まったく以って何だったのか
結局五月雨が纏め切ってあのままお開きになってしまった
私の艤装、何がどうなったのか一切話題にすらされなかったんだけど、どういう事なのよ
電がアレだけ思わせ振りにシリアスしといて放置プレイとは奴は弩Sに違いない
見た目と中身の差異が大き過ぎるでしょ、初期艦の中では一番ちっこくて五月雨よりも柔らかい笑顔を見せるのに、なにをどうしたらあんなになってしまうのか
時折見せるプラズマと呼ばれる状態になるとあの大戦艦が怯えて震え出すほどの空気を作り出す事からもプラズマが本性に違いない、本人が何と言おうと私はそう結論づけた
ただ、ムラムラが時期が早かったかと謂く有り気に呟いたのは聞こえた
6月26日
朝食後、大和に連れられて港に併設されている艦娘の詰所の様な建物に来た
なんか、漢字が十個以上並んだ仰々しい看板?が有ったが読む気を無くすデザインだったから素通りした
「えっと、予定表は、これかな?」
中に入って行くと大和が壁際に作り付けてあるデカイ札掛の前でそれを見ていた
ええと、まさかとは思うけど、この札掛って編成表?こんな伝達方法でいいのか、そんなはずない、これは只の早見表的な物だと思いたい、何と言っても第一から第四までしか無いし
「秘書艦がこんな所でなにしてるの?」
声の方を見れば軽巡と思しき艦娘がいた
「天龍さんのシフトを確認しに来ました」
「天龍?ああ、アレで非番が多いから見つからないのね、なんなら呼び出すけど?」
「いえ、それには及びません、この行動計画は最新版ですか」
「そのはずよ、それが違ってたらこっちも困るし、で、この子は?」
この子って私か、軽巡からすれば駆逐艦がこの子扱いなのはアタマではわかる、が、実際にそう扱われるのを許容するのとは別の話だ
「叢雲さんです、今、研修中なんですよ」
おい、大和、なぜ私の頭に手を乗せるんだ、邪魔だぞ
「研修?初期艦なの」
「はい、そうですよ」
「んー、なかなか元気そうな子ね、あ、もしかして天龍に教導を頼みに来たの?」
「いえ、叢雲さんの教導艦には大和が就いています」
聞いた途端に軽巡が固まった、どうしたんだろ
「え、駆逐艦の教導に戦艦が!?何で!どうしてそんなことになってるの?!」
それはどういう意味だ、ってそういう意味しかないな、コレが普通の反応なんだと思う
「あはは、なんででしょうね」
あ、胡魔化した、まあいいけど
「はー、驚いた、でもまあいいんじゃない、大和には良い機会になるし、初期艦でも格上の教導なら不足は無いでしょうし、私の見立てだと相性も良いようだし、精々励みなさい」
そう言って去って行く軽巡、なんだろうね、一部軽巡とは思えなかったけど、天龍より大きいんだけど、ホントに軽巡か
「どうされました?」
大和の方を見れば外に歩き出していた
「さっきの軽巡よね」
何処に向かっているのか知らないが、歩き中に聞いてみた
「はい、長良型の五十鈴さんです」
やっぱり軽巡か、にしても大きかった
「なにか気になる事でも?」
「え、大した事ではないわ」
大きかったから艦種を読み違えたかと思ったとは言えない
「隠し事は良くありません、なんですか?」
おおう、迫ってくるな、あんたと私では身長差があり過ぎるんだから
「ええと、あれよ、さっきの編成表?でちょっと」
「?なにか、疑問な所がありましたか」
「旗艦が全部軽巡だったから、ちょっと気になっただけよ」
「軽巡が旗艦を務める事に、問題があるとは思いませんが」
まったくだ、私だって問題だなんて思ってない、さて、このデマカセどうしようか
「戦艦とはいわないまでも、重巡や空母までもが編成されていなかった、大本営にいない訳はないでしょうから、軽巡が旗艦の編成ばかりなのが気になっただけよ」
我ながら良い所を突いた様な気がする、元はデマカセなんだけど
「……ああ、そういう事ですか」
お、なんだ、この想定外の反応は、変な所を突いてしまったかな
「そのお話も一緒にお聞きしましょうか、天龍さんに」
は、天龍に聞くってなに、今天龍の所に向かってるの?
「こんにちは」
「おお、誰かと思えば大和じゃねーか、まあ、こっちに来て座れや」
何処に行くのかと思えば五月雨達と買い物途中に寄ったオープンカフェ、そこにはなんという事だ、天龍が三人も居る、居るとは言ってたけど、なんで揃ってるんだろ
「なんだ、デカイ猫も一緒か」
「誰がデカイ猫よ!」
しまった、つい乗せられてしまった、三人揃ってたから気が逸れてた隙を突かれてしまった
「お、じゃあ、コレが話に出てたデカイ猫か、猫にしては可愛げが足りないんじゃないか」
「……ちょっと、ケンカ売ってるの?なんなら纏めて買い上げてやるわよ」
「あんまり揶揄うなよ、大和が困ってるだろ」
見れば確かに困った顔してる、でも今のは向こうが悪いと思うんだけど
「まあ、おまえさんもこっちに来て座れ、なんか飲むか?」
後ろのは大和に言っている様だ
「えっと、ですね、その前にご相談したい事と、お聞きしたい事が有るのですが」
勧められた席に座ってから言い始める大和、こちらも取り敢えず座っとく
「ほう、じゃあ、大和の奢りな」
言いつつ店員を呼ぶ天龍、三人居るからどうしようか、今の天龍が最初に声をかけて来た天龍、もう一人は私をデカイ猫呼ばわりするけどいい人っぽい天龍、残りは口の悪い天龍
「ええ、いいですよ、それでですね」
「まあ、待てよ、急ぎって訳でもないんだろ、そっちの初期艦とも話したいし、ゆっくりしようぜ」
ん、私?なんだろ、最初の天龍とは初顔合わせだと思うけど
「良いのですか?折角のお休みなのでは」
「気にすんなって、なんか困り事があるんだろ、それもそこのデカイ猫の事で、それならオレさまの出番だ、遠慮はいらねーよ」
人をデカイ猫呼ばわりするけどいい人の様な天龍は前と同じくそう言ってくれた
「ま、このお調子者が安請け合いしたってのは聞いた、気にしなきゃならんのは大和じゃなくてコイツだからな」
この天龍はホント口が悪い、ん、休み?そう言えばさっき五十鈴がアレで非番が増えたとか言ってた、何の事だろ
「おー、きたきた、追加で注文する奴いるか、いないな、あんがとよ」
この最初の天龍って仕切り屋というか気配り屋というか、注文を持ってきた店員にまで声をかけてる、この天龍もいい人なのかな
「さて、先ずは確認させてくれ」
全員に飲み物が渡り終わったタイミングを見計らって最初の天龍が切り出してきた
「そこの初期艦は今研修中で大和が教導艦に指名されたと、ついでに同居も始めたと聞いた、ここまでは合ってるか」
「はい、その通りです」
「大和が教導艦に指名された理由は、聞いてもいいか、もし、答えられない事情があるなら言わなくていい」
随分と持って回った言い方をするんだ、最初の天龍は、ちょっと意外だ
「答えられない様な事情は勿論、何の事情もありません、単に大和が居合わせた、それだけですが」
なにを聞きたいのか計りかねるといった感じの大和、この点はブッキーと意見が合ってるから不安材料ではあるんだよね
「偶然その場に居合わせて偶々指名されたと、そういう事か?」
確認する様に聞く最初の天龍
「そうです、なにか気がかりな事でもあるのですか」
「お前はそれでも戦艦か、いや、大和の素直さは美点だと思うし、何よりお前は良いヤツだ、でもな、人の全てがお前さんの様にはなれないんだ、残念な事に」
なんだ、話が跳んだぞ、なんの話を始めたんだ、最初の天龍は
「??」
大和もわからないって顔してるし
「少し前から色んな所で色んな事態が激しく動き出した、これには大本営の誰もが巻き込まれてる、こっちは今も巻き込まれたままだ、この状況下で秘書艦の大和が初期艦の教導艦に指名された、これが偶然とか偶々なんて考えられない、ってのが俺等の共通意見なんだが」
それで他の天龍が大人しくしてるのか、それはそれとして焦れったいわね
「悪いけど、何を言いたいのかさっぱりなんだけど?」
お、なんだ、三人ともコッチを向いて、もしかして駆逐艦は口出すなとか、そういう事?
「……お前さん、大本営に来た初日に兵装試験をやったって?」
「お前さん、じゃなくて叢雲よ、初期艦なんて散々見て来たって聞いてるわよ、天龍」
取り敢えず私に質問して来た最初の天龍と睨めっこ状態に突入、我ながら何をしてるんだか
「大和、このデカイ猫にいらん事言ったのはどこの初期艦だか、知ってるか」
睨めっこ継続中、ラチがあかないと踏んだのか大和を巻き込んでいく最初の天龍
「三組の叢雲さんですね」
なんてあっさり、って三組の叢雲?ムラムラの事なのはわかるが、三組ってなに?
「あははは、なんだよ、好かれてんじゃん、良かったな」
いい人の天龍が面白くて仕方ない様に言ってくる
「あのツンツンが同名艦に勧めるとか、懐かれてるねー、流石長老」
こっちは口の悪い天龍か
「オラ、誰が長老だ誰が?!」
おっと、睨めっこが一方的に解除された、と思ったら相手が口の悪い天龍に変わっただけか
でも、長老とかいわれてるって事は最初の天龍が最先任なのかな、適当に付けたんだけど
「おい、そこらでやめとけ、初期艦と秘書艦が呆れてる」
いい人の天龍のツッコミでハッとした感じて咳払いなどしつつ離れる二人
「そういや、あの試験の結果はどうだったのよ、見にいったんだろ」
口の悪い天龍だ、わかりやすい話題転換ありがとう
「行ったら漣のヤツがウロウロしててな、丁度良いから捕まえて聞いたんだ」
飲み物を口にしつつ答える最初の天龍
「で、アレが使えるのはいつ頃になりそうだ」
続けて口の悪い天龍だ、でも、使用禁止じゃないのか、確か変な数値が出て大問題になってるとかで
「もう使用許可が出てる、何でも初回から限界値まで使い切った試験担当艦のお陰で一発合格だそうだ」
最初の天龍がなんでもない感じで答えた
「「えっ」」
それに驚いている天龍が二人、それにしても私が使った四連装の事じゃないのか、まあ、大本営なんだから兵装試験なんて幾つもやってるだろうし、話の運びが紛らわしい
ん、なに、なんでコッチを凝視してんのこの二人
「なによ」
あんまりにもあからさまで長かったからつい口に出た
「あの試験をやったのって、お前さんだよな」
「?」
口の悪い天龍が信じられないって顔しながら聞いて来た
「四連装の酸素魚雷、使わなかったか、ここに来た初日に」
今度はいい人の天龍から聞かれた
「ああ、アレ、漣のヤツ、プレゼントとか言ってたのに終わったら取り上げられたわ、今度会ったら文句言っとかないと」
「漣のヤツなにをいってるんだよ、プレゼントって、オレが欲しいわ」
それは文句かな、口の悪い天龍よ
「申請すればいいだろ、使用許可は出たんだから」
尤もな事を言ういい人の天龍
「申請したって却下されんだろ、遠征隊に魚雷なんか要らんってのが士官どもの言い分だしな」
「そんなもん積む余裕があるなら資材を積めって、それしか言わないからな、あいつら」
「そうそう、その刀は飾りかって嫌味までがセットだからな」
「なにそれ、大本営の士官が、そんな事言ってるの」
二人の会話に出て来たあんまりな言い様に思わず口を挟んだ
「来たばかりのお前さんには分かり辛いかも知れないが、大本営って所はそういう所だ」
最初の天龍が何でもない様にそう言った
「……成る程、クソ官僚が一杯って事ね、司令官の言っていた通りに」
「?司令官、誰の事だ」
最初の天龍に聞かれた
「司令官は司令官よ」
私が司令官と呼ぶ人は一人しかいない
「大和、この初期艦が言ってる司令官って誰の事だ」
ここまでノンビリと紅茶を嗜んでいた大和が優雅とも見える動作でカップをソーサーに戻す
「佐伯司令官の事です、叢雲さんはそこから来られましたので」
どういう訳かこれを聞いた天龍三人が大マジな顔になった
「なに、って事はお前さんが、佐伯司令官から初期艦に要望されたっていう叢雲か」
「ああ、そういう、納得した」
「初回、初装備で限界値まで使い切ったとなれば、高練度な事は間違いないしな、何処からも文句は出ないだろうよ」
なんの話をしてるんだ、話が跳んでないか