使徒を何とか倒し帰還したシンジはミサトにシャワールームまで案内され。
LCLを洗い流した。シンジ的には出た後の濡れる感じが少し苦手だった。シャワーの音と
水が全てを洗い流してくれる優越感を初めて体感した。
「シャワーを浴びるのが、こんなに気持ちいいなんて何時ぐらいだろう?アトラはお風呂は大事だとか言ってたっけ。懐かしい・・・・」
そしてシャワーを浴び終えて部屋から出るとミサトとリツコが待っていた。
「終わったかしら?シンジ君」
「んっ」
笑顔で話し掛けたミサトにシンジは軽く返事をして首を傾げた。
「赤木・・・さん。だっけ?何か用?」
「精密検査よ。EVAに乗った事で異常がないか調べるの」
「ほら、シンジ君。鼻血出たでしょ?怪我も含めて検査したいの」
リツコとミサトの話を聞いて、シンジは少し考える仕草をした。少しして声を出す。
「何か爆発物とか、付けるの?」
「そ、そんな事しないわよ!私達はシンジ君を心配して来てるのよ」
ミサトが慌てて反論するとシンジはミサトを見た。シンジの目が見つめる。時々ミサトは思う、この子の目は中学生男子がする様な目ではないとその目に見られると緊張する。
「んっ。わかった。怪我の方は大丈夫だよ。もう治ったし」
鼻の辺りを触るシンジを見てミサトは優しくシンジの肩に触れる。
「それでもよ。何か異常があったら大変だから」
「ミサトがそう言うなら。わかった」
「良かった。それじゃあ、行きましょ?」
「ん」
安心したミサトはリツコと一緒にシンジを連れてNERVの医療室へ行くのだった。
―医療室。
まずは、身体診断として。上着を脱ぐシンジ。その上半身は鍛えてる所は鍛え。見事な男性の肉体美を体現している。そこでミサトがまず目にしたのがシンジの背中。主に脊椎の辺りにある『傷跡』だった。
「シンジ君・・・その背中・・・」
「ん?あぁ、これ?大丈夫。何ともない。昔に出来たモノだから」
「・・・・これは」
リツコも見て、驚く。まるで『何か』を脊髄に埋め込んだ様な手術跡の様だが。それにしては異様である。
「少し、触っても良いかしら?」
「いいよ」
「ちょ、リツコ!」
科学者ならではの好奇心だろうか。シンジの背中にある『突起を思わせる筋肉の筋』を確かめる。EVAの操縦に何か関係が有るのかと考える。幾ら手術から改善する期間まで治っていたり、鍛えてこうなったとは、あり得ない線を引いていた。
「その背中、後で見るけど。まずは貴方の状態を調べるわ。座って」
「ん」
そして始まる診断。医療に関係する診断を一通り受け。シンジの背中をレントゲン写真やら感度やらX線とかを済まし、それで終わった。ミサトは先に出て行って、服を着て去ろうとするシンジをリツコが引き留める。
「シンジ君・・・・貴方の背中。何か事故で特殊な手術をしたのかしら?」
「んー。叔父さんは『神の祝福』とか言ってたけど・・・・」
「神の?・・・・シンジ君その話。後日聞かせてちょうだい」
「うん。またね。赤木さん」
「リツコで良いわ。またね・・・・」
話し終え、リツコはシンジが去った後、一枚の写真を手に取った。
「シンジ君・・・・貴方は。何者なの?」
その写真は特殊なレントゲンで撮ったモノ。脊髄の部位に影があった。『異様なモノが張り付いている』かの様に写っているモノがあった。
シンジが病室から出るとミサトが待っいた。
「終わったかしら?シンジ君」
「あー。終わったよ。何かうつ伏せになったり、背中を向けて立たされたりしたけど」
「そう。何か酷い事されなかった?」
「いや、何もなかったよ」
シンジの嘘を言っていない返答にミサトは安心した。しかしながら一末の不安はある。あの背中の傷が幼いシンジの身に何かあったのかと心配な気持ちが生まれていた。すると廊下からカラカラと移送ベッドが運ばれる音がした。シンジがその音がする方に目をやると、ベッドの上で仰向けに寝ている少女が通り過ぎる所だった。
「あ、幽霊の人」
「ち、違うわ。シンジ君。彼女は綾波レイ。貴方と同じのEVAパイロットよ」
「そうなんだ。酷い怪我だね」
「えぇ。でも、彼女は貴方のお陰で酷い怪我を負ったまま出撃せずに済んだのよ」
移送ベッドのレイと目が合うがそれ以上は話さなかった。見送った後、ミサトは歩き出しシンジに振り向く。
「私達も行きましょ。シンジ君」
「何処に?」
「貴方の滞在場所を聞きに行くの。良い所に住めるといいわね」
「あるかな?」
そんな、他愛もない話を交わしながらシンジとミサトはエレベーターまで歩いて行った。
「これに乗るの?」
「そうよ。それじゃあ。さっそく」
そう言ってミサトは上の階へ行くスイッチを押す。やがて自らの階にエレベーターが到着してドアが開く。
すると、そこにはゲンドウがいた。
「ッ!?」
ミサトは驚くも、何とか声を出さずにすんだ。初号機を出す前のやり取りを思い出し周りの空気が凍り付く。
シンジはその空気に気にする事なく少し笑みを向けた。
「久しぶりだね。・・・親父」
「・・・・・」
シンジの声にゲンドウは何も言わず、エレベーターから早々に降りて立ち去った。どうやらシンジとは今は関わりたくない様だ。
「し、シンジ君。大丈夫?」
「ん?別に。挨拶しただけ」
ミサトは恐る恐る聞くも、シンジは普通の表情で答えた。何をどうしてか、そこまで『普通』でいられるのか不思議である。親子の関係がこんなモノで良いのかとミサトは思うのであった。
「乗るんでしょ。エレベーター。行こうよ?」
「・・・・そうね。行きましょ」
シンジは何もなかったかの様にミサトに話し。一緒にエレベーターに乗った。
「一人で、ですか!?」
シンジの滞在先を聞いてミサトが驚く。シンジの方は気にする事なく聞いていた。
「そうだ。彼の個室はこの先の第6ブロックになる。問題はなかろう」
係員は規定事項を冷たく告げる。
「わかった」
「それでいいの?!シンジ君」
ミサトは心配して表情を伺う。しかし、シンジは特に気にしてない顔でミサトに返答する。
「住めば都って、叔父さんが言ってた。何とかなるよ。此処の様子だとそれほど酷くないし」
割り切った表情をミサトに見せて答えた。しかし、ミサトはシンジの孤独に自分と同じものを感じたのか、決心をする。シンジの手を握り、ミサトは言う。
「シンジ君。家に来なさい!」
「ん?」
そんな事を言うミサトにシンジは首を傾げた。
「なんですって!?」
研究室でペンを握っていたリツコが受話器から聞こえた内容に耳を疑う。
「だからぁ、シンジ君は、あたしんところで引き取ることにしたから。上の許可も取ったし。・・・・心配しなくても、子供に手ぇ出したりしないわよ」
ミサトは公衆電話で事の成り行きを説明する。しかし受話器のリツコは。
「当たり前でしょうっ!全く何考えてるの!あなたって人はいっつも!!」
ミサトの冗談に反応してリツコは大声を上げる。そしてミサトは耳から受話器を外して苦笑いする。
「相変わらず、ジョークの通じない奴・・・・」
シンジを助手席に乗せたミサトの車は、すっかり日の暮れた地上を走っていた。ミサトは、シンジを自宅に
案内する途中で提案をする。
「さぁ~って、今夜はパーッとやらなきゃね!」
「何かやるの?」
封筒を見て、外の風景を眺めてたシンジがミサトの方を見る。
「もちろん新たなる同居人の歓迎会よ」
ミサトはハンドルを握りながら得意げな顔を見せる。コンビニに車を止めたミサトは、大量の食べ物や飲料を買い込む。シンジは見た。ミサトがチョイスする食糧が弁当である事を。
「ミサト。もしかして、料理出来ない?」
「ギクッ!!」
シンジの台詞にミサトが固まる。どうやら図星の様だ。ばつの悪い顔をシンジに向ける。
「い、良いじゃないっ!今日は豪勢に良い物を選ぶしっ!・・・・そ、それなりに出来るわよ?」
「いいよ無理しなくて。出来ないんでしょ?」
「・・・・はい」
自分の提案で歓迎会とかしようと提案した当事者が料理できないとは、恥ずかしい。コンビニ弁当と飲料水を見て誰もが楽しく出来るだろうか。言い訳を考えたが、シンジの目を見て嘘は通じないと悟ったミサトであった。
「うん。わかった。僕に任せて」
「えっ?」
「叔母さんから、料理の事色々教えてもらったから。一通り出来る」
買い物籠の食糧を半分戻し、残り半分は食材をいれる。今夜のテーマは『肉野菜炒め』。誰もがその気になれば手軽に作れる家庭的料理。シンジは主婦ならではのスキルを活かし、一目で良い食材を見極める。
「シンジ君。本当に料理・・・・作れるの?」
「うん。二人が言うには料理は覚えておいて損はないって。覚えてみて悪くなかった。叔父さんとか絶賛してくれて、楽しかったかな・・・・」
過去を懐かしむシンジを見て。ミサトはシンジの背中の傷を思い出した。聞こえがいい様に話しているが、あの傷跡がもし、もしも・・・・。
「シンジ君。ごめんね。私が提案したのに。この有様で・・・・」
我ながら情けないと痛感するばかりで、謝罪の声しか出てこなかった。シンジは籠に材料が揃うのを確認するとミサトを見る。
「ミサトが僕を拾ってくれた。せめてもの、礼かな。ありがとう」
そう言って。シンジは微笑んだ。その微笑みにミサトの肩の荷が無くなった気がした。次はちゃんとした歓迎会をやろうと思った。
「済まないけど、ちょ~っち寄り道するわよ」
買い物を済ませたミサトは、ある場所をシンジに見せたくて、家とは別の方に車を走らせる。
「どこいくの?」
大量荷物で膨れ上がったビニールを抱かえたシンジは、ミサトの方に目を移す。
「ふふん。イ・イ・ト・コ・ロ」
そう言って、ミサトは車を走らせ。カラッとした態度をシンジに見せる。丁度、街の向こうに夕陽が沈んでいく時間だった。山のふもとから、太陽が最後の光で街を照らし、鮮やかなオレンジ色に染めていた。ミサトは、その景色を見渡せる丘の上にシンジを案内した。
「何もないね」
「これからよ・・・・ほら、時間だわ」
腕時計を見ていたミサトが街に目を向ける。すると、街じゅうにサイレンが鳴り響き、地面のいたるところから高層ビルが伸びていく。
「ビルが・・・・すごいな」
「これが、使徒専用迎撃要塞都市、第3新東京市。私たちの街よ」
ミサトは、シンジにこの街に慣れて欲しかった。少しでも身近に感じてもらおうと、この場所に案内した。ミサトは選ばれた子供の功績を称えたかった。
「そして、あなたが守った街」
「そうか・・・・僕は、守れたんだな」
シンジの表情が少しだけ、笑みを浮かべていた。ミサトもシンジのそんな表情を見て。連れて来て良かったと思うのだった。そして脳裏にシンジの背中の傷跡を思い出した。碇司令との対面でもあの時ゲンドウを激怒させた程の顔をしたシンジ。今の様に安らかに微笑むシンジ。無表情のシンジ。まるでシンジは様々の顔を使い分けてるかの様だ。果たして、本当のシンジの『顔』とはいったい?。そんな事を片隅に思い。共に家へ向かうのだった。
「シンジ君の荷物はもう届いてると思うわ。実はあたしも先日この街に引っ越して来たばっかりでね。さ、入って」
コンビニの袋を手に持ったミサトは、廊下の先にある自分の部屋へとシンジを案内する。
「へー。お邪魔します」
「シンジ君?ここはあなたの家なのよ」
きょとんとするシンジを見かねたミサトはミサトは玄関に入るように促す。
「そして、こういう時はただいまと言うのよシンジ君」
ミサトを見て、シンジは心が少し満たされた気がした。
「ただいまっ」
ちゃんと答えたシンジに、ミサトは明るい笑顔で答えてみせる。
「お帰りなさい」
「まぁ、ちょ~っち散らかってるけど、気にしないでね」
ミサトが部屋の明かりを点けると、辺り一面に缶コーヒーの空き缶と一升瓶の山が出来上がっていた。
出しっぱなしのダンボール。食べ残しのゴミ、散らかった服。
「・・・・・」
シンジは目の前に広がる光景を見て『絶句』した。その時、綺麗好きだった叔母さんの『言葉』が蘇った。
「あっ、ごめん。食べ物は冷蔵庫に、って…シンジ君っ!どうしたの!?」
シンジはこめかみを抓っていた。そして、ゆっくりと。
「・・・・ミサト」
低い声で。顔を上げる。
悪寒がした。ミサトの本能が警告音を鳴らす。『ヤバい』。この時ミサトは気づいた。この子に自分の醜態を見せた場合どうなるか。今気づいても後の祭り。気だるい疲れも吹き飛び。まずい事をしたと後悔の考えで一杯だった。次のシンジの行動に恐怖を覚える。
「しっ、シンジ・・・・くん?」
潔癖の顔。シンジはミサトを見て次の台詞を言う。
「掃除しよう」
「・・・・はい」
ミサトの返事にシンジは行動を開始した。
「ミサト。燃えるゴミと燃えないゴミは分けてって言ったよね?」
「ごめんなさいっ!!仰る通りですっ!!」
「この冷蔵庫は?食材が入ってないどころかビールでいっぱい?」
「すみませんっ!!ホントッ!スミマセンッ!!」
「・・・・これもゴミか?」
「アッー!違うのっ!シンジ君!この子はペットのペンペンッ!!」
「ペットを飼ってるなら、部屋は清潔にしないとダメだって叔母さんが言ってた・・・」
「ホントッ!!スミマセンッ!!ゴメンナサイッ!!」
一匹のペンギンの脇を両手で持ち上げて首を傾げるシンジを全力で止めに行くミサト。夜が長く感じるのをミサトは思った。そして、しばらくして。
「ご、ゴミ捨ててまいりました・・・」
死にそうな顔でミサトが帰って来た。すると部屋から良い匂いが漂って来た。
「お帰り。ミサト。簡単なモノが出来てるから食べて良いよ」
ミサトがキッチンに入るとそこには三角おにぎりが10個と味噌汁が出来ていた。
「お、おお~!ホントに料理出来るのねっ。シンジ君」
「肉野菜炒め。もうすぐ出来るから。おにぎり、少し食べても良いよ」
そう言ってシンジは調理に集中する。ミサトは席に付き。おにぎりに手を伸ばす。そして口に入れる。
「むぐっ!?」
ミサトの口の中で歓喜の音が鳴り響く。ほうばる毎に美味なる味が広がる。
「なっ、なにこれ!?」
素早く二個目を掴み、再び食べる。そして、味噌汁を含むと歓喜のオーケストラが鳴り響く。
「肉野菜炒め。出来たよミサト。此処からは手を合わせてね?」
シンジがそう言って運んできたのは皿に盛った料理。焼き肉のタレが上手く絡み。香ばしい香りが漂い。ミサトの食欲を加速させる。シンジは箸と乗せ皿を準備して、席に付いた。
『いただきます』
食前の挨拶をして、二人は食べ始める。またしてもミサトの口の中で歓喜の歌が響く。肉野菜炒めがこんなに美味しいとは思わなかったと今日、この時思ったのだった。
「ごちそうさま」
「おそまつさま」
ミサトが食べ終え。シンジは皿の片づけをする。
「すごく、美味しかったわ・・・どうやって作ってるの?」
「ん?焼き肉のタレと片栗粉。コレが大事って叔母さんが教えてくれた」
「へぇー。良い叔母さんね。シンジ君」
「うん。味噌汁はたしか?・・・愛情と加減とか?大事だと教えてくれた。美味しかったでしょ?」
「確かに・・・・美味しかった」
ミサトはそう言って幸せに浸る。シンジの背中を見て。ある事を想った。シンジの背中に出来ていたアレ。
シンジを引き取った叔父と叔母によるシンジを育てた環境について。ここまで出来た子が酷い目にあっていたとは思えないが・・・・しかし、ゲンドウとのやり取りや。初号機のシンクロ率。あの容赦のない戦い。この子は何者なのか?。碇シンジとは何者なのか?。と考えが浮上する。ちなみに、ペンペンは無事で、片隅でシンジの作ったご飯をほうばっていた。その様子に微笑んでミサトも改めてラフな格好に着替え終え。皿洗いを終えたシンジのいる部屋に行く。
「・・・・シンジ君?」
「ん?。なにミサト」
部屋の整理をしていたシンジに声を掻ける。少し迷いをしたがミサトは勇気を出して聞くことにした。
「アナタの叔父と叔母ってどんな人・・・だったの?」
「んー。叔父さんは。なんと言うか・・・おもしろい人だった」
「おもしろい?」
ダンボールを床に置き、軽く背伸びをしながら答えるシンジ。
「色々教えてくれた。熊の狩りとか、銃の扱いとか。主に一人でも『何とか生き抜く』術を教えてくれた」
「そう・・・・。あっ、せっかくだし。あっちの席で話しましょう。立ち話も何だし」
「うん。いいよ」
リビングに二人して対面する様に机の椅子に座り。ミサトはビールを用意し、意を決してシンジに口を開く。
「シンジ君。まず、預けられた叔父さんと叔母さんとの生活はどんな環境だったの?」
「・・・・ん」
シンジの目線が斜め上に動き。少し考える仕草を見せる。
「あっ、いやなら話さなくても良いのよ。ただ。アナタが何故あんなに強かったのか知りたいだけ」
「いや、大丈夫だよ。ミサトなら話しても大丈夫だと考えただけ」
「そ、そう?」
その思考もすぐに終わり、シンジはミサトに向き合う。一度ビールを一飲みし、会話を続ける。
「叔父さんは、『おもしろい父親』みたいな人だったかな。ある日、最初に預けられた親戚の家にいた僕の所に来て引き取るって言ってくれたんだ」
「他の親戚に最初は預けられてたの?それでどうなったの?」
「親父が僕を置いて来た所は、僕の事、少し疎ましく思ってたから。叔父さんのお陰で余計な面倒を見ずに済んだとか言ってた」
「・・・そう。大丈夫?シンジ君、これ以上話さなくても良いのよ?」
「平気。叔父さんも叔母さんも、僕の事受け入れてくれて。食べさせてくれて。色々教えてくれて楽しかった」
「そう・・・よかった」
シンジは楽しかった思い出を懐かしむ様に話す様子を見て、心が楽になった。人の過去を聞くのだ緊張を紛らわす為にビールを一飲み。そしてここからが本題だった。
「シンジ君。アナタの背中の傷、何があったの?」
「これ?」
シンジは自身の背中に視線を動かす。
「リツコと一緒に見たの。アナタの背中、主に頚髄の辺りが異様な発達をしてるって聞いたの。もしかして、大きな事故の怪我?」
「んー。事故じゃない。これは僕が7歳になった時に付けるって叔父さんに言われたかな」
「っ!?つける?もしかして・・・・なんかされたの?」
ミサトの頭の片隅に虐待の文字が浮かび上がる。シンジの表情からしてその様な事を受けた子供がする表情ではないと解る。しかし、シンジの口から信じられない事が語られる。
「アラヤシキモドキ。叔父さんはそう言ってた」
「アラヤシキ?・・・・なんなの?」
「確か・・・・古代のある遺跡から発見された『蟲』とか叔父さん言ってた。虫の漢字が三つの方」
「蟲っ!?ムシって何なのシンジ君っ!」
「僕の背中には神経の域まで『寄生』?だったかな?アラヤシキモドキが埋め込まれているんだ。でも、害はない。一度寄生すれば後は体の一部の様に変異するって言ってた。それで手術を受けたんだけど・・・あれ、最初は痛かったかな。叔父さんが言うには寄生しやすい液を注入するから頑張れとか言われたっけ?」
蟲。手術。寄生。神経の域。ミサトの頭に信じられない言葉が記憶される。シンジは特に不快もなく。『普通』に話す。
「埋め込まれてからの7日は安静にって叔母さん。よく看病してくれたな。学校もそれくらい休んだし。一応、何の為にやったのって聞いてみたけど。たしか・・・・『母さん』がどうとか言ってた」
「シンジ君の、お母さん?」
「顔はあんまり覚えてないけど。『良い母親』だった記憶はあるよ。後は多くは語らなかった」
「・・・そう。わかったわシンジ君。もう良い」
ミサトは一度頭を抱えてシンジの次の台詞にストップを掛けた。一度頭を整理したくて深呼吸する。
シンジはそんなミサトを見て首を傾げる。
(蟲?アラヤシキ?何なの?この子はどうして普通にそんな事話せるの?シンジ君のお母さんは確か、死んだって聞いた。古代って・・・シンジ君の叔父さんは何かの考古学者だった?怪しい研究?だめ。理解が追い付かない。一度調べ直した方がいいわね)
「ミサト?」
シンジの声に俯いていた顔を上げる。シンジは表情に変化はないが心配そうな感じでミサトを見る。
「もしかして、気分悪い?」
「いえ、ごめんねシンジ君。そんなんじゃないの。その背中、今は平気なの?」
「うん。もう身体の一部になったから、何ともない。あと、顔の『作り方』も叔父さんに習った」
シンジのその台詞にミサトは初号機のケイジでゲンドウに見せた表情を思い出した。
「表情も、その叔父さんに?」
「うん。叔父さんが『ゲンドウに会ったら、まずは憐憫な顔を見せてやれ。向ける意味はわかるな?』って色々な表情の作り方を教えてくれた」
「そ、そう。いろんな意味ですごい人だったのね・・・・。シンジ君はお父さん嫌い?」
ミサトの台詞にシンジは少し考え。思った事を口にする。
「好きか嫌いかって言われると・・・・あ、僕を見ていたあの姿勢。残念だったかな?親父の顔、僕を何かに利用する様な顔付きだった」
「利用・・・・」
「だから、そう。・・・・残念だな。僕の父親と言う人間は他の父親とは違う。少し会話した時わかった。親父は、僕の味方じゃない」
そう言ってシンジは立ち上がり。背伸びをする。
「シンジ君・・・・」
「ミサト。僕は戦うよ。立ち止まらない。進み続ける。使徒って言う敵が来るなら。これからも戦うよ。誰かの命令とかじゃなく。自分の意思で。ミサトもそうしたんでしょ?」
「私は・・・・そうね。ありがとう。シンジ君」
少し目線を逸らし、ミサトは自分の過去を思い出す。父の最後を。しかし。それも直ぐに改め。シンジを見て礼の言葉を口にする。
「もう寝るよ。話せて良かった。ミサトも何か話したくなったら言ってよ。聞いてあげる」
「あら、そう?じゃあその時は覚悟しなさいよ~。長いんだから」
「うん。おやすみ。ミサト」
そう言って自分の部屋へ歩き出すシンジ。
「あ、待ってシンジ君」
その背中をミサトは呼び止める。シンジが振り向きまだ何かと首を傾げる。
「あ~。そうじゃないわ。ただ・・・EVAに乗ってくれてありがとう。改めて、よろしくねシンジ君」
少し頬を赤らめ、ミサトは左手を出す。
「ん?」
「握手よ。シンジ君」
「・・・・そうだね。よろしく」
そう言って二人は互いに手を握るのだった。
ある自宅に黒服の人達が入って来た。家内には人の気配はなかった。その代わり。リビングのテーブルに字が書かれてた紙があった。男の一人がそれを見ると紙にはこう書かれてあった。
『わたし達は好きにした。あとは君たちの番だ。神のしゅくふくがあらんことを』
その後、ある一軒家で爆破騒ぎが起きたと言う。
虫。ある説では昆虫たちは地球の進化論から外れてると言う可能性があると聞いた。
皆さんは如何思います?。