初号機のアンビリカルブリッジにレイが足を運んだ。戦闘を終えた初号機のプラグからシンジが出てくるのを確認したレイはシンジの元に歩みを進めた。
「碇君‥‥」
「あぁ、レイ。ただいま」
シンジがレイを見て小さく手を振りながら歩いて来る。レイは考えていた。シンジの戦いを見て、シンジと話した時を思い出して、ゲンドウとシンジの違い。ゲンドウは零号機の起動実験の失敗に自分を助けてくれた。自分は必要とされている。そう思って彼を信じた。でも、彼が自分を見る目は違っていた。その優しい眼差しは『自分』を見ている目ではなかった。別の人を見ているそんな表情。それでも自分は必要とされている事を思い、彼の言う事に従ってきた。そして、シンジに出会った。彼は初号機のケイジで死にそうになった時、自分を助けてくれた。その時の彼の目は『自分』を見てくれた。触れていた手が『温かかった』。あのぬくもりが忘れられなくて彼に接触した。彼の目を見て話して、彼の手に触れて、彼の言葉を聞いた。『絆になる』それを聞いた時、自分の中に温かい何かが灯した。碇司令に与えられたモノとは違う。決定的なモノが。レイは何となくわかった気がした。
「碇君。私、人間になりたいの‥‥」
「‥‥うん」
シンジはレイの元で立ち止まり彼女の声を聞く。何かを言いたげ顔を見て、聞くべきだと判断した。シンジはこの状況を『よく知っている』。『後悔を知っている』。今聞かなければ『絶対に後悔する』。だからシンジはレイの声に意識を向けた。
「私、碇司令に必要とされてたから。司令の言う通りにEVA乗ったの。それが私の生きた証だと思ったの。それしかないと思ったの。私‥‥それだけが私の与えられた全てだと思ったの」
「・・・・・」
「私、碇君が戦ってる時、不安だった。碇君が使徒に押されていた時、もう碇君の声が聞けないと、碇君のぬくもりが感じられないと思ったの‥‥」
「‥‥うん」
「この気持ち。初めてで、分からなくて。碇君に会えば分かると思ったの・・・・」
「うん」
「碇君に会ったら‥‥私、不安だったモノが無くなった。碇君に会いたかったの。この気持ち知りたかったの」
「そうか‥‥」
「碇君、私。何処かおかしい?」
包帯ギプスをしてない方の左手で自分の胸に手を触れた。自分の心臓の位置に。シンジはそんなレイの頭に手を触れて撫でた。
「おかしくないよ。不安にさせてごめん。僕は生きている。安心してちゃんと帰って来たよ。だから、大丈夫」
「‥‥碇君」
シンジに撫でられて。シンジの存在とぬくもりを感じレイは心に安らぎを安心を覚えた。
「大丈夫だよレイ。それは人間、誰でも持っているモノ。どこもおかしくない」
「・・・・私も、人間?」
「当たり前だよ。そろそろ行こうか? ここにいると他の人達の邪魔になる」
「・・・うん」
しばらくして、シンジとレイの二人はその場を去り。初号機のケイジでは整備員達が動いていた。一人の整備員が端末で初号機の状態を確認する。
「ん? なんだコレ?」
「どうした? 斎藤。異常が見つかったか?」
「いやー。初号機の脹脛の辺り、何か、変なんだよ。何か‥‥形状が少し変わってる様な」
「ん?‥‥いや、まさか」
もう一人の整備員も初号機の脹脛の部分を見た。少しだが、確かに凹みを思わせる部分と突起が見受けられた。その様子に整備員は傾げる。
「確かに‥‥何かアレ、スラスターの様に見えないか?」
「装備、変わっていたのかな? B型装備だったよな?」
「一応、確認しておくか」
「あぁ」
~医療室~。
「うーん」
リツコの検査をシンジは受けていた。機械に胸板を押し付けて調べる検査をしたり、心拍の検査を受けたりと出撃した後のシンジを調べていた。その様子をレイは眺めていた。付き添いにミサトも一緒である。現在、シンジはベットにうつ伏せになり、背中を調べられている。
「もういいわ、シンジ君。お疲れ様」
「終わった?」
「えぇ。異常なしよ」
シンジはうつ伏せから起き上がり、上体の背伸びをする。リツコは手に持っていたカルテを見ながら少し考える仕草をした後シンジに声を掛ける。
「シンジ君。幾つか聞きたい事があるのだけど良いかしら」
「いいよ」
「シンジ君はEVAに乗っている時、背中に違和感はある?」
「んー。繋がってる感じ」
「繋がっている?」
シンジの返答にリツコの眉が少し動く。レイとミサトもシンジの台詞に不思議に思う。
「それは何時から感じたのかしら?」
「初めて乗った時から。バルバトスと一つになった感じ」
「シンクロ率が高い影響ね。それじゃあ重要な質問をするわね」
「いいよ、なに?」
シンジはベットから座っている姿勢で前に立つリツコを見る。
「ATフィールドをあんな風に武器に使う事が出来るなんて、幾ら貴方が『普通じゃなくても』あり得ない」
「ちょ、リツコ・・・・」
少し棘のある質問を感じたミサトは思わず声を掛ける。リツコは気にせずシンジに問いを投げる。
「どんな手段を使ったの?」
シンジは目を瞑り首を傾げて考えた後、姿勢を戻し、目を開き話す。
「バルバトスが教えてくれた」
「・・・・は?」
シンジの台詞にリツコは思わず間抜けな声を出す。
「初めて乗った時かな。中が水みたいなので満たされたら、感覚的に起動したのがわかった」
「あの時・・・・」
ミサトは初号機が起動に成功した時を思い出す。あの時の彼の叩き出したシンクロ率の数値。シンジは驚いているリツコの様子を見ながら話す。
「続けて良い?」
「・・・えぇ。いいわ。詳しく聞かせて」
カルテを握りしめ、シンジの声に集中するリツコ。
「バルバトスの動かし方とか、AT、フィールド? の使い方とか頭の中に流れて来る感じ」
「そんな事が・・・・あり得ない。貴方の背中にあるモノが影響してるのかしら?」
「んー。そんな感じだと思うよコレ」
そう言ってシンジは自分の背中を触る。突起の様な塊が3本出来ている彼の背中、仰向けで寝るには問題はない程度の突起ではあるが、些か不憫に思う所はあるだろう。背中の背骨が三か所浮き出てる風に発達しているのである。リツコはとりあえず、そう。とりあえず一息入れるため、机の所に行きコーヒーを飲む。一気飲みの要領である。
「フッ・・・・それでシンジ君。頭が痛いとか、何か・・・・感じなかった?」
「んー。別に普通かな」
「そう・・・・・」
リツコは眉間を抑えて考えを整理する。そして、ゆらりとシンジの所に振り返り。彼に近づく。肩を掴む。両手で
「お願い。もっと深く、調べさせてっ!!」
鬼気迫る顔でシンジに詰め寄った。
「リツコッ、冷静にっ!!」
「私は知りたいっ!!。貴方の『構造』をっ!!」
「いや、危ないからっ!!。今のアンタ危ないからっ!!」
ミサトはヤバイと思いリツコを後ろから引き留める。何かが消えた目でシンジに迫るリツコをミサトは必死に抑える。
「離して、ミサトッ!!。シンジ君には絶対に何かあるわっ!!。EVAの影響とは思えない何かがっ!!」
「リっちゃんやだ、怖いっ!!。いつものリツコに戻ってっ!!。冷静にっ!!。冷静にっ!!」
暴れるリツコを抑えながら、説得するミサトをシンジとレイは眺めていた。その様子を見かけた職員も駆けつけて事なきを得た。とりあえずシンジはその様子を見ながら考えたこと呟く。
「晩飯、作らないと・・・・」
そして、リツコを何とか収めシンジとミサトは帰宅した。ついでに・・・・
「それじゃあ、二人とも今ご飯作るから」
「はーい」
「・・・・・」
レイも一緒にとシンジが晩食の時間へと招待した。最初は途惑うミサトだったがレイがシンジと一緒にいたそうな顔をしてたので了承した。そして台所から良い香りが漂って来た。その匂いにミサトは見覚えがある。
「シンちゃん。今日も味噌汁作ってくれるの?」
「うん。今日は少し食材を変える」
「そう、楽しみ♪」
「味噌汁?」
レイには初めて聞く料理の名前に興味を持つ。彼女も内側から湧き出る温かい高揚感がシンジの作る料理に香りに刺激され。知りたくなった。
「えぇ。美味しいのよ、シンちゃんの作る味噌汁。何度食べても飽きないわぁ~」
「美味しい・・・」
「ふふっ。貴方も食べれば解るわよ」
楽しみにしながら、ミサトは箸を揃えシンジの料理を待ちわび、缶ビールを飲む。
(前に作ったのは定番を具に入れた。なら次は・・・・)
シンジは考えながら、今日の前菜に出す味噌汁の材料を並べる。
長ネギ少々。
油揚げ適量。
豆腐1/4丁。
乾燥わかめ2g。
だし入り味噌『料亭の味』。
だし汁が入った鍋。
シンジは長ネギを小切りにし。豆腐を手際よく。さいの目切りにする。続いて、乾燥わかめを水に戻し、水気をきって。一つの皿に纏めておく。『仕込んで』おいた鍋に具を入れ、煮たせる。次に味噌を溶き入れ、煮たせない様に注意しながら火を入れる。そして、沸騰する直前に長ネギを加え。少しかき混ぜ、火を止めて完成。
「出来たよ」
そう言って、シンジは御椀に入れた味噌汁をレイとミサトに前菜として出した。
「ありがとう、シンジ君。今晩は何?」
「今日はミサトには牛薄切り肉の甘辛煮。レイには別なの出す」
「あら、どうして?」
「レイは肉が苦手みたいだから」
「そうなの?」
ミサトは意外と、思いながらレイに聞く。その問いにレイは頷く。
「肉は血の味がして・・・好きじゃない」
「そ・・・そう。でもお肉は食べといて損はないわ。特にシンジ君の料理したのはそんなの忘れそうな程美味しいわ」
「碇君の料理・・・」
「でも、無理ならいいわ。好き嫌いは誰にだってあるもの」
「はい」
「さ、シンジ君の作った味噌汁を食べましょう。冷めるのはもったいないから」
「わかりました」
そう言ってミサトが手を合わせるのを見てレイも手を合わせ、いただきますと言うミサトに続いて自分もいただきますと言う。まず、ミサトが一口。
「あー。この爽やかな味。温まるわー♪」
ミサトの様子を見てレイもお椀に口を付け味噌汁を飲む。するとレイにとっては今まで感じたことのない味を感じた。それはとても温かく。心が落ち着く味だった。
「ぽかぽかする」
レイの感想を聞いたミサトは微笑んで「そうね」と機嫌の良い返事をする。調理しながらその声を聞いていたシンジもまた笑みを浮かべ、ミサトのご飯を作っていた。
(あたたかい。碇君の料理。あたたかい)
この味と温かさを綾波レイは忘れる事はないだろう。そう思いミサトとレイは前菜の味噌汁を食べていく。
そして、シンジは調理を行う。ミサトに振る舞うご飯は、牛薄切り肉の甘辛煮。
牛肩ロース薄切り肉、150g。
長ネギ、1/2本。
オイスターソース、大さじ1。
塩コショウ、適量。
小麦粉、大さじ(目安)。
シンジは調理台に牛肉を並べ、食べやすい形に切る。次に塩コショウをして、小麦粉を全体にまぶす。次に長ネギを斜めに切り分ける。
フライパンを強火でかけ、油を入れて、まぶした肉と切り分けた長ネギを入れて炒める。肉と長ネギ。そして塩コショウの香ばしい香りが二人の鼻を擽る。
「んー。良い匂い、楽しみだわ♪」
「これが、お肉・・・・」
味噌汁を食べ終え。シンジの調理する姿を眺める二人。
「そろそろかな?」
肉に火が通ったのを感じると中火にしオイスターソース回しかけ絡めを終えれば完成である。
シンジは皿を用意し、フライパンから大皿へと料理を分ける。そして炊いていた米飯を茶碗によそい。
ミサトの元に食事を並べた。鮮やかに。慣れた手付きである。
「はー。今日もおいしそうだわ。いただきます♪」
「うん。レイの料理もすぐ出来るから、待ってて」
「・・・・うん」
そして、シンジは調理に入る。彼は事前に用意していた食材を取り出す。それは『豆腐』である。取り出した豆腐をザルに入れ、キッチンペーパーを引いて1時間程水を切り。玉ねぎ、ニンジン、レンコンをみじん切りにしてキッチンペーパーでこれも水切りをとり、大きめのボールに入れてこね回し、まんべんなく混ざるまでこね回した『食材』を中火で熱したフライパンに油をひいた。
「あら、もしかして今朝準備していたモノ?」
「うん。レイに食べてもらおうと思って作っておいた」
「良かったわね♪。レイ」
「・・・・うん」
レイは初めて抱くこの気持ちに頬を赤らめ俯く。この時の気恥ずかしい気持ちと『嬉しい』気持ちを理解した。
シンジは更に丁度良い熱さになったフライパンにレイが食べやすい大きさを形作り、焦げ目が付くまで焼く。そこから立ち上る香りをシンジの作った料理を食べながらビールを飲むミサトと味噌汁を食べ終えたレイの鼻を擽る。シンジは形が崩れない様にひっくり返し、蓋をして、一分ほど待つと弱火にして2~4分ほど焼くがシンジは2分の方まで焼いた。蓋をとり、両面に焦げ目が付いたのを確認するとお皿に乗せた。
(次は・・・と)
「ごちそう様~♪」
「お粗末様。レイもすぐ出来るから」
その後、シンジはタレを作る。
醤油。大さじ4。
みりん。大さじ4。
砂糖。大さじ4。
全ての材料をフライパンに入れタレを作る。中火で混ぜ合わせ、完成したのをハンバーグに搔ける。野菜を盛りつけ。完成。茶碗にご飯をよそい、レイの元に運ぶ。
「召し上がれ、肉無し豆腐ハンバーグ。味噌汁お替りする?」
「・・・・うん」
「ん、わかった」
「あら、これも美味しそうね」
レイの御椀を取り。まだ残っている味噌汁を入れる。そして、レイの元に置く。初めて見る色鮮やかな料理にレイは食欲が沸くのを感じた。ミサトがやっていた動作。手を合わせ。
「いただきます」
箸をとり、食事を味わう。今までこの様な食事は彼女にとって初めてなのだった。
豆腐ハンバーグに箸を伸ばし、割ると簡単に割き。想像してたのとは違うほど柔らかく切り分ける事が出来た。
口に運び、シンジの作った豆腐ハンバーグの味を噛み締める。それは、とても美味なる味わいであった。
一噛みするごとに豆腐ならでは柔らかい食感。こねて混ぜ合わさった野菜の噛みごたえ。
ソースの甘さも絡まり、彼女の食欲を加速する。自然と箸が進み食べる事に夢中になる。
温かく、ご飯が進み、盛りつけていた野菜も食べる。
「これが・・・美味しい。温かい」
野菜の切り分けも良く。形も食べやすい。一口で丁度良い。ハンバーグにかかっているソースも上手い。
肉を使っていないのにここまで美味しく作ったシンジの豆腐ハンバーグと言うモノは彼女の空腹を満たしていった。モグモグと口を可愛く動かしながら食べるレイを見て、ミサトは微笑む。
「どう?。シンちゃんの作った豆腐ハンバーグ。あ、飲み込んだ後でいいわよ?」
そして食べ終えて、箸を置く。
「・・・・美味しい。こんなの初めて」
「そう・・・・、良かった」
手を合わせレイもまた。食後の挨拶の言葉を言う。これを言わなければいけないと、この時レイは思った。
「ごちそうさま」
リツコの研究室。
赤城リツコ。彼女は科学者であり、彼女の知性はEVAの開発に大きく貢献してきた。高性能なスーパーコンピュータですら作ることも容易ではない。今まで、EVAについては『知らない事はなかった』。だが、予想外の出来事が今、起きていた。碇シンジ。彼が来てから、初号機の起動。シンクロ率。ATフィールドの武器。斜め上の出来事が起きた。そしてこれからも起きる事を彼女は知った。
「初号機の足に出来たこの形状。まさか・・・・ATフィールドで動くスラスター?。装甲が変化してる?。あり得ない。何なの、コレ?!」
整備班の報告で初号機の両脚部の脹脛の辺りに妙なモノが出来ていると報告があった。調べるにつれ、それは確かな確信へと変わって行った。
「初号機が自己進化している?。でも、装甲まで?。あり得ない。どうやって?。いえ。あり得ない。でも、もし、そうだとしたら・・・・」
リツコの脳裏にシンジの背中にあるモノが浮かぶ。リツコはシンジの検査をする時、背中のアラヤシキモドキと言う彼の肉体の一部になった蟲の写真であるモノを写し出した。神経の構造である。彼の背中、主に脊髄の辺りの神経が『独自』の神経構造を写していた。それがどんなモノなのか、なんの為にあるのかと考えた。解る事はEVAのシンクロに作用すると言う事。EVAの動かし方とATフィールドの使い方を瞬時に、負荷もなく彼に記憶した事である。それしか知らない。解らない。碇ゲンドウの息子でありながら、あんな風になれる男をリツコは知らない。果たして彼を引き取ってくれた叔父や叔母は彼に何をしたのか?。リツコは強い疑問を覚えた。そして予感した。初号機の自己進化。碇シンジが引き起こす『何か』。全てが変わって行く予感を。
「シンジ君。貴方は一体・・・・何なの?」
豆腐ハンバーグや、グルメの展開がうーん。どうか、不自然感じません様にとお願いします。