6月17日
「おはようございます、ご迷惑をおかけしました、本日より復帰いたします」
執務室の扉を開けると事務艦がいた
昨日あの爺様が事務艦と話がしたいと言って来た
特に止める理由も無いし、こっちは執務で手一杯、どうぞとだけ言っておいた
お手並み拝見の意味合いもあったんだが、翌日に事務艦が朝から執務室に来ている事からも只の爺様で無いのは確実、まあ、本人に確認したわけでは無いが、間違いなくあの人だろう
「おはよう、見ての通り色々滞ってしまった、早速で悪いんだが、手を貸して欲しい」
「勿論です!」
おお、元気一杯で良い事だ、ホントはこういうのは司令官がやらないといけない事なんだよね、執務が手一杯で艦娘の事まで手が回らない司令官っている意味あるのかな
「どうかされましたか、司令官」
「いや、なんでもない、それよりサッサと片付けにかかろうか」
「はい!」
執務がサクサク処理出来る、昨日までどれ程馬鹿げた苦労をしていたのか骨身に染みた
そんなこんなで事務艦の有り難さを実感していたら、妙な振動を感じた
辺りを見回しても地震という訳でもなさそうだし、不思議がっていたら事務艦から声がかかった
「?どうされました」
「いや、なんか揺れてないか」
「?いえ、地震、でしょうか」
「気のせいか、邪魔してしまったな」
「いえ、あ、もしかして机が震えてる感じですか」
「……よくわかるな」
言われてみればその通り、机だけが震えてる、でも何故それが分かったんだ事務艦は
「一番下の引き出しを開けて下さい、それで解消します」
そう言うと処理に戻ってしまった
仕方なく引き出しを開けたらベルの音が聞こえた、それで思い出した
「直通電話、か」
存在そのものを忘れていた、着任当日に受けた説明によると自衛隊回線から分岐させてもらった大本営と鎮守府のホットラインだそうだ
尤も使用頻度は低いとの説明と勘繰りの結果、机の上に陣取っていて邪魔だったそれを引き出しに仕舞い込んで、それ以来忘れていた
無駄に緊張しつつ受話器を取った、何しろ今日までコレを使った事が無いのはこちらだけかもしれないのだから
「こちら鎮守府司令官です、ご用件をどうぞ」
「あー、出ました、出てくれましたよ、……失礼しました、大本営総務課の茂木です」
今のは、なんだ、詮索はしない方がいいよね
「用件はなんでしょうか」
「お忙しい様なので手短にいきますが、構いませんか」
「どうぞ」
「用件は二点です、一点は昨日提出された視察期間の延長申請ですが、司令官が延長を希望されたのですか」
「いいえ」
受話器から聞こえる音が急に小さくなった、手で塞いだのかな、無音にはなってないから、周りに急げとか大至急とか言ってるのが聞こえた
音が戻って来たのを見計らってこちらから続けた
「しつ「もう一点はなんでしょう」……」
ちょっとズレた、細かい事は気にしてはいけない
「もう一点は視察の人員を送りますので滞在の準備をお願いします」
ん、おかしな事を言ってないか、視察の人員って一人だけど予定通りにもう来てる
それに人員を送る?これから?どう言う事だ
「茂木さんでしたか、申し訳ないがそれはどう言う事なのか説明をして頂きたい」
「視察日程は伝わっていますか」
「はい」
「それで、どういった説明が必要ですか」
あっ察した、このクソ官僚を相手にしても時間の無駄だ
「では、視察官に事態の説明を求めます、失礼」
「あー、あー、待って切らないで下さい、待って、待ってー」
「なにか」
今度クソ対応しやがったらガチャ切りだ
「視察官は随伴者を待たずにそちらに行かれてしまったのです、なので随伴者がこれからそちらに向かいますので受け入れをお願いします」
「言っている意味がわからない、視察日程を決めたのは大本営では無いか、こちらは予定の変更など聞いていない、現地入りなら兎も角、視察人員が日付を別にして鎮守府入りするのは、どう言う事なのか」
「これは大本営の指揮権の行使とお考えください」
とんでも無い事を言い出しやがった、クソ対応でもこれはガチャ切り出来ない
「そうか、指揮権の行使か」
受話器の向こうにホッとというかヤレヤレ的な雰囲気を感じる
「では、確認の為この電話口に大本営の士官を出してもらいたい」
「残念ながら総務課に士官を呼び出す権限はありません」
このクソ官僚は自分がなにを言っているのかわからないのか、わからないから言ってるんだろうが
「その通りだ、そんな権限は無い、大本営の指揮権が総務課の一職員から口頭で行使される事など有り得ない、違うか」
一瞬だけ絶句する様な間があった
「屁理屈並べるな!民間上がりの癖に言う事をき………」
連れ出せとかどーすんだとか混乱した様子が聞こえる、最後に聞こえたのは「おい、電話繋がったままだぞ」それでガチャ切りされた
「お疲れさまでした、お茶をお持ちします」
受話器を置いたら事務艦が珍しい事を言って来た、思わず事務艦をガン見してしまった
「コーヒーの方が良いですか」
「お茶で」
「すぐお持ちします」
お茶を啜ってたら扉が叩かれた
事務艦が立ち、対応に出てくれたのでお茶を啜りつつ気分を戻す
「司令官、憲兵から伝言です、時間の都合をつけてから憲兵隊まで来て欲しいそうです」
「わかった」
やっぱりコレ盗聴器じゃねーか