「スケジュールの変更はありませんか」
執務中に事務艦が聞いてきた、運用計画は立てたし、何のスケジュールだ
「滞在許可は二週間です、その後はどうされますか」
ああ、そうね、滞在期間もうすぐ切れるね、予定では大本営送りなんだが、そういうわけにもいかないんだが、規定上はそうせざるを得ない、さて、どうしたものか
どうするにしても叢雲と話さなきゃならないな
「あの初期艦はいまどうしてる」
「行動中止命令のあった日から、叢雲さんの所にいる事が多い様ですが」
あの日から、叢雲の所に、ねぇ
叢雲と話してくれと言われて探し回って見つけた時にあの初期艦は寝ているウチの初期艦の隣に座りじっとあいつを見つめていたっけ、冗談で鏡見てるのかって言ったら通じなかったが
「予定通りに進める準備をしておいてくれないか」
何故意外そうな顔してんだよ
「準備、ですか」
「必要な書類とか申請書とか申し込みの類いとか、色々あるでしょ」
「ありますが……本人の記入が必要です」
「……その本人の記入が必要な書類を揃えて欲しいんだけど」
なんだよ、その納得顔は、もしかして私の言い回しが悪いのか
昼飯時に食堂で聞き込んで見た所、近頃見かけていないと返ってきた
なにをやってるんだか
そんなわけで夕飯時に連れ出そうと叢雲の所に行った
叢雲は以前と変わらずじっと見つめていた、コイツあれからずっとこうしてたのか
「夕飯に行こう」
コイツが高等な冗句を理解しない事は前回で分かってる、なにをやろうとしているのか、こちらになにをさせたいのかも聞いた、それに私は答えていないのも分かってる
どんな反応が返ってくるか、正直少し怖い
「司令官……私はいい、ここにいる」
おいおい、なんだこの大人しい駆逐艦は、ここは「何しに来やがったこのヘタレ」、ぐらい生きの良い返しが欲しい所なんだが、せめてコッチを向くぐらいはしてくれ
「司令官?」
頭に手を乗せてみたら、ようやくコッチを向いてくれた
「飯食いに行こう」
その困った顔はどういう事なのか、誰かおしえてくれ
「私が見た資料に書いてあった所によると艦娘は人と同じ様に飲み食いするとあったが、お前さんは、違うのか」
「それは、違わないけど、合ってもいない」
コイツ困った顔のままだな
「合ってない?というと」
「艦娘は艤装の補佐により、人と同じ様に飲み食いしなくても済む様に作られている」
ん、なんだって、作られてるとは
「?そう作られているの、艦娘は」
誰に、と聞きそうになった、コイツ変な所で変な方に誘導しやがる
興味が向かないわけでは無いが、ここに来た目的はそれじゃない
「そうか、それで、それは夕飯を食べない理由になるのかな」
「えっ、理由?……ええと、うーん」
やっとこ表情に変化が出て来た、もうちょいだ
「腹減ったろ、腹が減っては何とやらだ、飯に行こう」
なんか、顔的にはポカーンなんだけど、眼だけが違ったんだよこの時
「あー、司令官が叢雲ちゃんとてーつないでるー」
食堂に入るなり駆逐艦に見つかった、挙句コレだ
あっという間に食堂にいた駆逐に取り囲まれた、中には食器を持ったままのやつまでいる
「食事はキチンと座って食べなさい、途中で席を立つなら食器は置いて来なさい」
「えー、そんなことより、なんでてーつないでるの」
聞く耳なんぞありゃしない、どーするか、このじゃりども
「人気者じゃないか、良いことだ」
背後からかけられたこの声、間違いなくヤツだ
「長門、いたのか」
「いるさ、運用にゆとりのある計画だからな」
嫌味に聞こえたのは私の性根の所為にしておこう
「ながとー、司令官が叢雲ちゃんと手を繋いでるんだ、なんでー」
お、駆逐が長門にも絡みだした
「ん、手を繋いではいかんのか」
「いけなくないよ、なんでぼくとつないでくれないの」
そうだ、なんでー、と大合唱になってしまった
「わかった、ではこの長門が皆と手を繋ごう」
一瞬、静まった、後、私に群がっていた駆逐達は長門に群がり、長門が引き連れていった
「あー、なんとかなった、飯にしよう」
手を引いた時僅かに抵抗を感じ、そちらを見るとまたしても困った顔をしていた
「どうした」
「長門、さんに気を使わせてしまった、司令官にも」
「長門なら、あれを見て」
引き連れて行った先で駆逐達に囲まれている長門はとても良い笑顔だ
「長門は駆逐艦とああしてる時が一番楽しそうだ、私から見るとね」
「……」
「私が気を使うのは、職務上の事でもある、貴方が気にする必要は無い」
おっと、そんな悲しそうにするなよ、本題はこれからなんだから
「取り敢えず、腹一杯食おうか、話は後にしよう」
「ご一緒してもいいかしら」
叢雲と向かい合わせで飯食ってるところに声がかかった
「あ、構わないが、そちらもいいかな」
頷く叢雲を見てから、どうぞと言っとく
「珍しいですね、司令官の周りが静かなんて」
叢雲の隣に座りながらいう駆逐艦
「ああ、長門が引き受けてくれたからな」
「相変わらずね、ウチの初期艦はあれ、結構困ってた見たいだけど」
私の隣に座って来たのは柔和な笑みを絶やさない軽巡だ、笑みが消えた時は逃げるに限るが
「?困る、なにが」
「ほら、短期錬成でかなり強く当たってたでしょ、今更甘い顔なんて出来ないってね」
「それ、こちらの初期艦があの長門さんにって、事ですか」
お、叢雲が入って来た、この話に思う所でもあるのか
「そうよ、建造で長門が出て来て、それはもう大喜び、直ぐに戦力にするって張り切って教導も買って出てね」
「……あれ、ホントだったのか」
なに、その呆れ顔
「?なんのお話かしら」
「あ、妖精さんから聞いてはいたんです、そのお話し、ただ、その、内容が……」
あっ、察した、アレを見ずに聞いただけなら分かりすぎる反応だ
「叢雲ちゃんはそのお話し、工廠の妖精さんから聞いたの」
「いえ、本人の妖精さんからです」
あ、聞いた駆逐艦が固まった、次いで柔かな笑みを浮かべていた軽巡からも笑みが消えた
「そのお話し、詳しく聞きたいのだけれど、この後時間、あるかしら」
「ないな、この後は私が予約済みだ」
笑みを消した軽巡がそれ以上の行動に出る前に先手を取りに行く、流石にここで逃げるわけにはいかない
「あら~、予約なんてしてるの~」
「司令官!そんなことしてどうするつもりですか!!」
おおう、狙い通りとはいえ食いつき過ぎだろ
「滞在期間がもうすぐ終わる、色々話をしないとな」
「あ、お仕事、ですか」
「そうね~、初期艦だもんね~、仕方ないわ~」
そのあとは平穏に飯食って終わった
「えっと、話とは、なんでしょう」
夕飯後に以前面談した部屋で本題に入る、違うのは前は二者面談だったのが今回は事務艦がいて三者面談になっている事か
「大本営で受けることになる研修についてです」
おい、なんでそんな泣きそうな顔をする
「司令官はそれで、このままでいいんですか」
泣き睨みとは器用な事をする、とか感心してる場合ではないな
「前に説明した通りこの規定には例外がない、この過程は回避出来ない、私の権限はそんなに大きくないからね、お前さんは言ったな、障害が大きいだけだと」
泣き睨みのまま頷く叢雲
「その大きい障害を私一人で超えろと言うのか、お前さんはそれを見ているだけか」
「?」
しまった、コイツ高等な冗句を理解しないヤツだった、締まらないじゃないか、ここで滑るとは格好悪過ぎる
「司令官は貴方の要望に応えるつもりです、ですが貴方の要望はとても難易度の高いものです、そこで協力してもらいたいのです」
「??」
「こちらは用意を整えておこう、後はお前さんが大本営でどうするか、だ」
「えっ、でも私はもう貴方の初期艦から妖精さんを譲られてる、このまま大本営に行ったら……」
「工廠の妖精さんから聞いた所によると、ウチの初期艦はあの状態を維持するだけなら問題ないそうだ、起こせなくはなるけどな」
「当たり前でしょ、もう妖精さんはほとんど着いていない、起こした所で艤装は扱えなくなってる、艦娘としてはもう「終わってるんだろ」……」
知ってる、妖精さんに聞いたから、あいつが妖精さんを譲ったのも、初期艦を呼び続けたのも、あの話は全部妖精さんから裏が取れてる
「あいつはもう目覚めない、なら私一人が我儘言っても誰にもなんの得にならない、寧ろ鎮守府にとっては不利益どころか実害になりかねない、お前さんの話に乗る事にするよ」
「……つまり、大本営でここへの着任辞令を取って来いと、そういうコト」
「そういう事になるが、改めて言っておく、貴方がこの鎮守府に着任するのは極めてと言わざるを得ないほど無理筋だ、実現性の可否はお前さんが判断していい、無理だと判断したらそんな辞令に拘る必要は無い、なにしろ大本営にはクソ官僚が一杯だ、無理はするなよ」
「フッ」
お、なんだ鼻で笑いやがったぞ
「私を誰だと思ってるの、特型駆逐艦五番艦叢雲よ、私の実力を疑うなんて貴方モグリじゃないの?」