漣の話は入渠の予備調査から始まった
その時点で駆逐艦ではあり得ない量の資材が必要と見込まれたそうだ
思わず先任の漣がボリ過ぎと文句をつけたのだが、妖精さんは'お前らの無茶ぶりを実行するんだぞ''資材をケチるとは何事だ'とゲキオコだったらしい
妖精さんが言うには'そもそもこの艦娘は入渠以前に適正な改修を実行されてなきゃならない''そこをすっ飛ばして入渠させようってんだから資材くらいケチっちゃいけねぇ'と大量の資材が必要との見積りの正当性を主張したそうだ
そう言われてしまえば確かに先任の叢雲を改修素材にした改修を実行していない、妖精さんの指摘はコレを言っている事は明らかだ、艦娘の状態について妖精さんに隠し事など出来る筈もなく、早々に白旗を上げる羽目になったんだとか
妖精さんの見積りをそのまま通した理由のもう一つが、私に仕掛けられたという先任の叢雲の支援、コレが妖精さんにも特異な代物で読み解くのに難儀したとか、読み解いた結果このまま入渠を続行せず途中停止した場合この仕掛けが全て無力化してしまう事が判明、言い換えれば先任の叢雲が苦心して仕掛けた支援を捨てる事になりかねない
それはさすがに漣達にも許容出来なかった、先任の叢雲の仕掛けを捨てさせた初期艦なんて只のドロップ艦、この先幾らでも拾える初期艦の為にこんな大掛かりな準備をしたんじゃない、という事らしい
まあ、分かっていた事ではあるけれど、先任の叢雲との約束事が無ければ私って只のドロップ艦なのよね
大量の資材については大本営の資材庫から調達、遠征隊を統括している天龍達が居たからコレは問題にならなかった
資材庫から入渠場に運ぶ手間が必要になったがそれは大和が買って出てくれた事で解消された
私は予備調査の途中から意識が無かったからこの辺りの事は全く知らない
大和が運び込んだ大量の資材が入渠場に投入され、修復が始まった
その様子は普段から入渠を活用している天龍達から見るとかなり異様だったらしい
あまりの様子に天龍達は顔面蒼白で大和は漣達に詰め寄ったそうだ
しかし漣達はそれには取り合わず入渠は順調に工程を消化中とだけ答えたんだとか
暫くして入渠場の異様な動きも落ち着いた頃、修復と妖精さんの整理が始まった
余剰な妖精さんが艦娘から離れ工廠の妖精さんに成っていく筈なのだが、漣達は入渠場に仕掛けを配置して離れてきた妖精さんの確保を行なった
結果、不活性化されていた元艦娘妖精がそれなりの数確保され、工廠の妖精さんにより隔離されることとなった
一部不活性化が解けていたがそこは圧倒的な数で押し切ったらしい、何しろ現状では工廠の妖精さんは居場所に困る程工廠内に溢れている
この隔離した元艦娘妖精は工廠の妖精さんにより検証と説得、可能なら艦娘妖精への復帰を促しているそうだ
その過程で得られた話が先任の漣の言うあり得ない程の情報というわけだ
因みに、工廠の妖精さんが言うには本来何らかの手段が用意されていた筈、それを何の準備も無い所から急場でやれなんて事になったからこんな大量の資材が必要になったんだとか
入渠の目的である私の修復は順調に進み終了した
「で?どんな話が出てきたの?」
私の修復は問題無く終了という事なら興味はあり得ない程の情報に向く
「あら、叢雲ってばそっちを優先するんだ」
なぜか、あいちゃんと呼ばれてる外国の人が意外そうに聞いてきた
「そっち?何か他の話があるの?」
「漣の話には大和や天龍の事が出てきてない、そこに疑問はないのかな?」
言われてみればその通りだ、工廠で先任の漣が明から様に誤魔化した大和と天龍が連行されたって所が全く無い
漣を見れば明らかに余計な事を言ってくれるなといった感じで苦い顔をしていた
「えっと、取り敢えず隠し事はしても無意味だし、叢雲ちゃんにも現状は把握してもらいたい、ただね、色んな事象が多過ぎで、どれから話せば良いのやら……」
コッチの視線を気にしてか漣がなんか言い出した
「時系列で話していけば良いじゃない、より詳細な説明が必要なら後で追加すれば良いんだし」
あいちゃんからのは助け船ではなく、主張らしい
「その時系列での説明をするには先ずあいちゃんの事を知っている事が前提になるんだけど、簡単には説明出来ない」
「あいちゃんの事?」
この外国の軍人さんの事だろう、あいちゃんと呼ばれ自身をアイオワ級戦艦のネームシップと名乗った艦娘、未だ私には艦娘に見えないが
「話としては複雑なんだ、あいちゃんはこれまでに存在していない人との混在種、あいちゃんは元は人なんだ、なのに今は艦娘になってる、アメリカの鎮守府で艦娘部隊が人を艦娘にしてしまったってコトだからね、アメリカの提督は人を艦娘に造り変える事に協力と言うかソレを指示、乃至命令したって事になる、妖精さんはソレを実行した、第三者によっては提督と妖精さんが共謀して人を兵器に造り替えたって取られるかも知れない、これまでは人と艦娘は完全に別の存在だったから艦娘部隊として成立出来た、でもこれからは人と艦娘は同一の存在に成っていく、少なくともその方向へ進んで行く事になってしまった、これを人が何処まで受け入れられるのか、そして艦娘はこれを許容出来るのか、深刻で厄介な問題になりそうなんだよね」
いつになく真剣な表情で言う漣
「叢雲、難しく考えさせようとしている漣の言い分なんて半分も聞かなくて良いわ、何しろもう一人の漣はアメリカの妖精さんの協力があれば確実に眠り姫を起こせるって喜んでるんだから」
「え?眠り姫?司令官の叢雲の事?」
突然出てきた眠り姫と言う単語、それを口にしたのがアメリカの艦娘という事に驚いてしまった
「そうよ、貴方に妖精さんを譲ったという叢雲、もう一人の漣は艦娘から人に創り直す事で眠り姫を起こそうとしている、私の逆パターンね」
「出来るの?そんな事」
半信半疑というより疑いしかないんだけど
「私が人から艦娘に成れている、眠り姫が艦娘から人に成れないとする論拠は無い、妖精さんにしてみれば変換でしかないからね、建造の様に資材から人を作れって話じゃないんだし、出来るでしょ」
酷く簡単にいうあいちゃんに違和感を感じずにはいられない
「変換って、そんなに簡単な話では無い、と思うんだけど」
「艦娘にはね、実行するのは妖精さん、何とでもなるでしょう」
簡単に言うあいちゃんから漣に視線を向けると、何とも言えない表情を見せていた
「人と艦娘の間にある境界線、今ではあったと過去形になりつつあるけど、これを除くのは得策では無いと漣は考える訳なんですが、その辺アメリカでは問題にならなかったの?」
「アメリカで人種の違いなんて気にしてたら差別主義者のレッテルを貼られるわ、それに私は合法的にアメリカ市民で国家に忠誠を誓った軍人でもある、誰が何を問題にするって言うの?」
「……なんかの擁護団体とか、他国の武力は見えないけど自国の非武装には熱心な平和主義を自称する方々とか?」
遠慮がちにいう漣
「それ、日本の事情よね、アメリカでは市民が武器を持つ権利を保障している、開拓時代の名残りの悪法という人もいるけれど、戦って勝ち取ったからこそアメリカは独立出来た、そこまで否定するアメリカ市民はいないわよ」
「それぞれのお国の事情はそのくらいにしてもらうとして、司令官の叢雲を人として作り直して起こすって、本気で言ってるの?」
漣とあいちゃんの話は別でやってもらいたい、私には関係の薄そうな話だし
「先任はそのつもりだよ、前にも別の方法で起こせるかも知れないって言ってたでしょ、その別方法ってのが、ソレだしね」
「その方法は理屈だけじゃなかったの?まだ可能性が見えて来たって所じゃなかったかな」
「あいちゃんの建造でソレが可能性では無くなった、そういう事」
「ふーん、日本の艦娘も検討はしていたんだ」
感心した様にいうあいちゃん
「あの戦いで生き残った艦娘達をどうするのかって所が検討の起点なんだけどね」
アッサリ言う漣になんか違和感を感じる
「三組の漣が聞いてた話と違うとか、文句言ってた様な覚えがあるんだけど」
取り敢えず突っ込みを入れておく
「そうなの?」
漣に聞くあいちゃん
「よく覚えてるね叢雲ちゃん、漣達が試行していたのは艦娘から妖精さんを減らしていって最終的に人の形だけ留めること、それで人として生きていけるか検証しようとしてたんだ、あいちゃんの建造は妖精さんが着いてない人に妖精さんを追加していって、最終的に艦娘に仕上げること、方向は逆なんだけどね、どちらも妖精さん次第で可能という結論になった、人の艦娘化はあいちゃんという実例がある、艦娘の人化はこれから実施されるだろうね」
「司令官の叢雲が実例になると?」
「先任はそのつもりだし、反対しそうな人って誰かいる?」
私の疑問を漣は想定していなかったらしく意外そうな顔を見せている漣
「司令官が拒否するわ」
なぜか漣とあいちゃんが私に驚きの目を向けて来た
「えっ!?司令官って佐伯司令官が拒否するって事?なんで?!」
漣が疑問しかないって感じで迫って来た、それを押し返しつつ言い返す
「司令官は自分の初期艦が実験めいたなんだかわからない案件に使われるのを嫌っている、私が提案した改修だって元は司令官の叢雲からの発案なのに実行を躊躇った、最終的には妖精さんからも事情を聞いて実行に踏み切ったけど、実施前に私を自分の鎮守府へ着任出来る様に手を打ってる、改修した後で自分の鎮守府に着任出来ないとなったら司令官は初期艦を失っただけになってしまう、それは司令官にとっても鎮守府にとっても手痛い損失になる、それを避ける為に私を改修せずに大本営の研修に出したのだから」
「ん?つまり、司令官に艦娘の人化をキッチリ説明してもメリット無しと判断されたら拒否されると?」
押し返してるのに未だ迫ってくる漣、なんでそんなに迫ってくるのか
「司令官の叢雲を人に作り直すとして、そこにどんな意味が?本人が改修素材にする様に私に言ってきてるのだから、司令官の叢雲だって人に作り直してもらいたいかどうかわからない、そして司令官の叢雲は工廠の妖精さんによって維持されているだけの状態、本人に意思確認も取り様が無い、これで本当に司令官の叢雲を人に作り直すの?」
「うーん、叢雲の言う通りなら、その眠り姫を起こす事には問題がありそうね」
あいちゃんという意外な所から同意が来た
「あいちゃん?」
漣が迫ってくるのをようやく止めてあいちゃんに疑問の視線を送る
「本人の意志表示として最後に確認出来たのは、改修素材として使われる事なのでしょう、それを無視してまで人に作り直すというのは、実験と云われても否定できない、と私なら判断する、日本の医療基準ではどうなるのかしら」
「医療基準?」
疑問の視線のままいう漣
「艦娘にとって工廠は医療機関でありそこで行われる全ての行為は医療基準を参考に設定する様に、ウチの鎮守府では司令官がそういう決定を下してる、お陰で工廠の内装が医療機関に準拠した物に変更された、あの時は妖精さんも興味津々で見物してたしね」
これを聞いた漣が感心した様な顔を見せる
「アメリカはアメリカで色々と進めているんですな、日本の鎮守府なんて一号が提案したまま何も変更が加えられていないのに、随分と違うものです」
「一号が提案したまま?」
最初の鎮守府を設計したのは最初の初期艦の五人だと聞いてる、妖精さんの協力もあっただろうけど人にはそう理解されているハズ
「そうだよ、一号の初期艦が最初の鎮守府を設計してそのまま開設して、今日に至っている、増設された鎮守府も最初の鎮守府の設計をそのまま使ってるし、運用から変更を提案すべきなんだろうけど、そこまで手が回ってないのが現状なんだ、アメリカを見習わないといけないね」
「なら、提案したら良いじゃない、丁度鎮守府の大規模増設する所なんでしょう、時期的にも良いんじゃないかな」
あいちゃんが気軽に言ってくる
「そうなんだけどね、問題はなにをどう変更するのか、具体的な提案が出来ないって所でね、困ったものです」
「そういうのを集める為に鎮守府を増設したんじゃないの?」
以前に聞いた鎮守府の増設理由を言ってみる
「理屈はそうなんだけどね、想定外に司令官達が大本営の官僚達と仲良くなってしまってその辺りの思惑はハズレたんだよね、箱の中で遣り繰りするのは日本の官僚達にはお手の物な事だけは良く分かったけど、艦娘部隊の運営という観点からすれば毒にも薬にもならなかったよ」
「日本の官僚が保守的なのは聞いた事がある、けれどそれは悪い事ではないでしょう、革新的な官僚なんて野心を滾らせる政治屋より質が悪いわ」
なにか思い当たる事でもあるのか、心底嫌そうに吐き捨てる様なあいちゃん
「おや?アメリカでも何かあったんですか?」
なんだろう漣がとても興味深々に聞いてる
「……なにもないわよ」
あいちゃんの返答は素っ気なくそれ以上聞いてくれるなと、言外に主張していた
登場艦娘
研修中の叢雲
教導艦の大和、老提督の秘書艦も兼務してるハズ、やまちゃん呼びされてる
先任の漣、最初の初期艦の一人、桃色兎からは御姉様呼びされてる
先任の叢雲、最初の初期艦の一人、目覚めない事から眠り姫とも呼ばれてる
最初の初期艦は一号の初期艦とも呼ばれる
三組の漣(桃色兎)、ざみちゃん呼びされてる
一組の漣、桃色兎からはちぃ姉様呼びされてる
天龍達、大本営には三隻の天龍がいる、遠征隊統括艦娘
アイオワ、アメリカの鎮守府で建造された戦艦種の艦娘、あいちゃん呼びされてる
登場人物
老提督
・研修中の叢雲からは視察官、一期で視察官として鎮守府に来ている時が初対面だったから
・最初の初期艦からはじーちゃん、お爺さん、艦娘部隊発足前から色々あった経緯から
・稀に最初の人、艦娘の言う妖精さんを見る事が出来た最初の人
・一組の漣からは提督呼びされてる
アメリカの提督
アメリカの鎮守府に着任している司令官、但し扱いは研究施設で実態として鎮守府とは異なる
佐伯司令官
一期の鎮守府の司令官、先任の叢雲を保護している、現在日本周辺海域の深海棲艦対応に追われてる
研修中の叢雲が司令官と呼んでる人