「いいか、小僧。人間の醜悪とは頭が良いぞ。残酷だし。群れを作るし。厭らしい。お前は、そんな人間の醜態性をどう思う?」
暗い、ひたすら暗い世界。そこに一人、上半身裸で剥き身の己を晒す少年がいた。
彼は四つ這いになって、姿勢を低くし、右手には刃物を持っていた。
「・・・・怒りが湧く」
少年の返答に、声の主はすぐに答えた。
「そうだっ!!。実に不快だっ!!。その人間がお前の仲間に手を伸ばす。奪って、玩具にしようと考えて、行動をするっ!!。その間、力のないお前は何をする?」
「考える。守り抜く・・・・『思考』と『準備』をする。『行動』をする」
「そうだっ!!。考えて動けっ!!。何もしなかったら終わりだっ!!。『思考』してるだけのヤツも、『準備』してるだけのヤツも、『行動』っ!!。何もしなければ意味がないっ!!。奪われるだけだっ!!。そして、奪われた奴らは口々にそろえてこう言う」
「僕には力がありませんっ!!。力がないので、何もできませーんっ!!。けど神様が力をくれれば何でもできまーすっ!!。奇跡でも起こればできまーすっ!!。ヒーローになれませんから何もできませーんっ!。ごめんなさいっ!。超能力が目覚めれば何でも出来まーすっ!!」
少年背後から、
「才能がない。能力がない。一山幾らの凡人。もはや、ゴミだなっ!?。だが、決めるのはてめぇ自身だっ!!。力があれば出来ると思ってる奴は鍍金だ。剥がれたら終わりよ。何かやると決めてぶん回した時点でてめぇの勝ちだっ!!。運。知恵。そして根性だっ!!」
「それがない?。くだらねぇ事言ってんじゃねぇぞ餓鬼どもっ!!。妄執に浸る種なし野郎どもがっ!!。腰抜けっ!。ヘタレっ!。劣等人種になりてぇか?。なるんじゃねぇっ!!。進めっ!!。抗えっ!!。動けっ!!。行動をしろっ!!。根性出せっ!!。腹の底から気合を出して、回転率を上げろっ!!」
「立ち止まるなぁ!。前を見て進めっ!。この世の地獄を駆け抜けろっ!!。『動いたヤツ』は正解だっ!!。転んでも、立ち止まっても、また進めっ!!。覚悟を決めて、ぶん回せっ!!。答えはその先だっ!!」
少年は気配を探り、腹に力を入れ、耳を澄ませ、鼻を動かし、姿勢を低くし、目を開く。
駆け抜けるっ!!。刃物の手を強く握り、駆け抜けて『対象』に
少年の目にはまだ、対象が生きているのを確認すると次は確実に殺すため急所へ刃を突き立てた。
息絶えたのを確認。少年はゆらりと立ち上がる。
「良くやった。上出来だ。さぁ、次だ。『想像』しろ。この『理不尽』の世界で、お前のすぐ隣には何がある?」
朝。人間の活動は日の出に始まる。碇シンジも例外ではない。彼は早く起床し、早朝のランニングと筋トレをしてシャワーを浴びて、朝食を作る。同居しているラフ姿のミサトと一緒に食事をし、身支度と歯を磨き。そして・・・・。
「それじゃあ、ミサト行って来る!」
「えぇ。いってらっしゃーい」
「弁当あるから、それを食べてね」
「はーいっ!」
制服へと着替え、鞄を背負い、用意した手作り弁当を机に置いとき学校へと行く。
「あっ、シンジくーんっ!!」
「なに?」
ミサトがシンジを呼び止め、忘れていた事を話す。
「シンジ君のクラスメイトだけど、ちゃーんと叱っといたから大丈夫よ。だから、あんま二人を責めないでね?」
「うん。わかった」
そう言って、立ち止まったシンジは再び学校へと歩き出す。歩きながらシンジは外の様子を見る。布団を干し、埃を叩く主婦。犇めく電柱と電線。通行人達が闊歩するコンクリートの世界。太陽の光を受け発電している集光システムビル。線路を走るカートレイン。そしてモノレール。高いビル。建築物。etc.。
「すごいな・・・・」
我ながら、ここまで高いモノが聳え立つ街をシンジは見たことがない。かつての故郷にはそんなのは『なかった』。覚えている、畑の匂いと。何処までも広い大地を思い出しては自分は本当に違う世界へと足を踏み入れたものだとシンジは思うのだった。そこで、シンジは学校への通行をはずれ。ある場所へと行く。
「レイ。待った?」
「ううん・・・・」
工場の音が鳴り響く音が聞こえる所にあるマンション。その入り口で蒼い髪のショートヘアーでシンジの通う学校の女子制服を着てるアルビノ少女がいた。彼女はシンジの方に歩いてくと彼の問いに返事をし首を小さく振る。
「お弁当、作ったから食べてね?」
「・・・うん」
「じゃ、行こうか。遅刻しちゃう」
そう言って、シンジはレイに手を差し伸べる。彼の手を見つめて後、レイは彼の手を取る。
「ねぇ・・・碇君」
「ん、なに?」
一緒に歩きながらレイは少し迷いながらも、シンジの手を握り。少し頬を染めて次の台詞を口にする。
「味噌汁・・・・食べれる?」
「もちろんだよ。ポットに入れて来たから、一緒に食べると美味しいよ」
「・・・うん」
あの温かい味を味わえる喜びを知った。シンジと会って、一緒にいて、空虚だった器に明るい灯が点いた様だった。シンジに自分は人間だと答えてくれた事が彼女の中で『喜び』と言うモノを理解した。そして今でも、シンジと手を繋いでいると彼女の精神が落ち着く。シンジの手が『本当』に温かいと。
第3新東京市立第壱中学校。
「よ、よぉ。シンジっ!!」
「トウジ。ケンスケ・・・・おはよう」
「おはよーさん。センセ」
二人がシンジの所にやって来た。二人とも何処かぎこちない。そんな二人を見てレイは目尻が少し鋭くなった。
その視線に二人は怯むが、トウジが前に出て頭を下げた。
「スマンッ!!。センセッ!!。ワイが悪かったっ!!」
教室内で、トウジがいきなり頭を下げる様子に数少ないクラスメイト達の注目が集まる。
シンジは特に気にする事なくトウジを見て首を傾げる。
「ん。どうしたのトウジ?」
どうどうと落ち着かせて頭を上げさせる。トウジは後悔の感情が滲み出ている表情をシンジは見つめる。トウジの手は強く握られ震えていた。
「センセ・・・ワイは」
そんなトウジの肩にシンジは触れ、落ち着かせる。
「大丈夫だよ。トウジ。もう、怒られたんでしょ?」
「センセ・・・・ワシは」
「もう良いよ。でも、二人とも二度とあんな事しないでね。二人がいなくなったら、嫌だからさ」
「碇・・・・」
二人を宥め、シンジは自分の席に鞄を置き色々机に置く。そして一つの弁当箱を取り出す。レイも二人を一瞥した後、自分の席に付き。鞄を置く。
「レイ。はいコレ、弁当」
綺麗な包みを彼女に手渡す。レイは弁当を受け取り、その包みの中身とシンジの机にあるポットを交互に見て期待した目をシンジに向ける。
「食べて・・・・良いの?」
「お昼にね」
少しションボリしたレイを見て、シンジは彼女の頭を撫でた。
ネルフ本部。指令室。
「まさか、初号機が自己進化とはな・・・・。ATフィールドを展開して跳躍する構造とは、実に驚きだ」
「・・・・あぁ」
がらんとした空間で冬月とゲンドウが中央に設置された机に向かっていた。
「計画に支障が出ると老人達が騒ぐと思ったが・・・特に音沙汰なしか。シンジ君の性格があそこまで変わるとは、彼を引き取った二人はよくやってくれたな」
冬月は詰め将棋の本を片手に、ゲンドウに話しかけながら桂馬を指した。
「お前が思っていた予定とは違う行動をとったな?」
「・・・・わかっている。支障があれば修正するまでだ」
ゲンドウは、肘をついて顔の前で手を組みながら、落ち着いた表情で答える。
「あんまり、強引な手段はやめた方が良いぞ? あれ程の強さを失うのは痛手だと私は思うがね。初号機の戦いを見ただろう? 幸い、心臓部までは影響は出ていない。様子見と行こうじゃないか?」
「ああ。そうだな・・・・」
「レイを接近させるまでもなかったな。あの性格だ。自らの意思で残って戦ってくれるなら都合が良いだろう。碇、あんま私情は出さない方がいいぞ? 私の『勘』が彼に手を出すのは『危険』だと言っている。あの顔を見てわかったよ・・・・余程の修羅場を経験した顔だ。我々では手懐けれない可能性もある」
冬月が一通り話し終えるとゲンドウは机から立ち上がり、離れていく。
「・・・・ならば始末してしまえば良い」
そう言って彼は出て行った。その後ろ姿を見ながら冬月は飛車を掴み、裏返す。
「・・・・ユイ君の忘れ形見によくそんな事、言えるな」
初号機は、冷却液に浸かり静かに佇んでいた。扉が開き、ゲンドウが一人ケイジに入ってくる。彼はアンビリカルブリッジを渡り初号機の顔の前に立つと、無言でそれを見詰める。
「・・・・ユイ。私は、お前に会うために此処まで来た・・・・それでもお前はシンジを選ぶのか? もはや、人の目をしていない『アレ』を選ぶのか? 何故だ・・・・『あの時』もそうだ。お前は何故、シンジを愛せる」
ゲンドウは己の心境の残滓を口にする。少し話した後、次を話そうとした時。初号機のケイジを照らす明かりが消えた。何事かと思い上を見上げたとたん・・・・怖気がした。
「ッ!?」
自分の周りに何かがいる。恐ろしいモノが恐ろしい空気が、寒気が、ゲンドウを覆う。暗闇の中、ゲンドウの目があり得ないモノを見た。女性がいる。見覚えのある女性の影がそこにいる。すると明かりが少し回復する。薄暗い明かりが初号機のケイジを写す。
「・・・・ユイ?」
白い白衣を纏って、レイに似た髪型をもった大人の女性がそこに立っていた。顔に影が繋っており表情が見えない。髪の色も、体格も、ゲンドウは知っている。彼女が何処にいるのかも。しかし、シンジの母は、ゲンドウの愛した女性は、忽然と
ゲンドウの目の前に現れた。
そして、彼の顔に白い両手が伸びる。
ゲンドウは動かない。いや、動けない。身体が動かない。目が、指が、足が、『動かせない』。
白い手がゲンドウの両頬を触る。そして、掴む。顔が、少し下を向いていた顔が上がる。
(・・・・っ!!)
ゲンドウは見た。愛していた女性の顔は、嗤っていた。恐ろしく。恐ろしく。恐ろしく。笑みを浮かべていた。
彼女の目は眼球は黒く。瞳孔が赤く輝いていた。口は三日月の様に、ニタリと裂けていた。
顔が近づく。ゲンドウの鼻先まで顔が近づく。何処からか音がする。それは虫が這いずる様な音が聞こえた。
その音は目の前の女性から聞こえた。彼女の口が開いていく。彼女の口の中は暗く何も見えない。だが。
ゲンドウは見た。口の中がただ暗かっただけでなく、『蠢いていたモノ』で覆い尽くされていたのだ。
彼女の口の中には、口の中には・・・・。
ぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎち
『蟲』と言う『蟲』が、蠢いていた。
そして女は、ゲンドウに口付けを交わし。『蟲』を流し込んだっ!!。
そこで、彼の意識は消えた。
「・・・・ぃかり、いかり・・・・碇っ!!」
「ッ!!」
目を覚ました時、男はゲンドウはストレッチャーの上で目を覚ました。傍に控えていたリツコや他の医療スタッフ達が彼を見下ろしていた。そして、自分はびしょ濡れだと気づく。
「ふ・・・・冬月、わ・・・・私は?」
「おまえ、LCLに溺れていたんだぞっ!? 何があった!?」
「・・・・・」
ゲンドウは自分の記憶を辿る。
覚えていない。何も、初号機を見ていた所までは覚えている。だが、その後は覚えていなかった。
覚えているのは、『女性』。『恐怖』。『〇〇〇』。思い出すのを本能が拒絶した。思い出そうとすれば・・・・
ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ
恐怖がゲンドウの体の中を駆け巡る。思い出したくない。思い出したくない。しかし、身体は覚えている。魂には刻まれている。自分何かをしたのは『女性』の様な存在だと。それだけは覚えていた。次の瞬間、ゲンドウは嘔吐して、ストレッチャーから転げ落ちた。
「お、おいっ!。碇っ!。しっかりしろっ!!」
その場で蹲り、またゲンドウは吐く。冬月はゲロに引きながらも彼を介護する。医療スタッフ達も駆け寄り。落ち着かせ、ストレッチャーを立て直し、彼を乗せて移動した。
第3新東京市立第壱中学校。
次の日の事だった。シンジとレイが登校した日にトウジが渡り廊下に来て欲しいと呼び出しがあった。
シンジ一人との事、シンジはレイを教室に送るとトウジの元へ行った。そんな彼をレイは密かに尾行した。
「さぁ、手抜きは無しや、ええから早うせい!せやないと、ワシの気持ちもおさまらん!」
「・・・・・はぁ?」
シンジは首を傾げる。彼は自分を殴れと言っているのだ。
「ま、こういう実直なやつだからさ。頼むよ」
「いや、面倒い」
そう言って、去ろうするシンジだがトウジが引き止める。
「たのむ!ワイに落とし前を付けさせてくれっ!!シンジ、センセに殴られなきゃ気がスマン!!」
トウジの真剣な発言にシンジは興味を示したのか、振り向き彼を見る。
「落とし前か・・・・うん。わかった」
「よしっ!! ばっちこいっ!!」
シンジはトウジと距離を詰め、右手の拳を振りかぶる。
「それじゃあ、トウジ・・・・」
その時、トウジは震えた。シンジの存在が大きく見えた。
「歯を食いしばれ・・・・もう、戦場に出て来ないでね?」
そしてシンジは『気持ちを込めて』トウジを殴った―――――――。
メキッ!!
どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!。
この時、トウジの世界は回転した。世界の色彩が煌めき。本人曰く『峠』を見たと・・・・・
その現場を隠れて見ていたレイとトウジの様子が気になって見に来た洞木ヒカリがその現場を目撃した。
「鈴原ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
次も頑張るぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!