6月29日
「もうそんな時間かね、濃い時間は直ぐに過ぎてしまうな」
視察官から感想が述べられた
「では、じーちゃんから、大本営の査察と関連事案にはやまちゃんを秘書艦として活用してもらうって事で良い?」
先任の漣が確認?念押し?してる、纏めるつもりもなのはわかるけど
「それでは叢雲さんの研修に支障が出てしまう」
早速視察官から異論が出てるんだが、ホントに纏められるのかな
「そっちは入渠の結果次第では問題にならなくなる、問題が残ったとしても私達で対処出来る」
異論に解決策を示す先任の漣、こうやって纏めて行くのか、凄い手間暇が掛かりそう
「えっ?大和は叢雲さんの教導艦をクビって事ですか!?」
大和からの驚きの声が上がる、クビって、大和って変に世俗的になる事があるよね
「……なんでそうなるの、どう勘案しても叢雲ちゃんの教導はやまちゃんでなくても出来る事、じーちゃんの秘書艦はやまちゃんでなければ出来ない事でしょ、これまでは兼務してたけど此処からはそうはいかなくなるって事、優先度の高い秘書艦業務は多忙では済まされなくなる程に激増する事が確定したんだ、なんでもかんでもやまちゃんが一人で抱え込む必要はないんだよ、戦艦には馴染みの薄い考え方かも知れないけど、駆逐艦は相互支援が行動原則なんだ、今回はこの原則を適応するというだけだよ、名目を変えたくないのならそのまま教導艦として残っていても何も問題無いよ」
「名ばかり教導艦……カッコ悪いです、それ」
「えーと、……」
拗ねる様な大和に困った様子の先任の漣
「大和に叢雲さんの事を頼んだのは私だ、教導艦を続けてもらいたいのだが」
あんまりな拗ねっぷりを見かねたのか視察官から優先順位の変更提案かな?妥当性に疑問があるけど
「そんな事したらじーちゃんを補佐出来る艦娘がいないよ、最初の時の様に人だけで艦娘部隊を作るの?今回の作り直しには是が非でも艦娘を参加させて欲しい、その参加する艦娘がやまちゃんならコッチとしても安心だ」
「そうだ、さっき天龍が言ってた適任の軽巡はどう?」
桃色兎が言い出した
「えっ?五十鈴?」
先任の漣が驚いてる
「能力的には問題無いですね、状況把握と先読みは凄いですよ、あり得ないですから、アレは」
一組の漣は反対しない様だ
「でも、五十鈴は、人を味方と思ってない、口に出してるのは聞いた事ないけど本心が何処を向いているのかはわからない、今回の作り直しには人との接触に慣れてるやまちゃんの方が適任だと思うけど」
「人を味方と思ってない?それは一体……」
先任の漣の言い様に視察官が聞く
「五十鈴はあの戦いに参加した艦娘なんだ、しかも自力で戻ってきた内の一人、大破してボロボロのまま自衛隊の士官に詰め寄って漂流してる艦娘の回収を談判してた、周辺の島に漂着してる可能性も訴えてた、初めは鎮守府の士官に訴えてたんだけど、相手にされなくてね、協力名目で鎮守府に居た自衛官に談判したんだ、自衛隊の士官だってそんな事言われても困っただろうけどさ、他に訴えを聞いてくれる相手が居なかったんだ」
「……」
視察官が沈黙してしまった、知らない話なのだろうか、あの戦いの出撃命令を出したのは老提督だと天龍は言っていたのに
「自衛隊の士官に出来た事は防衛省を通じてこの訴えを鎮守府の司令長官に伝える事、彼等にそれ以上を求めるのは自衛隊の法制度上筋違いなのは理屈なんだけどね」
「……当時私の所に来た報告書では、私の部下達、艦娘の事を任せていた部下達からその可能性を指摘し、自衛隊に協力を要請する様に意見具申があった、防衛省からの連絡は無かったよ」
「経緯はどうあれ結果としては海自によって海上での回収、陸自によって他国に漂着した艦娘の回収は実行された」
「その回収で悶着があったんだ、それで五十鈴はあの引き籠もり達の所に居辛いんだと、そんな事誰も気にしてねーんだけどな」
口の悪い天龍が付け加えた
「その憂さ晴らしに近海に入って来たアイツラを吹っ飛ばしてるんですよ、放っておいても勝手に出て行くから態々沈めなくても良いのに」
桃色兎が言い出した、が、それはなんだ?何が言いたいのか?
「勝手に、出て行く?」
なんか視察官の言葉に全く力が無いんだけど
「そう、なんでだか知らないけど、大本営近海に入って来たアイツラはある程度の時間が経つと外洋に出て行くんだ、そのまま居付くって事は無いみたいだね」
「その辺りのアイツラの性格というのか慣習というのか、習性みたいなモノはあるみたいだ」
「そういうのが無いと人の軍隊がアイツラを集めたり出来ないでしょ、詳しく知られてはいないし、私達でも知らない事だけど」
桃色兎に始まり先任の漣に一組の漣だ
「話を纏めるんじゃなかったのか、脱線しまくりだな」
揶揄う様に言ってくる最初の天龍
「そんな事言ったって、五十鈴がじーちゃんの秘書艦になったら色々心配だよ」
「えっ?今度は秘書艦をクビですか!?」
大和ってば……
「大和、兼務は困難だと言ってるんだ、それは分かるだろ」
諭す様にいういい人の天龍だが、果たして大戦艦に通じるのか
「困難、困難に立ち向かってこその戦艦です、この大和、立派に兼務してみせます」
通じなかった、そうだろうとは思ったけどね
「どーするよ、大戦艦はこう言ってるが」
口の悪い天龍だ
「考えてみると、兼務の方が良いかも知れませんよ、其々に補佐役を配置すれば良いわけですし、情報共有という観点からは兼務もアリだと思います」
先任の五月雨から援護かな、提案という事にしておいた方がいいよね
「情報共有?なんの情報?」
先任の漣には五月雨の意図する所が沢山あり過ぎる様に聞こえたのかな、それで的が絞れなかったとか
「お爺さんは艦娘部隊の作り直し、叢雲ちゃんは研修が終われば佐伯司令官の所に行く訳ですし、現状では佐伯司令官の全面協力は必須です、初期艦からの協力要請なら断らないと思いますけど」
「ナルホド、こいつにコネ付けて佐伯司令官を手駒にしようってのか、士官達と変わんねーな」
先任の五月雨の提案は口の悪い天龍にはお気に召さなかった様だ
「そういうつもりは……」
困った様な五月雨
「手駒なのは私達だよ、艦娘なら司令官の手駒なんだから、そうでしょう」
先任の漣が同意を求める様に私達を見回しながら言ってきた
「そういう言い方、司令官が嫌がるから止めてくれない?」
それがとても私の癪に障った、司令官ならそんな事しない
「嫌がる?司令官が?艦娘が手駒だって言われて気分を害すの?」
なんでそこまで疑問形で聞かれるのか、先任の漣は鎮守府で司令官とどんな関係だったんだ
「へぇ〜、あの司令官はそういう考えをするのか、チョット興味湧いた」
「お前の興味程当てにならんものもないがな」
「建造艦を従えただけの司令官だと思っていたが、そうでも無いのか」
天龍達がなんか言い出したんだけど、それは如何言う意味で言っているのか
「大和が秘書艦を続けてくれるのなら、私としても有難いのだが、兼務は流石にどうかと思う、補佐役を付ければ、兼務は実用面でも問題無いのかね」
視察官が話を戻しに来た
「補佐役次第だけど、五十鈴を想定してるのなら能力的にも秘書艦を務められる、そこは全く問題にならない、ただ、ね」
先任の漣は問題有りと考えてるのか
「本心が何処を向いているのかわからないから、不安があるって事でしょ、まさか御姉様は五十鈴に自虐趣味があるなんて思ってます?」
桃色兎がいつになく苛立ちを隠さずに言ってきた
「ざみちゃん?それはどういう意味で言ってるの」
「その不安って今回の案件で気にする事ですか?」
桃色兎はかなり虫の居所を悪くしている様だ
「ん?わかんないんだけど」
「だからですね、秘書艦として今回の作り直しに参加したとして、五十鈴が艦娘に不利益を被らせる様な事をするのかって話ですよ、」
最後にもう一声付け加えかねない勢いで言い立てる桃色兎、珍しい事もあるもんだ
「ああ、人を味方と思ってない五十鈴なら人に不利益を被らせてでも艦娘の利益を引っ張り出すってことね」
一組の漣が納得した様子だ
「……それを心配してるんだけど、そんな事になったらじーちゃんに非物理的な物凄い圧力がかかる事になるかも知れない、艦娘部隊はお飾りの国際機関じゃないんだよ」
「ほう、それなら、補佐役は五十鈴さんに頼む事にしよう、私としてもそういう方向で動いてくれるのならありがたい」
視察官からお墨付き?が出たんだけど
「えっ?じーちゃん?」
先任の漣が驚いてる
「教導の方は俺等が何とでもしてやるから心配無用だ、初期艦も揃ってる事だしな」
いい人の天龍が言う
「えーと、大和はどうすれば?」
「今更何を、兼務するんだろ、秘書艦と教導艦、兼務して立派に任務を遂行してもらおうじゃねーか」
とても楽しそうに言う最初の天龍
「はい!大和推して参ります!!」
元気な返事なのはいい事だけど、いいのかな
「そういう事で大本営絡みの案件はじーちゃんとやまちゃんと五十鈴にって事で、で、肝心要目の五十鈴へは誰が話してくれるの?」
やっと纏まりかけたと思ったら、先任の漣からちゃぶ台返しが入ったんだけど、そこを抜きにして話してたの!?
「は?漣だろ、言い出したんだし、当てがあるんじゃねーのか?」
口の悪い天龍は当然と言わんばかりだ、アンタもか、話の事先がおかしいくない?!
「漣にそんなもんありません!!」
桃色兎が力一杯宣言して来た、予想は出来たけど、なんて言えばいいの?この気持ち
「おい、って言ってても始まらん、駄目元だが、オレが話してみる」
最初の天龍だ
「ん?私から話をするのが筋道なのではないか?」
視察官には天龍の言い様が疑問らしい
「そうなんだがな、何というか、先ずはオレが話してみる、老提督はその後と言うか、それを見て話を決めてくれ」
「見て、決める?」
「言ってるだろ、人を味方と見ていないって」
最初の天龍の言葉が足りないのもあるんだろうけど、視察官の艦娘に対する認識不足って割と深刻なんじゃないかな、ただの印象かも知れないけど、妖精さんへの比率っていうのかな、其方が高過ぎる様に感じる
「人との接触が多くなる秘書艦、ん、補とか付くのか、まあそんな役職に就いてくれるかどうか」
いい人の天龍から補足が入った
「少なくともいきなり老提督を如何にかしようとはしないから、先ずはよく見てくれって事」
口の悪い天龍もそれに続いた
「如何にかって?」
先任の漣が聞いて来た
「老提督の顔を見た途端に頭に血が上って如何にかって事、ブッキーがデカイ猫にしたみたいにな、五十鈴は軽巡だ、そこまで短慮じゃないからそこは心配するな」
最初の天龍が軽く言った、いいけどさ、八つ当たりなのはお互い様だったし
「……」
言われたブッキーが恥ずかしいのか困ってるのか複雑な顔をしてる、それを聞いた先任の漣が心配そうに視察官をみつめる
「話をするだけだよ、適任である事は分かっているんだ、引き受けてもらえる様に交渉するだけだよ」
その視線に優しく返す視察官
「交渉?」
桃色兎が不思議そうに聞いた
「元とは言え司令官だったんだから普通に命令すればそれで収まる事なのでは?」
不思議そうにしたままの桃色兎
「元は元だよ、今は違う、それに艦娘に命令出来るのは司令官だけだ、そして私は司令官になった事はないんだよ」
「提督ですもんね」
一組の漣が何だか嬉しそうにしてる
「その呼称は今の私には重過ぎる、タダの年寄りという事にしてはくれんかね」
困った様子を見せる視察官
「ふーん、タダの年寄りなのに大本営を作り直そうってのか、オモシレー」
「その線でなら、押し切れるかもな、五十鈴の性分からしても」
「あー、何だっけ?浪花節?そんな感じか?」
口の悪い天龍に始まり、いい人の天龍に続いて最初の天龍がなんか言ってる
「浪花節って、アンタラ……」
天龍達のあんまりな言い様に呆れてしまった
「大和からも五十鈴さんにお願いしてみます、兼務という事にしてもらいましたし、実務的にも綿密な協力関係を是が非でも構築せねばなりません」
なんか大戦艦が漲ってるんだけど、結構な気迫なんだけど
「あ、大和、えっとな、お前さんは、最後で良い、アレだ、最後の手段ってヤツだ、そうしてくれ」
気圧された訳でも無いんだろうけど、困惑気味に言う最初の天龍
「?最後の手段、ですか?よくわかりませんけど、そう言われるのであればそうしますが」
大和は気が付いてないみたいだけど、今の気迫で五十鈴に迫ったら纏まるものも纏まらなくなる、と思う
それくらい大和の気迫が強力過ぎた、こういう所はやっぱり戦艦なんだと再確認させられる
登場艦娘
研修中の叢雲、天龍達から稀にデカイ猫呼びされてる
教導艦の大和、老提督の秘書艦も兼務してるハズ、初期艦からはやまちゃん呼びされる事も
先任の漣、最初の初期艦の一人、桃色兎からは御姉様呼びされてる
先任の五月雨、最初の初期艦の一人、桃色兎からは五月雨御姉様呼びされる事も
先任の電、最初の初期艦の一人、稀に良くプラズマ呼びされる
先任の吹雪、最初の初期艦の一人、大勢からブッキー呼びされてる
最初の天龍、32話オープンカフェで最初に声をかけて来た天龍
いい人の天龍、27話大和に苦情を言いに来たが、事情を知り頼って来いと言った天龍
口の悪い天龍、32話オープンカフェで可愛げが足りないと言って来た天龍
演習組(三組)の漣(桃色兎)、ざみちゃん呼びされてる
一組の漣、桃色兎からはちぃ姉様呼びされる事も
五十鈴、高練度艦、あの戦いの生還艦娘の一人
登場人物
老提督
・研修中の叢雲からは視察官、一期で視察官として鎮守府に来ている時が初対面だったから
・最初の初期艦からはじーちゃん、お爺さん、艦娘部隊発足前から色々あった経緯から
・稀に最初の人、艦娘の言う妖精さんを見る事が出来た最初の人
・本編中では艦娘部隊上部機関からの要請で大本営を査察中、大変難儀中
その他
あの戦い、35話でいなずまが言っていた大規模海戦