初期の艦これ   作:弱箔

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40 いつか使ったゲストルーム

 

 

 

移動した先はいつか使ったゲストルーム、以前と同じ様にセッティングされている

そこにいるのは天龍が三人と一号(最初)の初期艦四人、一組の漣と三組の漣、私(叢雲)と大和の十一名、数の上では前回と一緒だ

 

「五月雨達がお話をサボった所為でこういう機会を設けることになりました、この際過去は過去として前向きにいきましょう」

 

先任の漣からトゲ付きの台詞だ

 

「別にサボったワケじゃ無いんだけど」

 

漣の開催宣言?に抗議する五月雨とそれに同意するブッキーと電

 

「漣としては五月雨御姉様の手作りお菓子があるので問題ないです」

 

桃色兎が相変わらずの御気楽さを見せてる

 

「これがざみの言ってたお菓子?」

 

一組の漣が物珍しそうにそれを手に取ってる

 

「さみちゃんが作り方を教えて欲しいって言って来たから一緒に一杯作ったんですよ、遠慮なくどうぞ」

 

とても嬉しそうにいう五月雨

 

「その一緒に作った五月雨はどうしたのよ」

 

三組の初期艦の中で参加が漣だけなのは何かあるのかと思って聞いてみた

 

「漣を除く一組の初期艦と三組の初期艦は工廠で作業中、私達と交代でね」

 

ブッキーから答えが返って来た、ん、一組の初期艦って二名欠員とか言ってなかったっけ

 

「工廠に六人いるって事?」

 

「そうだよ、あれ、なんで六人って分かったの?」

 

ブッキーにすごく驚かれたんだけど、なんでだ

 

「前に一組は二名欠員って聞いたからだけど」

 

聞いた話をそのまま言うと何故かブッキーが渋い顔になった

 

「その話、吹雪ちゃんから聞いたの?」

 

その顔のままで聞かれるとなんかこう、悪いことしたみたいじゃないか

 

「欠員って所だけね」

 

「なんだよ、お前まだ気にしてんのか?」

 

最初の天龍だ、気にしてるとはどう言う事だろう

 

「……そんな事は、ないです」

 

なにそのバレバレな言い様は、何があったんだろ

 

「別に気に病む事じゃないだろ、解体も改修も艦娘の使い方だ、字面を怖がって実施を躊躇っていた司令官の背中を押したんだ、艦娘の運用が出来なくなるよりはよっぽどマシだろ」

 

なんでもない様に言う最初の天龍

 

「背中を押したって?」

 

なんとなく想像はついたけど、敢えて聞いてみる

 

「一組の吹雪と叢雲が当時の司令官に解体と改修を実行する様に、まあ、色々手を尽くしたんだ、それで言い出した吹雪が解体、叢雲が一組の五月雨の改修に使われた」

 

淡々という最初の天龍

 

「結果としては解体も改修もキッチリ工程が確認されて人が字面を気にしなくなった」

 

それに続くいい人の天龍

 

「誤算だったのがアレだけ怖がっていた箍が外れたって事かな、無闇に解体する様になっちまった、改修なんて何も残らんってな、多少なりとも資材が回収出来る解体の方がマシだってんで改修はしなくなっちまったしな」

 

口の悪い天龍が信じ難いことを言った、無闇に解体ってどういう事なの

えっと、確か視察官が言っていた、国外のゲストに言われるままに建造と解体を繰り返して資材を浪費していると

午前の研修で大和もそれを指摘している

あれ、視察官は何か別に事でも資材を浪費してるって言ってなかったかな、それの所為で遠征隊に過度の負担がかかってるって言ってた気がするんだけど、なんだったかな

 

「資材を浪費してるのはそれだけ?」

 

ここまで出かかってるのにもどかしいので手取り早く聞いてみた

 

「……いきなり資材の浪費と来たよ、お前さん意外と冷血な口か?」

 

なんで冷血になるんだ、ホントにこの天龍は口が悪い

 

「大型建造の事ですか?」

 

大和が聞いて来た、って、あんたはなんで漣達とお菓子の取り合いしてんのよ、しかも三対一なのに優勢だし、漣達は器用にアイコンタクトを駆使して連携まで取ってるのに劣勢になってるし、こんな所で戦艦と駆逐艦の艦種の違いを見せつけなくてもいいわよ

 

「それだっけ?大和を建造したのって」

「はい、そうです」

 

こちらには目もくれず四人はお菓子に向き合っていた、いや、いいんだけどね

 

「大型建造な、アレはアレでどういうつもりなのかさっぱりわかんねーよ」

 

呆れた様にいういい人の天龍

 

「わかんないって、何が?」

「司令官代理はどういうつもりで兵装だけ保管して肝心の艦娘を解体しちまうのか、俺にはさっぱりわかんね」

 

えっ、なにそれ、そういえば演習の時、五月雨が大和に35.6センチ積もうとしたとか言ってなかったっけ、アレは兵装だけあるって事?

大本営に戦艦は大和しかいないんだっけ、その兵装と伴に建造される筈の戦艦は所属していないと聞いた、なんだか色々聞いて知る事が増える度に憂鬱になるんだけど

 

「兵装だけコレクションしても仕方ないのにな、挙句に新規開発された兵装の使用許可は出さないし、何を考えているのやら」

 

口の悪い天龍も呆れた様子だ

 

「そこはお爺さんに伝わったので変わると思うのです」

「お爺さん?」

 

電の言葉に最初の天龍が疑問をつけた

 

「老提督の事です、私達にはお爺さんですから」

 

答えたのは五月雨だ

 

「まったく、初期艦はなんだって老提督をいろんな呼び方するんだよ、わかんねーよ、どれでも良いから一つに纏めとけ」

 

ウンザリ気味の最初の天龍

 

「お爺さんはお爺さんなのです、私達の事を孫の様だと言ってくれたのです」

 

電が何時に無く柔らかい笑みを見せてる

 

「そうです、とっても良くしてくれました」

 

五月雨よ、おまえもか

 

「あの人は私達の話をちゃんと聞いてくれました」

 

ブッキーもこう言ってる

 

「そうそう、監視役の三佐は聞き流してばっかりだったけど、じーちゃんはちゃんと聞いてくれた、それに何と言っても妖精さんが見える人はじーちゃんが最初だし、後から何と呼ばれる様になってもじーちゃんはじーちゃんだ」

 

最後は漣か

 

「だから、一つにしろと……あーもう、わかったよ」

 

最初の天龍は諦めた様だ、丁度その時誰かがドアをノックする音が聞こえた

 

「何だ?他に誰か呼んだのか?」

 

口の悪い天龍が言った

 

「おお、まさか来られる時間があるとは思わなかった!」

 

そう言ってドアを開けに行く先任の漣

誰を呼んだんだろ

 

「お誘いを受けたので来てみたよ、お邪魔してもいいかな」

「どうぞ、どうぞ、若干狭いですが、遠慮無く」

 

そこに居る人を見て天龍達が固まってる、漣二人は席を飛び出してその人物を迎えに行った、先任の初期艦達は満面の笑みを浮かべてその人物を迎えてる

大和はいきなり席を飛び出し行った漣達に呆気に取られたのかお菓子の争奪戦のままのポーズで動きを止めていた

 

「視察官じゃない、お久しぶり、あの時はありがとう」

 

「おお、叢雲さんも招待されていたのか、久しぶりだね、研修の方はどうだい」

 

「話は後あと!とにかく座って座って」

 

そういう先任の漣、そのまま漣三人に先導される様に室内に入ってくる

 

「ちょっとまて、こりゃ一体どういう事だ!?」

 

再起動したらしい最初の天龍が声を上げた

 

「どういう事?と言いますと??」

 

桃色兎が応えてる、その間にも視察官は他の漣に先導され席に着いていた

 

「こちらをどうぞ、私とさみちゃんで一杯作ったんですよ」

 

五月雨が視察官にお菓子を勧めてる、電はお茶を出してるし、なんという連携プレーだ

 

「うん、よくできてる、いただこうか、電もありがとう」

 

いいながら電の頭を撫でる視察官、なんというか、ナニ、電のその顔は、その顔からはどうやってもあのプラズマ状態になるとは信じ難いその柔らかい笑顔はどこから出した

 

「いや、だから、これはどういう事なんだよ、少しは説明してくれ」

 

なんだかいい人の天龍から泣きが入ってるんだけど、なんでだろ、見れば口の悪い天龍はまだ固まってる

 

「おや、漣さん、私が来る事を言っていなかったのかい」

 

お菓子を取りながら聞いてる視察官

 

「提督はいつも忙しくしてるからね、来ると言って来れなかったら嫌だからさ、先任とざみにしか伝えてなかったんだ、糠喜びって嫌でしょ?」

 

イタズラっぽく一組の漣がいう、ん、提督?

 

「私は提督ではないよ」

 

視察官はそういうが、どういう事なんだろ

 

「呼称が司令官に統一されたんでしょ、そんなの人の都合なんだから漣には関係ないです」

 

一組の漣の言い分に困った様子の視察官

 

「提督って、視察官は妖精さんの声が聞こえるの?」

 

先任の五月雨から聞いた説明では提督と呼ばれているのは妖精さんと会話のできる人だ、私が知る限り視察官は妖精さんに好かれてはいるが、妖精さんの声が聞こえる人では無い、声が聞こえないのに会話出来るの?

 

「いいや、声は聞こえない、私は見る事が出来るだけだよ」

 

視察官の答えに私は戸惑った、なら何故一組の漣は提督と呼ぶのか

 

「提督は声が聞こえ無くても妖精さんの意図を読めますから、下手な提督よりずっと妖精さんに頼りにされてますよ」

 

意図が読める?一組の漣の言う意図が読めるとは一体、ん、下手な提督?

 

「いやいやいや、まて、オマエラなんでそんなに普通に話してんだよ、老提督じゃないか、なんだって上部機関の偉いさんがこんな所に?!」

 

やっと再起動したらしい口の悪い天龍が驚きの声を上げた

 

「ふむ、漸く皆が揃ったね、漣さん、こちらの艦娘さんは?」

 

視察官は固まった天龍達の再起動を待っていたのか

 

「天龍ですよ、遠征隊を率いてる軽巡です」

 

先任の漣だ、それを聞いた視察官がどういう訳かスッと立ち上がった

 

「君達が天龍さんでしたか、知らずに失礼した、遠征隊を率い大本営の資材調達に於いて尋常ならざる貢献をしていると報告を受けている、士官達が資材を浪費するも枯渇しなかったのは君達の働きのおかげだ、しかしその働きが如何に苛酷であったか、想像に余りある、そこまで事態を放置してしまった責は現状の大本営体制を過信した私にある、すまなかった」

 

そういうと頭を下げる視察官

 

「それは違います、確かに老提督は現状の大本営体制をお作りになったお一人です、ですが、それを運用したのは士官達です、然も当初に示された運用方針から外れて運用されています、老提督に責を問うのは筋違いというものです」

 

大和だ、こちらも漸く再起動がかかった様だ

 

「えっと、つまり、どういう事だ?」

 

今度は最初の天龍だ、他の天龍も状況が未だに飲み込めない様子だ

 

「そんな事より、視察官にいつまで頭を下げさせておくつもりなの」

 

天龍達が視察官を放置するのでつい口を出してしまった

 

「ああ、気にすんなよそんな事、それくらいこの天龍さまにかかればどうって事ないぜ、なにしろこの天龍さまは世界水準超えてんだからな!」

 

なんでこんなに大威張りなんだろ、この口の悪い天龍は

でも、それを聞いた視察官は顔を上げた、なんだか安心した様子だ

 

「まったく、コイツは……でもまあ、アレでキツかったのは俺等軽巡じゃ無くて駆逐艦の方だ、老提督は言う相手を間違ってるぜ」

 

最初の天龍だ、どうやら状況に思考が追いついたらしい

 

「その辺は俺等軽巡がフォローする所だろ、あのチビ供に今の話を聞かせても興味すら向けないからな、あの遠征だってどこまで理解してやってるのやら」

 

こちらも状況が飲み込めた様子のいい人の天龍

 

「君達は資材調達だけでなく、大本営が招いた国外のゲストの案内役としても大いに貢献があったと聞いている、本当にありがとう」

 

「それこそ気にする事じゃない、俺等は俺等でそれなりの下心があってやった事だ」

 

最初の天龍だ、なに、下心って

 

「それも聞いているよ、君達が案内役を買って出てくれたお陰で大和一人に集中していた負担が分散されゲストも余裕を持って視察を行える様になったと、それにゲストから大本営の艦娘部隊運用に疑問の声も上がってきた、それを受けて私が査察に来たのだ、それが無ければ未だに大本営は浪費を続けていただろう、査察に入って目の当たりにしたのは信じ難い結果ばかりだ、こんな事が起こり得ない様に大本営を再構築するつもりだ」

 

「まったく、じーちゃんは何時迄も隠居出来そうに無いですな」

 

先任の漣がお菓子を頬張りながらいう、見れば大和が争奪戦から離脱している

即ち、漣三人で五月雨の作ったお菓子を取り放題、いや、良いんだけどさ、なんて言えば良いんだろうね、この気持ち

 

「再構築?大本営を?」

 

いい人の天龍がかなり強い疑問調で聞いた

 

「そう、幸いな事に再構築する為のモデルケースを直に見る機会を得られた、私は艦娘部隊の指揮を取った事はあっても運営した事はない、当時は軍組織の色が濃かったから指揮権者はあくまで管理職で細部には其々の担当官が配置されていた、よくあるピラミッド型の指揮系統だ、現状の大本営もそれに倣っている、しかしそれでは艦娘部隊は十全な能力を発揮しない事が分かった、あの鎮守府を見て私は強く組織構築を間違えた事を知らされた、鎮守府は司令官と艦娘の二人三脚にて一体と為さねば成らなかったのだ、ここに第三者が入り込むと司令官が容易に誘導され艦娘から第三者に軸足を移してしまう、これは現状の鎮守府が機能不全に陥っている事からも明らかだ」

 

「いや、明らかって、そうなったのは大本営の命令が発端だろ、幾ら何でもその言い分は無いと思うが」

 

いい人の天龍にしては何時に無く顔つきが怖い

 

「それだよ、それが第三者が入り込むと言う事だ」

 

視察官の指摘する所の意味は何?

 

「無茶苦茶言うなよ、指揮権の上位から命令が来たんだ、それに逆らったら組織が維持出来なくなっちまう、俺等は軍隊なんだぜ」

 

「違う、君達は、艦娘部隊は軍隊では無い、艦娘部隊の行動目的は海洋航路の安全確保だ、その為に国際機関として成立したのだ、軍隊は国家を始めとする大規模な人の組織に属し、大規模な人の組織は多数存在する、これは軍隊は多数存在することを意味すると同時に、軍隊で在れば他の軍隊を相手にする事は必然となってしまう、艦娘が相手にしなければならないのは人の組織に属する軍隊では無い、あの海上交通を阻害する深海棲艦だ」

 

いい人の天龍の言い分に強い口調で自説?を説く視察官

 

「それ、例の演説で言ってた事だな、本人に言うのもアレだが」

 

最初の天龍だ、例の演説と言うのはなんだろう

 

「艦娘を対深海棲艦専門の独立組織として国家という枠組みから分離、国際機関として運用し、人類全体の利益に寄与させる、これこそ最良の選択だ、とか言って理屈を並べてたな」

 

いい人の天龍だ

 

「あの演説の一番は人が艦娘を受け入れた理由だよな」

 

口の悪い天龍だ、なんか皮肉を言ってる様に聞こえたんだけど

 

「艦娘はコストパフォーマンスが高いってな、俺等年中サービス価格なんだとさ、国軍動かすのと比べたら無いも同然なんだと、人の懐具合で見るとな」

 

最初の天龍が呆れ半分な感じでいう

 

「それは否定しない」

 

それに普通に応じる視察官

 

「いいじゃないですか、コストパフォーマンスが高いのは良い事でしょう、私には、大和には何の不都合もありませんよ」

 

「やまちゃんが言っても説得力が無い件について」

 

桃色兎がボソッと何か言った

 

「……」

 

聞こえたのか、大和が俯いてしまった

 

「大和が気にする事じゃないだろ、資材消費が大きいくらい俺等が何とでもしてやるよ」

「そうそう、人の懐から資材が出てる訳じゃない、俺等遠征隊が集めてんだ、気にすんな」

「まったくコイツは……」

 

いい人の天龍から口の悪い天龍に続いて、最初の天龍にまで睨まれる桃色兎

 

「揃いも揃ってやまちゃんには甘々ですな」

 

桃色兎も負けて無かった

 

「なんだよ、文句でもあるのか」

 

最初の天龍が揶揄う様にいう

 

「文句なんてトンデモナイ、ただ、駆逐艦の身ではやまちゃんに甘々な事はしてあげられないなーと、ザンネンなだけですよ」

 

そう言うと桃色兎は相変わらずの状態の二人に加わった、いいんだけどね

 

「いい加減座ったら?それとも演説の続きがあるのかしら」

 

さっきから立ちっぱなしの視察官が気になっていた

 

「ん、そうだね」

 

まるで立っている事を忘れていた様に言う視察官

それを待って最初の天龍が口を開いた

 

「で、老提督はこんな所に何の用が?」

 

あれ、もしかして視察官を警戒してるの、天龍達

 

「ここに来たのは漣さんに誘われたからだが、こちらとしても何処かで話す機会が欲しかったからでもある」

 

慎重に言葉を選んでいる様な視察官

 

「天龍は大丈夫だよ、どこかのおっかない軽巡と違って駆逐艦には甘々な軽巡ですから」

 

睨まれたばかりだというのに全く気にしていない桃色兎

 

「こういう会合に呼ぶくらいには初期艦に当てにされてますし」

「それに遠征隊を統括してるのは天龍だし、聞いてもらった方がいいでしょ」

 

先任の漣に続けて一組の漣、お菓子を頬張りながらの三人、そんなに慌てて食べなくても

 

「それで、お話というのはなんでしょうか」

 

先任の五月雨が先を促した、天龍達はそのままだったが

 

「うん、初期艦達に手を貸して貰いたい事があってね」

 

視察官はそう言いつつお菓子に手を伸ばした

 

「あの戦い以降帰属未確定になっている艦娘達を現役に復帰させたい、復帰してもらった上で協力が得られれば大本営の再構築はより確実なものになる、幾人かは国外の鎮守府設置に向けて動きがある様だが、そこも本人の意思を確認したい」

 

言い終わるとお菓子を食べ始めた

 

「現役復帰ですか、難しいと思います、艤装を放棄してる艦娘もいますし、現在の鎮守府の仕様では艤装だけを新造する事は出来ませんから」

 

五月雨が応じる

 

「うーん、私は艦娘の艤装や兵装については資料で読んだだけなのだが、工廠で開発とやらをすれば放棄した艤装を取り戻せるのではないのかね」

「それは出来ない」

 

視察官にキッパリと言い切る先任の漣

 

「現在の仕様では艤装の放棄は艦娘としての半身を失うのと同じ、艦娘が人の形を保っているからといって無傷って訳じゃない、あの状態を人に喩えるなら腕とか、切除しても即死はしない部位を失っているのと同じなんだ、人でも手足を失ったらそう簡単には以前と同じ様には振る舞えないし、それを補完する手段があるにせよ、その習得は容易じゃないし単独で出来ることでも無い、更に費用と時間とケアも必要になる、大本営の士官達にはそこの所を何度も説明したけど、未だに理解してもらえない」

 

一組の漣から解説が入った

 

「……報告書にあった再就役拒否、と言うのはその事かね」

 

視察官が深刻な顔をしてる

 

「拒否って……そうじゃないとあれだけいったのに、したくても出来ないんだよ、艦娘と妖精さんは不可分な存在なんだ、艤装も同じで本来それを放棄する事は有り得ない、艤装に着いている妖精さんまで放棄する事になってしまうから」

 

そういう一組の漣は、これまでに見たことの無い哀しそうな顔をしてる

 

「それをしてしまうと、もう艤装そのものを扱えなくなってしまう、妖精さんは交代や入れ替わりはするけど、元々居ない艦娘には着いたりしないんだ、妖精さんから見れば居場所が無くなってるからね」

 

先任の漣はいつも通りだ

 

「居場所?居場所か、そういう細かい所は言葉での説明が無いと、この年寄りの想像力だけでは無理がある」

 

困った様な視察官

 

「想像力って?」

 

つい口を挟んだ

 

「先ほどこちらの漣さんが私の事を妖精さんの意図が読めると言ってくれたが、それは単に想像力を働かせ推測しているに過ぎない、妖精さんと言葉を交わせる提督の真似事でしか無いんだよ」

 

視察官はそう私に優しく言ってくれた

 

「そんな事ない、じーちゃんは妖精さんの意図を凄く良く分かってる、そうでなければ妖精さんがあんなに懐いたりしないよ」

 

視察官の言い分に一組の漣がムキになってる

 

「そう言ってくれるのは嬉しいんだがね、現状を拾えないという事実は認めなければならない、現状を見誤ればその実害を受けるのは君達、艦娘達だ、それは避けなければ」

 

「ちょっといいか?」

 

いい人の天龍が口を開いた、それに視察官はただ頷いた

 

「まさかとは思うけどよ、士官達が兵装をコレクションしてる理由は、それなのか?」

「俺等遠征隊を扱き使って集めた資材を文字通り浪費してたって事だな」

 

口の悪い天龍も呆れ気味だ

 

「……説明はしたんだよ、兵装だけあっても艤装を失くしてる艦娘には装備出来ないって、でも、士官達には無視されてしまった、ごめんなさい」

 

一組の漣が漣とは思えない程辛そうな顔を見せた

 

「おまえが謝る事じゃないだろ、そんな顔すんなって」

 

そう言って漣の頭を撫でているのは口の悪い天龍だ、なんか私の時と対応が違く無いか

 

「漣さん、こちらの天龍さんの言う通りだ、報告書にも漣さんの説明は記載されていたよ、漣さんの言う通りに士官達が取り合わなかった事も含めてね、司令官は艦娘と話をする様にとあれだけ言って文字に起こす事までしたのに、士官達には無視されてしまった、大本営の士官達は司令官ではなかったからね、私はこういう抜け道を塞がないまま退いてしまった、それが誤りであった事が今回の査察で良く分かった、それを正すには大本営を再構築する必要がある、それを成す為に上部機関からも協力を取り付けている、今度は退く訳にはいかない」

 

力説とは違うけど、強い意思?決意?を感じさせる視察官

 

「視察官は退役してるって聞いたんだけど、現役に復帰したの?」

 

その感じが妙に不自然に思えたから、聞いてみた

 

「退役してたよ、ずっとね、だから退いていた、第一線には現役が着くべきと考えていた、しかしそれが全て裏目に出てしまった、このままではこの国から艦娘部隊そのものを撤収させ、他の国に再配分するという計画が実行されかねない程にね、最初に聞いた時にはそれも仕方ないと考えていた、この国に艦娘の運用能力が無いのであれば艦娘達をこの国に配置して置く事は誰の利益にもならない、最初の鎮守府を設置する際にも再三指摘された事だ、艦娘部隊を国際機関としたのはそうなった時に備えて艦娘達の受け入れ先を確保する必要があった為でもあるんだ」

 

「なら、なんで大本営の再構築なんてするんだ?士官達に艦娘の運用能力がない事ははっきりしてんだ、再配分が妥当じゃないのか」

 

いい人の天龍が疑問を口にした

 

「それは再構築する為のモデルケースを直に見る機会があったからだ、あの鎮守府の様に運営出来れば再配分の必要は無い」

「それだけか?」

 

最初の天龍だ、なんか不満そう

 

「理由が足らないかね」

「足らないというより、的外れだな、オレからすると」

 

今度は口の悪い天龍か、こっちもなんか不機嫌そうだ

 

「今の所の話だと、老提督の大本営再構築策にはあの引き籠もり達も入ってる様だが、漣が言っている様にそれは無理筋だ、そこを知らないってのが如何にも気に入らねぇ」

 

いい人の天龍まで視察官の策に否定的だ

 

「あの戦いは予測された戦いではなかった、なにしろ発足式の最中に緊急通報が入って急遽出撃となった戦いだ、私に出来た事は対外的な戦後処理くらいだ、艦娘部隊の方は部下に任せていた」

 

「だからあの引き籠もり達の状況を知らなかったと、そう言いたいのか?」

 

随分と怖い顔になってるいい人の天龍

 

「戦後処理が完璧だったなどと言うつもりはない、多くの不備、見落としがあっただろう、その為に不利益を被った艦娘もいただろう、しかし私の任期は発足式当日までだったのだ、無理を言って延長させたが、無理はそう長く続けられない、期日までに出来る限りを尽くしたつもりだ」

 

「対外的な戦後処理に追われて艦娘に割く手間も時間も無かったって事だな」

 

最初の天龍だ

 

「確かにその通りだ、だが、艦娘達には妖精さんが着いている、私よりも妖精さんが着いている方が良いのではないか」

「良い訳あるかよ、なんだそりゃ!?老提督の眼には艦娘には妖精さんが着いてりゃ事足りるって見えてるのか、それともそう吹き込まれたのか?!」

 

口の悪い天龍だ、ちょっと感情的になってるみたいだ

 

「当時、艦娘達の様子は妖精さんから色々伝えられていた、勿論身振り手振りでね、何度か艦娘達を見舞いに行こうとしたんだが、その度に妖精さんに止められた、自分の仕事をしろ、そういう様子だった」

 

「それを真に受けて、艦娘を放置したと?」

 

いい人の天龍が怖い顔のままいう

 

「なにを言っても言い訳にしかなら無い事は分かっている、だからこそ、今度こそ退く訳にはいかない、こんな年寄りにでも出来るとこはある、少しでも次の司令官達の労苦を除きたいのだ」

 

「次?次ってなんの次だよ」

 

口の悪い天龍だ、感情的になってる所為かいつにも増して耳障りな言い様になってる

 

「私は人の中で初めて妖精さんを見る事が出来た、それが理由で各方面から監視対象となっている、国際機関の椅子とやらもその方便として用意されたものだ、だが、今は幾人かの提督が見つかっている、その内の一人は現在鎮守府にて艦娘を指揮し自衛隊との共同戦線を構築する程に、国に属する組織との連携を実践している、私には出来なかった事だ、この事例を手本にして各国に鎮守府を設立出来れば相互補完の方向に向かってくれるだろう、お互いが無関心でも排除関係にも成らずにね、その道筋は次の司令官達が歩む事で出来て行く、私はその道標を作りたい」

 

「……随分な夢を見てんだな、起きて現実を見ようぜ」

 

冷め切った言い方の最初の天龍

 

「天龍さんには、夢物語に聞こえましたか」

 

三人の天龍を見渡す視察官

 

「あの士官達が相互補完なんて考える訳ないな、艦娘は知らなくていい、命令通りに動け、考える必要は無い、こんなんばっかだぜ」

 

いい人の天龍でも色々溜まってるのかな

 

「今、大本営に司令官がいない理由は知ってるだろ、鎮守府の司令官を大本営の士官達の下に置く事が艦娘の運用より優先されてんだ、艦娘が一方的に支えてやらないと大本営は立ちいかないんだぜ、なのに相互補完だって、ムリムリ」

 

口悪いの天龍は完全否定の様子

 

「だからこその再構築だ、そしてそれを成す為には多くの協力者が必要だ」

 

視察官は天龍達にこれだけダメ出しされてるのに自説を曲げる気は無い様だ

 

「まさか、老提督は俺等をその協力者だとか思ってる?」

 

意地の悪い言い様だ、口の悪さに磨きがかかってないか

 

「天龍は、このままの状況を放置して再配分の方がいいの?」

 

一組の漣が聞いてきた

 

「……あの士官達にアゴで使われるのもいい加減アレだしな、なんか考えがあると思っていた大型建造も只の浪費だと分かった、他の国を見て見るのもいいんじゃないか」

 

一組の漣にチラッと視線を向けた後に口の悪い天龍が言った

 

「水を差す様だけど、他の国ならマシな状況になるとは限らないよ、もっと悪くなるかも知れない」

 

そういう先任の漣は視察官の再構築策をどう考えてるんだろう

 

「ここで人との関わり方は大分学んだ、次は上手くやるさ」

 

いい人の天龍は冗談めかしているが、何処まで冗談なのか

 

「他の国に行く事は次にはならない、再配分されれば遠からず解体される事になる、今の司令官だってドロップ艦は使い難いって言ってるんだ、建造艦は従属し易いけどドロップ艦はそこまでじゃ無いからね、まして艦娘は人からすれば製造物、建造で新品が容易に手に入るのにお下がりを好んで使い続ける人は多く無い、残念だけど、人はまた一から艦娘の使い方を習得しなくちゃならなくなる、そうやって時間を浪費している間にやつらは対抗策を具体化して来る、そこまで行ってしまったら、もう、人は艦娘を使い捨てる以外の使い方を習得する余裕は無くなる、そして艦娘を使い切ったら次は人を、同胞を使い捨てる、最後には人もいなくなりやつらだけが残る事になるだろうね」

 

桃色兎が珍しく長台詞をいう

 

「ここまで来るにも相応の時間を浪費してる、やつらが何らかの対抗策を準備している事はほぼ確実なんだ、最短で艦娘部隊を十全な実働戦力にしないと間に合わない」

 

「それは……なんか掴んでるのか?」

 

いい人の天龍が先任の漣にきいてる

 

「その辺りの話をしようと思って集まってもらったんだけど、じーちゃんの方の話が先になっちゃたから、今から話してもいいかな」

 

「おお、そうだったのか、こちらの都合ばかり話してすまなかった」

 

大袈裟に驚いてる視察官、あれは演技なのか、素なのか

 

 

 

 

 

 




登場艦娘

研修中の叢雲
教導艦の大和、老提督の秘書艦も兼務してるハズ

一号の漣、最初の初期艦、先任の漣、桃色兎からは御姉様呼びされてる
一号の五月雨、最初の初期艦、先任の五月雨、桃色兎からは五月雨御姉様呼びされる事も
一号の電、最初の初期艦、先任の電、今回プラズマ成分無し
一号の吹雪、最初の初期艦、先任の吹雪、今回セリフあり

最初の天龍、32話オープンカフェで最初に声をかけて来た天龍
いい人の天龍、27話大和に苦情を言いに来たが、事情を知り頼って来いと言った天龍
口の悪い天龍、32話オープンカフェで可愛げが足りないと言って来た天龍

演習組(三組)の漣(桃色兎)、ざみちゃん呼びされてる
演習組(三組)のいなずま、工廠で作業中
演習組(三組)の叢雲、ムラムラ呼びされてる、工廠で作業中
演習組(三組)の吹雪、工廠で作業中
演習組(三組)の五月雨、さみちゃん呼びされてる、工廠で作業中

一組の漣、桃色兎からはちぃ姉様呼びされる事も
一組の電、工廠で作業中
一組の吹雪、解体済み
一組の叢雲、改修素材
一組の五月雨、改修済み、工廠で作業中

引き籠り達 (高練度ドロップ艦) 35話でいなずまが言っていた戦いの残存艦娘



登場人物

老提督
・研修中の叢雲からは視察官、一期で視察官として鎮守府に来ている時が初対面だったから
・最初の初期艦からはじーちゃん、お爺さん、艦娘部隊発足前から色々あった経緯から
・稀に最初の人、艦娘の言う妖精さんを見る事が出来た最初の人
・本文中では艦娘部隊の上部機関から要請を受け大本営を査察中、大変難儀中

大本営の士官達
・諸般の事情により大本営の司令官は本職では無く代理(兼務)制、上役に司令長官がいる
・代理の補佐役としての士官が多数在籍し、艦娘の司令官職に充てられている
・鎮守府司令官に就く為に必要な条件を満たしている士官はいない



その他

艦娘部隊
・大本営というのは艦娘部隊の日本支部、になる予定、上部機関の進捗表上では
・現在艦娘部隊が日本にしか配置されていない為に大本営イコール艦娘部隊の様に錯覚されている

あの鎮守府、一期の鎮守府の事


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