「ありがとね、正直助かったわ」
「なんのなんの、駆逐艦は相互支援が行動原則、まして姉妹艦なら尚更だよ」
「そうなのです、困った時はお互い様なのですよ」
如何にか運び終えた、改めて見ると一人で運ぶのは無理がある量に思える、よく諦めないで運んだな私、自分に感心してしまう
「ありがとうございます、お二人はこの後何が予定はありますか?」
なにか思い付いたのか、嬉しそうに大和が聞いてきた
「予定っていっても夕食に出たら叢雲ちゃんを見かけてそれでここに来ただけだから」
「駆逐艦といっても初期艦は遠征隊にも偶にしか編成されませんし、予定という予定もないのです」
初期艦は遠征隊に編成されない?ナニソレ、そりゃ大本営なんだから駆逐艦は沢山居るだろうけど初期艦を編成せずに遠征隊を回せる程沢山居るって事なの
「でしたら、御夕飯を食べていかれませんか?丁度これから作る所ですし」
あ、そういう事、大和が嬉しそうにしてたのはコレか
「え、えっと……」
「べ、別にいなずま達はそういうつもりで来た訳では……ないのですが」
なんで躊躇してるんだろ、あのムラムラはコレで一本釣りされたって言ってたから嫌って事は無いと思うんだけど
「実はですね、少し御協力して頂けないかと考えているのですが」
「協力?」
お、吹雪が食いついて来た
「はい、恥ずかしながら先程の様に大和の教導は叢雲さんの理解度と噛み合わない場合があり、それを指摘されたのは今回が初めてでは無く、何の改善策も無いままに教導を進める訳にもいきません、教導を受けた初期艦の意見を聞かせてもらえませんか?」
おお、思いっ切りぶっちゃけたね、大和のこういう所は美点なのか欠点なのか
いや、人の事をとやかく言う前に私がその辺りを把握しきれずに流された結果の事態なのだから根本原因は私にある訳でホントに申し訳ない
「そういう事でしたら、喜んで協力するのです」
「いなずまちゃん、即答だね」
なんでか知らないが吹雪が意味ありげな視線をいなずまに向けてる
「吹雪ちゃんは嫌なのですか?」
あ、今、いなずまがプラズマの顔になった、この二人なんの駆け引きをしてるんだ
「まさか、大和が姉妹艦の事で協力して欲しいっていうのなら断る理由なんか何処にも無いからね」
ああ、何と無く分かってきた、けど、難儀な事でもあるよね、駆逐艦が戦艦に食事を用意してもらうって事には相応の理由がいるって事だよね
大和ならいつでも喜んで用意してくれそうだけど、そういう訳にも行かないって事よね
「ありがとうございます、では、大和は準備しますので、その間にお三方で意見交換をお願いします」
はい?私も?またしても調理場から追い出された、大和ってば私が料理出来ないと見做してるでしょ、間違いなくそう思われてるわコレ、何処かでこの認識を訂正させないと
取り敢えず二人は居間に移動していった、すんなりと移動していることからもここに来たのは初めてでは無い事が窺える
「叢雲さん?」
キッチンに入った大和が続いて入った私に気がついた様だ
「ああ、邪魔しに来たんじゃ無いわ、お茶でも持っていこうと思って」
あんなに楽しそうにされては割り込みにくいし、訂正の機会はまた今度にする事にしよう
「ああ、そうですね、気がつかなくてごめんなさい」
「謝る所じゃ無いわ、言ったでしょ、同居なら私は大和のお客さんでは無いのよ」
なにを驚いた顔をしてるんだ、私は大和のお客さんとしてここで寝起きしてるつもりはこれっぽっちも無いぞ
「そうでしたね」
そう言う大和は柔らかく嬉しそうな笑みを見せた
お茶のセットを盆に乗せていくと既にすっかり寛ぎ気味の二人、この様子だと随分とここに来ている様だ
「今、大和が作り始めたからこっちはお茶でも飲みながら待つ事にしましょうか」
お茶のセットをテーブルに置きつつ座る、早速いなずまがお茶を淹れ始めた、随分と手馴れているのが分かる
「意見交換を、と言う事なのですが、叢雲ちゃんは大和の教導には満足しているのですか?」
「?」
どういう意味で聞いてるのか掴みかねる、満足とか以前に研修過程が大幅に変更されていて進捗状況すら計れないのにそんな事を聞かれても答えようがない
「研修の説明は受けたんだよね」
どう返そうか考えていたら吹雪から確認?された
「大和から聞いた、でもその時の説明と今の教導とは関係ないみたいだけど?」
「「???」」
なんで二人揃って首を傾げてるんだ、っていなずま、お茶が溢れるよ
「カップ皿にまでお茶を注がなくても良いと思うわよ」
いなずまが慌てて注ぐのを止めた、幸いにして皿に注いだだけで済んだ
「えっと、説明はあったけど、その説明の通りに進んでいない、という事でいいの?」
カップ皿の方はいなずまに任せて吹雪が聞いて来た
「ええ、最初の説明だと座学が主になってそこでの進捗を踏まえて実地にって話だったけど、私の場合実地が多いわね、実地研修っていうヤツかな」
「そうなると、大本営のルールとか暗黙事項とか、運営体制とかの説明も受けてないのですか」
溢れたお茶の処理が終わったいなずまが聞いて来た
「その辺はその内やるから楽しみにしとけって、天龍にいわれたわ」
「天龍?どの天龍か分かる?」
なんだ、どの天龍にいわれたのかで対応が違ったりするのだろうか、吹雪的には
「どのっていわれても、他の天龍からは長老って呼ばれてたけど」
ん、なんだ、二人の動きが止まった
「ちょ、長老って他の天龍に呼ばれてたって、いやいや、その前に他の天龍に呼ばれてたって事はその時に何人いたの、天龍は」
吹雪が挙動不審になってるんだが、どうしたんだろ
「三人」
簡潔に答えすぎたのか、二人は顔を見合わせてしまった
「全員じゃないですか、あの三人にもこの事はお話しされているんですか」
少し驚いた感じのいなずま
「ええ、昼間に」
いなずまのなんとも言い難い顔にどうしようと思ってしまう
「それなら私達の出る幕は無いと思うけど、もしかして大和に気を遣われたかな」
吹雪のいい様にいなずまが俯く
「昼間のは教導する側の話、ここで話すのは受ける側の話、立ち位置が違うでしょ、大和は教導を受けた初期艦の意見を、と言っているのだから」
私としてもこの二人の意見は聞いてみたいのでそこを変に気にされても困る
「そう言ってたね、確かに」
苦笑いの吹雪、それを聞いていなずまも顔を上げた
「なら、ここでの意見交換というのは、研修の際につまづいた、というか時間がかかった課題について炙り出すという事で良いのですか?」
「その方向でいいと思う、どこが分かり難いか分からないから教導の方針が決め難いって事だと思うし」
いなずまと吹雪はこう言ってるが、それだけなら初期艦の教導の経験豊富という天龍の話だけで済んでしまう、私としてはもっと根本的な事を聞きたいのだけれど
「二人から見て、座学より実地を優先する教導方針はどう見える?」
二人共考え込んでしまった、そんなに難しい話なのか
「そこは教導艦の考え方の一つだからね、なんとも言えないかな」
「いなずまが思うには、叢雲ちゃんは初日に兵装試験を実施出来るだけの練度がある事が判明しているのですから、そこを基点としての教導方針だと思うのです」
そんな事いわれても兵装を扱う技量と大本営のシキタリ的なモノへの理解は無関係だと思うけど、それでなくとも覚えてる生活習慣と実際のそれとの差異が大きく乖離してるのに
「うーん、いなずまの言う通りだとすると、私としては困るかな」
「困る?」
いなずまに聞き返されてしまった
「兵装とか私自身の事なら妖精さんと相談しながら何とでもなるけど、買い物だとか大本営の暗黙事項とかは妖精さんに聞いても知らないからね、教えてもらわないと」
「そうか、叢雲ちゃんはドロップしたばかりだもんね、妖精さんも知らない事が多いんだ、成る程、成る程」
何を感心してるんだ吹雪は
「それなら一番簡単なのは入渠して妖精さんにその辺りを知ってもらう事ですかね」
それはどう言う事なんだ、いなずま
「あれ、入渠はしたんじゃないの、頭のヤツをブッキーに蹴っ飛ばされたとかで」
吹雪はブッキー呼びなのね
「大和が予約はしたっていってた、だいぶ先になるって」
入渠で妖精さんに知ってもらうとは、どう言う事だろ
「ああ、そういう、叢雲ちゃんの妖精さんと工廠の妖精さんの相性が悪いって事じゃ無いのね」
なにを納得してるんだ吹雪は
「相性って?」
何だ相性って、妖精さん同士は基本仲良しだ、そういうのがあるとは知らないんだが
「偶に出てくる事があるの、今の所建造艦でしか報告例はないけど、入渠しても工廠の妖精さんに修復を拒否される艦がね」
吹雪が聞いた事ない事を言って来た
「は?なにそれ、それって修復できないって事?」
そんなの知らないんだが
「出来なくはないよ、ただ、工廠の妖精さんを説得する手間が必要になるってだけで」
何でもないように吹雪はいうが、そんなの知らないんだけど
「それってその拒否された艦が工廠でなにかしらの問題を起こしたとかで、妖精さんに嫌われたって事?」
可能性がありそうな事を言ってみる
「そういう訳ではない様なのです、いなずまも何回か説得に当たりましたが、妖精さんの言い分は兎に角嫌だの一点張りで苦労したのです」
どういう事だ、修復を拒否されるだけでも初耳なのに理由が分からないとは
「でも、説得には応じてくれたのよね」
手間は必要だと吹雪は言ってるし
「応じたというか、投げ槍な感じでしたね、どうなっても知らないぞって、この件はしっかり記録しておくからこっちに持ち込まない様にしてくれ、っていわれたのです」
「?」
いなずまはそういうけど、なんだそれ、さっぱり分からん
「まあ、それしかやりようがないもんね」
「え、吹雪もした事あるの?」
「あるよ、ああなると誰かしら呼ばれて説得してくれってなるし、初期艦ならみんなやってるんじゃないかな」
んー、腑に落ちない、何かがおかしい、妖精さんが拒否してるのに説得して実施させる、他者に着いてる妖精さんの説得、それは司令官の役割で初期艦と雖も艦娘の役割では無い筈だ
「あのさ、もし見当違いな事をいってるのなら訂正して欲しいんだけど、大本営に司令官は居ないの?」
「あれ、そこも聞いてないの?」
吹雪に不思議そうにされてしまった、頷いて肯定する
「司令官ね、居る事はいるよ、ただ大本営の司令官は代理なんだ、人の都合でそうなってるんだけど、艦娘にとっての司令官は大本営に着任出来ないんだ」
「……悪いんだけど言ってる意味が分からないわ」
「ここは大本営、鎮守府を束ね、艦娘部隊を統括する中枢、鎮守府に着任する司令官と同格では指揮の上下が混乱するとかで、代理の上に司令長官って役職で人の組織の偉い人が着いてるよ」
「……悪いんだけど言ってる意味が分からないわ」
吹雪が説明してくれたけど、ナニソレ、なんでそんなことになってるのかわからない
「司令長官の役職には元々は別の人が着いていました、その人は自身の行動の自由を確保する為に公式な役職に就くことを避け続けていたのです、でも艦娘部隊の設立に当たってそうもいかなくなりこの役職についたのですが、早々に後進にその役職を譲っています、その時は上部機関への転出という体裁をとって役職から離れました」
今度はいなずまが説明してくれた
「つまり、大本営には司令官がいないって事?」
有り得ないんだけど、なんでそんな事になってるの
「簡単に言えばそうなるね、でも現在の運用上ではそれで問題無いんだ」
何をいってる、問題しかないじゃないか、これを問題無いって言う吹雪の考えがわからない
「鎮守府が増設され、周辺海域の掃討任務はそちらに移されました、現時点での大本営の主たる任務は艦娘を増やす事、それもある程度の練度を持つ艦隊を多数育成する事なのです」
いなずまの言ってるそれは鎮守府でもやってる、なんでわざわざそんな事を大本営の主任務にしなければならないのか
「海は広いからね、海上航路も沢山ある、この全てを護衛しようとしたら膨大な数の艦隊が必要になるって事、大本営はその艦隊を量産しようとしてるんだよ」
艦隊の量産?その為に艦娘を増やしてる?どういう事なの吹雪
「護衛任務の為の艦娘部隊なの、アイツラを押し返す為の艦娘部隊ではないの?」
「護衛するには対抗手段が必要、その為の艦娘だよ」
すごくあっさり言う吹雪、なんか納得いかない
「対抗手段って、対抗するだけなの?アイツラが大人しくしてるのを祈ってるのかしら」
「叢雲ちゃんの言いたい事はわかるのです、ですが、今の時点で人はそこまでアイツラを脅威とは見做していません」
いなずまが言う、対抗手段は必要だけれど脅威では無いって、どういう事なのよ
「単純に接触数が少ないんだ、接触すれば大惨事だけど、その数が少ないから本腰入れてないって所かな」
吹雪よ、なんて呑気な、いや呑気なのは人か、そもそも数でいえばアイツラの方が遥かに多い、それくらい分かっているだろうに接触数が少ないからって手をこまねいていると取り返しがつかなくなる
「深海棲艦が海原を埋め尽くす程の大群を成し、それを人が目の当たりにした事例はまだ一度しか無いのです、その一度も艦娘部隊により撃滅されています、ある意味で人は艦娘が居るだけで満足してしまっているのです、そういう事情があり艦娘は過度の大き過ぎる期待を負わされていると言えるのです」
本腰入れていない理由がそれなの?!呑気にも程があるわ
「あれで高練度のドロップ艦が半減、残った高練度艦も兵装の大半を喪失、それに人の無謀な行動に抗議もしてる、それで未だに大本営の士官達とギスギスしてるんだよ、こんな状態の大本営に司令官が着任しても火に油を注ぐ事態になりかねないって見方もあるし、お互い様子見なんだよね」
おおう、呑気なのは人だけでは無かった、艦娘もそんな事やってるのか
なんだかややこしい話になってきてしまった