あの後もう一度ドロップ艦が初期艦だった場合の対応規則を一から説明し直した
その上でこの対応規則には例外がない事、鎮守府に配属される初期艦は原則的に司令官と同時期に着任した艦娘のみで追加の着任は認められない事、更に間の悪い事にこの鎮守府から大本営に送った初期艦が多くいる事を挙げ、鎮守府増設計画の準備段階を終えて実行に移す様に意見具申を行った事
などなど理由を挙げてここへの着任は極めてと言わざるを得ないほどに無理筋な事を丁寧に説明したのだが
「……つまり障害が大きいってだけよね」
全く意に介していなかった、どうしようかコレ
6月13日
「おはようございます」
執務室に入ると珍しく事務艦がいた
「ああ、おはよう、……いつも通りに来たはずなんだが、もしかして寝坊したか」
寝坊けて時計を見間違えたのかと恐るおそる聞いてみる
「いえ、いつも通りです」
そうなると事務艦が早く来た事になる、何故にそうなるのか疑問しかない
「昨日は随分と話し込んでいた様でしたが、結果はどうでしたか」
ここで漸く理解が追いついた、そういえば、あの席を設けたのはこの事務艦が余計な事を言って来たからだったな
「想定外の希望が出されてね、結論は持ち越しになった」
おい、そんな明から様な顔でコッチを見るな、悪かったな艦娘一人説得出来なくて
「……それで、想定外の希望というのは」
こういうところは流石に事務艦と謂れるだけあって切り替えが早い
「うちに着任したいそうだ」
「……はい?」
おお、今日は朝から事務艦の百面相が見れたぞ
「ん、予定通りだな」
どういう風の吹き回しか、第一艦隊旗艦が口頭の報告ではなく詳報をキッチリ仕上げて持って来た
「それで、どうなっているんだ」
「?なにがだ」
内容を確認し終えたと見て取った旗艦が不愉快そうに言って来た
「なにが、じゃないあの初期艦を着任させるつもりか」
「長門は反対か」
「誤魔化すな、わざわざ書類を仕上げて時間を作ってるんだぞ」
あー、そういう事なのね、ちょっと悲しい
「何を聞いたのか知らんが、司令官権限の外の話になってね、正直な所、困ってる」
「事務艦は視察に託けて大本営に引き取らせる算段の様だが、それで良いのか」
「は?」
何それ聞いてない、だけでなく不味い、とってもマズイ事態だ
「それ、どこまで広まってる?」
「わからん、だが帰港直後に耳に入るくらいにはなってたぞ」
それって鎮守府全部だよね
執務なんてやってる場合じゃない、早急に事態を収拾しないとエライことになる
この話が憲兵に拾われて大本営に報告されたら私の減俸だけでは済まない
いや、既に拾われてるだろうから報告される前に収拾して、こっちから報告を上げて大本営への報告は不要だと申告しないといけない
長門に事務艦を抑える様に頼んだ、私はあの初期艦を抑えなければ、間に合ってくれ
結果としては間に合った、憲兵も話の辻褄合わせに苦労していてどう報告すれば良いのか難儀していたのが幸いした
憲兵への申告を終えて、三人を待機させている部屋に入る
「言い分を聞くから話してくれないか」
事務艦は事態を把握出来ていないらしく不思議そうにしている
「言い分と言われましても、司令官の指示通りにしたとしか……」
「指示とは」
「視察に同行させる事で経費削減が出来ると……」
何を言いだすかと思えば、それか
「私の記憶とはズレがある様だが、私の記憶違いかな」
一瞬だけ間があったが直後に事務艦の顔に驚愕に染まった、どうやら事態を把握した様だ
「要するに事務艦の勘違いとか早合点の類いでしょ」
初期艦がなんでもない様に言ってくるが、事は越権行為だ
軍隊とは違うが艦娘部隊にも組織構成員としての権限は設定されている
この設定を決めたのは最上部機関で一介の司令官は元より国でも介入は難しい、寧ろ政治屋なら誰もが関わりたくない事案の筆頭に上げる厄介事だ
現時点で公式な艦娘保有国は日本だけなのにも関わらずそうなっている事情からも事の厄介さがヒシヒシ伝わって来る
「事態を把握出来た様なので、事情も分からず言われるままに協力してくれた第一艦隊旗艦に説明をしてもらえるか、事務艦殿」
事務艦らしく切り替えはあっさりしたもので淡々と説明し、少々の質疑応答の後自主謹慎を申し出て来た
司令官職としては他に選択肢があるはずもなく了承せざるを得ない
滅茶苦茶気が重い、色々下手を打ってる自覚はあるんだが
明日から、というか今日の分からあの執務を一人で処理しなくてはならなくなった、どうすんだよ誰か代わってくれ
「こっちは気にしなくていいわよ」
事務艦が退出するのを見届けてから初期艦が言ってくる
「そういう訳にはいかない、貴方には滞在許可を出している、にも関わらず今回の事務艦の言動はそれを無視したものだ、鎮守府司令官として監督仕切れなかった不実、お詫びする」
言いつつ頭を下げる、これで済ませてくれないと事務艦がどうなるかわからない
「顔を上げなさい、司令官が所属も定まらない艦娘相手にそんな事しては士気が下がってしまうわ、第一艦隊旗艦が見ているのよ」
「侮られたものだ、この程度で士気が下がると見做されるとは」
相変わらずどこになんの根拠があるのかわからないが、聞くだけなら自信たっぷりに聞こえる声だ
頭を下げていたので見てはいないが、この場合見なくて済んだ事を幸運と呼ぶべきだろう
ドロップ艦とそれと同程度の技量に達している建造艦との艦娘同士の睨み合いなんてモノは
「いつまでも司令官に頭を下げさせて置くわけにもいかないから、ここは引いてあげる、部下思いな司令官に感謝なさい」
尊大な口調で言い放ち初期艦は退室していった
「……戦艦に対した駆逐艦のソレではないぞ」
溜息を吐きつつ感想を口にする第一艦隊旗艦
「収まってくれたと思うか?」
見えない圧力の息苦しさから解放されたので、聞いてみた
「事務艦の事なら本人が気にしていないと言ってたが、ここへの着任希望はどう見ても保留中だな、寧ろ視察時になんらかの行動を起こすと考えて対策を講じる事を薦める」
「……同感だ、残念ながら」
そう残念な事に事務艦が謹慎してしまったので執務に追われる事が確定している私には対策を講じる余地など微塵もなかった