベーコンの肉の旨味がアスカにこの上ない喜びを与えた。こんな味をアスカは今まで食べた事はない。そう、『食べた事がないのだ』。

 

「ふぁ~。おはよう、アスカ。シンちゃん、私の分出来てる?」

 

「すぐに出来るから、コレでも飲んで」

 

そう言ってシンジはマグカップをミサトの席の机に置いた。

 

「あら、今日はスムージなの?どんな味かしら」

 

「バナナ一本と小松菜を1/2本。あとは牛乳で作った」

 

そう言ってシンジはミサトのモーニング・セットを持って来て机に並べる。シンジもまた、自分の朝食を用意しており席に着く。そして二人そろって「いただきます」と言って食べ始める。

 

「?アンタ、変わったモノ食べるのね。何なのそれ?」

 

「おにぎりと味噌汁。こっちは鮭。こっちは梅。そしてこれは昆布だ。美味しい」

 

二人のモーニングセットに対し、シンジはおにぎりと味噌汁と言う変わった日本飯を食べるのを不思議そうに見る。特に味噌汁を見る。

 

「ご飯と味噌汁。この国の定番よねー。特にシンジ君の味噌汁は出汁が良いのよね~」

 

「ふーん。ちょっと味見させなさいよ」

 

そう言ってアスカはシンジの御椀を取る。そして一啜り。

 

「っ!意外と美味い‥‥出汁は何よ?」

 

「愛情と絶妙な味噌加減」

 

「アンタ、本気で言ってるの?」

 

ジト目でツッコミを入れるアスカを他所にシンジはもぐもぐとおにぎりを食べる。

 

「あら、トマトって聞いたわ。ホントに美味よね~」

 

「ちょっと、何勝手に飲んでるのよっ!?」

 

何時の間にかミサトはアスカからシンジの味噌汁を鮮やかに取り味わう。そして、その味噌汁をシンジは普通に取り戻し食べる。

 

「トマトなんて、ホントに美味しいの?」

 

誰もが抱く疑問にシンジは食べているおにぎりを飲み込んだ後、アスカを見て答える。

 

「叔母さんが教えてくれた事だけど、『トマト』は出汁に使えるランキングに入っているんだって」

 

「へーそうなんだ。意外」

 

シンジはやがて、ご飯を食べ終えた後「ごちそうさま」と言って自分の食器を片付ける。その後、シンジはいつもの様に弁当の仕込みを始めた。ミサトは家事壊滅。アスカは言わずもがな。アスカの分、ミサトの分、自分のは適当に作った。そして・・・・

 

「出来た‥‥」

 

それぞれの弁当を色違いのナプキンで包む。数は4つ。アスカが制服に着替え、準備を終えた後、それを『偶然』に見てしまった。

 

「アンタ、弁当の数多くない?これはミサト、これはアタシ、んでこのおにぎりみたいなのはアンタで。一つ余るわよ?」

 

並べられた弁当を数えながら、不思議に思うアスカ。その問いにシンジは答える。

 

「レイの弁当はオレンジ。式波のは赤色。ミサトは藍色。僕のはコレ」

 

シンジは自分のとレイの弁当を鞄に入れながら答える。

 

「‥‥エコヒイキにも作ってるんだ?」

 

少し不機嫌な表情でシンジに問うアスカ。シンジは特に臆する事無く答える。

 

「レイはちゃんとした食事を取ってなかったから、僕が来るまではビタミン剤で済ませてた。悪く言えば、家ではロクな飯を食べられてなかった。人が食べる食事じゃない。見れたもんじゃない。だからお弁当もご飯も作る機会があれば作る。それだけだよ式波」

 

シンジの話したレイの食生活の内容にアスカは驚きの表情を浮かべた。

 

「ビタミン剤‥‥?」

 

「僕と出会うまで、レイは最低限の住居と水、ビタミン剤だけで生きて来たらしい。今は少し改善してるって聞いた。僕はそんな食事法、嫌いだからレイが料理が一通り出来るまで作るつもりだよ。昔、女性には優しくしなさいって教えてもらったから、だから僕はレイの弁当もそれまで作る」

 

シンジはその時を思い出したのか少し苦い表情をする。レイの弁当を鞄に入れて当校の準備が完了した。

 

「なによ‥‥それ、最初に選ばれた子でしょ?優遇されてるんじゃないの?そんな扱いを受けてあの綾波レイって子はEVAに乗ってるの?何でよ?」

 

「親父にみんなに必要とされたかった。純粋にレイはただ親父に見てもらいたかった。でも親父はレイを自分の都合の良い道具としか見てなかった。親父は自分の為になら、誰でも利用する。そんなずるい大人なんだ。息子の僕としては、ホントに残念だよ。そんな大人の都合でレイもみんなを犠牲にさせたくない。だから、僕は抗う。この戦いが続く限り、バルバトスに乗って戦う。その先にみんながいる居場所を残したいから」

 

シンジは思い出す。初号機のケイジで見たゲンドウの目付きと顔をそして、自分に向けた心のない言葉をシンジは知っている。かつて生きていた前世での理不尽な大人達の行動と身寄りもない子供達の苦痛と孤独と飢えをシンジは『知っている』。

 

「そろそろ、行こうか遅刻するよ、式波」

 

「っ!?そ‥‥そう、ね」

 

瞬間、シンジの雰囲気がころりと変わる。目の色が柔らかいモノへ変って、アスカが今知ってる『少し何考えてるかわからない少年』の空気に変る。

 

「あと、それから‥‥」

 

アスカも弁当を鞄に入れて当校の支度を終えるとシンジが玄関を少し開けようと手を掛けてる途中で彼女へ話す。

 

「僕の言うみんなの中にはこうして知り合った式波も入っていると思ってるから、これからよろしくね?」

 

「え?」

 

アスカの方を振り向き様に笑顔で答えて玄関を開けてシンジは先に行った。アスカはシンジが消えた玄関を見て呆ける。

 

「‥‥なによ、アタシも仲間って事?何で‥‥そんな事言えんのよ。アイツ」

 

(シンジ君・・・・・私、何やっているのだろう?いい大人が子供を戦わせてるなんて)

 

アスカは口元を抑え、顔が赤くなり。ミサトは少し座り込み、シンジの存在の大きさを改めて思い知った。これじゃあ、あの時自分のやった事は無意味なお節介だったのかと、己の無力を噛み締めた。

 

第3東京市の世界。河川敷を走るランナーの姿。モノレールが稼動を始める。出勤する人々。NERV本部に向かうマヤの姿。シンジは学校へと向かう。その途中でレイと合流しそのまま学校へ向かう。そしてトウジとケンスケ。洞木ヒカリと一緒に歩き始める。教室でレイに弁当を渡すと、彼女は嬉しく微笑む。アスカも丁度来たところであった。シンジの弁当を受け取った様子のレイを見て、不機嫌な顔をする。その後、顔を背き自分の席に着く。

 

(あの子が零号機パイロットの綾波レイ‥‥何よあの子。七光りとあんなに仲良く話して‥‥どんな関係かしら?弁当だって作って貰って‥‥何か親しげに話してるし‥‥何でアタシ、こんなにイライラしてんのよ!別に七光りなんて、なんとも思ってないんだからっ!)

 

横目で二人の様子を見た後、直ぐに自分の鞄の整理をする。そんな彼女の様子をレイは見て、考えていた。

 

(弐号機パイロット・・・・碇君を傷つけ様とした人・・・・好きじゃない。でも碇君は気にしないでって言った。碇君は強い。じゃあ、私は・・・・私は碇君と一緒に生きたい)

 

 

 

 

ネルフ本部。

 

シンジはバルバトス、もといEVA初号機に乗り。ある試運転を行っていた。大破した左腕部に義手を取り付け、更に改良を施して出来た。新たな左手である。追加武装を内蔵した左手の稼働テストをシンジは受けていた。その様子を表示されたモニターでコンソール越しの椅子に座ったマヤと立って見ているミサト。別の椅子に座って珈琲を飲むリツコは見ていた。

 

「これが新しい、初号機の腕ですか‥‥聞いた話では機械で出来た義手みたいなモノだと」

 

「資料に寄れば、あの篠山が提供したEVA専用の武器を内蔵した腕らしわ。隠し武器搭載の腕なんて、何処まで通じるか見ものね。設計の構造も・・・・」

 

そう言って、初号機の新たな左手の設計資料に目を通すリツコ。

 

「篠山グループ・・・・最近、あそこからの技術提供が気持ち悪い位に協力的なのよ。何が狙いかしら?」

 

「他にも、此方の支部に協力的な姿勢を見せる企業が多いですね?ヤシマ作戦の時もそうでしたけど、今回は更に訓練システムの改良や、新しい武器。人員の派遣まで、ですよね・・・・」

 

「そうね‥‥」

 

ミサトはインカムを掴み、シンジに通信を飛ばす。

 

「シンジ君、どう?新しい腕は」

 

初号機は改良した己の左義手を動かす。指を親指から、順番に折り曲げる動作。続いて、武装の展開。前腕部の手首部分が動いて、内蔵されていたパイルバンカーの武装を展開。次にパイルバンカーをしまい義手の前腕部は元の左手の形へと戻る。

 

『悪くない。良く反応してくれるし。思い通りに動くよ、ミサト』

 

「そう、良かったわ。そろそろ終わりにしましょう、シンジ君。そのまま休んでいて、後は此方でやっておくわ」

 

「うん。みんなお疲れ様」

 

そう言ってシンジはシートに身を預け一息つく。その後、自分の左手を見る。掌を開いたり、閉じたりして自分の腕の動きを確かめる。シンジは特に違和感がない事を確認した。これにてシンジの今日のEVAの実験は終わりを告げた。

 

 

 

「やぁ、君が碇シンジ君か?」

 

「ん?アンタ確かミサトの知り合い」

 

「加持リョウジだ。よろしくシンジ君」

 

着替えを終えたシンジが部屋から出て来ると、飄々とした色男を思わせる男性が話しかけて来た。

 

「何か様?」

 

「なに、君はすごい子だと聞いてな。興味を持った。良ければ一緒に話さないか?」

 

ネルフ・休憩所。

 

「ほい、シンジ君。これ、最近入った新商品だ」

 

加持から貰ったのは自販機に新しく入った商品なのか、サンプルには新作のロゴがあるのを選んでシンジに渡す。『ネルフのイチゴ・オレ』と言う甘党が好きそうなデザインの缶飲料水である。

 

「甘いモノは好きかい?今の君ならそれが良いと思ったけど」

 

「うん。丁度いい。ありがとう、加持さん。どんな味か気になっていた」

 

加持は無難に珈琲を選び。シンジに特製イチゴ・オレを手渡した。シンジはプルタブを開けて、早速一口飲む。

 

「あ、美味しい。もっと甘いのを想像してたけど。イチゴとミルクの組み合わせが美味いよコレ」

 

「それは良かった。奢った此方としては嬉しい限りだよ。君の口に合って本当に良かった・・・・」

 

加持もプルタブを開けて、珈琲を飲む。互いに一息ついた後、加持の方から話す。

 

「君の資料を見させて貰ったよ。初出撃で逃げ遅れた民間人を救い、使徒を圧倒。おまけにATフィールドを武器に使ったり、まるで自分の手足の様に初号機を乗りこなせたなんて、本当に君は何者だい?」

 

「僕は、僕さ。EVAは頭で考えれば動かせる。慣れていけば簡単だったよ。ATフィールドのメイスはバルバトスが教えてくれた」

 

「EVAが君に?」

 

「うん。初めて乗った筈なのに、何処か懐かしい感じがした。僕とEVAは何処かで出会ってた。そんな気がして、そしてそれは確信へと変わった。アレはバルバトスだって」

 

「バルバトス‥‥ソロモンの72柱の序列8の悪魔の名前‥‥シンジ君、君はその悪魔の名を持ったEVAが初号機だと言いたいのかな?」

 

「まーね、加持さんはさぁ、前世って信じる?」

 

そう言って、シンジはイチゴ・オレを一口飲んだ後その缶を座っているベンチに置く。

 

「僕が前世でバルバトスに乗って、戦って死んだ。そんな前世・・・・信じる?聞きたい?」

 

シンジの目が加持を見る。加治リョウジの目をまっすぐに。加持は彼の放つ空気とその目に飲まれそうになりながらも、シンジのどこか真剣な表情に好奇心が動く。

 

「そうだな‥‥良ければ、聞かせてくれないか?君の前世と言うヤツを」

 

「ん‥‥わかった」

 

そして、シンジは話す。バルバトスと共に、かつての仲間と共に進んだ世界と自信の結末を。

 

「そうか・・・・そんな事が君に」

 

「信じてくれるの?」

 

「君の目が虚言も嘘を言っているとは思えなくてね。だから‥‥君は強く。迷いも、躊躇いもなく、まっすぐ進んでいくんだね。シンジ君。君はすごい奴だ・・・・そう、これなら」

 

加持は少し独り言を話す。その様子を見たシンジが何か彼に影の様なモノを察した。

 

「加持さん?」

 

そして、加持はいきなり立ち上がると、シンジの目の前に来て、シンジの目線に合わせて、彼の両肩に手を乗せる。真剣な表情でシンジを見る。その目線をシンジの目へと合わせて。

 

「シンジ君。君に頼みがあるんだ。葛城を・・・・ミサトを頼む」

 

 

 

 

 

 

 


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