「ありがとう、御礼に見学させてあげるわ」
格技場に入るなり大上段から言い放つムラムラ、さすがにどうなのと思う
「そんなに時間はかからないと思うから少し待っててね、やまちゃん」
ブッキーもそれはどうなのさ
「御心配なく、叢雲さん、ここを使い終わった時に施錠して鍵を返却しなければなりませんし、終わるのを待ちますから」
いや、そう言う事ではないと思うんだが、いいのかコレ
「あんたは取り敢えず見学していなさい、私はそこのブッキーに床の味を教えてやるから」
「生きがいいだけでは駄目だって言ってるのに、それより新入りさんは五分でケリが着くって言ってたけど、ムラムラにできるの?」
見た目好戦的になってるムラムラとヤレヤレ的な感じのブッキー、ここは大人しく見物……見学させてもらおう、大和なんかサッサと壁際に行ってるし
「五分?ここに入ってからの時間かしら、なら後四分ね」
「はー、わかった、始めようか、やまちゃん悪いけど開始の合図を頂戴」
「わかりました、では、始め!」
おい、ノータイムで宣言って、でも二人とも始動した
艤装無しの身体能力だけの近接戦、ムラムラの足癖が悪い事だけはよく分かった
それに対してブッキーはよく動く、手と足の長さ的に防戦してる様に見えるけど、向かってくる脚では無く、上体の急所を狙ってると思う
ブッキー的に足払いってのは駄目なんだろうか、私ならそれで転ばすか、足を引っ込めた隙に攻勢に出る様な組み立てになるんだけど
「二分経過」
唐突に時間宣告をし始める大和、もしかして意趣返しってヤツかな、ショボいけど
「二分経ったってさ、叢雲ちゃん」
「その台詞は二分後に立っていられたら聞いてあげるわ」
見た限りではムラムラの息が上がって来てる、ブッキーはアレだけ動いていながら普通だ
勝負あったかな
「コラッ、そこの新人!同名艦の勝利を疑うんじゃない!!」
おおう、怒鳴られた、そんなに分かりやすく顔に出たか、そんなつもりは無かったんだが
「大丈夫ですよ、ああやって自分に気合入れてるんです、叢雲さんは」
大和がどういうつもりか定かでは無いが解説をしてくれた
「あ、」
ブッキーのかなりいい突きがムラムラを捕らえた、足技だけでブッキーを抑えきれなかったムラムラがいい感じに飛んだ
「三分経過、終了しますか?」
大和ってば、もう少しなんとか、なんとかする理由もないか、大戦艦からすれば駆逐同士の戯れ合いにしか見えないんだろうし
「あー、そうね、終了だわ、もうちょっとどうにかなると思ったんだけどなー」
飛んだムラムラが転がりながらも取った受け身の体勢のまま終了に同意、ブッキーなんて転がるムラムラに構う事なく大和の隣に座ってくるし、あんたらどういう関係なのさ
「さて、次はあなただよ、新人さん」
大和越しにこちらを見てくる
「大和、経過時間は読み上げなくていいわよ」
「あれ、五分でケリが着くんじゃないの」
だから、その安っぽい挑発はなんなの、そんなのに乗せられる御馬鹿さんがいるワケない、と思ったけど居たわ、しかも同名艦だ、目の前にいるコイツの所為でこんな安っぽい挑発されてるのか、私は
「?」
こちらに歩いて来つつ私の視線に不思議そうな顔を見せるムラムラ
「そんなにかからないわ、言ったでしょ、八つ当たり相手を探してたって」
「それはお互い様だと思うけど、そういう事ならそうしましょうか」
私への低評価の根拠がこのムラムラだと確信した、ブッキーにはこの評価が不当であることを分からせなきゃならない、ここは手加減無用な場面だ
「両者立会い位置へ、では、始め!」
思いっ切り踏み込んでブッキーの鳩尾を突く、が当然ガードされた
「新人さん?いきなりこういう本気突きってどういうつもり?」
「八つ当たりって言ったでしょ、まさか特型のネームシップは八つ当たりの意味を理解出来ない程御馬鹿さんなの?」
「ヘェ〜、そうなんだ、そういう事言っちゃうんだ」
おお、ブッキーもやればいい顔できるじゃん、ちょっと嬉しい
「……あの子どうしたの?」
「八つ当たりだそうですよ」
「演習場でもそんな事言ってたけど」
「言ってましたね」
「まあ、いいけどね」
距離を取りつつ足技が飛んでくる、ブッキーもムラムラ並みに足癖が悪い
今のでミミノアーレが片方飛んで行ったよ、壁に叩きつけられてたけど壊れてないでしょうね
「変なもん蹴らせるな、足が痛いじゃないか!」
「酷い言い掛かり!勝手に蹴ったんでしょ!!」
言いつつ足技の距離から手技の距離へ移行、ブッキーは突きを警戒してる、ならこうだ!
「え」
ブッキーが間抜け声を出した時には宙に舞っていた、こうも上手い具合に投げ技に掛かってくれるとは思ってなかった
ダン!
かなりいい音が格技場に響いた
何が起こったのか分かっていないのか、ブッキーが目をパチパチさせてる、それを上から見下ろしながら聞いてみる
「続ける?」
「終了です、叢雲さんの勝利です」
大和が言ってきた
「だそうだけど、異論は?」
「……残念ながら」
「二分かからなかったわ、口先だけの新人さんでは無いって事ね、ブッキーの意見は?」
何の話だ、ブッキーを起こしながらムラムラを見る
「あそこで投げてくるとは予想しなかった、ってか投げ技なんて何処で覚えたの、叢雲ちゃんてドロップしたばかりだよね」
「二週間程鎮守府にいたけど、なにかしてた訳じゃないからその認識で合ってると思う」
「……成る程、大和、格技場の使用時間はまだある?」
「あります」
「よし、叢雲ちゃん、今度は私とだ」
なにムラムラと試合?
「その前にあれを回収しないと」
「アレ?」
ブッキーに蹴飛ばされて飛んで行ったミミノアーレを拾う、定位置に着けて見るも、安定しない
「あー、不具合起こしてるね」
同名艦のムラムラがそう言うのならそうなんだろう、けど困ったな
「ちょっとフラフラする感じとかある?」
言われてみればそんな感じがある
「そこの床に引かれてる線に沿ってこっちまで歩いてみて」
取り敢えず言われた通りにして見る、あ、ダメだコレ、真っ直ぐ歩けないし目眩がする
「え、なにそんなに重傷なの」
ブッキーが心配そうに聞いてくる
「重傷っていうか、新人さんだからね、まだ色々慣れてないのよ」
どうにか三人のいる所に辿り着いた
「しょうがない、今だけ貸してあげる」
言いつつムラムラが自分のと私のを両方とも交換した、途端に色々治った、ナニコレ
「症状は軽減された筈よ、八つ当たりの続きは出来るわね」
なんだムラムラはそんなに私と試合がしたいのか、あれちょっと待って
「ムラムラは大丈夫なの、それで」
「……あんたにムラムラっていわれるとイラッと来るわね、もっといい呼び方があるでしょ」
「例えば?」
「そんなの自分で考えなさいよ」
フンッとばかりにソッポを向くんだが、どうしろと
「叢雲さん、アレですよ」
助け船かと大和の言葉を待って見る
「漣さんが使っているではありませんか」
「?御姉様ってやつ、えっ、私にもそうしろと?!」
クックックと声を殺した笑いが聞こえた、声の主はブッキーだ
「叢雲ちゃんってば、そんな、そんな事、ダメだ、ゴメン」
言い終わるなり堰を切った様に爆笑し出したブッキーに呆気に取られた
「そ、そんな事言ってないでしょ!適当な事いわないでくれる?!」
ムラムラってば耳まで真っ赤っか、図星だったか
「大丈夫みたいだね」
「なにが!」
おーい、帰ってきてくれ話が進まない
「ミミノアーレ」
「?ああ、コレ、もう慣れっこだからね、コレは直ぐに壊れるのに着いてる妖精さんだと直せないって厄介なヤツでね、無くても済む様になってしまったわ、いつの間にかにね」
「直せない?」
「そ、艤装や兵装なら少しぐらいの不具合はなんとかしてくれるんだけど、コレだけはどういう訳か工廠の妖精さんでないと直せないのよ、まさかコレの為だけに入渠ってワケにもいかないし、慣れるしかないわ」
「それって結局なんなの、そういう艤装?を持ってる艦娘って少ないけど」
お、ブッキーも帰ってきた
「艤装の範疇なのか私にもわからないんだけど、まあ、猫の髭みたいなものかな」
「髭?耳じゃないの」
あ、ムラムラがブッキーをアホの子を見る目で見てる
「見た目じゃなくて、私は機能面の話をしてるつもりなんだけど」
「機能面?」
そう言えば何の気なしに交換したけど、妖精さんの反応が無かった、艤装なら妖精さんが扱うのだから無反応はあり得ない、どういう事なの
「妖精さんが何もしないでょ、コレ」
頷いて肯定する
「だから艤装なのかっていうと、わからないになってしまうのよね」
「今交換したのに、普通に動かせるし、違和感とかもない、あれ、本当にどうなってるのコレ」
「叢雲ちゃんの耳が動いてる、カワイイ!」
ブッキーそれは私の耳ではない、ついに頭も逝かれたか
「あそこの残念な一番艦は放置として、試合、八つ当たりだっけ、まあどっちでも良いからやろう」
「ムラムラはそんなに私と試合たいワケ」
「取り敢えずそのムラムラってのを変えてもらいたいね」
「仕方ない」
「やまちゃん、悪いんだけど開始の合図をお願い」
ブッキーに頼まれた大和は相変わらず笑顔を見せている、貼り付けてると言った方がいいのかな
「始め!」
いきなり距離を取って来るとか慎重過ぎじゃないの、そこからどうするのか暫く様子を見たけどそれが時間の無駄だと分かったから、此方から仕掛ける
足癖が悪いだけあって逃げ回られると捕まえにくい、捕まえるだけなら出来るんだけど後が続けにくいから別の手を考えないと
「ムラムラ奥手過ぎだよ、叢雲ちゃんがどうやって手加減しようか考え込んじゃってる」
「確かに叢雲さんは積極性に欠けますね」
「……どっちも叢雲なんだけど」
「あら、確かに」
ブッキーと大和の大して面白くない漫才が聞こえた、それはそれとしてここは誘い受けで行くか
わざとらしく大袈裟に隙を見せる、これに飛び込んで来るとは思わないが、少しでも逃げ足を鈍らせられれば十分だ
「スキありー!!」
はい?飛び込んで来るとか何を考えてる、というか遊ばれてるのかなこれは
飛び込んで来たムラムラの下に潜り込んでそのまま背中で押し上げる、痛っ、なんだ、変なとこから痛みだけが来たんだけど
「あれま、ムラムラまた飛んでるんだけど」
ブッキーの呑気な声は聞こえた
「終了しますか?」
ブッキー戦の時に聞いた台詞だから今回はムラムラに言ったのだろう声も聞こえた