初期の艦これ   作:弱箔

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43 老提督の零した囁き

 

 

 

老提督の零した囁きを聞いた天龍達がなにやら目配せして意見交換してる様子、なにを決めてるんだろう

 

「老提督はさっき言ってた二人三脚で一体と成すってのをやってみたらどうよ、人にやれって言うのは簡単だ、けどな、それをやれるかどうかを自分で試したら?」

 

最初の天龍が言い出した

 

「試す?いや、私が試しても時間の浪費でしかない、私は司令官では無いのだから」

 

視察官は天龍の提案に否定的な様子

 

「それじゃあまた繰り返すぜ、今度は退く訳にはいかないんじゃなかったのか?」

 

いい人の天龍からだ

 

「それは……」

「大和は良いやつだ、それが分からない訳じゃないんだろ、というか大和が相手でもそれが出来ないってんならあんたの言う再構築策はタダの与太話にしかなんねーよ、其処ん所ホントにわかってんのか?」

 

口の悪い天龍からもダメ出しだ

 

「……」

「じーちゃんをいじめないでほしいんだけど」

 

先任の漣だ

 

「そうは言うがな、老提督は妖精さんの事はよく見えてるが、艦娘の事は見向きもして無い、あの戦いの出撃命令を出したのは当時司令長官だった老提督だぜ、結局半分以上帰ってこなかった、それだって自力で戻って来れたのは出撃数の一割以下、生き残った艦娘は海域周辺の島に漂着、そこに自衛隊が回収に行って連れ戻した、中には島の人達と仲良く普通に生活してたのに逮捕紛いの強制手段まで使ったと聞いてる、自衛隊はいつから艦娘を脱走兵扱いする様になったんだ?艦娘は国際機関の艦娘部隊に属してるんじゃ無いのか?いつから艦娘は日本の所有物になった?」

 

最初の天龍が堰を切った様に言い立てる

 

「わかった、もういい」

「いいや、言わせてもらう、あの戦い、人の軍隊が誘発したんだってな、国家の保有する軍隊がどれ程精強か、そんな話は俺等にはどうでも良過ぎる事だ、なのに態々艦娘に、国際機関としての艦娘部隊に当て付ける為だけにヤツラを、深海棲艦を集めたんだって?それで返り討ちにされたから助けろって?どんだけなのよ、人ってのは」

 

「……」

 

視察官は反論しなかった

 

「じーちゃんに世界を動かせる様な権力は無いんだよ、現役の頃は海自の上がりの幕僚だったけど、それだけだ、私達と初めて会った時には退役していて予備役でさえ無かった、そんな条件でもじーちゃんは出来る限りの事をしてくれた、私達にはそれだけで十分なんだよ」

 

先任の漣には天龍の言い分に異論があるみたいだ

 

「人と接触してからほとんど軟禁状態でしたからね、収容施設に入れられて海には勿論施設の外にさえ出られなかった」

 

先任の五月雨も同様らしい

 

「そんな状態が一年以上続いた頃にお爺さんが収容施設に来たのです」

 

「大勢の見学者に混じってね、その時にお爺さんが妖精さんを見る事が出来るとわかった、収容施設に軟禁状態の私達には漸く行動の自由を得る筋道が見えたんだ」

 

先任の電もブッキーもこう言ってるが、釈然としないから突いてみる事にした

 

「つまり、他に頼れる人がいなかった、是非も可否も無く縋るしか無かった、そう言う事? 視察官もいい迷惑よね」

 

「お前な、迷惑とかそういう問題か?」

 

口の悪い天龍が口を挟んできた

 

「だってそうでしょう?退役して平穏に暮らしていたのに、妖精さんが見えたからって艦娘と人との媒介を担わされたんでしょう、視察官が望んだワケでも無いのに収容施設に軟禁状態にしなければならない様な集団との仲介役なんて途轍も無い厄介事の矢面に立たされたんでしょう、マトモに損得考えたら関わらないわよね、形振り構わずに、でも、話を聞いている限りでは視察官は関わってくれた、望んだワケでもない厄介事の矢面に立ってくれた、それを非難するのは違うと思うけど?」

 

私の主張に最初の天龍が気不味そうに俯いてしまった、見れば他の二人も同様になってた

 

「悪かった、言い過ぎた、老提督一人の問題じゃないんだ、あんただけを責めるのは確かに筋違いだ」

 

最初の天龍はわかってくれた様だ

 

「ありがとう叢雲ちゃん、天龍達を止めてくれて」

 

先任の漣から何故かお礼を言われた

 

「別に、天龍の言い様がらしくないって思っただけだから」

「?らしくない、とは」

 

どうしてそこでツッコミが入るのか、しかも口の悪い天龍から

 

「いつもは駆逐艦に頼って来いって言ってるのに、それが不満をぶつける相手探しなんてしてたら、カッコ悪いじゃない」

 

「……恰好悪いってよ、どうするよ」

 

最初の天龍が気不味そうに聞いてくる

 

「この天龍さまが恰好悪い、だと」

 

いい人の天龍は私の言い分に不満があるらしい

 

「天龍さまは常にカッコイイ、余りの凄さに怖れられる世界水準を超えた軽巡だろ、そうでなくては天龍じゃない」

 

口の悪い天龍は何処にその根拠があるのか謎の主張をしてくる

揃いも揃ってなんか言い出したんだけど、天龍達でなんか始まったんだけど、放置で良いよね

 

「天龍達は別としても叢雲ちゃんは気がついてないの?」

 

先任の漣に聞かれた

 

「なにを?」

「漣はてっきり司令官、佐伯司令官にも同じ事が起きる確度が高いから言ってくれたんだと思ったんだけど」

「は?なんで視察官の話なのに司令官が出てくるの?」

 

先任の漣は何を言ってる?司令官とどう関係するのか

 

「気がついてない、佐伯司令官は民間出身、じーちゃんよりコネが無いんだよ、どこかから、だれかから何かいわれても自己対処するしか無い、経歴を見ても普通の人で特に秀でる才覚がある訳でも特別な団体とかが背後に付いている訳でも無いんだ、今天龍達がやった様な非難に晒されても艦娘部隊で対処出来るかは相手次第なんだ」

 

「司令官に対する保護規定はある、相応に対処出来ると考えているが、これも不足なのかね」

 

先任の漣の言い様に視察官から聞いて来た

 

「現状のそれはサラリーマン的な労働者としての保護規定なんだよね、だから司令官が上位組織と規定されている大本営の指示を履行する根拠になってしまっている、司令官の契約相手って艦娘部隊であって大本営じゃないんだけどね、この国は当事者の契約関係より大家族主義というか村社会の掟みたいな方が強いし、縁故主義も相当ですし、そういう方々が上の方には大勢居るんですよ、漣の司令官の所にはその手の勧誘から見当違いも甚だしいモノまで一杯届いてましたよ、まあ、それの処理作業は他に振るわけにも行かないんで漣の仕事になってしまいましたが」

 

「そういう雑多な作業は駐留してる自衛官に任せて良いのではないか、鎮守府の円滑な運営に協力する為の協力体制なのだから」

 

視察官はその手の事態は想定していたという事かな

 

「あー、鎮守府の円滑な運営の想定範囲が其々の立場で違ってますから、そこから再定義しないと機能しませんね」

「自衛隊との協力体制にまで問題があると言う事か、益々再構築等と云うのは絵空事となってしまった、完全に根本から作り直さなければならないな」

 

先任の漣との遣り取りは視察官の認識を改めさせるのに十分な効果があった様だ

 

「良いじゃないか、老提督には極めて優秀な秘書艦がいるんだ、なんとでもなるさ」

 

そう言う最初の天龍の言葉にビックリする大和が見えるんだけど

 

「優秀な秘書艦って、私の事ですか?」

 

「なにを今更、こんな面倒事に対処出来る艦娘は大和くらいだろ、駆逐艦じゃどうやっても無理がある、初期艦が五組ぐらい纏まればなんとかなるかもしれんが大本営にいるのは三組までだ、足らねーよ」

 

口の悪い天龍はこう言ってるんだけど

 

「それは後程幾らでも話してもらうとして、差し当たってはやまちゃんに秘書艦権限でやってもらい事があるんだけど」

 

先任の漣が言い出した

 

「はい?事と次第に依りますが、なんでしょう」

 

びっくりしたのが収まり切っていない大和だけど、話は聞けるのか

 

「叢雲ちゃんの入渠に士官達が嘴突っ込んで来てるんだ、なんとか出来ないかな、必要なら初期艦権限を使ってでも何とかしたい、ただ士官達も尤もらしい理屈は並べて来てる、単純に排除って訳にも行かなくて困ってるんですよ」

「何故、士官達がそんな事を?」

 

困惑気味の視察官、士官達の目的がわからないといった様子

 

「叢雲ちゃんにコネを付けたいんだと思う、なにしろ叢雲ちゃんは佐伯司令官に初期艦にと要望されてる、その佐伯司令官は協力関係にあり実働組織でもある自衛隊からの評価が高い、自衛隊の評価は他の国で言えば国軍からの評価だ、しかも他の司令官と違って規定された指揮系統である所の大本営と接点が薄いと来てる、色々あるんだと思うよ、組織人としての世渡りというか処世術というか、在り方みたいなモノが」

「……」

 

漣の言い分を聞いた視察官が項垂れてしまった

 

「コイツを手懐けて佐伯司令官を手駒にでもしようってのか」

 

口の悪い天龍が軽目に言った

 

「そこまで単純な話なら、良いんだけどね」

 

苦笑いの先任の漣

 

「叢雲ちゃんが言ってたでしょう、鎮守府への着任辞令を取りたいって」

 

一組の漣が補足してきた

 

「佐伯司令官が要望書を出してるんだろ、本人も希望してる、誰が却下するんだよ」

 

いい人の天龍が疑問を口にした

 

「大本営の士官達なら、叢雲ちゃんを自分の手元に置こうとするでしょうね」

 

いい人の天龍に先任の五月雨が答えた

 

「……聞かせてくれないか、士官達は何故叢雲さんを手元に置くのか」

 

視察官から、多分だけど敢えて聞いてるよね、聞きたくないけど聞かないわけには行かないって感じだ

 

「佐伯司令官は現状で唯一鎮守府を稼動状態で維持し、自衛隊と連携を取り海域維持任務を遂行中です、言い換えれば現時点での艦娘部隊は佐伯司令官一人の采配で保たれています、この事はお爺さんもご承知で、上部機関にも報告が通っているでしょう」

「佐伯司令官は民間出身です、組織力や政治力は期待出来ないのです、彼が叢雲ちゃんを初期艦にと要望している、許認可権を持つ士官達が取引材料にしない訳がないのです」

 

先任の五月雨に続けて先任の電が補完した

 

「……」

 

俯いてしまった視察官、何を思っているのか

 

「要望を通したかったら言う事を聞け、なんて幼稚な事を、幾ら何でも士官達がやるのか?」

 

口の悪い天龍は先任の電の言い分に疑問符が付いた様だ

 

「幼稚じゃないから余計に質が悪いんだ、今回の件は大本営の命令が発端だから士官達だって責任を被る事になる、士官達が今回の件でどう動くのか、正直読み切れないんだ」

 

ブッキーだ

 

「まさか、もう何か始まってるのか」

 

最初の天龍は若干呆れ気味だ

 

「明日の入渠、予約だから士官達にも知られてる、立ち会うって士官が既に何人もいるんだよね」

 

同様に呆れた様に一組の漣が言った、士官が艦娘の入渠に立ち会う?なんの為に?

 

大本営の士官は司令官じゃない、三組の吹雪といなづまの話だと代理の司令官の代わりだと言ってた

代理の代わりって時点で意味不明なんだが、今の大本営は人の都合でそうなっているんだとか

 

「……わかった、そこまでやりたくはなかったが、やらざるを得まい、大本営を上部機関の直接管理下に置こう、その為の権限は最後の手段として既に得て来ている、条件として権限発動と同時に幾つかの国から監察官を受け入れなければならないが、士官達に権限を与えたままにするよりは私の目的とする所に向かってくれるだろう」

 

苦い顔をする視察官

 

「それをすると二組の初期艦が過労で倒れそうだね、今でさえ艤装の補佐があってこその無茶な過労だし」

 

桃色兎がいつも通りの軽い口調で言ってる

 

「二組な、あいつらの仕事は特殊過ぎて手が出せないんだよ、代われるのならなんとかしてやりたいんだけどな」

 

口の悪い天龍がそれを受けて言ってる

 

「?それは、どういう……」

 

意味が分からないと言った感じの視察官

 

「大本営の事務仕事の七割方を二組の初期艦だけで処理してしてるんですよ、大本営の事務員なんて百人以上居るのに、おかげで処理が特殊なモノになり過ぎてて二組の初期艦以外手が出せなくなってしまっている、頑張り過ぎって言うのは酷なんだけど」

 

先任の漣から説明が入った

 

「そんな体制になっていないハズだ、報告書でもそんな様子は見られなかった」

 

信じられない様子の視察官

 

「……言いたくねーけど、二組の初期艦が頑張ったのは、老提督があの戦いで事務処理を始めとして色々なモノに追われてたから、それを見かねて始めたんだ、それが未だに続いてる、肝心の老提督はそんな事知りもしなかった様だが」

 

最初の天龍から抑えてはいるけど抑えきれない非難が含まれた言葉が出て来た

 

「二組の初期艦はあの戦いで揃ったんだ、揃ったのは良いが司令官であるハズの老提督が初期艦に顔を見せに来られない程に色々なモノに追われてた、あいつらは顔を見せない司令官の元に着任の挨拶に態々行ったそうだ、そこで顔を見せない理由を知った、なんとかしなくちゃって必死になってたよ」

 

続いていい人の天龍

 

「……」

 

なんか視察官が落ち込んでるんだけど

 

「さっき老提督が言ってた妖精さんに止められたってのはそう言う事、これは余計な事だろうけどな」

 

口の悪い天龍は又もダメ出しだ

 

「そんな状態を放置してるの?」

 

思わず聞いてしまった

 

「言いたい事はわかる、不本意なのは俺等だってそうだ、けどな、なんて言えばいいのか……」

 

最初の天龍にも思う所はある様子

 

「そう、そこのプラズマが五人居ると思ってくれ、お前は止められるか?」

 

いい人の天龍にそういわれて電に視線を向けた

プラズマが五人!一人でもアレなのに五人!!無理だ、と一瞬で結論が出てしまった、この結論に反論とか対応手段とか考えたくない事態になってる事だけは良く分かった

 

「なんですか、すごく失礼な物言いなのです」

 

先任の電は物凄く不満そうだが、無理なモノは無理だ

 

「わかってもらえたか、止めるには先ず事務の方を止めないとプラズマ状態が続いて手が出せん、仕事が無くなればある程度は落ち着くハズだ、そうなればこの天龍さまが力尽くででも止めてやるよ」

 

口の悪い天龍も二組の事は色々と考えるらしい

 

「プラズマ?とは」

 

視察官が聞いてきた

 

「あー、老提督は知らない方が、電の為にも知らずに居てくれ」

 

いい人の天龍が言い繕っている

 

「??電の、ため?」

 

視察官はあのプラズマ状態を知らないらしい、まあ、電の対応がアレだから仕方ないか

 

「えっと、士官達はじーちゃんが止めてくれるって事で良いのかな」

 

先任の漣が話を戻した

 

「あ、ああ、そうしよう、但しこれは私が想定した中では最も条件の悪いの想定だ、再構築では無く根本的な作り直し、最初の鎮守府から大本営に組織構成を作り変えたあの時よりも大掛かりになる、結果として大本営は暫くの期間全ての職務が停止され完全に無力となる、この期間をどうにかして乗り切らねばならないが現実的に取りうる手段は多くない」

 

「先ず、佐伯司令官の全面協力を得る事は必須だよね、実働部隊を指揮出来るのは彼処しか無いんだから」

 

先任の漣だ

 

「そうなのですが、鎮守府一つでは規模の上で無理過ぎます、だからと言って無闇に規模を拡大させれば鎮守府の運営自体に問題が起こり、最悪の場合機能停止に陥りかねません」

 

続けて先任の電

 

「私達が鎮守府に復帰して増設された鎮守府を再稼働させ、任務を再開するのが規模という部分では妥当なのでは?」

 

先任の五月雨は鎮守府に戻るつもりがあるのか

 

「それでは現在の体制が残ってしまう、完全に作り直した後に残留した体制が息を吹き返しかねない、鎮守府の規模ならそれが出来るだけのモノを残置なり隠匿なり出来てしまう」

 

視察官は五月雨の提案に異議がある模様

 

「そうは言っても一つの鎮守府は維持されるのです、そこを考えれば、息を吹き返すのは想定し、対策を以って対処するしか無いのでは?」

 

電が再提案してる

 

「いや、あの鎮守府ならその想定は不要だ、他の鎮守府とは全く違う、基が同じだとは思えない程に特異な鎮守府に仕上がってる、実際に見て見なければ分かり辛いかも知れないが」

「そんなに、違うのですか?想像が付かないのですが」

 

視察官の言い分に戸惑う様子を見せる電

 

「私が今回の査察で大本営を解体処理せず艦娘部隊をこの国から撤収もさせずに、再生させると決めた一番の根拠だ、あの鎮守府に視察に行かなければ上部機関に何の反証も出来なかっただろう」

 

視察官の言い様は意図は兎も角、無理を押してでもこの国に艦娘を残そうとしている様にも聞こえるんだけど、気の所為よね

 

「そうなっていたら、ここでこんな話を長々とする事も無かったな」

「その通りだ、私は長々と話す機会が出来て良かったと思ってるよ」

 

最初の天龍の軽口に同意する視察官

 

「そうとなれば、サッサと動こうぜ、入渠は明日だし士官達を止めるにも早い方がいいだろ」

 

口の悪い天龍はせっかちだ

 

「そうしたいのは山々だが、その前に方針を固めたい、今回は国外からの監察官を受け入れねばならない、監察官に対し確固たる方針を示してこちら側で舵取りを主導出来ねば大本営解体と変わらなくなってしまう、それでは時間の浪費だ、最短で十全な実働戦力とする必要があるのだろう」

 

「なら、大和は秘書艦として老提督に付かなきゃならないね、それに大本営の遠征隊を統括して来た天龍も蚊帳の外ってワケにはいかないでしょう」

 

一組の漣が必須事項の様に言う

 

「いや、そういうのは俺等より適任の軽巡がいる、そっちに任せるさ」

 

遠征隊を統括して来た天龍より適任?そんな軽巡が居るの?最初の天龍が言う適任の軽巡とは?

 

「あー、もしかしてあのおっかない軽巡です?」

 

桃色兎がイヤそうに言う

 

「おっかないって言うな、あれでも割と気にしてんだぞ」

「おっかないのはそれだけ気が回るからだ、お前ら駆逐艦の行動なんてお見通しだからな、先回りして気を揉んでんだよ」

「そもそもの話として、遠征隊が呑気に兵装も積まずに機材だけ積んで往来出来るのは五十鈴が海域哨戒を徹底してやってるからだぞ、あいつの日々の撃破数知ってるか?」

 

いい人の天龍から最初の天龍に口の悪い天龍が続けて言った

 

「あー、それは聞いた事ありますけど、おっかないモノはおっかない」

 

桃色兎にはおっかない軽巡には変わりない様だ

 

「待ってくれ、海域哨戒?大本営近海で?日々の撃破とは?どう言う事だ!?」

 

視察官が驚きの余りか大きめの声を上げた

 

「報告書はないからな、大本営近海にあいつらはいない事になってる、大本営の書類の上では、近海での深海棲艦遭遇は誤報として処理するってのが士官達のやり方だ、現役の司令長官も承認してる」

 

「……」

 

呆気にとられたのか、最初の天龍の説明に見たことの無い気の抜けた顔をしてる視察官

 

「なんて事だ、それでは嘗ての事実誤認と戦意高揚を目的とした大本営発表と変わらないでは無いか、そこまでの事態になっているというのか、たった一年程度の期間で」

 

気の抜けた顔のままで独り言の様に言う視察官

 

「だから、夢見てないで、起きて現実見ようぜ」

 

冷めた口調で言う最初の天龍

 

「……やらざるを得ない、のでは無く、やらなければならない、のか」

「退く訳にはいかないんだろ、老提督が退かないってなら、俺等にもやりようはある」

 

それは最初の天龍からの励ましなのか、それとも……

 

「私の想定は甘過ぎた、報告書に目を通しそれで現状を把握出来たと考えていた、然し現実はそうでは無いと云う、もはや大本営での事態を赤裸々に公開しその上で最初からやり直す以外に方法はあるまい、今回の大本営での失態を繰り返さない為にはあの鎮守府を手本とし大本営を反例として徹底しなければ何処に鎮守府を開設しても大本営の失態を繰り返す事になる」

 

気を取り直した視察官はそう言ってるけど、良いのかな、艦娘の話だけでそこまで結論付けてしまうのは疑問なんだけど

 

「いいのか、そんな事したらこの国に艦娘の運用能力が無いって誰にでも分かるぜ」

 

最初の天龍が面白そうに言う

 

「いいや、ある、艦娘の運用能力はあるのだ、現にあの鎮守府にはそれがある」

 

視察官が反論してる

 

「ごく少数の事例を以って多数を決め付けるのは、控えめに言っても騙しの手法だろ」

 

批判的な口調のいい人の天龍

 

「……実の所、既にこの手法で防衛省の官僚や外交の出来る政治家が交渉を行っている、国外からは日本に艦娘部隊の運用能力が無いと厳しく追及されているんだ、撤収と再配置を即時行うよう強行に主張する外交官も居ると聞いている、これは人の都合だが艦娘部隊を左右する動きでもある」

 

「上部機関に報告が行ってるんだったな、そりゃそうなるな」

 

当然の結果と言いたげな表情を見せる最初の天龍

 

「そういった事情もあって出来るだけ穏便に済ませようと考えていたのだが、それは間違いだった、私ももう歳だ、艦娘達に、孫達にしてやれる事も使える時間も多くは無い、こんな心残りがあっては安心して眠れんよ」

 

エッ、退く訳には行かないって、そういう?

 

「じーちゃん……」

「お爺さん……」

 

初期艦達が視察官を心配そうに見てる

 

「心配は要らない、君達には、艦娘達には提督がいる、私の様な半端な司令官では無く、艦娘を確と視れる提督が居る、差し当たってはこちらでその状況を確定させねばなるまい、旧友に頼る事にはなるが、私の旧友は話のわかるいい奴ばかりだ、きっと力を貸してくれるだろう」

 

「米海軍の退役軍人の方達、ですか」

 

何で大和がそんな事を知ってるんだろ

 

「そこが主な所になるが、他にも当てはある」

 

「で、具体的な方針はどうするんだよ」

「そこが決まらないと舵取りを持っていかれるぜ」

 

口の悪い天龍と最初の天龍が言ってきた

 

「そう思っていたのだがね、考えを改めた、艦娘は提督と共に自由に制限を設けず動けた方が十全な戦力となる、あの鎮守府は正にそうなっている、これに倣う様に始めからやり直すのだ、ここでアレコレと制約を設けては自己否定にしかならない」

 

「?どういう事だよ」

 

いい人の天龍からだ

 

「国際機関としての艦娘部隊は海洋航路の安全確保がその行動目的だ、言い換えれば人類としての制海権の確保と言っていい、そこを踏まえて欲しい、細かい所は君達、艦娘達に委ねよう、後は提督と良く話し合ってくれればそれで良い」

 

「随分とフンワリした方針だな、そんなんで舵取り出来んのか」

 

いい人の天龍には疑問があるらしい

 

「舵取りを担うのは君達だ、私では無い」

「「「?」」」

 

天龍達には視察官の意図がわからない様子

 

「自分の歩く道は自分で拓けって事、でも、良いの?それだと艦娘が自立勢力になる可能性を摘めないよ、大本営の開設理由でしょう?」

 

一組の漣からは、なんだろう、質問とも解説とも取れそう

 

「艦娘はどういう訳か司令官、提督を求める、艦娘だけで自立勢力となる事はこれまでの事例から有り得ないと判断出来る、もし、艦娘だけで自立する気があるのなら、収容施設に軟禁された時も大本営での不条理に対抗するにも自立という行動を起こしただろう、君達はこうした理不尽な状況に置かれても人との共生関係を断とうとはしなかった、そこに人の組織が漬け入ってしまったのが大本営の反例だ」

 

「浸け入らず、飼い慣らすでも無く、並び立つ、と、人にそれが出来るのか」

 

最初の天龍は不満というか、現実的には思えないという感じだ

 

「提督と艦娘の二人三脚で一体と成す、ってヤツか、ホントにそれで上手くいくのかね」

 

納得行かない様子の口の悪い天龍

 

「あの鎮守府に倣うなら、それだけで十分だ」

 

視察官は自信がある様だ

 

「佐伯司令官が聞いたら、なんて言うのか興味が湧くんだけど」

 

桃色兎がホントに興味深々って感じで聞いてきた

 

「多分何も言わないわよ、呆れるだけで」

 

それに答えてはみた、呆れてるのは私もだけどね

 

「呆れる?」

 

何で先任の漣まで聞いてくるのか

 

「だって、司令官はそれを我が儘だって言ってるのよ、我が儘に倣えって、誰でも呆れると思うわ」

 

「その我が儘に付き従った艦娘がいる、あの鎮守府の艦娘達は例外無く司令官に付いた」

 

視察官の自信は相当らしい

 

「長門が真っ先にその意思表示をしたと聞いたけど、長門は長門で責任を感じてた様に聞いてるわ」

「責任?」

 

だから、何で先任の漣が聞いてくるのか

 

「長門は建造艦よ、それも短期錬成で戦力化された戦艦、自身に先行投資されたモノを正確に理解するだけの知恵も知識もある、それが戦力化して先行投資分も働かない内に自身を庇って初期艦が大破、そのまま目覚めなくなった、思う所は色々あると思うけど」

「庇った?」

 

どうして、先任の漣は聞いてくるのか

 

「詳しい戦況までは知らないけど、長門に直撃する魚雷を初期艦が割り込んで代わりに受けたと聞いたわ」

 

「その時の戦闘詳報なら読んだよ、大本営に提出されたヤツだけどね」

「確か、長門が長距離砲撃してる最中の雷撃、それも潜水艦からの雷撃で回避が遅れた様に記載されていましたよね」

「回避が遅れた原因は魚雷の発見が遅かったから、じゃなかったっけ、イマイチ覚えが曖昧だけど」

「えっと、如何でしたっけ、その辺りの覚えは私も曖昧ですね」

 

先任の漣と五月雨がこう言ってる

 

「駆逐艦が長距離砲撃してる戦艦の周囲に居るのなら周辺警戒してた筈だよ、あの叢雲が魚雷を見逃すとか、聞き逃すとか、考えられない」

 

ブッキーには異論があるらしい

 

「でも実際に叢雲は魚雷を受けて大破してる、?なんかオカシイね」

「確かに、状況が想定出来ませんね、飽和攻撃ならその様に記載されるでしょうし、何より駆逐艦が代わりに受けただけで戦艦は魚雷を受けていません、如何言う状況だったのか」

 

「まあ、昔話は後にしよう、取り敢えず色々とっ散らかった今夜の話を纏めてこれからの行動を決めていかないと、もうじき日が昇って来るし」

 

先任の漣が話を纏める様だ、纏められるのかが疑問だが

それだけではなく漣と五月雨の曖昧な覚えとブッキーの異論により司令官の叢雲が大破した戦況にも疑問が付いた

 

 

 

 

 

 

 




登場艦娘

研修中の叢雲
教導艦の大和、老提督の秘書艦も兼務してるハズ

先任の漣、最初の初期艦の一人、桃色兎からは御姉様呼びされてる
先任の五月雨、最初の初期艦の一人、桃色兎からは五月雨御姉様呼びされる事も
先任の電、最初の初期艦の一人、稀に良くプラズマ呼びされてる
先任の吹雪、最初の初期艦の一人、大勢からブッキー呼びされてる
先任の叢雲、最初の初期艦の一人、研修中の叢雲からは司令官の叢雲呼びされてる

最初の天龍、32話オープンカフェで最初に声をかけて来た天龍
いい人の天龍、27話大和に苦情を言いに来たが、事情を知り頼って来いと言った天龍
口の悪い天龍、32話オープンカフェで可愛げが足りないと言って来た天龍

演習組(三組)の漣(桃色兎)、ざみちゃん呼びされてる

一組の漣、桃色兎からはちぃ姉様呼びされる事も

長門
・鎮守府工廠での建造艦
・一期の鎮守府の第一艦隊旗艦
・先任の叢雲の教導で短期錬成、戦力化した戦艦
・戦艦種で建造からの戦力化は希な事例 (大本営ですら大和を戦力化出来ていない)



登場人物

老提督
・研修中の叢雲からは視察官、一期で視察官として鎮守府に来ている時が初対面だったから
・最初の初期艦からはじーちゃん、お爺さん、艦娘部隊発足前から色々あった経緯から
・稀に最初の人、艦娘の言う妖精さんを見る事が出来た最初の人
・本編中では艦娘部隊上部機関からの要請で大本営を査察中、大変難儀中


その他

あの戦い、35話でいなずまが言っていた大規模海戦



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