01 第一艦隊から連絡がありました
6月10日
「第一艦隊から連絡がありました」
処理中の書類から顔を上げて問い返す
「定時連絡って事は予定通りに事は終わったのかな」
内線で済む事を敢えて私の執務室に足を運んで報告に来てくれるのだから相応に対応しないと後が怖い
「……予定の目標は達成されています、が……」
何故そこで止まる、どうもこの事務艦は私に不安を感じさせる事に生き甲斐を見つけている様な節がある
「何かな」
表面上はなにも変えないまま続きを促す
「ドロップ艦と合流した様です」
それがどうした、と言いかけて止めた
まだ、事務艦の言い分が終わっていない気配を感じたから
「初期艦だそうです」
「それは目出度い「目出度くありません!!」……」
びっくりした、この事務艦いきなり眉と目尻を釣り上げて迫って来やがった
頭突きされるのかと、また気が付いたら医務室の天井を見る事になるのかと
「失礼しました」
私のビビリぶりにやり過ぎたと考えたのか距離を取って様子を窺ってる
「何か問題があるのかな」
目元がびっくりしたままなのだがこの際置いておこう
「初期艦は大本営での研修が義務付けられていてこの鎮守府の戦力に成り得ません、ドロップ艦は即戦力なのに」
事務艦の不満がようやくわかった
建造直後の艦娘は大体が艤装の扱いに不慣れで海上航行も見ている方がハラハラするくらいの技量しか持ち合わせていない
ドロップ艦はそれと違い大体が鎮守府の訓練過程を修了したくらいの技量は持っている
「そこは考えようでしょう、初期艦が増えれば鎮守府も増える、鎮守府が増えればこっちの負担は相対的に減る事になるんだから」
この事務艦は何故か私にジト目を向けてきた
「???」
事務艦の考えが分からず首を傾げようとしたら突然、私の真正面に鎮座している執務用の無駄にデカイ机の天板をブッ叩きやがった
「司令官、ウチの鎮守府が他所から何と呼ばれているか、御存知ですか」
上目遣いって聞いていたのと違ってコワイんだな、とか余計な事を考えたのが伝わったのか事務艦のテンションがおかしな方向に飛んでいった
「保育所ですよ、保育所!幼稚園ですら無いんですよ!!ドンだけ下に見られてんですか!」
「お、落ち着こう、な、」
「落ち着いていますよ!落ち着いているからこそ冷静な判断と情報分析が出来るんです、……出来ない方が良かったぁ~ぁ」
激昂したかと思ったら落ち込んで泣き出すし、どうしよコレ
「なんかあったの?」
声に釣られてそちらを見れば執務室の扉を半開きにして覗き込んでいる駆逐艦と目が合った
「いつもの発作だ」
「あっそ、こっちは遠征に行くよ」
「わかった」
キチンと扉を閉めて行くあたりなかなか行儀が良い、ウムウム
「司令官、発作って、何ですか、なにを関心してるんですかぁ~」
あ、何処かで事務艦の眼に見えない何かを思いっきり踏んだらしい、これはいけない
しかし事務艦の方が速かった
「他の鎮守府はドロップ艦が教導してるから技量が見る見る上がるのに、ウチの鎮守府はドロップ艦といえばいつも初期艦じゃないですか、これで誰が教導するんですか、建造艦が建造艦を教導したって「そこまでにして貰えるかな」……」
いつの間にかなっていたゲンドウポーズからそう言うと事務艦は表情を無くした
事務艦の不満は詰まる所鎮守府の運営方針に問題があるという事で司令官職に就いている私への不満
それは分かってる、分かってはいるが
「申し訳ありません、出過ぎました」
艦娘っていうのはどうしてこうなのか、いつも疑問に思う
「前から言っているけど、理屈としては事務艦の方が正論なんだから、大本営に報告して対処を求めるなり、転属希望を出すなり、打てる手はどれでも取ってくれて良いんだよ」
我儘で始めた事だ、通せる限り押し通す、そう決めたんだ
「いえ、事務艦として司令官を補佐します」
「ありがとう」
敬礼する事務艦を見てふっと思い出した
「そういう事務艦も建造艦だよね」
事務艦の腕が私の方に伸びてきたらしい画を視界に見た気がした
「ここ……は、医務室か」
司令官職に就いてから幾度この天井を見ながら目を覚ました事か、両手で数えられなくなってから憶えていない
「起きたか、軽い脳震盪だそうだから暫く安静にしていろ」
声の方を向くと第一艦隊を率いていた筈の艦娘がいた
「あー、悪いな、出迎え出来なくて」
「気にしてたのか、皆に伝えておこう」
なんだそれ、そこは気にするだろこれでも司令官職に就いてるんだし
「そんな顔をするな、我々を出迎えた事務艦の顔で大体の事情は察したし、いつもの事だからな」
なんだよそれ、いつも事務艦にKOされて医務室の主になってる様に聞こえるぞ
「だからそんな顔をするな、悪く言ってるつもりはないぞ、寧ろいつも通りで安心だ」
ハッハッハッと笑いながら言われると色々スッキリしないがそこは置いておこう
「で、そっちも変わり無しか」
「ああ、変わりない」
「そうか」
寝起きで蛍光灯の光が少し眩しかった事もあって腕で目を覆う
「なあ、提督よ」
「なんだ」
「提督の考えは理解してるつもりだしそれを分かった上で協力すると決めたのは私だ、何かあれば、何があっても私は提督についていくよ」
突然何を言い出してるんだ、頭の中に疑問符が並びかけた所で気がついたコイツの勘違いに
「ちっょと眩しかっただけだぞ」
「……ならいいんだ」
やっぱり勘違いしてやがったか
「長門こそいいのか」
コイツの勘違いはどこかで正さんといかん
「?何がだ」
「この鎮守府ではその力量を十分に発揮する機会もままならんだろう、もっと戦力として活用してくれる鎮守府へ行きたくはないのか」
「それは命令か?」
眼光に鋭さが加わるのが分かる
「いや、ただ長門の判断に疑問を感じたから」
おい、馬鹿を見る眼を向けるな、次いでアホの子を見る眼もだ
そんでそのクソ長い溜息はなんなんだよ
「それは散々話しただろう、提督が気にするのは分からないではないが、それだけで身の振り方を決めた訳ではないぞ」
「私の初期艦がああなっているのは私の所為だ、おまえを庇ったからでは無いぞ」
「……それは聞いた、が、妖精さんもわからないと言っているのだろう、提督がああするのは至極当然だと私は考えるが」
「その考えに引き摺られる必要はないと言っているんだ」
「「その考えは私の考えでおまえの考えでは無い」」
ワザとハモってくるとはコイツ分かってやってんのか、それとも……
「それも聞いた、耳にタコって程にな」
不意に出てきた軽口につい睨んでしまった
睨み返されたんだけど、どうしようか
「まあ、気長にやるさ提督の下でな」
睨まれたのは僅かな時間だった