6月21日
夜半、目が覚めたのは日付が変わった頃だった
まったく半端な時間に起きてしまった、寝直す気にも成らず小銭と煙草を持って寝間着のジャージのまま外に出た
あの後、普通に通常営業してたと思う
思うってのも変だが、その時々でやる事はやっていた覚えはある、しかし時系列で覚えていない
目の前の事象に反射的に対応にしていただけ、になっていた様に思う
爺様の言い分、突然の視察終了、返ってきた筈の日常、どれを取っても今は現実感が薄い
その薄いまま通常営業していた、のだろう
こんな状態では司令官など務まらない、艦娘におんぶに抱っことかそんな司令官ならいない方がいい
そもそも、何故司令官という役職が設定されているんだ、そういうのが必要なら艦娘にそういう教育を受けさせて育成すれば良い筈だ、大人の都合で設定されたのかとも考えてみたが、国際機関である事から日本的な利権構図が罷り通る事は疑わしい
そこが掲げてる看板を額面通りに取れば世界中の海上貿易の保全を目的としてあの正体不明な深海棲艦とか呼ばれてるのを相手にする事になってる、艦娘部隊は国際海洋航路確保の為の実働部隊という位置付けだし、なにより実戦部隊だ
平和ボケと称される国の都合が優先されるというのは考え辛い
海洋敵性なんたらが暴れたとかで海運会社が保険会社から見捨てられ無保険の出入港を認めない世界中の港で船舶が身動き出来ずに海上物流が停止状態になった時のパニックは良く覚えてる、幾ら日本の官僚でもあれを引き起こしたい奴はいないと思いたい所でもある
あのパニックの中で太平洋の小さな国が艦娘の存在をアピールしたんだっけ、あの時日本は艦娘を独占しようとしていると全方位から非難された、早くからその存在を知っていたらしい野党が国会で内閣を追及してる真っ只中だったしな
詳しく調べた事はないが、そんな時勢にタイトロープを渡りきったのがあの爺様だ
気がつけば艦娘部隊を国際機関として立ち上げ、その最初を日本に開設させた
どんな手品や魔術を使えばあの情勢下の日本に実働部隊を持ってこれるんだか
私が司令官職に就いたのはそんな頃だった、自衛隊基地で周期的に行われる一般開放イベント、その催しで艦娘部隊参加者募集中との張り紙を見かけたのがきっかけだった
あれはなんなんだろうな、参加者募集で司令官職に就くとは思ってもみなかったよ
この事からも司令官に求められているのは二つだけだと分かる
それは艦娘と話す事と妖精さんとどうにかして意思疎通を図ること、私の場合は妖精さんとも話しが出来るとわかった途端五、六人のごっつい自衛官に囲まれてなにをする間も無く部外者立ち入り厳禁の奥の奥まで拉致られたが
あれ以来自衛官は苦手なんだよね、実は、まあ、余計な事するよりお仕事しようと割り切ってはいるが、そこを割り切れるだけのものはもらってるし、仕事は仕事だし
……言い訳並べないとならないくらいには苦手だ
「なにをしてるんだ、こんな時間に」
びっくりした、誰もいないと、誰かいるとか思いもしない夜の闇の中から突然のかけられた声に吸い込んでいた煙草の煙が変なとこ入ってむせてしまった
「……なにをしているんだ、まったく」
おい、その死にかけた蝉を見下ろす様な眼をコッチに向けるな
「理不尽だ、まったくもって理不尽だぞ」
不愉快だと全身で語りつつ隣に座ってきた
「な、なにが、だ」
まだむせてる、声がちゃんと出てこない
「寝ていたら、ウチの初期艦に叩き起こされた、本人は一向に目を覚まさないのに何故私が叩き起こされねば、ならんのだ、これを理不尽と云わずなにを理不尽というのだ」
「そいつは、間違いなく理不尽だな」
「わかってもらえて、うれしいよ」
そういう顔は不愉快なままだけどな
「今度、叩き起こしにきたら、聞いといてくれないか」
「?なにをだ」
「本人を叩き起こす方法、をだ」
一息付いた長門は
「それはもう、聞いているだろう」
そう応えた
「あの話、実行しろと」
「それを決めるのは私では無いぞ」
「そうなんだが、な、」
「案ずるな、この長門、提督についていくと既に決めている」
「そいつは、たのもしい、な」
「今の言い様、疑問形に聞こえたが、私では荷が勝ちすぎる、というのか」
「荷が勝ち過ぎるのは、私の方だよ、あいつが目を覚ますまでは、って思ってたけど、その見込みもない内に、こんな事になるなんてな」
「弱音なら、吐き出す相手を間違えているぞ」
「弱音、か……長門にはいたのか、吐き出す相手」
「?なんの話だ」
「あいつに鍛錬されてた時、お前はそういうのを一言も言わなかった、それを思い出してな」
「提督よ、鍛錬といっても相手は駆逐艦、私は戦艦だぞ、どこを見たらそんなものを吐くなどという事になるのだ」
「お前、毎回大破してたじゃん」
あ、拗ねた
「毎回ではない、稀に良くある、程度だ」
「あの時は幾ら何でもやり過ぎだと思ったんだけどな、結果としてはあいつの鍛錬は成果を出した、長門も期待以上に良くやってくれる、ここから、だった、始まる筈だった」
「出鼻を挫く様な事になってしまったのは、幾らでも詫びる、しかし「あれは、あいつの周辺警戒不足だ、艦隊行動中に他に気を取られるとか、有り得ん」……」
「旗艦が私でなければ、結果は違った「お前が旗艦でなければあそこまで辿り着けなかった、もっと手前で足踏みしてた、長門が旗艦だから目的を達成出来たんだ」……」
「なにより、あいつは自力航行して帰って来てる、資材も修復剤も揃ってた、誰も、妖精さんですら予期していなかった、修復溶液に浸かったまま、目を覚まさなくなるなんて」
「提督は方々に解決策を求めていたが、大本営の初期艦や妖精さんまでもが有り得ないとしか答えを返さなかったな」
「あれには驚いたよ、有り得ないのはお前らだろーがってな、でもあれで実感できた、妖精さんの技術や艦娘ってのは謎の塊だってね」
「何を今更、そんな事は初めから分かっているではないか」
「頭ではね、でも艦娘は理屈ではどうにもならない存在だって思い知らされた、だから理屈抜きで最善と思える事をしたんだけどな、結局只の我儘でしかなかった」
「我儘だと思っていたから、皆に選択させたのか、ここに残るか、他に移るのかを」
「司令官と言ったって民間登用の素人だ、代わりは幾らでもいるだろう、でも、艦娘はそうじゃない、それであってはならない、と、私は考えているんだ」
「提督の代わりなど、居よう筈もないではないか、なにを言いだすんだ」
「……そう言ってくれるのは有り難いし、長門はそういうサービスするやつじゃないのも、わかってはいるんだけどな」
「?サービス」
「リップサービスって知らんか」
「ああ、それは知ってるが、そう思われるのは心外だ」
「私としてはそうであった方が分かり易いんだけどな、そうではないから分からなくなる」
「分からなくなる、とは」
「艦娘にとって司令官ってのは、なんなのだろうかな、と」
「?言ってる意味が、わからんが」
「まあ、そうなるよな、あー、変な事を聞いても、いいか」
「今の提督は変だぞ、だから、今更だ、なにを聞きたいんだ」
「艦娘が司令官をやれない理由って、なんだろうな」
「規則でそう設定されている、何故それを設定しているのか、そういう話か」
「まあ、そんなところなんだが、私はこれこそ艦娘部隊最大の理不尽ではないか、そう思う時がある」
「私に言わせればそう思われる事の方が遥かに理不尽だが」
「?なんでだ、艦娘は身体能力も演算能力も語学能力だって人の平均値を超えている、なのに、司令官には人が就く、なんでだろうな」
「……わかってるだろう、それを私に言わせたいのか、流石に断るぞ」
「?」
「そんな恥ずかしい事出来るか」
「??」
なんの話をしてるんだよコイツ、恥ずかしいって、勘違いのパターンか
「ともかく、既にこんな時間だ、少しでも休んでおく事だ」
お、これは戦術的転進ってヤツかな、長門の背を見送りながら、もう一服着けた