初期の艦これ   作:弱箔

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ー2期ー
14 忙しないったらありゃしない


 

 

 

6月23日

 

「まったく、忙しないったらありゃしない」

送迎の団体さんを見送ってつい口にしてしまった

「そうですね、個体は違っても叢雲は叢雲でしたね」

大本営行きの手続きと調整を一気にやらされた事務艦も同意して来た

あの初期艦は私が話に乗るとわかった途端に大本営行きを急かしまくって翌日にはこちらでの手続きを終わらせ調整に時間がかかっていた事務艦から電話を取り上げ自身で今日の段取りをもぎ取った

あまりに迅速過ぎる決定に思う所が無いでもないが、研修開始までの待機場所がこちらの鎮守府か大本営かの違いだろうと、思い込む事にした

「研修期間は最短でも六ヶ月、それまでは現状維持だな」

そういうと何故か事務艦が表情を暗くした

「?なんだ」

「あ、いえ、後六ヶ月も散々に言われ続ける状況が確定した、と思うと……」

「それ、最短、な」

「!!」

気がついてなかったのか

 

「老提督、佐伯司令官から予定通り出発したと、連絡がありました」

そう呼ばれた人物は少し苦い顔をしていた

「お嫌なら、ゲストアドミラル、とでもお呼びしましょうか」

さらに嫌そうにしたその人物はそれでも、自身の肩書きがここには無い事も分かっているのでそれについては何も言わなかった

「少し意外でしたね、予定通りに研修に出すとは」

「そうかい、私はそう思わないが」

「そうですか、佐伯司令官は老提督に気付いていたと報告を受けています、てっきりその線で例外措置を求めて来ると考えていましたが」

「それでは意味が無いのだ」

「と、いうと」

「例外は例外だ、例外ばかりの規定なぞ破れた障子より役に立たんよ」

「笊で水を掬う訳にも行きませんね、確かに」

「大掃除も終わってスッキリしたんだ、丁度いい機会だと思うが、司令長官の意見は」

「……では、いよいよですか」

「私は意見を求めているんだが、頼むから私を裸の王様に仕立てないでくれよ」

「失礼しました、元司令長官殿」

『それでは駄目なのだよ、何故わからないのか』

老提督は口にこそしないが、大掃除が終わっても大本営の体質は変わっていない事に危機感を募らせていた

 

「まったく、大本営に到着したら放ったらかしって、どういう事なのよ」

送迎の団体に連れられて大本営に来たものの、担当者が決まってないとかで文字通り放置され御立腹の叢雲

待っていても誰が来るわけでもなく途方に暮れかけたが、思い直して事態を打開すべく動き出した

尤も地理不案内な大本営を闇雲に動いた所でどうにもならないワケだが

見かけた人に手当たり次第に声をかけたが、どうにもならないものは、どうにもならなかった

歩き疲れた所で丁度休憩所らしい場所を見つけた

「少し、休もう」

椅子に座ると少し落ち着いた、が落ち着いてばかりもいられないと気持ちは逸る

ここに来て司令官が言っていたクソ官僚が一杯という意味を理解し始めた

受け入れ体制が無いのに送迎の団体を寄越す大本営、地理不案内な事を承知で文字通り放置する送迎の団体、事情を説明しようとしても聞いてさえくれない人々

悪い方へ思考か傾いているのを自覚せざるを得なかった

「おや、叢雲さん?」

突然聞いた事のある声がした、そちらを見れば知ってる顔があった

「視察官、あなた大本営の人なの」

「なにやらお疲れの様ですが、どうしました」

が、返事も無く、若干睨まれた

「あいにく大本営の人では無いんですが、確か研修に来られたはずでは」

「その研修とやらはどこでやるのかしら」

「??」

なにを言ってる、研修を、どこで、やる、何故そんな事を聞かれるのか思い当たらず返答に困った

「あっ、ちょっと待ちなさい」

見れば幾らかの妖精さんがこちらに向かってきた

「……そういう事ですか」

妖精さんの様子から叢雲の事情をある程度は察した、が腑に落ちない所もある

叢雲が大本営に向かって出発した報告は受けていた、なのにこの事態はどういう事だ

受け入れ体制が整っていなくとも宿舎には案内するはず、それすらなかったとは

確かに急な話しではあっただろう、だが、初期艦一人宿舎に案内出来ないとは

「私は自販機に用があってきたんだが、叢雲さんも如何です」

取り敢えず飲みながら少し話そうと自販機にコインを入れて、どうぞとやろうとしたら既に押されていた

「コレ司令官にツケといてね」

「あ、ああ」

あまりのスピードに驚いてしまった、そうか、研修に来たのだから状態としてはドロップ直後か、人に慣れていないのだ、それでは耳を傾けてくれる人はいない、私でさえ驚いているくらいだから普通の人なら警戒されてしまうだろう

「もう一つ如何ですかな」

秒速で飲み干す叢雲に勧めるも若干躊躇う様な感じを見た

「大丈夫ですよ、司令官にツケておきますから」

言った途端嬉々として二本目を飲み干す、時間的に見て三、四時間は彷徨っていたと推定される、それだけの時間未登録のものが大本営内を動き回って警備も動いていない、こちらは大本営側とはいえ報告もないのか

「さて、落ち着かれましたかな」

「あー、ありがとう、視察官に会わなかったら強硬策も考えなきゃならない所だったわ」

サラリと怖い事を聞いた気がした、駆逐艦とはいえ艦娘が攻撃すれば大本営の建築物など砂の城も同然、艦娘の主砲は半潜航行する深海棲艦を一撃で沈める、軍艦の主砲ではそうはいかない

「そうならない様に、私から連絡を入れましょう」

「ホント!あー良かった、これでどうにかスタートラインに立てそうだわ」

「スタートライン?」

「そうよ、研修なんてさっさと終わらせて司令官の所に戻るんだから」

言ってる意味を掴みかねたが、妖精さんが補足してくれた

「……成る程、そうきたか」

司令官と言ってる時点で察するべきでもあったな

 


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