7月3日
「自衛隊の方々には申し訳ないが、こちらの行動限界が迫っている、今出ている艦娘達を収容し全行動計画を中止せざるを得なくなる」
指揮所に入って指揮所責任者の自衛官にそう伝えた、聞いた自衛官は苦い顔をした後、一言だけ発した
「そうか」
「詳細は追ってお知らせします、これまでの多大な協力に感謝します」
「なんとかならないのか」
そう言って来たのは自衛隊の司令官の補佐役、副官とか言うのだったのかな
「資材が尽きます、このままではあの子らを鎮守府に戻せなくなる」
「艦娘部隊の来援は来ているのだろう、資材も持って来ていると聞いたが?」
「止めろ、司令官の判断は部下の安全を考えての事だ、艦娘部隊大本営の意向で動いているあの船団は当てに出来ん」
自衛隊の司令官が副官を止めた
「しかし、……」
「指揮下の鎮守府を省みない大本営の何に期待出来ると言うのか」
「……」
この鎮守府の状況は詳細に細大漏らさず自衛隊側に知られてる、少なくともこの自衛隊の司令官は私の判断に理解を示した、納得はしていないだろうが
行動計画を纏めて撤収の具体的な日時を定めた書類を作成、大本営に通知する様に事務艦に指示を出す
「後はこれを自衛隊の方にも出しとかないとな」
大本営からの返信が有ろうと無かろうと行動限界は資材の枯渇が原因である以上こちらの予定に変更は無い
「明後日、補給部隊と合流したらそのまま帰還ですか」
その書類を読んで何か言いたげな様子を見せる事務艦
「不満か?」
「いえ、第二、第三艦隊の撤収に手間がかかりそうだな、と」
「その為に第一艦隊を先に撤収させ、第二、第三艦隊の帰路の安全確保の備えとして動ける様に自力で資材採掘地に行ってもらい補給を済ませておくんだが、なんの手間がかかると予想しているんだ」
「龍田さんにしろ木曾さんにしろ素直に撤収に応じてくれるのでしょうか」
「補給が途切れるのに継戦を主張する様な馬鹿を旗艦に据えた覚えはない」
「……そうですよね」
なんだろうね、この事務艦この状況で軽巡の二隻が継戦を主張するという根拠でも持ち合わせているとでも言いたいのか
「この後周回に出る補給部隊から各艦隊に指示を伝えさせろ、明後日の撤収に備える様にな」
「口頭での伝達という事は無線の使用制限は継続ですか、艦隊間の連携のためにも制限解除されては如何でしょう」
「最後の最後で無用な被害を出したく無い」
「それは、わかりますが……」
何が言いたいんだこの事務艦、異論があるならハッキリ言えば良い、言えないのなら仕事しろ
自衛隊に行動計画を伝えてメシを終えて執務室に戻った
「司令官、桜智司令官より連絡が欲しいとメッセージが届いています」
執務室に入るなり事務艦が言ってきた
「桜智?ああ、あいつの所は初期艦を返して運営が止まってるはずだろ、なんの用だ?」
桜智司令官、私と同じく増設された鎮守府の一つに着任している司令官
こいつも民間上がりの司令官で研修ではそこそこ気の合った相手だ、あの研修ではそれなりの数の司令官候補が研修を受けていたが着任出来たのはまだ五人だけだ
着任以降稀に連絡を取り合うくらいで疎遠と言っても良いくらいの関係になってしまっているが、連絡すら間接的にしかしない相手では無いだけ他よりはマシだ
「メッセージが届いただけですので、わかりかねます」
尤もな御意見ありがとう、これだから事務艦ってヤツは
それにしても桜智のヤローは何の用だ、まさか鎮守府の運営出来ずに暇だから遊びにでも行く気かな、明日以降の予定なら行けないこともないか
艦娘達の保護について意見も聞きたいし、取り敢えず連絡してみるか
「おせーよ、なんで既読ついてから何時間も経ってるんだよ」
「忙しいんだよ、こっちは自衛隊の相手まであるんだから察しろよ、それより要件は?」
電話したらいきなり文句が出てきたんだが
「今何処からかけてる?」
「鎮守府内の公衆電話から」
「まあ、こっちにかけるんならそうなるか」
今繋がってる電話は桜智の個人使用携帯にかけている、鎮守府内の仕事用端末なんて記録されるに決まってるし、公衆電話でも盗聴されてるだろうが、それを表立って言ってくるほど艦娘部隊も自衛隊も阿呆では無いと思う
この国には通信の秘密というのが表向きにはあることになっているのだから
「で、どうしたんだ、メッセージなんて寄越して」
「あー、今お前ん所だけが艦娘を運用してるだろ、ぶっちゃけて、どうなのよ」
「どう、とは?」
あれ、遊びの誘いでは無いのか、なんか真剣そうな雰囲気を電話越しに感じるんだが、気のせいだと思いたい
「鎮守府には憲兵名目で自衛隊がいるだろ、そこ経由で色々と話しは入って来てるんだ……」
なんか言いにくそうな感じに詰まったから先を促す
「それで?」
「資材不足で艦娘の運用を停止する、と聞いたが、そうなのか」
なんでそんなに探る様に聞いてくるのか、意図がわからん、そんなに畏まる様な性格の奴ではない筈なんだが
「所属の全艦娘をフル運用して、一週間以上動けてる、よく持った方だと自画自賛してる所だが」
「あー、遠征隊がまともに資材を集積出来ないのか、ジワジワ減って行く資材を横目に遣り繰りしてたのか」
「そんな所だ、そんな事を聞くのに態々メッセージを?」
「いや、今のは確認だ、こちらとしては資材を供出する事は可能なんだが、運搬手段が無い、なんか手は無いか」
は?資材を供出?なんでそんな話が出てくる?
鎮守府は原則的に独立採算制、運用資金は勿論、資材の取り引きも鎮守府間に上下関係を生じるとして厳重に禁止されてる
そういった鎮守府への支援は大本営が一手に引き受ける事に、規則上ではなってる
その支援を取り付けようと再三問い合わせたが、全部無視された
駄目元で自衛隊経路でも司令官名で要請を出してもらったがこれも無視された
大本営が応答を返して来たのは防衛省から直接行われた問い合わせだけだ
「気持ちは有り難いが、大本営に鎮守府を支援する気が全く無い事だけはよくわかったのでね、こちらも他の鎮守府を見倣って引きこもる事にした、今後について意見交換をしたいと考えているんだが、何処かで会えないか」
「今後?」
何を疑問形で返してるんだ、今後と言ったら司令官をクビになる事だけは確定してるんだ、部下の安全確保なり艦娘部隊で不利益を被らない様に手を打つなりを考えないとならんだろ
「ちょっと待て、佐伯、お前まさか早まった事を考えてないだろうな、俺等の司令官としての任期は三年あるんだぞ、それを一年程度で放り出す気か?」
「放り出すも何も、鎮守府運営に支障を来してる、解雇事由には十分だろ、契約元は艦娘部隊だ、日本式の解釈は期待しない方がいいと思うが」
「聞いてないのか、今大本営を仕切ってるのはあの老提督だぞ、艦娘部隊を日本に開設させた功労者だ、この人の助力があればその解雇事由を回避出来るかも知れん、それには実績が必要になるだろうが、お前は既にその実績がある、実績の独り占めは、良く無いんじゃないか」
何を言ってるんだ、実績?そんなもんありはしない
「それはどこ情報だよ、こっちになんの実績があるって?」
「聞いてないのか?こんな状況でもお前の鎮守府が活動出来ている、それを根拠に日本政府が鎮守府の大規模増設に踏み切ったんだぞ、今度の増設は俺等の時の様な試験運用じゃない、本腰入れた実践部隊としての増設になるそうだ、その為に大本営の組織が改正され、新体制が発足する運びになってる、その準備段階としてお前の鎮守府に大本営の機能が一部移転するって話だが」
なんだそれ、どこからどうなったらそういう話になるんだ
「まったく知らん話なんだが、それ憲兵から聞いた話なのか?」
「こっちに聞こえる様にデカイ声でそういう噂話をしてたよ」
「噂話って、そんな話に乗る気なのか?」
「そんな話って、当事者だろ、お前は、今更ト呆けなくてもいいだろ」
「トボケるも何も私の所にはそんな話は来ていない、確かに今鎮守府に来てるのはいるが、アレは大本営の使いの連中でこっちとは関係なく事を進めるといってるぞ」
「関係なく進めるって……まさか、クビの挿げ替え?そこまで話が出来上がってる?」
「だから、今後の話をしたいと言っているんだが」
しばらく間が空いた
「マジかー、憲兵が態々聞かせてたから嫌味だと思わなかった、それなら嗤われただけかよ、マジかー〜ーー」
そんなに語尾を伸ばすなよ、いや気持ちはわかるけど、こんなに金払いの良い職場、出来るのなら続けたい気持ちはわかるけどな
「それで、会ってどうするんだ?」
気を取り直したらしく聞き直して来た
「俺等のクビは避けられないとしても艦娘達は艦娘部隊に残るんだ、その辺りをなんとかしたいと思ってるんだが、良い手が思い付かん、取り敢えず無駄話しながらでも話してればなんか出てくるかも知れんしな」
「お前な、艦娘達の心配より自分の心配をしろよ、このご時世で任期途中での解雇なんて経歴持ちの再就職は絶望だぞ、しかもこの経歴は公的機関に出回る事は確実なんだ、そっち方面の求人には応募した所で書類審査落ち確定だ、民間の求人でも大手ほどそうなるだろうし、稼ぎ先は限られるんだが」
「そんなん今から心配しても始まらん、元々司令官職に死ぬ迄居座り続けるつもりじゃないしな、お前は居座り続けるつもりなのか」
「死ぬ迄は兎も角、契約更新出来るのなら更新しようとは思ってた、なにせ額面が額面だぜ、しかも福利厚生までバッチリ付いてる上に独自の裁量権まであるんだ、無闇に捨てるには惜しい仕事なんだが」
「最低条件が鎮守府の健全な運営と艦娘の運用だ、これを満たさないと判断されたら契約解除だと研修で再三説明してただろ」
「それについてはこっちの司令官の間で物凄く不満があるんだが」
「不満?」
「鎮守府の運営が止まったのは初期艦を大本営に返したからだ、しかも大本営からの命令で返したんだぞ、なんで指揮権上位と規定されてる大本営の命令に従った結果の不利益を鎮守府に被せてくるんだよ、これじゃあ俺等に解雇事由を作らせる為の命令じゃないか、そんな命令があるかよ、どんな嫌がらせだよ」
「そんな事をこっちに言われてもなんとも出来ないんだが」
「ただの愚痴だよ、お前は抗議した様だが何のお咎めもなかったのか」
「今の状況がそうなんじゃないか、その抗議以降大本営から無視されてるし、放っておけば自滅するから放置されただけだと思うが」
「無視されてる?」
「こっちからの問い合わせに何の返答もない、既読通知は来るんだけどな、自衛隊にも協力してもらって問い合わせをしてみたが、結果は変わらなかった」
「何通くらい無視されてるんだ?」
「繰り返しの問い合わせまで含めれば五十は超えてる、その全てに既読は付くが返答がない、無視以外に取りようがないな」
「五十って、スパムになりかけてるな」
「いっそのことそうしてやれって言ったんだがね、事務艦に止められた、意図して大本営の心象を悪化させるのは得策ではないってな、まあ、正論なんだが」
「事務艦?ああ、お前の所は初期艦がアレで事務艦を置いてるんだったな」
「アレって言うなよ、気にしてんだから」
「あ、悪い、言っておくがあの初期艦を保護してる件は悪手だとは思ってないぞ、寧ろ良くやったと思ってる、残念な事はその手はお前じゃなきゃ取れないって所かな、オレが同じ事をしたらその場で鎮守府が止まっちまう、今みたいにな」
「妖精さんの声が聞こえるってだけなんだが、周りが大袈裟に捉えすぎなんだよ」
「妖精さんと話が出来るってのは鎮守府の司令官にとっては大きい、現にお前の所がそう言う評価を受けてるし、それはお前が妖精さんと話が出来るって事と無関係じゃない、それはわかるだろ」
突然に警告らしい電子音が聞こえた
「ん、十円切れか?」
「百円切れだ、なんか話し込んでしまった、近いうちに会えないか?」
「予定を見てメッセ送っとくよ、またな」
「ああ、またな」
言い終わると受話器を戻してないのに通話が切れた、これだから公衆電話ってやつは