なに、なんなの、あんなの知らなかったわよ
艦娘は人とは違う、だからお風呂とか頻繁に入る必要は無いって思ってた
汚れとか着かないし匂いとかしないし、どこかが痒くなるなんて事もなかった
でも、人よりは少なくても同様に汚れるし匂いもするんですって?!
そうならないのは妖精さんがケアしてるからなんて、しかもそのケアも永続するワケではなく一月前後しか保たないですって?!
挙句にそのケアしたものがお風呂に入ったり水浴びしたりすると排出されるですって?!
大和から聞いた時は半信半疑だったけど、体を伝って流れ落ちるお湯を見て疑問を挟む余地はなくなった
道理で大和が一緒に入るといったワケだ
アレは説明も無く一人で入ってたらパニックものだわ、透明なお湯が身体を伝うだけであんなに色が変わるなんて、自分から発する匂いに中てられて気が遠くなるなんて、いくら知らなかったとはいえ、知らずに付き合わせて本当に申し訳ない、ああなると分かった上で付き合ってくれた大和には感謝しかない
これが大和との共同生活では無く宿舎で起こっていたらと考えただけでゾッとする
大和がいうにはこういう事例は珍しくないそうだ、ただ私は鎮守府に二週間ほど滞在していた為にこうなってしまった、いや、お風呂の場所とかの説明はあったのだけれど必要を感じなかった、お客さん扱いでそういう細かい説明がなかったから入らなかったのがここに来て、こういう結果を招いた、招いてしまった
そういえば五月雨がいっていた、知らない事が沢山あると、一杯お勉強だと
これは、気合入れてかからねばならないだろう、知らないばかりにこんな事態を招くなんて二度と御免だ
6月25日
「おはようございます」
「お、おはよう……」
き、気不味い、知らなかったとはいえ昨日大迷惑かけてしまった、出来るなら部屋に引き篭って居たかったが私は研修中で大和は教導艦、かけずに済む手間や迷惑をかけるわけにはいかない
それで部屋から出たのはいいが、気不味いものは気不味い、ああ、どうしてこんな事に
「昨日の事、でしたら大和は気にしてませんよ、それより朝食の用意がもう直ぐ出来ます、顔を洗ってきては如何ですか」
気を遣わせてしまった、そういうつもりではないんだけど、このままではいけない、何とかしなければ
言う通りに洗面台に向かって顔を洗って、そこに据え付けられた鏡に映る自分に言い聞かせる
「用意できました、いただきましょう」
戻るとヤケにニコニコ顔の大和、昨日から気にはなってるんだよね、まあ、あの困った顔に笑顔だけ貼り付けた顔よりはずっと良いんだけど
「食事も分担した方が良くない?」
「?分担」
「いや、大和が料理上手な事は分かったけど、だからって毎食作って貰うのもなんか違う気がして」
この戦艦はなんで嬉しそうにしてるんだ
「はい、大和はお料理得意なんです、だからこうやって一緒に食べてもらえるととっても嬉しいです」
あ、まただ、尻尾が見える、ブンブン振ってるよ、良いのかコレ
「と言う事は、私は掃除とかに回れば、良いのかな」
あんまりに嬉しそうにしているから、当番制にとは提案し辛い
「うーん、そうですね、取り敢えずは食事してから考えましょうか」
「それでいいなら、いいけど」
「はい、では、いただきます」
「いただきます」
大和が用意してくれた朝食はとても美味しかった
大和の話によると今日は大本営内のオリエンテーションをやるらしい
なんか、前に聞いた研修日程から変更されまくっている気がする、コレ聞いても良いんだろうか、でも、教導艦の大和がそういうのなら変に突っかかっても意味がないとも思う
電の言い分だと研修は研修だそうだし、そこに私の都合は関係ない、そりゃね、研修なんて決まった事をやるんだからそうなんだろうけど、如何するにしても昨日の一件で知らない事が沢山ある事だけは確定してる私としては教導艦である大和を信用するしかない状況でもあるし、ここは下手に動くより様子を見る事にしよう
「そうだ、共同生活するのですから、叢雲さんにもここの鍵をお渡ししなければなりませんね」
鍵?部屋の鍵だよね、考えてみれば大和が私と常に一緒にいるわけじゃないし、大和の帰りをドアの外で待つ様な事態は有難くない
「予備があるの?」
「予備は管理局で一括管理しています、ですので鍵屋さんに作りに行きましょう」
良いのか、管理局で管理してる様な鍵を勝手に作って、手続きがいると思うんだけど
大和はそういいつつ部屋を施錠する
「大本営の敷地内の官舎なのに鍵をかけなきゃならないんだね」
何の気なしに感想をいった
「ああ、こういうのは習慣化した方が良いんですよ、でないと外に出た時にかけ忘れてしまいますから」
「外?」
「ええ、大本営の外です、一般の人社会といった方がわかりますか」
ああ、そういう事、何時の世にもいなくなる事はない手癖の悪い輩ね
ここは艦娘達の官舎だと聞いている、だから艦娘の中にもそういうのがいるのかとも考えてしまった、そんな事あるわけないじゃないか
「おーい、やまとー」
ん、大和の向こうから誰かが大和を呼んでいる、誰だろ
「おはようございます、天龍さん」
天龍?軽巡の?鎮守府で姉妹艦とは会ったけど
「おまえ、またどっかから捨て猫でも拾ってきたのか?」
「?いいえ」
なんの事だ、それにまたって、大和にはそんな前科があるのか
「いや、こういう事は言いたくはないがな、ここは集合住宅……マンション?だっけ、まあとにかく、あんまりキツイ臭いは周りに影響が「ごめんなさい!それ私!!」……」
思わず飛び出してしまった、普通のお風呂場に脱臭機能なんてある訳ない、換気すればどうなるかなんて考えるまでもなかった、飛び出してから自分がなにをやっているか理解が追いついて耳まで赤くなったのが自覚できた
「あ、えーと、随分とデカイ猫を拾ってきたな」
猫、猫扱いされた、本来なら怒る所だ間違いなく、でも今は恥ずかしさのあまり消えてしまいたかった
「天龍さん、デカイ猫ではありません、こちらは叢雲さん、先日から研修に来られました、大和が教導艦です」
「研修?という事は初期艦か」
なんだ、人の周りをぐるぐる回らないで欲しいんだけど
「おまえ、ここに来るまでに苦労したんだな」
は、なんの話だ、思わず恥ずかしさも忘れて天龍を見る
「いや、みなまで言うな、わかってる、わかってるから」
だから、なんの話だ
「この天龍さまはひとの苦労を肴にする様な趣味は持ち合わせてねぇから安心しろ」
えっと、ホントになんの話をしてるんだ
「大本営にはオレがあと二人いるが、向こうにも事情は話しとく、なんかあったら天龍を頼ってこい、なぁに駆逐艦の面倒見るのは軽巡の務めだ、遠慮はいらねぇからな」
言いたい事が終わったのかアバヨと言い残して行ってしまった
なんなんだ、アレは、大本営の軽巡ってあんなのばかりなのか、いやそんな事はない、ないハズだ、と思いたい
「今のは軽巡の天龍さんです、みなさん遠征隊を率いられてるベテランさんなんですよ」
ベテラン?アレで?私の見立てだとそこまで言う程の技量は無さそうに見えたけど
「天龍さんは建造艦なんですよ、お三人とも、それでも遠征隊を率いるだけの練度をお持ちです」
どういう意味か計りかねて大和を見る
「私はそこまでの練度はありませんから」
いや、大和の場合技量云々というよりあの莫迦げた火力と装甲と耐久がある、あれの前では多少の技量なんてものは無いのと同じだ
「ん、練度?」
「叢雲さんは技量と仰てましたね、多分同じ意味だと思いますよ」
ああ、そういう事か、大和から練度基準で見れば今の天龍はベテランさんになる訳だ
「その練度を無視出来るだけのモノを持ってる戦艦にベテランさんと評価される軽巡だという事は覚えておくわ」
そういったら困った顔になった大和、なんだわざわざ笑顔を貼り付けなくてもそういう顔が出来るじゃない