6月28日
「よう、今日も揃ってお出かけかい?」
翌朝部屋を出るなり声を掛けられた
声の方を見れば、口の悪い天龍が壁に背を預けて腕組みまでしてるのが見えた
「天龍、そんな所で待ち伏せでもしてたの?」
「待ち伏せって、お前はホント口が悪いな」
呆れた様に言うが、私に言わせればあんたの方が余程口が悪いんだけど
「なにか御用でしょうか」
鍵を閉め終えた大和が聞いた
「なに、昨日は随分と活躍したらしいから、ちょっとだけ褒めといてやろうかと思ってな」
なんの話をしてるんだ、昨日活躍したって言われても大和が食堂の当番だったくらいだけど
「で、教導艦としては、今日の予定は如何するんだ」
天龍が大和に聞いてる
「今日は大本営所属艦とその任務内容を一通りの予定です」
「そう言う事なら、遠征隊の待機所にも来るな、よし、そっちで待ってるわ、キリのいい所で寄ってくれ」
そういうと去ってしまった
その後は大和の予定通りに先ず大本営所属艦の説明があった、それもこれまでの実地研修ではなく資料室?らしき所で関連資料を参照しながらの座学だ
驚くのは大本営所属の戦艦が大和だけという事、昨日食堂で見かけなかった艦種は本当に所属していないらしい、潜水艦と水上機母艦は遠征に駆り出されているという話も聞いたが、数隻しか居ないんだとか
なんで大本営の所属艦がこんな事になっているのか、大和が言うには人の都合というが、どんな都合なのか見当もつかない
「大本営に来られた時に老提督が仰られていた事を覚えていませんか?」
そう言われてみれば何か言ってたと思う、確か国外のゲストに言われるままに建造と解体を繰り返してるとか、何とか
「えっ、まって、あの建造と解体を繰り返してるって言ってたの本当にその通りにって事?」
頷いて肯定されてしまった、何だそれは
「という事は、まさか、その繰り返された中に今所属していない艦種まで含まれてるの?この資料はかなり充実している様だけど」
「その通りです、資料は充実しているのに所属していない、この状態は電さんや叢雲さん、この場合は三組の叢雲さんですね、あの演習の後に言っていた事はこういった大本営の士官達の行動を懸念したものです、大袈裟だったり手の届かない所の話という訳ではないのです」
電が言っていた、人にとっては初期艦も建造艦も一緒だと
ムラムラが言っていた、艦娘という括りでしか見ることの出来ない人に技量差なんてモノは分かりっこないと
なんて事だ、私が会った事のある人はそれほど多くない、ちゃんと話をした事のある人だと司令官と視察官ぐらいだ、そこに人の基準を置いていた
現状は全く違うという事になる、これにはどう対処すればいいのだろう
「ご心配には及びません、こう言った事は習うより慣れろです、大本営に居れば人と接触する機会は多いですから少しづつ慣れていきましょう」
私の心配事を見抜いたのか大和がそう付け加えた
午後になった、大和に連れられて遠征隊の待機所に向かってる
午前の講義では遠征隊の任務についても話があった
遠征隊のやる事は資材の収集だ、遭遇戦でもなければ戦闘は行わない、何しろ兵装の代わりに資材運搬用の機材を装備するのだから戦闘行動は出来るだけ避けたい
現状では資材の収集場所迄は安全が確保されている事になっているので戦闘はほぼ起きないという話だ、鎮守府の方では攻略部隊である第一艦隊がその安全を確保する事になっていたはずだ
攻略部隊を編成しなくても安全が確保出来るとはどんな仕組みなのか見当もつかないが
大和の説明によると鎮守府が安全を確保しているお陰で大本営付近の海域まであいつらが入って来れないと言っていたが、正直疑ってる
なにか私の知らない事情がある様に思うが、簡単に話せる内容では無いのだろう、と思う事にした
「おう、来たか」
待機所に入るなり声がかかった、どうでもいいとは思うが、暇なの天龍は
「申し訳ありません、こちらの研修が終わるまで待って頂きたいのですが」
おや、大和はここで何をするんだろ、いや、研修なのは分かるが、任務の話なら午前で終わりじゃないのかな、態々場所を変えて続ける様な話は思いつかない
「いいぜ、ゆっくりやってくれ、こっちもチビ達の相手があるしな」
これはいい人の天龍か、今朝待ち伏せしてた口の悪い天龍と最初の天龍は、少し離れた所で駆逐艦の集団と一緒にいる
あれは睦月型だよね、それにしても何人いるんだ、判別出来るだけでも同名艦が一杯いる、昨日の食堂の手伝いで同型同名艦が沢山いる事は分かってたけど、やけに睦月型に偏ってる気がする
後見える所では特型と他にもいるみたいだけど、よくわからない
「では、叢雲さん、一回りしながら進めていきましょう」
「ええ、わかったわ」
このいい人の天龍はなんで一人だけ離れているんだろう、とか考えてたら大和が研修を始める様なので頭を切り替えてそれに続いた
「どうだい、大本営所属艦の感想は」
大和の説明が終わりいい人の天龍と合流したらこう聞かれた
「どうって、言われても……」
正直拍子抜けとか肩透かしといった感想しか持ち様がない、戦力が軽巡を軸に構築されているのはまだ分かる、しかし軽巡を除くとほぼ駆逐艦しかいない
挙句に最大戦力である大和は技量不足で戦闘不可、兵装開発の補助としてしか海に出られないとか、一体誰が何を考えてこんな体制を構築したのか
「まあ、簡単に言ってショボいわな、これで大本営で御座いってマトモな感覚してたら言えるはずもないんだが、残念な事に人の認識と艦娘の認識は大きく違っているって事だ」
言葉を濁した私の言い分を補完した上で違いを言って来た
「それがわかっていても手が打てない状況なの?」
「俺等が野良艦娘にでもならない限りは無理だな、一号の初期艦の話だと人と合流してから自由に海に出られる様になるまで二年かかったそうだ、大本営に改称してからまだ一年ちょっとだ、今は短絡的に行動を起こすよりは人の理解に期待する時期だと考えてる」
「何を小難しい話をしてんだよ、そういう話をする為に待ってたんじゃないだろうが」
いい人の天龍と話してたら口の悪い天龍が入って来た、そういえばあれだけいた駆逐艦達がいなくなってる、遠征に出たのだろうか
「心配性なんだ、察してやれよ」
今度は最初の天龍か、この天龍達例の休暇とやらが未だに続いているのかな
「皆さん態々お待ち頂いてありがとうございます、私はこれで」
えっ、なんで大和が退場の流れになるの、こんな所に置いていかれても困るんだけど
「なんか用事でもあるのか?」
口の悪い天龍も不思議そうに聞いてる
「明日、叢雲さんの入渠が予定されています、その確認です」
そういえばそうだった、けど何を確認するんだろ
口の悪い天龍も意味を掴みかねている様子だし、このまま流されるのも癪だし
「それなら私も一緒に行くわ、当人なんだし」
「まあまて、大和、その確認は誰にするんだ?」
最初の天龍が入って来た
「……漣さんですが」
「やっぱりか、それならここで待ってれば向こうから来るぞ」
「……ご存知でしたか」
「駆逐艦の面倒を見るのは軽巡の務めだからな」
当然の様に言う最初の天龍
「あの漣が挙って工廠に籠ってんだ、なにもないワケはないわな」
いい人の天龍が続いた
「その辺りは来たら聞けば良いさ、それより向こうでゆっくりしようぜ」
口の悪い天龍の誘いで場所を変える事になった
「それにしても昨日は最後まで厨房に立ってたって?」
移動し終わるなりいい人の天龍に聞かれた
「それが、どうしたの」
昨日の手伝いの件をヤケに気にかけている様子だけど理由が分からない
「いや、悪い意味で言ってるんじゃない、感心してんだよ」
「感心?」
口の悪い天龍に感心される様な事なのか、疑問なんだけど
「猫の手ぐらいにしか使えないだろうと思ってたんだが、孫の手くらいには動けてたな、初期艦とはいえ実務は未経験だろ、大したもんだ」
「おい、褒める時はちゃんと褒めろよ、そこで照れてどうすんだよ」
口の悪い天龍に最初の天龍からのツッコミだ、褒めるって何を?
「いや、コイツが昨日のお前さんの働きをえらく気に入ってな、アレは凄い、褒めてやらないと、前に言ったことも侘びとかないとって、五月蝿くてな」
「ゴメン、話が見えない」
最初の天龍が説明してくれたけど、さっぱりわからなかった
「建造艦でいえばの話だがな、駆逐艦だと大抵は人数分の調理だけで手一杯なんだよ、だから駆逐艦が当番の時は調理と片付けは別の班になってる、まあ、給仕は二班合同でやってるが、お前さんは片付けから入って調理、給仕、最後の片付けまでやり通した、そこの所を凄いと言ってるんだ」
いい人の天龍が説明し直してくれた、が、今一わからない、私は大和の手伝いをしただけだ
凄いのは二食分通しで入ってた大和の方だ、終わった時にも疲れた様子は全くなかったんだから
「そんな事言ったら大和の方がもっと凄いじゃない」
思った事をそのまま言ってみる、相手がいい人の天龍なら変な気を使わなくても大丈夫だろう
「アホかお前は、戦艦と駆逐艦が同じな訳ないだろ、艦種の違いを軽くみるな、こんな形だから実感が薄いのかもしれんが、お前は駆逐艦だ、初期艦であろうとそこは変わらないんだぞ」
いい人の天龍が言ってきた、なんか呆れ半分、怒り半分な口調だ
「艦種の違い、天龍さんから見ても大和はそれが理解できていない様に見えますか?」
私より先に大和が入ってきた
「なんだよ、藪から棒に、大和は俺より長いだろ、それを俺に聞くのか?」
戸惑い気味に答えるいい人の天龍、えっ長い?大和の方が?天龍より大和の方が先に建造されたって事?
「実は、教導に際し幾度か意図しない結果になり、艦種の違いについて理解が足りない事が原因と指摘を受けました、自分では理解していると思っているのですが」
「なんか、前にもそんな事言ってなかったか」
最初の天龍が入ってきた
「はい、以前にも教導方針をご相談させて頂きました」
「それをまた聞いて来るってことは、あんまり役に立てなかった様だな、すまねぇ」
なんか最初の天龍が謝ってるんだけど、もしかして私の所為かな
「いえ、大和の理解不足が原因なのですから謝らないでください」
「理解不足っていうよりコイツの力量が不安定で計り間違えてるんじゃないか」
口の悪い天龍だ、不安定ってなによ、不安定って!
「あー、言われてみればそんな気がする、よく気がついたな」
最初の天龍まで同意するし、なんなの!?
「不安定?どういう事だよ」
なんで私がしようとした質問をいい人の天龍がするのよ、人の台詞を取らないで欲しいわ
「そこが漣達がなんかやってる所だ、吐かせた所によると先任の叢雲の妖精さんを乗せてるんだと、この叢雲は」
「なんだそりゃ?」
最初の天龍が吐かせたとか言ってるんだけど、いい人の天龍は事態を掴めない様子だし
「簡単にいえば、先任の叢雲の技量を部分的に使えるって事、妖精さんを入れ替えられる所に限られるけどな、例えば、そう、兵装とか」
意味深に言う口の悪い天龍
「それがどうしたのよ」
天龍達の話に割って入る、漣達もそうだけど私も知らない私の事を並べ立てないでもらいたい、少なくとも本人に説明が必要だと思うわ
「どうもしない、影響があるのはお前さんだしな、明日の入渠に当たってその影響を最小に留める算段を立ててるのも初期艦だし、こっちはただの見物人だ」
なにか意味ありげに言った割には見物人という口の悪い天龍、ホント口の悪さは性根の悪さよね
「……おまえ、叢雲を褒めるんじゃなかったのか、さっきから叢雲の神経を逆なでしてるが、いいのか?」
最初の天龍が揶揄う様に口の悪い天龍に言う、聞いた口の悪い天龍がハッとした様な顔になるが、私の与り知るところではない
「あ、これは拗ねたな」
顔に出たのかいい人の天龍からだ、それを受けて何故か困った様な顔になる口の悪い天龍
私の所為じゃ無いからね、こっちに振らないでよ
「皆さんお揃いで、これは出遅れましたかな」
この声は漣だ、そちらを向けば漣が三人もいるんだけど、三人目はどこの漣だろう
「珍しいな、お前さんがこんな所に顔を出すなんて」
最初の天龍が三人目の漣に声をかけた
「先任に引き摺り出されたんです、漣としては見物人で居たかった」
「ちぃ姉様は御優しいですからね、漣一人にこんな厄介事を抱えさせて見ない振りとか出来ませんもん、なんで一番上の御姉様だけがこんなにも理不尽のカタマリなんだか」
桃色兎が相変わらず不満を口にしてる
「ちょっとざみちゃん?漣の何処が理不尽の塊だって言うのさ」
先任の漣には異論があるらしい
「あー、わかったから三人揃って漣を連呼するな、俺等の前でそれをしてもしょうがないだろ」
不満有り気な二人といつもの調子の一人で口論を始めかねない様子を見て最初の天龍が割って入る、三人もいる漣達も個体単位で把握済みの様だ
「叢雲さんは一組の漣さんとは初顔合わせでしたね」
大和に聞かれた
「ああ、一組の漣なんだ、そんな感じはした、叢雲よ、今は研修中だけど、よろしく」
「噂は色々聞いてるから興味はあった、会えて嬉しいよ叢雲ちゃん」
おっと、なんだ?ここでそんなにいい顔されるとは思わなかったんだけど
「ちょっと一組の、叢雲ちゃんが戸惑ってるでしょ、スマイル、スマイル」
「エッ、こ、こうかな?」
先任の漣に突っ込まれて慌てた様に笑顔を見せる一組の漣
「皆さん揃われた様ですが、此処で続きを?」
大和は明日の入渠ついて漣に話があると言ってた
「そうだな、話が話だし、場所を変えるか」
最初の天龍もその辺りを承知している様だ
「そう言うと思って既に確保済みです、他の面子は先に行ってますからいきましょうか」
そう言って先導する先任の漣、というか呼びに来ただけなの、それなら三人でくる事なかったんじゃないかな
登場艦娘
研修中の叢雲
教導艦の大和、老提督の秘書艦も兼務してるハズ
先任の漣、最初(一号)の初期艦の一人、桃色兎からは御姉様呼びされてる
先任の電、最初(一号)の初期艦の一人
最初の天龍、32話オープンカフェで最初に声をかけて来た天龍
いい人の天龍、27話大和に苦情を言いに来たが、事情を知り頼って来いと言った天龍
口の悪い天龍、32話オープンカフェで可愛げが足りないと言って来た天龍
演習組(三組)の漣(桃色兎)、ざみちゃん呼びされてる
演習組(三組)の叢雲、ムラムラ呼びされてる
一組の漣、桃色兎からはちぃ御姉様呼びされる事も
大本営所属の睦月型駆逐艦、同名艦が多数居る模様