新世紀エヴァンゲリオン・鉄華。   作:トバルカイン

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やっと、満足できる仕上がりにしました。これで完成です。

劇場版シン・エヴァンゲリオンの予告見ました。

13号機対初号機の戦いとシンジ君の目が紫色に変ったのにドキリとした。

やっぱそれでもレイやアスカとマリは死んでしまうのでしょうか?

ミサトもリツコも、やっぱ結末はBADENDより、勝利が良いと思いますよ。

負けるな―シンジ君っ!!


第14章・天使と悪魔に紅い実を人類に愛と希望。

「徳四郎中将、貴方にはお聞きしたいことがあるわ」

 

「おや、赤城くんどうしたのかね?」

 

戦いを終え、これからシンジの元へ向かおうとして廊下を歩いている徳四郎に話しかけるリツコに振り向く。

 

「貴方は何処まで知ってるの?ガフの部屋の事」

 

「言ってもいいのかね。聞いたら後悔するかもしれないよ?」

 

リツコへ向き直る徳四郎は首を傾げて見る。

 

「異端使の事や、ネルフの知り得ない情報を貴方は知っている・・・・そして蟲の事も、徳四郎中将貴方は知っているのね?使徒の事も『すべて』をだとしたらゼーレは戦略自衛隊は今誰の思惑で動いているの?」

 

リツコの真剣な眼差しに徳四郎は目線を真上、右下に動かした後に話す。

 

「そうだな・・・・その事には関しては話せるもんなら話したいが、そうだな君になら――」

 

次の徳四郎の台詞の続きにリツコはゴクンと喉を鳴らして話を聞くが彼は

 

 

 

 

 

 

 

「教えてあげない!!」

 

 

 

 

 

 

 

と以下の台詞でリツコに笑顔を浮かべて言った。

 

「は!?」

 

「じゃ、そーゆ事ですから私は行く。早くシンジ君を一目見たいし私は行く!」

 

そう言って徳四郎はリツコに背を向け、歩き出す。

 

「待ちなさい!まだ話は終わってな――」

 

「大丈夫」

 

いつの間にかリツコの近距離まで詰められ、左手の人差し指を口元に触れ、右手人差し指で『静かに』とジェスチャーする。

 

(いつの間に!?)

 

徳四郎の顔がリツコの耳元まで近づき右手を自分の口元に添えて話す。

 

「すまない、今はまだ話せない。だが時が来たら話そう。君がゲンドウと決別してまで知りたいのなら話そう。だから今はまだ話せない。異端使の情報については後に送るとしよう。我々は全面的に協力しよう。使徒殲滅は我々の本懐でもあるからね」

 

そう言って徳四郎はリツコから距離を取り、両手を後ろに組み笑顔を浮かべて彼女を見る。

 

「徳四郎中将・・・・貴方はいったい何者・・・・そんな事が本当に出来るの?」

 

「上層部からの認可は既に下りている。問題はない。それではまた」

 

後はそれ以上話す事はないのか徳四郎は今度こそ背を向き歩き出す。心なしか彼の歩き方が何処か『誰かに会うのが楽しみ』の様な足取りの歩き方なのをリツコは唖然と見て溜め息を付く。

 

 

さてさて、ひとつ戦争の話をしよう。大昔、君の世界で起きていた戦争だ。

 

「・・・・・」

 

300年前に勃発したこの戦争は惑星間規模を巻き込んだ戦いだ。

 

ズクッ

 

規模は余りにも大きく、地球圏の統治機構は崩壊、月は荒廃する壊滅的な打撃を受けた。

 

何より注目するべきなのはこの戦争の敵が『機械』だと言う事だ。モビルアーマー。機械による自動化で人類は豊かさも、戦争も自動化を推し進め効率化を求めた。しかしかな人類は効率を求めるあまりとんでもない殺戮兵器を生んでしまった。それがモビルアーマー。あたかも機械が人類を見切りをつけた様にモビルアーマーのAIは人類を鋭利に攻撃するように反応し、人類は己の行き過ぎた業が生んだ結果と言えよう。

 

シンジは見ていた。椅子に座って、目の前の変わりゆく世界を。

 

背中が疼く。厄災戦の話しに反応するかのように。

 

だが人類はいつまでもやられっぱなしではなかった。モビルスーツを開発。これにより人類はモビルアーマーと熾烈な戦争を始めた。それこそが『厄災戦』だ。月を穿ち、人類の疲弊、惑星間への大打撃。

 

その中で特にモビルアーマーとの戦いで活躍したのが『ガンダム』。特別なモビルスーツだった。全機72機にも関わらずそれぞれは確かな戦果を挙げて、ついには勝利を人類に齎した。厄災戦は君のいた世界の年号P.D.0001年にギャラルホルンが発したヴィーンゴールヴ宣言を各国が受諾したことにより戦争は終結。4大勢力の均衡維持で平和が保たれたと言う。

 

「昔の話をして、どうしたいの?」

 

いや、なに。ちょっと注目して欲しい所があってさ。モビルアーマーには天使の名が記されていたそうだ。君の戦った事がある、あのモビルアーマーもまた同じ。名前は『ハシュマル』。

 

目の前に『彼』が倒したモビルアーマーの巨体が現れる。巨大な鳥の様な形状をした機械の塊が頭部の部分がシンジを見つめる様だと『彼』は感じた。

 

ズクンッ!

 

背中の傷が疼く。天使の名を冠したソレに反応する様に。

 

対してガンダム・フレームは『悪魔』の名を冠していた。厄災戦は正に人類を殺す天使と人類を勝利させる悪魔の戦いだった。そして君は今、天使の名を冠した怪物と戦っている。これってさ・・・・ある意味、人類対天使の戦いだよね。

 

「アレが天使・・・・なのか?」

 

使徒はまだ襲来する。異端使も含めて君の住む街に進撃して来る。特に異端使は君を狙うかもしれない。

 

「どうして?」

 

『悪魔』の因子をその身に宿し、異端使は君に計り知れない可能性を感じた。そして異端使はこう考えて君の前に現れる・・・・『悪魔を殺す』とね。72柱の悪魔の名を冠した因子を持っている君を。オールド・ワンが生み出した巨人の力。いずれ来るであろう時まで、進み続けろ『美しい』人の子よ。

 

プラグのハッチを開ける音で目を覚ます。シンジは自分がさっきまで寝ていた事に気づく。若干、ぼーっとする頭を振り、周りを確認する。

 

「よぉ、大将。大丈夫か?」

 

ネルフの整備員が目を覚ましたシンジの様子を見る。

 

「んー。少しスッキリした感じ。使徒はどうなった?」

 

「大将たちのお陰で殲滅は完了。もう一体は飛んで逃げた。だが、大将が戦ってくれて俺たちは無事だ。ありがとうな」

 

そう言って、整備員の彼はシンジに手を差し伸べる。

 

「そうかな?」

 

「そうだよ。大将、さて整備するから。さっさと降りた、降りた。俺達が整備するから大将もシャワー浴びてゆっくり休みな。後は俺達に任せろ」

 

シンジは差し出された手を掴み、引き揚げてもらい。アンビリカルブリッジに降り立つ。そこへ丁度いいタイミングで徳四郎がシンジの元へやって来た。そして彼に軽く手を少し上げ、挨拶する。

 

「やぁ、君が碇シンジ君だね?初めまして、戦略自衛隊中将の御神徳四郎と申す。一目君に会いたくてここに来た」

 

「はぁ、そうなんだ。それで用件は?」

 

シンジは少し身体を慣らす。身体に少し違和感を感じたのか肩を少し回す。

 

「大丈夫かね?」

 

「うん。直ぐに『良くなる』」

 

「そうだったな・・・・君はそう言う体質だった。どうだね?アラヤシキは違和感はないかな?」

 

その言葉にシンジは反応する。

 

「知ってるの?コレのこと」

 

「あぁ、良く知っている。君の叔父や叔母の事も‥‥ユイ君の事も」

 

「母さんを知っている?」

 

徳四郎の口から母の名が出たのを聞いてシンジは興味を持つ。

 

「あぁ、もちろん。君の母とは良き『友人』だった。今でも思い出すと私は君の母と出会えてよかった。その出会いは実に素晴らしかった。そして君との出会いは更なる喜びだ!」

 

何処か懐かしそうに話す徳四郎にシンジは何処か回りくどいモノを感じて切り出す。

 

「それで、僕に何か様?」

 

「あー。すまない。君を見ていたら何処となくユイ君の面影を感じてね。是非会って話がしたくて君の元へ来た。そして、これだけは聞いてくれ。私は君だけの『味方』だ。何か相談があれば是非、私を頼ると良い。何時でもはせ参じる。その事を覚えて欲しい。よろしくシンジ君」

 

そう言って徳四郎は懐からメモ用紙を出し連絡先を書くとシンジに渡す。

 

「なんで僕にそこまで話すの?あんた母さんのなに?」

 

「友達だよ。ユイ君の遺したものを守り徹す。それが私のすべき事。私はEVAの様な兵器を持っていないが君の為に武器や装備を提供は出来る。そしてサポートが私と我々の限界だ。だがそれでも、私は君の助けに全力を尽くす。そして、その先にある君の未来を見たい。シンジ君の迷いのない、矛盾もない、真っ直ぐな君の目が美しい。君の一貫性が、怯まない君が、その覚悟が素晴らしい!鬼神の如きの戦いも、何とも言えない美しさだった!シンジ君!ネルフに来てくれてありがとう!戦ってくれてありがとう!この世に生まれて来てくれて本当にありがとうっ!」

 

徳四郎は演説気味な話と感謝を贈る言葉としてシンジに話す。ネルフ職員は引き気味だけど、シンジは動じず彼の話を最後まで聞いた。

 

 

「・・・・そう」

 

 

「戦略自衛隊はこれからもネルフのサポートする場面で動くつもりで行くからね。よろしくシンジ君」

 

徳四郎が手を差し出し握手を求めるのに対し、シンジはそれに応じた。互いに握手して徳四郎は満足そうに笑顔になり。シンジも少し笑って答える。そして互いに手を離す。

 

「実に有意義な時間であったよ。ありがとうシンジ君。君の未来にPlus Ultra!」

 

「うん。じゃあね」

 

 

その夜。静けさを取り戻した第3新東京市。アスカはミサトの家に戻ったアスカは、布団に包まって眠れない時間を過ごしていた。アスカは何度か寝返りを打ったあと、月明かりに照らされる窓を見つめる。

 

「ずっと、一人が当たり前なのに……孤独って気にならないはずなのに」

 

アスカはシンジの部屋の扉をゆっくりと開けると、静かにシンジの部屋に入り込んだ。シンジは寝息を立てて眠りについていた。アスカは、おもむろにシンジに背中を向けて布団の上に寝転ぶ。

 

「ん、式波?どうしたの?」

 

物音に気づいて目を覚ましたシンジは、異変に気づいて振り返ろうとする。

 

「こっち向かないで」

 

アスカはシンジの動きを声で封じる。

 

「・・・・わかった」

 

とりあえずシンジは普通に横向きに寝る。アスカに背を向けて。

 

「七光り……ちょっとだけ居させて」

 

アスカは息を吐くように小さな声でこっそりと喋る。シンジの手元には握力を鍛える握りグリップが転がっていた。

 

「眠れないの?」

 

「別にそんなんじゃないわよ。ただアンタに言いたい事があるだけ」

 

「そう」

 

「今日、ドサグサに紛れて名前呼んだでしょ。特別にアスカでいいわよ。あたしもバカシンジって呼ぶから」

 

「バカシンジ・・・・僕の事は普通に名前で呼んで良いけど?」

 

「うっさい!バカシンジ」

 

アスカが布団に視線を移す。

 

「ねぇ、あんたってどうしてEVAに乗るの?」

 

「そんなの決まってんじゃん。前に進む為だよ」

 

「進むって何処によ?」

 

少し興味が出て来たのかアスカは少し動く。

 

「みんなとバカ騒ぎしたり、楽しんだり、学んだり、一緒にご飯食べたり、そんな事が当たり前の様な居場所。その為に僕は死なない。その場所に辿り着くまで僕は止まらない。使徒も、あの使徒も全部倒して前に進む。最後まで戦って、この場所を守りぬく」

 

「・・・・バカシンジ・・・・何よそれ、カッコつけちゃって良くそんな台詞言えるわね。そんなに普通の日常が好きな訳?」

 

「好きだよ。使徒を抜きにすれば、ミサトやアスカやレイとトウジ、ケンスケと委員長・・・・みんながいる日常が僕にとってはとても楽しい」

 

「・・・・そう。アンタってそう考えているのね」

 

アスカは声のトーンを下げ、話す。

 

「アスカもどうしてEVAに乗るの?」

 

「そんなの・・・・自分の為よ、EVAに乗るのは」

 

「そっか」

 

シンジの問いに素っ気なく答えるアスカにシンジはそれ以上は聞かず、そのまま寝ようとするが・・・・

 

「ちょっと、もう寝る気?」

 

「ん、もう寝ないと明日の弁当作れないかもしれないし・・・・まずい飯を作る訳にはいかないし。それともまだ話したい?」

 

シンジはそう言って視線をアスカへ移す。

 

「・・・・っ、もう、いいわよ。バカシンジ!」

 

「うん。おやすみ、アスカ」

 

少し頬を赤くしシンジの視線から目を逸らし、話を切り上げるアスカ。シンジの次の意外な言葉に虚を突かれる。

 

「アスカ。一緒に戦ってくれてありがとう。これからもよろしくね」

 

「あんたってホントバカ・・・・」

 

アスカは、シンジの言葉を聞いて、少しだけシンジとの距離、自分の中の自分との距離を見つめなおす。

 

 

 

 

翌朝、空は快晴、学校は生徒で賑わっていた。

 

「さぁてぇ♪メシやメシぃ!学校最大の楽しみやからなぁ」

 

トウジは購買で買ったパンを両手一杯に抱えて、満面の笑みを浮かべて教室へ戻る途中だった。トウジが教室へ入ると、奥の方からアスカの声が聞こえた。

 

「相変わらず、美味いわね。あんたの弁当」

 

シンジの机にもう一つ机をくっ付けて一緒に弁当食べながら話すアスカ。

 

「うん、ウインナーが上手く焼けた。タコの様に切ったから面白いでしょ?タコさんウインナーとカニもあるから。よく噛んで食べてね。明日はもっと別のバリエーションにしようかな?」

 

弁当を見て、シンジは少し考える。

 

「あんただったら、どんなものでも作りそうね・・・・この前は像とか作ったわよね。すごいわ」

 

そんなやり取りをする二人を見てトウジは冷かしを入れる。

 

「なんや?今日も夫婦の日か、ええ仲やで」

 

「夫婦?」「違うわよっ!」

 

アスカは顔を真っ赤にして否定して、シンジはそう見えるのかと?を浮かべる。

 

 

次の朝。シンジはミサトの家のキッチンでウインナーを焼いてみんなの分の弁当を作っていた。

 

「アスカぁー洗顔フォーム貸して」

 

 洗面所からミサトが大声を出す。

 

「いい加減にしてよミサトぉっ!自分で買ってきなさいよっ!」

 

「けちん坊!」

 

お昼を知らせるチャイムの音が校舎に鳴り響くと、トウジはいつも通り上機嫌になって足取りを軽くする。

 

「さぁて、メシやメシ」

 

「んん~美味い。今日はイカの形に切ったのがあるわね。アイツ筋肉のだけじゃなく、料理も出来るなんて何者なのよ」

 

教室でシンジの作った弁当箱を開けたアスカは、一人でもくもくと食べ始める。その時、アスカの席の前に一人の女子生徒が歩み寄る。

 

「あの、アスカさん?一緒に食べてもいい?」

 

恥ずかしそうな顔でアスカにお願いするその女子生徒は、学級委員長のヒカリだった。

 

「いいけど、弁当は分けないわよ」

 

アスカは不思議そうな顔をしてから、さっと弁当箱を手に持って隠すように後ろへ下げる。それでもヒカリは、嬉しそうな顔をしてアスカに自分の弁当箱を持って見せる。

 

「レイ、今日も作って来たよ」

 

窓際で席を作って弁当を準備したシンジがレイにオレンジ色のナプキンに包まれた弁当箱を渡す。結び目には箸入れが刺さっていた。

 

「ありがとう、碇君。いつもありがとう」

 

「うん。今日は身体の具合は平気?」

 

「大丈夫。検査も異常なしと出たから、これからも碇君のお弁当が食べられる」

 

「そっか、それじゃあ僕も味を落とさない様にしないとね。今度、レイの所へ行って料理教えてあげるよ」

 

「うん」

 

シンジとレイが話している様子をアスカはじっとりと眺めていた。ヒカリは嬉しそうにアスカに話掛ける。とても不機嫌そうなアスカはそれどころではない様子だった。

 

「ヒカリ……だっけ?残り、食べていいわよ」

 

 アスカは食べ残した弁当を、ヒカリの方へ肘で押してよこす。

 

「え……?」

 

 

 

「ふぁーお腹満腹っ!ご馳走様でしたっ!」

 

 NERVの食堂で弁当を食べ終わったミサトは、両手をパチンと合わせてお辞儀をする。

 

「遅い昼メシだな」

 

 そう言って加持はミサトのテーブルに缶コーヒーを置くと、後ろからぐるりと隣の席へ回り込む。

 

「あ……ありがと」

 

「シンジ君に作ってもらってるんだって?ま、キミは手料理ってガラじゃないしなぁ」

 

加持は冗談を言いながらミサトの隣にある椅子を引くと、いやに近い距離に腰を下ろした。

 

「……そうねっ。暇のあんたと違って現場の管理職はたんまり仕事があんのよ」

 

ミサトはおもむろにノートパソコンを開いて、加持から目を背ける。

 

「相変わらず真面目だなぁ。まぁそこが葛城のいいとこだが、弱点でもある。この前の時だってリっちゃん

とやり合ったって聞いたぜ?もうちょっと余裕持てよ」

 

「あいにく私の器は責務でいっぱいなのよ」

 

ミサトはノートパソコンのトラックパッドの上で指を持て余していた。

 

「緊張感ありすぎると男にモテないぞ?」

 

「余計なお世話よっ」

 

 カチンときたミサトは加持の方を睨みつけようとした。しかし、ミサトをじっと見つめる加持の目を見て、照れで怒りを吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

NERVの指令室では奇妙な会合が行われていた。御神徳四郎と碇ゲンドウの会合である。

 

「いやはや、久しぶりだね。ゲンドウ君。何年ぶりだろうか?」

 

「・・・・あぁ、まさか君が戦略自衛隊の中将までになっているとはな」

 

「こんな世の中だ。私もまた人類の証を残す為に色々頑張ったよ。その先にある未来へ繋げる為に」

 

指令室の机で両肘を付けながら前屈みなり、手を組むポーズをして徳四郎を見る。

 

「色々手を回してくれてるそうだな。何の真似だ?」

 

「何も、我々は一つにならなければならない。武器の開発やサポートを全面的にやるだけだよ。新しい兵器もそちらに提供した。これなら、使徒との戦いもなんとかできるはずだ。篠原閣下のベイビーはお墨付きだ。敵には使徒だけでなく異端使も出て来た。これからの戦いは苛烈さを極めるだろう。ネルフだけの戦力では確実にやられる。君の言うシナリオも狂い始めているのではないかな?」

 

「・・・・何の事か知らんが、我々の目的は使徒殲滅だ。深入りはやめてもらおう」

 

徳四郎が少しゲンドウに近づき、目線を合わせて笑いかける。

 

「ゲンドウ君、時にハリガネムシを知っているか?」

 

「カマキリに寄生する虫か‥‥どうしたんだい突然?」

 

徳四郎の台詞に冬月が返答する。

 

「カマキリやコオロギ、カマドウマが水の中にいる事があるだろう?アレは全部ハリガネムシの所業だ。可哀想に。水に飛び込んで気づいた時には、溺れ死ぬか。魚に食べられるかの道しかない。宿主をマインドコントロールして、成虫なる時まで体内で成長していた。そして期が熟すとハリガネムシは宿主の脳を操り行動を起こさせる。宿主が入水すると、大きく成長し成虫となったハリガネムシが宿主のお尻から、にゅるにゅるにゅると、でてくるのだよ。そして無事に川に戻ったハリガネムシは交尾をして、また産卵をする。そして宿主にされたカマキリやコオロギ、カマドウマは・・・・あぁ、なんて可哀想なんだ。今まで操られていたなんて、特にカマキリは昆虫の中で強い分類に入ってるのにまさか、その身が寄生されて操られて死ぬなんてとても、とても哀れだ」

 

「何が言いたい?」

 

「ゲンドウ君。君は今も自分が『正常』で今此処で生きていると思っているのかね?いやいや、君はもう、手遅れなのだよ。ゲンドウ君。君がお山の大将でいられるのは『彼女』がいるからなのだよ。都合よくコントロールをしてね」

 

「何の話をしている?」

 

ゲンドウから怒気が籠った空気が出るが、徳四郎は気にせず話し出す。

 

「まだ、察しができない?可哀想に。君は初号機で既に会っている筈だ。『彼女』にそして、『種』を植え付けられた時点で君は詰み。そして君はこの先、礎としてその責を全うするだけの傀儡として未来を終える。解るか?お前は自分の息子の踏み台だ。シンジ君は登って行く。ゲンドウ君はそれを見ている事しか出来ない」

 

ゲンドウは腕を動かそうとして気づいた。自分の腕を『誰かに掴まれている』感触を。そして気づく、身体が動かない。いや、『動かせない』事に気づいた。何故だと思い、自分の腕を見る。そこには、白い腕が、『自分の身体から生えた白い腕がゲンドウの左腕を掴んで離さない。更に別の手が出て来た。その白い腕はゲンドウの身体へと纏わり付き動きを封じる。服の隙間から。上着の袖の中から。女性の白い手がゲンドウの動きを封じていく。

 

(なっ!?なんだこれはっ!!?)

 

気持ち悪い。恐ろしい。そんな現実が今、ゲンドウに起きていた!!そしてさらに、腕からまた別の腕が出て来て、ゲンドウを抑え込む。何よりその光景を冬月と徳四郎は満面の笑みで達観していた。

 

「哀れよのー。哀れよのー。ぷぷっ!ホントに哀れよのー!!ゲンドウ君!!いいよ、いいよ。そのキモさ。とても哀れで、ツボに入りそうだっ!!」

 

「あぁ、さすが○○君、恐ろしい事を考えるものだ。これ大丈夫なのかね?」

 

「平気です。終われば元に戻りますので、ご安心ください」

 

そう言って徳四郎はゲンドウに距離を詰める。そして姿勢を机に抑え込まれているゲンドウの顔近くまで下げる。

 

「どうだね?ゲンドウ君。寄生されて身体をコントロールされてる気分は・・・・気持ち悪いですか?最悪ですか?楽しいですか?わかるかね?これが寄生された生き物達の気持ちだ。これも蟲の効力でね。怖いんだよ」

 

 

「…はい。とても・・・・最高です。(何を言っているんだ私は!?)」

 

 

「うんうん。そうかそうか。解るかなゲンドウ君、この状態こそが正に・・・・」

 

 

徳四郎はゲンドウを立たせて、自分に身体を向けさせる様に動かす。なんと彼は指の少しの動作だけでゲンドウの身体を自分へと直立の姿勢に立たせて向き直させる。そして彼はゲンドウに近づき、肩を組んで顔を見せた。その表情は・・・・・

 

 

 

 

 

「寄生されて哀れな死へ向かう、救いのないカマキリ~!!」

 

 

 

 

憐憫の相・狂笑。

 

 

 

 

そこでゲンドウの意識はブツリと消えた。

 

 

床に倒れ伏しているゲンドウを座布団の様に胡坐をかいて座り、冬月と話をする徳四郎。

 

「それで、そちらの進捗はどうかね?作っているんだろう」

 

「まあね、篠山開発部長の方は楽しく作っている。完成はもうすぐだ。他の根回しもやっていると報告が届いた。初号機の他にも弐号機、零号機の部品もちゃんと届く手筈を作っている。この戦いEVAの整備がちゃんとしてなければ我々は勝てない。パイロットのメンタルもしっかりせねばならん。近直EVAの整備始めなければならん。どうやら、ゲンドウ君や他の上層部は満足に部品の手筈をしてないみたいだからね」

 

「あぁ、それねぇ‥‥ぶっちゃけて言うとお金と資材がね。こんなご時世だから調達がどうにも上手く行かなくてね。すまない。それに初号機には」

 

「わかってるとも、冬月副指令どの。この計画には初号機が必要不可欠だと言う事も全部知っている。だが、異端使が生きていた以上。我々は一丸となって戦わなければならない。その為の地均しはしてある。部品も、資材も取れるさ。それにこの戦いは初号機が必要だ。装甲に変異をもたらす程の自己進化を続けるあのEVAがね」

 

「初号機の自己進化‥‥これは『彼女』か望んでいるのか?」

 

「『彼女』だけじゃないさ。初号機自身も‥‥いや、バルバトスも望んだ結果かもしれない。使徒や異端使を倒す為か、或いはシンジを守る為かだ。あの様子だとダミープラグは受け付けない様になっているだろうし、既に初号機はシンジ君の専用EVAに様変わりしている。封印も危険だ。他のパイロットで動かせてみようものなら精神汚染や、拒絶反応などを受ける可能性がある」

 

「そこまで・・・・ならば、シンジ君を別のEVAに乗せた方がいいのでは?」

 

「やめた方が良い。動かせたとしても、シンジ君の阿頼耶識の器になれない。簡単な話、シンジ君の反応に機体が付いて行けない。それだけシンジ君はすごいのだよ。だから我々は『彼女』の望んだ通りに役目を果たせば良い」

 

「そうだな。ところで、ソレの座り心地はどうだ?」

 

「ん・・・・ぶよぶよする。怠けた肉の感触だ。冬月くんも座るかな?」

 

「いや、遠慮しとく」

 

 

その日の夜シンジは鍋を煮込んでいた。良くかき混ぜて、小皿に少しのスープを注いで味見する。

 

「うん。いいかな」

 

そう言ってシンジは鍋の中のスープを皿に盛り付けたご飯の上にかけて料理を完成する。

 

「今日の晩御飯何なの?いい香りね」

 

「あら、アスカは初めてかしら。この香りは私達にとっての国民的料理の定番カレーライスよ。それもシンジ君特製のね」

 

 

カレーライス。

 

材料。豚バラブロック。ニンジン。玉ねぎ。じゃがいも。カレールー。水。サラダ油。隠し味???。

 

 

アスカの反応に仕事を終えて帰って来て服を着替えたミサトが料理名を答える。

 

「今日は少し隠し味を入れてみたから、良く味わって食べると良いよ」

 

「あらホント?それじゃあさっそく、いただきます」

 

『いただきます』

 

手を合わせて、食べる前の挨拶をする3人はスプーンを取り一口味わう。

 

(これは、辛い?けど・・・・)

 

(旨い。そして仄かに甘い感じもして、これはもしかしてチョコを入れてるのかしら。だとしたら、シンジ君、けっこうな拘りがあるわね。とても美味しい!)

 

そして、もう一口を入れる。噛み締めた米の甘味。良く煮込まれ脂の乗った豚肉。カレーに溶け出した玉ねぎの旨味と形を残した玉ねぎに火を通して生じた甘味。二つの玉ねぎ味が混ざり合い舌をやみつきにさせる!

 

(オレンジ色のニンジンとジャガイモ柔らかく味がしみ込んでいる。なるほど様々な食材の旨味が次々とはじけて混ざっていく。これがカレーライスね!)

 

時折福神漬けで口を休ませ、さっぱりとしたレモン水で初心に立ち戻る。

 

アスカとミサトは今、額や鼻の頭から汗を感じつつも手が止まらないでいた!

 

また匙ですくっては頬張り味わう!

 

(旨い!何なのよこの味。もうこれ、店を出しても良いくらいの味じゃない!)

 

(これがホントのカレーライス‥‥やみつきになる味、シンジ君恐ろしい子!!)

 

複数の旨味や辛味が重なり生じる圧倒的な美味!そして二人は、

 

『おかわり!!』

 

見事なシンクロでシンジに二皿目を求めるのだった。

 

「まかせて。(この調子なら今日でなくなるかな?)お皿取るね」

 

「はーい。お願いしまーす!」

 

ミサトの調子良さそうな声にシンジは顔がほころびる。

 

「これがバカシンジの作るカレーね。あんた、EVAパイロットやめてレストランのコックになっちゃえば?」

 

「いや、僕の料理は特技みたいなものだから、店を開くほどの意欲はないよ。それに誰が此処の家事をやるのさ?」

 

シンジの台詞にドキリとミサトが固まる。そしてアスカは残念そうにミサトを見た。

 

「それじゃあ、まだあるから待っててね」

 

二人の皿を持ってシンジはキッチンへと戻って行って、二人のカレーライスを持って来る。

 

そうして、3人の晩餐は過ぎ去って行くのだった。

 




カレーライスを食べに行きたい。でもコロナ怖い。富士中央病院の辺りにカレーの専門店があるが行けそうにない。未来はあるのかなー

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