「ミサト、これ見て」
NERVの研究室でリツコは一枚の写真を取り出しライトボードに張り付ける。その写真は特殊X線で撮ったシンジの背中であった。主に脊髄に蟲の形をした影が映っていた。更にもう一枚、蟲から神経の様な線が脊髄の奥まで届いている様子が映し出された。
「これは・・・シンジ君の」
「えぇ。確かにこれは摘出不可能なくらいの域まで寄生しているわ。脊髄の神経の奥まで根を張っている。まさか、寄生虫の様なモノを子供に植え付けるなんて・・・。シンジ君の言ったとおり旧時代の産物なんてあり得ないわ。EVAのシンクロ率と、動きもこれが関係している可能性は高いわね。その叔父さんって何者なのかしら?」
「ねぇ、リツコ。調べではシンジ君の叔父。『弐瓶竜彦』は猟師と言う情報の他に何かあった?」
「いいえ実は保安部に彼の家へ事情を聴きこみに向かわせたのだけど。着いた時はもぬけの殻だったそうよ」
「そんな事が。それで、どうなったの?」
ミサトは用意された椅子に座り、リツコの話を聞く。
「遺書らしき紙を見つけたと報告にはあったわ」
自分の椅子に座っていたリツコは足を組み、ミサトに起き直る。
「遺書にはなんて?」
「わたしたちは好きにした。あとは君たちの番だ。神の祝福があらん事を。そんな事が書かれていたわ。意味が解らない。何らかの宗教に入っていたのかしら?」
そう言って、リツコは遺書の写真をミサトに見せた。
「・・・・・でも、シンジ君は信者の様な口調とか素振りは見せなかったわ。それでもシンジ君は洗脳されてる可能性があるというの?」
「どうかしらね。一応、彼の脳検査したけど、それらしきグラフはなかったわ。一応、その親戚の足取りを目下調査中よ。そう言えばこの蟲。アラヤシキモドキの『アラヤシキ』って言う語源。聞いたことがあるわ」
リツコは一度タバコを吸い、思い出した事を話す。
「大乗仏教の言葉なの、具体的に言うと人の意識の中でもっとも深い部分のことを指すの。阿頼耶が蔵、仮にこれを『人の肉体』と仮定しましょう。そして識、これは心を示しているわ。人の器に心という中身を入れる事で初めて『人』は完成する。意識の中でもっとも大切なモノが詰まっている『場所』と言ってもいいわ」
「リツコ。もしかして、シンジ君があの『暗い中』民間人を発見出来たのって・・・」
「可能性はあるわね。この蟲は寄生したシンジ君の体の五感を向上させているかもしれないわね。現に彼の視力検査も、聴覚検査も良い正常値を記録していたわ。本来ならば見えにくい所も『見える』くらいにね」
そう言ってリツコは、シンジの検査資料を取り出しミサトに見せた。
「・・・・これは、理想な健康値ね」
ミサトはシンジの叩き出した数値を見ながら呟く。リツコは一服し、シンジのX線写真を見る。
「これだけの情報じゃ足りないわ。ただ、この蟲がシンジ君の脊髄に寄生している事しかわからないの。いっそ手術してみようかしら・・・・」
「リツコッ。それはないでしょっ!」
「冗談よ」
第3新東京市立第壱中学校
ミサトが言うには学生の本分も大事よと言う理由でシンジはこの学校へと転校した。授業を受けてる最中に机のパソコンからメールが届いた。自身がEVAパイロットか否かと言う質問である。シンジはyesと入力した途端周りは驚き、彼に注目する。委員長である洞木ヒカリの一声で場は落ち着き、授業再開した。そしてしばらくすると一人の生徒が話しかけて来た。
「ちょっと、ええか?」
シンジの元に黒のウインドブレーカーを着て、角刈りの頭をした生徒が話しかけて来た。
「なに?」
「とりあえず、屋上へ来いや。話ある」
「・・・わかった」
何やら神妙な顔付きで話しかけて来たので何かあると思いシンジはついて行く。まずは様子見を決めた。
屋上。
「ワイは鈴原トウジ。よろしゅう。んでっ、こっちが相田ケンスケ」
「よろしく。転校生」
二人が自己紹介をして相田ケンスケと言う眼鏡を掛けた男子生徒が挨拶をする。
「うん。それで何か用?」
「転校生。オマエのお陰で助かったっ!!」
突然、ジャージの子が頭を下げる。シンジは喧嘩を想像してたが違った様だ。
「ホンマッ、あんがとなっ!!」
「僕何かした?」
シンジが首を傾げケンスケに問う。
「こいつの妹が避難で逃げ遅れた時な。紫のEVAのお陰で助かったって言ってたんだよ」
「あー。あの時の」
シンジは見つけた女の子を思い出した。鈴原トウジの妹だったようだ。
「妹の怪我は大したもんやない。転校生が暴れて出来た怪我やないとゆうとってな。ホンマ、あんがとっ!!」
「うん、無事で良かった。家族に何かあったら嫌だったし」
「そうか。ほな、少し話そうか。丁度昼休みやし」
「わかった」
トウジは頭を上げ、屋上の丁度良いスペースに陣取り談笑する。
「ケンスケが言うにはな、すげえ戦いやったと聞いたわ」
「そうそうっ、すごいよな転校生。なんかオレンジ色の武器を出したり、敵の動きを封じたりとか聞いたけど、どうやったんだ!?」
興奮気味でケンスケがシンジに聞きこむ。
「あれ?。想像してたら出来た」
「そうなのか、ずげーっ!!」
「しかし、転校生ホンマすごい戦いをしおって怖くないんか?」
「んー平気。戦わなかったら、こっちがやられてた。それに慣れてる」
「ホ、ホンマか。流石、パイロットやな」
少し考える仕草をして普通に答えるシンジを見て、只者じゃないと二人は感じた。
「そう言えば、碇ってよく見ると鍛えてんだな。やっぱ幼い内に訓練してたとか?」
「毎日筋トレしてた。強くならないと何もできない。知ってるんだ。どれだけの楽しい日々があっても、どれだけ願っても、自分達の生きる世界は残酷だって。叔父さんと叔母さんはよく言葉にしてた。この世界は力がなければ生きてけないって。強い人間になって生きるんだとか教えてくれた。『力』がなければ何も守れないのは当たり前・・・・うん。今でも強い人間になる為に僕は止まらない。そして『居場所』を見つけるまで進み続けると決めたんだ」
「・・・・碇」
「・・・・転校生」
「ん?」
シンジが何かに気付く、制服のポケットからケータイを取り出し確認する。
「呼び出しだ。僕行くね、二人と話せて良かった。またね」
「あぁ。ワイもや、あんがと・・・シンジ。ワイの事は名前で呼んでええっ!」
「また、EVAの話聞かせてくれよ。俺はケンスケって呼んで良いからっ!」
「・・・・ん。ありがとう」
歩き出したシンジの背中に声を掛ける二人にシンジは振り返り、笑みを浮かべて去って行った。
NERV本部。実験場。
「いい?シンジ君」
リツコは、再び初号機のコクピットに乗り込んだシンジに声を掛ける。
「いいよ。今日は何?」
背筋を伸ばす動作をしながらシンジは返事を返す。
「使徒には必ず、コアと呼ばれる部位があります。その破壊が、使徒を物理的に殲滅できる唯一の手段なの。ですからそこを狙い、目標をセンターに入れてスイッチ」
「コア?あぁ。丸くて赤いヤツだよね?」
マヤの説明にシンジは最初に戦った使徒の弱点らしい所を思い出す。
「えぇ、そうよシンジ君。それじゃあ始めるわ」
リツコの声を合図にプラグ内の光景が変わる。実験場内から街並みを写したモノに変る。
「へぇー、凄いなコレ。ゲームみたい」
「一応、訓練だからね。シンジ君」
シンジの感想にリツコは微笑ましく答える。シミュレーションの画面に仮想の使徒が現れ、初号機がそれをハンドガンで破壊していく。
「これを的確に処理して。感覚で覚え込んで」
「わかった」
そう返事したシンジはハンドガンを構える。操縦桿を操作し感覚を覚える。
「あら、手慣れてるわね」
「銃の使い方、叔父さんに習ったから。〇の所を合わせれば良いの?」
「えぇ、それがセンターよ。覚えておいてね?」
言われてシンジは何となく、動かす。
「うん、わかった。始めよう」
シンジはシュミレーションの初号機を動かし、ハンドガンを構える。目標の使徒を撃ち抜く。命中。
「結構。そのままインダクションモードの練習を続けて」
「うん」
リツコはコーヒーを飲みながら、コントロールルームの窓から見える様子を伺っていた。ケージの中には、無数のワイヤーに固定され宙吊りになったエヴァ初号機の脳核によって、仮想の戦闘試験が行われていた。
「しかし、よく乗る気になってくれましたね。シンジ君」
マヤがリツコの方を伺う。
「そうね。私も彼の姿勢には時々驚かされるわ、ミサト貴方は?」
「私?そうねー。強いて言えば・・・ご飯が美味しかったわ」
そう言ってミサトはシンジの作った肉野菜炒めの味を思い出す。そして掃除の時のシンジの反応。
「そして、シンジ君はキレイ好き・・・」
「なんかあったのね・・・って言うか貴方チルドレンに料理させたの?」
虚ろな目をして明後日の方向を見て黄昏るミサトを見て、何かを悟るリツコ。
「シンジ君。色々鋭くて、ホント面目ない。今度は私からシンジ君に何かをしなきゃね」
気持ちを切り替えたミサトは改めて、シンジの様子を見る。適格に目標をハンドガンで撃ち抜く動作を繰り返す。
「ミサト。動く的で練習したいけど、出来る?」
「あら、大丈夫なの?」
「動かない的は慣れた。動いてるので慣らしたいかな」
「リツコ。出来る?」
シンジの要望にミサトはシュミレーションを変えられるか問う。コーヒーを飲みながらリツコはマヤに話し掛ける。
「マヤ。お願い」
「はい先輩。いくよシンジ君?」
マヤがコンソールを操作してシュミレーションの的を動く様にモードを切り替えた。使徒の的が左右に動く動作をする。シンジはセンターを合わせ、発砲。そして命中。
「うん。こっちの方がいいや」
シンジはそう言って訓練を続ける。思ってたよりもやる気を見せるシンジに3人は感心した。
「次は別の銃で試してみましょうか?シンジ君」
「いいよ」
ハンドガンから、ライフルに変えて訓練を再開する。少し外したりしたが、直ぐに感覚で誤差を修正したシンジ。
そうして、シュミレーションは無事に終えた。
「そう言えばシンジ君、転校初日からクラスメイトから友達が出来たそうね?」
「えぇ、無事に打ち解けられてホッとしたわ」
ミサトは手すりに片膝をついて足をぶらぶらと遊ばせながら話した。
「あの時、逃げ遅れた子を助けたのが功を成したわね。ホントにあの子はすごいわ。ホントに逞しい」
「その逞しさに、家事やら色々お世話になってるみたいわね。パイロットのメンテナンスは貴方の役目でしょ?」
リツコはタバコを咥えながらミサトを責める。
「えぇ、だけどリツコは知ってるでしょ。私の・・・・家事が、出来ないのを」
「ミサト・・・」
何かを思い出したのか、口元を抑えて凹むミサト。リツコはその様子を見て察した。彼女もミサトの友人あるからよく知っている。家事ができないのを。
「ホント彼ホントに逞しくて私、色々言われたわ。部屋の掃除までされて、色々・・・イロイロ、ウゥッ!」
「ミサト、しっかりしなさい。こんど飲みに行きましょう奢るわ」
「リツコ~!」
ノロノロと進むリフトの中、リツコはミサトの愚痴をよく聞いた。何でも清掃は部屋のモラルだとか、色々『沸く』とか姑の様に言われたと本人は話す。その時の顔が本人曰く、怖かったそうだ。
「それにしても、シンジ君は本当に良く出来た人間ね。いや、『出来過ぎて』いる」
「リツコ?」
「いくら、14歳までどれ程の経験があればあんな目が出来るのかしら?」
「そう、よね。私も一応気になっているの初めてEVAに乗った時の彼、あの動じない姿勢はすごいわね。いくら私でもあそこまではならないわ」
かつて、ミサトは『地獄』を見た。父を失ったショックとセガンドインパクト、それは彼女に声も満足に出せない程の精神障害を患った。そして経過する時間の中彼女は無事に回復した。ミサトはシンジの目に多少の覚えがあった。あの目はこの世の地獄を克服した様な目だ。いや、それ以上の何かを見て来た顔付きと言っても良い。
「あの目、まるでエゾオオカミね」
リツコが呟いた言葉を聞いてミサトも思い出す。小さい頃、母から聞いた狼の話を。
「絶滅したと聞いた。あのオオカミのこと?」
「えぇ。かつて神とも崇められていたケモノ。そして人に滅ぼされた。見ていて彼が何処か遠くへ行きそうな・・・いえ、もう私達の知らない所までたどり着いて人とは違うモノになっているかも」
「シンジ君は人間じゃないと言うの?」
「少なくとも、彼のあの目は人がしていい目ではないわ。ケモノの目よ」
そう、初めて見た時からリツコは彼の異質に気が付いた。レイとも違うあの無表情。並の人間では出来ない透き通った目つき。無道とも言えるモノを宿してるシンジの存在を。
「ミサト。一応、彼の動向に注意しといた方がいいわ」
「・・・・わかったわ」
第3新東京市立第壱中学校・屋上。
シンジは学校の屋上で筋トレをしていた。彼は暇があれば人のいない所で筋トレをやっている日課をつづけていた。しかも、上半身裸で懸垂をしている最中であった。
「・・・・ッ。・・・ッ。・・・ッ」
「・・・・」
その様子を一人の少女が見ていた。怪我をして目に眼帯と右腕に包帯をしている綾波レイがシンジの元へ来た。
「何か用?」
手を放し屋上の地面に着く。タオルを拾い汗を拭いてレイを見る。
「非常招集」
「わかった。すぐ行くよ」
制服の上着を着て、タオルと水の入ったペットボトルを素早くしまい歩き出す。そんな彼の背中にレイは声を掛ける。
「貴方が碇シンジ?」
「うん。君はたしか・・・綾波レイだよね?」
シンジは振り向き、レイを見る。ミサトから聞いた彼女の名を思い出す。紅い瞳がシンジを見る。
「貴方は何者なの?」
「え?」
レイの質問にシンジの頭に?が浮かぶ。シンジは歩き彼女の元に着く。会話をする位置へ。
「碇司令の息子。でも違う。貴方が私に触れた時、温かった。あの時私を見てくれた目が碇司令とは違った。優しかった。貴方は誰?」
レイの問いにシンジ斜めに首を傾げ、解答を考えると同時にゲンドウの笑顔を考えた。しかし、即座に『考えるのをやめた』。考える必要がなかった。そしてレイの解答を答える。
「僕は『人間』だよ。親父・・・父さんと母さんの間で生まれ、赤い血をその身に宿して生きている碇シンジというただの人間だよ」
「・・・そう」
レイの視線がシンジの空いている手を見る。シンジはその視線に気付き、手を少し動かす。
「どうしたの?」
何かをしたそうなレイを見て、シンジが声を掛ける。レイはシンジに視線を移して答える。
「触れても、良い?」
「・・・・いいよ」
動く手の方でシンジの差し出した手に触れた。同じ背丈なのにレイにはシンジの手が大きく、そして温かい何かを感じた。シンジの手を包み込み、華奢な指が感触を確かめる様に、温もりをもう一度味わおうとする様に、レイの指先はゆっくりとシンジの手の輪郭をなぞる。
「温かい‥‥」
「そうか‥‥綾波の手は綺麗だね」
シンジのその台詞に頬を少し赤くした。レイの中に確かな変化がシンジとの出会いで起こっていた。
「碇君の手、大きくて‥‥本当に温かい」
第一発令所では、新たな移動物体が海より接近しているのを捕らえていた。
「移動物体を光学で捕捉」
シゲルが目標をモニターで捕らえる。
『E747も、対象を確認』
「分析パターン、青。間違いなく第5の使徒よ」
モニター情報を確認したリツコが、ミサトの方に振り替える。
「総員、第一種戦闘配置っ!」
ミサトの号令で主モニターが表示が切り替わる。
「了解、地対空迎激戦、用意!」
指示を受けたマコトが号令を掛ける。
『第3新東京市、戦闘形態に移行します』
『中央ブロック、収容開始』
街じゅうの高層ビルが、足元のロックを解除して地下に収納されていく。それと入れ替わるようにして、迎撃用兵器を搭載したポッドが次々と地上に準備されていく。
『中央ブロック、及び第1から第7管区までの収容完了』
ジオフロントの天井に収納されたビルが伸びていく。
「政府、及び関係各省への通達終了」
オペレーターの通知に続いてシゲルが報告を入れる。
『目標は、依然侵攻中。現在、対空迎撃システム稼働率48%』
「非戦闘員及び民間人は?」
ミサトが最終的な確認を済ませる。
「既に、退避完了との報告が入っています」
シゲルが状況を伝える。
『小中学生は各クラス、住民の方々は各ブロックごとにお集まりください。第7管区迷子センターは、第373市営団に設置してあります』
避難所に集まった住民の中にトウジとケンスケがいた。ケンスケは、持っていたビテオカメラでテレビから情報を得ようとするが、『非常事態宣言発令中』の画面に切り替わったままでうんざりしていた。
―――本日午後12時30分、日本国政府より特別非常事態宣言が発令されました。新しい情報が入り次第、お伝えいたします。
「うぅっ、まただ!」
ケンスケはビデオカメラに付いた小さなモニターをトウジに向けて見せる。
「また文字だけなんか?」
「報道管制って奴だよ。僕ら民間人には見せてくれないんだ、こんなビッグイベントなのに!」
その時、地上では国連軍の兵器が使徒に向かって一斉射撃を行っていた。
「税金の無駄遣いね」
リツコは全く効果がない行為に嫌味を言う。
「この世には弾を消費しとかないと困る人たちもいるのよ」
ミサトは、ひとまず関係者が気が済むまでだまってやらせることにしていた。
「日本政府から、エヴァンゲリオンの出動要請が来ています」
早速シゲルから報告が入る。
「うるさい奴らね、言われなくても出撃させるわよ」
腕を組んで立っていたミサトは、低い声で愚痴をこぼす。
エントリープラグケージ。
「碇君。プラグスーツはちゃんと来た方が良いわ。身体をちゃんと守ってくれる」
「んっ?そうなの。上は脱いだ方がスッキリするんだけど、わかったよ」
そう言ってレイの助言に従い。上半身の方を羽織る。しかし、ぶかぶかして上手く着れなかった。少し首を傾げ、どうするのかと考えていると、レイが手伝う。
「碇君。手首のスイッチを押すの」
「あ、これ?」
レイの言う様に手首にあるスイッチを押すと空気が抜ける様な音が出て、プラグスーツがフィットする。
「こんな風に着るんだ。ありがとう綾波」
「いいの、一つ聞かせて、貴方は何故EVAに乗るの?」
「ここで見つけたんだ。やらなきゃいけない事も、守らなきゃいけない事も、『戦う』理由がここにはあった」
インターフェイスを頭部に付け、準備を終えたシンジはレイに声を掛ける。
「綾波は何故、EVAに乗るの?」
「絆だから、碇司令や、みんなとの、そして私には他に何もないの」
そう言ってレイは俯き、自分の手を握る。そんなレイを見てシンジはレイの頭を撫でる。
「碇君?」
「そんな事ないよ。探せばある。自分で探して、自分で見つけて、初めて絆の意味がわかる。命令とかじゃなく自分の意思で、オルガの時がそうだった‥‥」
かつての記憶を思い出すシンジ。鉄華団で過ごした日々の記憶。もうあの頃には戻れないが楽しかった日々を。
何かを決めたのか、シンジは撫でていた手をレイに差し出す。
「綾波‥‥。綾波が望むのなら、僕が『絆』になるよ」
言われたレイが顔を上げ、驚きの表情でシンジを見た。
「どうする? 綾波が自分で考えて、自分で決めて」
シンジの顔と差し出された手を交互に視線を移す。やがてオズオズと手を伸ばし、シンジの手に触れた。シンジは彼女の手を取り、握りしめながらシンジは優しい表情で言う。
「握手。これで僕と『レイ』は仲間だ。これからよろしくね。レイ」
「‥‥うん」
地上の衝撃が、地下の避難所にも轟音として届いていた。
「ねえ、ちょっと二人で話があるんだけど」
ケンスケは落ち着かない様子でトウジの方を見る。
「なんや?」
「ちょっと、ね」
「しゃあないなぁ……」
トウジは友人の頼みを聞き入れる。
「委員長ぉ!」
クラスメイトの学級委員、ヒカリの前にやってきた二人は彼女に声を掛ける。
「何?」
女友達と談笑していたヒカリは会話を止めて振り返る。
「ワシら二人、便所や!」
「もう、ちゃんとすませときなさいよ!」
ヒカリは、しょうがないわねといった様子で、トウジのぶっきらぼうな態度に眉をひそめる。
「シンジ君、出撃。準備はいいわね?」
プラグスーツをしっかり来たシンジがミサトからの通信を聞いて返事をする。
「いいよ。そう言えば、アレ出来た?」
「えぇ。完成したのはつい先日、間に合ったわ」
リツコの返答にミサトが気になる。
「アレって?」
「シンジ君のオーダーよ。メイス。覚えてるでしょ? シンジ君、あっちの方が使い易いって言うから作ったの。シンジ君。メイスは地上で出すからそこで受け取って。あと、飛び道具はハンドガンで良いのよね」
「うん。使い慣れたから丁度良い。バルバトス出るよ」
「発進!」
ミサトの号令で、初号機は地下発射台から打ち上げられた。
「エヴァに名前‥‥」
「いいじゃない、親近感が湧いて」
リツコの呟きにミサトがフォローする。
地上に出たケンスケとトウジは、山の階段を上って、山頂にある神社の広場へと駆けて行く。
「すごい、これぞ苦労の甲斐もあったというもの!おっ!待ってましたぁ!」
使徒の姿をビデオカメラのファインダーに納めながらケンスケは興奮した様子を見せる。すると、丁度いいタイミングでエヴァ初号機が地上のゲートに現れた。
「……出た!」
初号機の右側から一本の柄が飛び出る。それを初号機掴むと引き抜きEVAサイズの鈍器。メイスを担ぐ。左手のハンドガンを使徒に向ける。
『ATフィールドを展開』
エントリープラグ内のコクピットにマヤの音声が流れる。
「なんか、エビみたい。アレが使徒?」
「そうよ。作戦説明したけど、確認ね。まずはハンドガンで使徒の注意を引いて。なるべく広い所に誘導するのよ?」
「了解」
シンジは、射出口の物陰から身を翻して使徒の正面に出ると、ハンドガンを5発連射して使徒の注意を引く。使徒は初号機の攻撃に当たり、5発撃ち終わると使徒がこっちを向く。
「来た。このまま広い所に行くよ」
「気をつけて、シンジ君」
メイスを担ぎ、その場を離れる初号機。使徒から一定の距離をとりながら後退する。ハンドガンを発砲。命中。しかし使徒にダメージはない。
「表面が硬い。やっぱり‥‥内側か」
使徒を観察しているとミサトから通信が入る。
『シンジ君。A16地点まで使徒を誘導。そこで叩くわ』
「わかった。広い所に出たら倒せばいいんだね?」
シンジは使徒に自分を見失わない様に後ろを向き走る。横目で使徒が付いて来てるかを確認しながら動く。やがてミサトの指示したポイントまで着くとハンドガンを捨てる。担いでいたメイスを両手で構え、使徒と向き合う。先手は使徒。光の鞭が放たれるが初号機は躱す。鞭の当たった所は抉られ凄まじい威力を物語る。更に弐撃目。使徒の鞭が初号機に放たれる。
「っ!!」
その攻撃をメイスで受け流す。更に使徒の攻撃が繰り出される。
「しぶとい‥‥」
その攻撃を躱したり、メイスで受け流し、ATフィールドを張って防御する。次の攻撃を掻い潜り、メイスを繰り出す。使徒の腕にメイスの突きを放ち左側の鞭の使用を潰す。次にメイスを振りぬき使徒に叩き込む。
ガゴンッッッ!!!
鋭い音が鳴り響き使徒が倒れる。
「その調子よっ! シンジ君!」
指令所でも初号機の戦う姿はモニターされ、優勢は初号機にある。シンジの強さにミサトは思わず声を出す。
「アレがEVAと使徒の戦いか! なんて迫力満点な接近戦なんだ!」
「ほ、ホンマにセンセが戦ってるんやな‥‥」
トウジとケンスケが遠くから状況を見守る。すると使徒に動きがあった。起き上がり十本の足をグネグネしながら起き上がる。
「お? 起き上がった。なんかやるのか?」
ケンスケが使徒の様子をカメラで確認する。すると使徒の潰された左腕がぶくぶくと膨れ上がり、別の腕に再生した。斧成の腕に変形した。
「再生した! それも別の武器を!?」
リツコが驚きこちらの優勢だった空気が変わる。使徒は初号機に接近し左の斧を叩きこむ。シンジはメイスでいなし、距離をとる。そのスキに使徒は光の鞭を素早く放つ。
ヒュンッッ!!
「‥‥ッ」
初号機は足を取られ、バランスを崩す、地面に激突する。更に使徒が攻撃してくる。斧の攻撃で外部電源ケーブルが切断されてしまう。
「アンビリカルケーブル、断線!」
シゲルが状況を伝える。
「エヴァ、内蔵電源に切り替わりました!」
マコトが初号機の状態を報告する。
「活動限界まで、あと4分53秒!」
続けてマヤが詳細を伝える。
「‥‥碇君」
発令所にいつの間にか、レイがいた。シンジの戦いの様子が気になって来たのだ。モニターにはケーブルを切断された初号機が映る。その様子を紅い瞳が見つめる。
「チィッ!!」
窮地に追い込まれたシンジが舌打ちする。更に近づけば斧と動く鞭による攻撃。距離を取ろうとすれば素早く鞭が初号機に襲い掛かる。なんとか態勢を立て直そうとするがその前に鞭がまた初号機の足を絡み取り放り投げた。宙を舞った初号機は、ケンスケとトウジの居る山の方へ飛来する。
「こっち来る!!」
「ケうあぁぁぁ!」
二人が逃げる間もなく、初号機の巨体が音を立てて山肌に張り付く。
「‥‥っ!?」
コクピットからシンジが二人の気配に気が付いた。
「シンジ君、大丈夫、シンジ君!?‥‥ダメージは?」
ミサトがシンジに声を掛ける。
「問題なし。行けます!」
マコトがパイロットの現状を報告する。
メイスを右手から離さず何とか起き上がる。初号機の空いた手の左手元に目を向ける。
「トウジとケンスケ?」
「シンジ君のクラスメート!」
モニター映し出された二人のプロフィールを見てミサトは驚きの声を上げる。
「何故こんなところに?」
リツコは不測の事態を危惧する。使徒は空中を飛行して山に倒れた初号機に近づくと、容赦なく左の斧で攻撃する。
「‥‥ッ!!」
初号機がメイスでガードするが更にもう一撃でメイスの柄を叩き斬る。二撃目を繰り出そうするがその前に初号機は目の前に強力なATフィールドを展開。使徒を吹き飛ばす。地面に激突する使徒。初号機は斬られたメイスを拾い立ち上がる。
「初号機、活動限界まで、あと3分28秒!」
マヤが残り時間を報告する。
「‥‥邪魔」
二人を一瞥し、起き上がった使徒に向かってボディブローを決める。仰け反り、コアが露わになったところで拾ったメイスを全力で叩き込む。瞬間、メイスの先端から発射された巨大な杭が使徒のコアに炸裂した。
「‥‥ふぅ」
仰向けに倒れた使徒を見てまだ生きてると確認するシンジ。持っていたメイスを落とし、使徒に近づく。
「パターン青、まだ消滅していません!」
マヤが現状を報告する。
「シンジ君。いま、武器を送るからそれで止めをさして!」
「わかった」
ミサトの指示にシンジは初号機を操作して、近くの地面から出たウェポンラックからハンドガンを取り出す。そして使徒を踏みつけ、ハンドガンを向ける。そして、なんの躊躇もなく引き金を引いた。
パンッ! パンッ! パンッ!
発砲音が鳴り終わったと同時に初号機は活動を停止した。
今日はこの辺で、休みをください。