壁に据え付けられた内線電話が呼び出しのベルを鳴らした
「こんな時間に?」
「ここの使用許可は正式に取ってありますよ」
「そんな事いいつつ出る気ないですな、お二方」
「そういう漣が出るといいのです」
こいつらはー、とか思ってる間にいなずまちゃんが出てくれた
「ムラムラからなのです、叢雲ちゃんをこちらに運ぶから手を貸して欲しいのだそうです」
「は?」×6
運ぶ?叢雲ちゃんを?意味が分からず混乱した、視界の隅で五月雨が立ち上がったのが見えた
「いなずまちゃん、代わってください」
いなずまちゃんは大人しく五月雨に受話器を渡して席に戻ってきた
「叢雲ちゃんを運ぶと聞きましたが、なにがあったのですか」
ようやく混乱から抜け出せたが状況が分からない、ここは五月雨が聞き出してくれるのを待つか、それとも四人がいる格技場へ行った方が早いか
「……とにかく叢雲ちゃんは無事なんですね、話が長くなるからこちらに戻ってから、ああ、格技場の後始末、ええ、わかりました、私とさみちゃんと吹雪ちゃんでいいですか、ええ、ああ、横になる場所、はい用意させます、では格技場で」
無事と聞いて待つ事にしたが、用意ってなに
「どういう状況なのですか」
五月雨が受話器を置くのを待っていた電からだ
「話しが長い上に妖精さんから聞いただけだそうです、こちらに戻ってから話すと、叢雲ちゃんが熟睡中だそうなので横になれる場所を作っておいてください、さみちゃんと吹雪ちゃんは私と格技場へ、叢雲ちゃんを運びます」
「熟睡中?なにそれ」
状況が分からないぞ
「とにかく場所を開けて叢雲ちゃんの寝床を作るのです」
おい、電、随分と聞き分けが良いじゃないか、何企んでるんだ
「片付いた、ありがとねみんな」
格技場の後始末を終えて大和と一緒に鍵を返してやっと戻って来やがったムラムラの入室第一声がこれだ、それも良いんだけど、そうじゃないだろ、先に戻って来たブッキーは役に立たないし分担間違えたろ、いや、ワザとだな、このドSが
「叢雲さんの様子はどうですか」
大和が叢雲の様子を聞いてくる
「寝てる、どう見ても熟睡中だね」
こっちはこれしか分からないんだから、こう言うしかない
吹雪とさみちゃんに両脇から抱える感じで運び込まれた叢雲ちゃんは長椅子に寝かされている、それに何処からか持って来た毛布を五月雨が掛けた、お陰げで叢雲ちゃんの寝顔が見放題なんだけど、なんか釈然としない
「で、ブッキーは何処まで話したの」
「え、私?私もムラムラの話し待ちでしょう、なにを話せって言うのよ!」
「ブッキー声が大きい、叢雲ちゃんが起きてしまうのです」
いや、起こそうよ電、叢雲ちゃんから話しを聞くのが一番確実なんだからさ
「叢雲ちゃんの寝顔かわいいのです」
いなずまよ、おまえもか
「そうですね、叢雲という個体の特徴なのか起きてるとどうしても目尻が上がるんですよね、お陰でつり目気味になって怒ってるように見えてしまって」
「それはそれで凛々しいと思います、でも眠ってる時はそれがないからなのか、とってもカワイイですね」
ダブル五月雨もか、起こそうってのはあたしだけか、そうですか
「むー、こんなにカワイイ寝顔が見放題となればあの司令官もきっと庇護欲をそそられたのでしょうな、無理からぬ事で、やむを得ませんな」
無言でざみの頭に拳を落とす
「いったー、なにするんですか、あれもしかして御姉様オコなの、激おこなのかにゃ?」
まったくコイツは何処でこういう話し方を仕込まれてくるのか
「人が艦娘に欲求を向けてる様な言い方はダメ、そっちの方向に誘導していると取られかねない言動も慎みなさい、艦娘は人ではないし女性でもない、厄介事にしかならないよ」
「そういわれてもですね、実際問題としてその辺りの事はまったく分からんチンなのですよ、困った事に」
「今回はそこが主題ではないのです、漣、堪えてください」
電に言われてしまった
「……わかってはいるんだけどね、つい」
「そんなんで拳骨とか、酷いですー」
ざみの奴、わかってやってるだけに質が悪い
「はいはい、ざみちゃんいたいのいたいのとんでいけー」
五月雨もよくやる、いや、漣のフォローしてくれてるんだから有難いんだけどさ
「五月雨御姉様!なんてお優しい、漣は嬉しいです!!ああなんで漣は五月雨ではないのか、これを考えると夜しか眠れません!」
「はいはい、良い子いい子」
五月雨に頭を撫でられてご満悦の様子のざみ、なんか面白くない
「えっと、話しを始めてもいいかな?」
様子を見ていたムラムラが言ってきた
「はい、聞くのです」
電が答えて、やっと本題だ
「事の発端はブッキーが叢雲ちゃんのアレを蹴っ飛ばして壊したからなんだけど」
「言われてみれば、凹んでるのです」
「よく見れば、位置が安定してないですね」
「ホント、ゆっくりだけどフラフラしてる」
いなずまにさみに吹雪、いつまでも叢雲ちゃんの寝顔を鑑賞してるんだ
「ちょっと!試合上のことでしょ、不可抗力でしょ」
ブッキーがなんか力説してるし
「あの位置に蹴り込んで当てられなかったのですね」
後二言は足したそうな電
「思いっきり躱されたって事か、そんでアレを代わりに蹴っ飛ばしたと」
「結果、叢雲ちゃんが熟睡?経緯が分かりませんが」
五月雨が尤もな疑問を口にする
「そこに行くまでの経過としては、先ず私のと叢雲ちゃんのソレを交換したんだ、叢雲ちゃんはまだソレが無い状態に慣れてなかったからね、で、その交換した状態で私と試合したんだけど……」
「えっ、待ってそんな状態で試合?確かあの頭のヤツって感覚器じゃなかった?」
驚いて思わずムラムラの台詞を遮ってしまった
「なんで知ってるんだか、ブッキーは知らなかったのに」
おう、ムラムラが嫌そうな顔してる
「「「えっ、知らなかったの?」」」
「えっ、知ってたの?」
何故不思議そうにするんだ、叢雲と仲良しだろ、何故知らないんだ
「叢雲が得意気に話してたのです、温度とか風向きとかの変化を感じられるって、覚えてないのですか」
呆れた様にいう電
「あー、そんな事もあったような気がするけど、えっ、あれってソレのことなの?!」
「そんな事だからブッキーなんですよ」
「まったくブッキーなんだから」
「ブッキーなのです」
「ちょっ、ブッキーいうな」
「はいはい、話を戻すよ」
ムラムラが焦れたよ、そりゃそうか
「交換した時はなんともなかったんだけど、試合がはじまったらさ、なんかゴチャゴチャいってくるのよソレ、ソレから何かいってくる事ってこれまでになかったからこっちも戸惑っちゃってさ、試合も始まってたしね」
「あ、もしかして開始後に大きく距離を置いていたのはそれでですか」
「そ、あんまりにも五月蝿いから試合どころじゃなくてね、叢雲ちゃんが様子見に出てくれて助かったわよ」
やまちゃんの感想に答えるムラムラ、大きく距離を置く?試合直後に?そんな変な運びをしてたら異常に気がつきそうなものだけど、と思ってブッキーを見てみたものの相変わらずのモノが見えただけだった
「なにをいってきたのですか」
さみちゃんだ
「要約すると、早く元に戻せって、なんかね、ソレ叢雲ちゃんのじゃなくて先任の叢雲のらしいのよ」
「はい?」×9
なにを言い出す、えっ、だってこれって艦娘自体でしょ、これ込みで叢雲でしょ、どういう事なの
「私だって聞いただけだから確証はないわよ、そもそもソレ、叢雲ちゃんはミミノアーレって呼んでたけど、壊れやすくて一々直していられないから単に着けてるだけの代物になってしまう筈なのに先任の叢雲のだって言うのもどうなのかって思ってるとこなんだけどね」
「言ってきた、と言うのは妖精さんからですか」
五月雨が聞いてる
「違うと思う、妖精さんが扱うのなら換装になるから、私(艦娘)だけでは出来ないし、分からないから先任の初期艦ならなんか知ってるかと期待してみたんだけど、望み薄みたいだね」
うーん、どう言う事なんだろ、あの装備?を持ってる艦娘は少ない、初期艦の中で持ってるのは叢雲だけ、こっちは話としては聞いていても実際の所は分からないし
「あれ、ムラムラ?妖精さんがいってたって言わなかった?」
「ブッキーは変なトコだけ覚えてるのね、そうでも言わないと手を貸してくれなかったでしょ」
「騙したの?」
「そのつもりはないわ、他に手がなかったんだし、叢雲ちゃんの侵蝕は始まってたんだから猶予もなかった」
おいおい、なんだその物騒なパワーワードは
「ソレがいうには、叢雲ちゃんが別のナニかになってしまうらしいんだけど、まあ、アレをみたら否定出来ないわね」
小出しにすんな、何の事かさっぱりわからんぞ
「叢雲ちゃんが言ったのよ、自分は佐伯司令官の初期艦だって、それを口にした時の叢雲ちゃんは確かに叢雲ではなかったのに、変な話だよね」
ブッキーお前もか、情報を小出しにすんな、訳分からんじゃないか
「叢雲ちゃんが叢雲では無いとは、どういう状態だったんですか」
五月雨ってばこんな時でも冷静でいられるとは、漣は口を開いたらムラムラを問い詰めそうで目一杯我慢してんだけど
「卑怯だったのよ、それを口にした時の叢雲は」
「駆逐艦同士の試合に戦艦持ち出すって発想は、私ならしないし、ブッキーだってしないでしょ」
「当たり前、当然過ぎて有り得ない、まして艤装無しの状態での試合だよ、殺し合いじゃ無いんだよ」
「大和が参戦したの!?」
びっくりだよ、思わずツッコミ入れちゃったよ
「参戦といいますか、叢雲さんを抑えて欲しいと言われまして、ちょっとだけ抱えました」
「そうしたら、腹いせにやらせてるとか言い出すし、寝言は寝てからいってほしいわ」
不快気にいうムラムラ
「それで確信した、誰だか分からないのが目の前にいるって」
ブッキーが続く
「でも、ブッキーのいう誰だかわからない叢雲ちゃんは佐伯司令官の初期艦を名乗った、私達と同じ最初の初期艦という事ですか」
五月雨の質問だ
「そういう感じではありませんでしたね」
思い出しながら答える大和
「大和は凄く面白そうにしてたよね」
ムラムラはそう言うがやまちゃんにはどの辺りが面白いんだろ、この話
「エッ、いえ、あれは語るに落ちるという実演がですね、目の前で見れましたので感心してしまいました」
ああ、そういう、大戦艦からすれば駆逐艦同士の戯れ事で墓穴まで掘り出したら面白いか
「やまちゃんから見ても叢雲ちゃんではないと判断出来る程、誰だお前は状態だったのですか」
電が聞いてる
「大和と知った上で力比べでしたからね、正常な状態の駆逐艦の行動としては考えにくいですね」
「?大和に抱えられて、力尽くで脱しようとしたのですか」
いまひとつ納得いかない感じの電だけど、なるほど、それなら疲れ切るね、その疲労で熟睡してもしょうがない、駆逐艦と戦艦じゃ基本が違い過ぎる、あたしなら艤装着けて海の上だとしても正面から砲撃戦とかやりたくないし
「正気には見えなかった、という事でしょうか」
さみちゃんだ
「正気な事は正気でした、ただ根本的な何かが欠けている、そういう印象を受けました」
欠けてる?何が欠けてるっていうのさこの大戦艦は
「その印象で合ってると思う、で、欠けてたのがアレってワケ」
ムラムラはそういうけど、さっぱりわからん
「アレは叢雲にとってそんなに重要なのですか」
疑問が積み重なってる感じの電
「私は違うけど、叢雲ちゃんはそうみたい、今の所印象でしかないけど、ゴチャゴチャいってきたのを聞く限りだとそうなる」
「五月雨、漣、どういう事かわかりますか」
「うーん、推論するにも情報が足りないですね」
「漣の頭には無いモノだから、どうしたもんだろね」
「なんで私には聞かないの!」
「いや、ブッキーが知ってるならここで問題になってないでしょ」
ムラムラ、尤も過ぎる御意見ありがとう、これブッキーが墓穴掘ってんだけどやまちゃん的には楽しめてるのかな