初期の艦これ   作:弱箔

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56 ノックもなしにドアが開けられた

 

 

 

 

 

7月4日

 

 

執務室で仕事をしてたらノックもなしにドアが開けられた

 

「しれーかーん!お話ししてきたよ!!」

 

元気な声が執務室に響く、駆逐艦は元気があってよろしい、もう少し礼節を弁えてくれるともっと宜しいんだが

執務の手を止めて駆逐艦に向き直る

 

「執務室に入る時はノックする様にいつも言っているだろ、公私の区別は付けなければならない、お前も何時迄も私の指揮下に居る訳ではないんだ、次の司令官に呆れられる事のない様に節度というものを学んでほしい」

 

「?僕はずっと司令官と一緒だよ、次の司令官なんていらないし、司令官が僕を要らなくなったら解体して良いよ」

 

いつもと変わらない口調で言ってくる駆逐艦、どこまで本気なのか、多分十割本気なんだろうが、それではダメなんだ、どうしようか

 

「それで?どんな話をしてきたのかな」

 

駆逐艦を改心させる手立てが簡単に思いつくハズも無く、そこは置いておき話を聞く事にした

 

「向こうの駆逐艦は初期艦だよ、叢雲の同期の初期艦だって言ってた、それと接岸許可が降りないのを不思議がってたよ」

 

何だって?叢雲の同期?この場合ウチの叢雲の事だろう、という事は他の鎮守府に配置されていた初期艦達か、何故その初期艦達がこの鎮守府に集まってるんだ

それに接岸許可って、それは許可が降りないのでは無く接岸要請が来ていないから出しようがないんだ、こちらに接岸を強制する権限は無い、なにかの行き違いがあるのか?

 

「他にもあるのかな?」

 

取り敢えず聞いてみる

 

「あとはねぇ、工廠を新設するんだって、この工廠が出来れば高練度の大型艦がいっぱい戦力化出来るって、そしたらこの鎮守府の苦労が減らせるって言ってた、司令官には優秀な秘書艦が付くから艦娘の運用で苦労する事もなくなるって、毎日ちゃんと熟睡できる様になるってさ、良かったじゃん」

 

???なんだって?

駆逐艦の話がわからなかった、工廠の新設は言ってた、が、高練度の大型艦がいっぱい戦力化とは?優秀な秘書艦が付く?まさかあの戦艦の事か?事務艦が調べた限りではあの戦艦は大本営で既に秘書艦に就いていたハズ、どういう事だ?

ついでに駆逐艦に私の睡眠具合まで心配されていたとは、参ったね

 

「そうか、いっぱい話して来たんだな、良くやった」

 

言いながら駆逐艦の頭を撫でて謝意を示す、どういうわけかは知りようもないが駆逐艦相手にはこれが一番謝意として通じる事がわかって以来こうする事にしてる

気持ちよさそうに撫でられるに任せる駆逐艦

 

「ああ、そうだ、出来ればで良いって言われたんだけど、五月雨が鎮守府への上陸許可をもらいたいって言ってた、司令官と話したいって言ってたよ」

 

思い出した様に言う駆逐艦、五月雨?確か背丈は叢雲と同じくらいの子だったかな

ん?いや待て、五月雨ってウチの叢雲が目覚めなくなった時に大本営から来た艦娘だ、あの時の五月雨は大本営所属の五月雨だが、鎮守府沖に停泊中の元鎮守府配置の五月雨はあの五月雨の事を知っているだろうか

 

あの時の五月雨は起こす所か原因の特定も出来ないと見ていられないくらいに落ち込んでいた

あの五月雨には初期艦とはいえ艦娘が気にすることではないと話はしたんだが、根が真面目なのか思い込みに囚われ過ぎたのか、私に「ごめんなさい」と頭を下げるばかりだった

私のミスもあり気負わせる様な事になってしまい申し訳なかった

あの後大本営に戻ってどうしているのかは、知りようもない

 

大本営所属の艦娘の話が漏れ伝わる事が無いではないが、個体の特定までできる様な詳細な話はない

元々所属の違う艦娘の話は掴みにくい、鎮守府の独立性を重視しているからだと説明されているが、実態は独立させられ孤立している、どう見ても大本営との関係を他の鎮守府より強くさせない手段だろう

その手段が功を奏して今こうしてウチの鎮守府まで資材の枯渇により活動を停止せざるを得ない状況に追い込まれてる

つまり、鎮守府司令官の制裁与奪の実行手段を大本営が保持する為だ

桜智の主張によれば大本営は命令を行使してまで鎮守府司令官に契約解除要件を満たさせる動きを見せていると言う

 

大本営と艦娘部隊は厳密にいえば同一ではない、それは研修でも説明されていた

艦娘部隊を本社とするなら大本営は地域統括支部で鎮守府は出張所の様なもの、らしい

鎮守府司令官はその出張所の責任者という事だ、その下っ端から見上げれば大本営と艦娘部隊がどう違うのかよくわからないが

 

「?司令官、どうしたの?」

 

駆逐艦に声をかけられて我に返った、いかんな、駆逐艦の頭を撫でながら長考してしまった

撫でていた手が止まって駆逐艦が不満そうだ

 

「なんでもない、上陸許可ならいつでも出すから手続きを取るようにと伝えてもらえないか、後、接岸許可もだ」

 

「えー、そういうのこそ、事務艦がやるんじゃないの」

 

「書類作成はその通りだ、事務艦に言ってもう一度向こうの駆逐艦達と話して来てもらえないかな」

 

「もー、人使いが荒いな、司令官は、でもわかった、司令官の頼みならもう一度行って来るよ」

 

「ありがとう、頼んだよ」

 

言いつつ駆逐艦をもうひと撫でして執務室から送り出した

 

 

 

 

 

「初めまして、大本営所属の駆逐艦、五月雨です、上陸許可及び面会許可、ありがとうございます」

 

駆逐艦を送り出してから二時間も経たない内にこうなった

 

駆逐艦が言うにはいつでも許可を出すと聞いてその場で申請、こちらの駆逐艦と一緒に事務艦を捕まえて書類を整えさせたそうだ

初期艦ってヤツはどうしてこう思い立ったら即行動なんだか

 

「この鎮守府の司令官職に就いている佐伯という、堅い話はこれくらいにしたいんだが、よろしいか」

 

ぶっちゃけて艦娘相手に堅い話し方などしたく無い、但し艦娘にも相応の肩書きを持つ者もいる、そういう手合いには堅い話し方をせざるを得ないが

 

「はい、司令官さえよろしければ、そうしていただけると五月雨も話し易いです」

 

「では、そちらに座って少し待っててくれないか」

 

「?それは構いませんが、何か急ぎのご用件が?」

 

面会許可を出しておきながら待たせるという事に違和感でも覚えたのか、緊張しながら聞いて来た

 

「いや、お茶を持って来るだけだ、事務艦が仕事に追われていてね、こういった手間は自分で取らないといけなくなっている」

 

「それでしたら五月雨もお手伝いします」

 

どうやら緊張は取れたようだ

 

 

 

 

 

話して見てわかった事はこの初期艦、かなり手馴れてる、人の扱いというか、誘導方法が上手い

もう少し容姿が大人びていれば、その筋で荒稼ぎ出来そうなくらいには手馴れてる

ウチの初期艦とは大違いだ、アレはよく言えば裏表の無い性格、言い方を変えれば何事にも自説を曲げようとしない真っ直ぐ過ぎる性根、相手によっては衝突要因にもなりかねない

ウチの初期艦はそこを立場と実力で正面突破していたが、この五月雨は自論を通すにも衝突を回避しつつ言葉巧みに誘導して来る

五月雨は当たり障りのない話と交えながら、確実に工廠の新設に私のというかこの鎮守府の協力を引き出そうとしている

決してそこを話題の中心にせず、確実に外堀から埋めて行く手堅い話術だ

 

しかし何故そんな手間が必要なんだ?

 

工廠の新設についてはこちらに拒否権は無い、そんな事は五月雨だって知っている筈だ、増設された鎮守府に配置されていた初期艦の一人なのだから

ウチの駆逐艦が聞き込んで来たこの点は本人からも確認が取れたし何より私自身も見覚えがあった、確かにウチの叢雲と同期の、あの初期艦選定の場に居た五人のうちの一人だ

五月雨は焦りなど微塵も見せず、気楽さと気軽さと少しの気易さを交えながら話をして来る

それはそれで、良いモノだとは思うが、このままでは千日手の様相になり時間の無駄だ

踏み込むか、向こうの諦めを待つか

 

私としては艦隊の行動計画が既に実行中である為に時間に余裕がある、司令官といっても現地指揮は艦隊旗艦の領分で鎮守府にいる私に出る幕はない、想定外の事態が起こらない限りは

ある程度は時間潰しの意味もあり、五月雨の話を聞いているが、何時迄もという訳にもいかない、どうしようか等と呑気に考えて居たらドアをノックする者がいた

 

「どうぞ」

 

ドアを開けたのは事務艦だ

 

「お話中失礼します、司令官、桜智司令官よりメッセージが届いております、後ほど通信室へお越しください」

 

「わかった、ありがとう」

 

「桜智司令官?私の司令官です、何かあったんですか?」

 

五月雨の顔色が変わったんだが、桜智からのメッセージと聞いて強く反応しているんだが、なんだろう

 

「何もない、増設された鎮守府は初期艦を大本営に返して以降、開店休業状態だ、今もね」

 

「あの、不躾は承知ですが、何のメッセージか教えてもらえませんか」

 

なんだ?これまでの話し方と違う駆逐艦らしい口調なんだが

 

「司令官のメッセージなど珍しくないと思うが、何か理由があるのかな」

 

「えっと、何もないんですけど、司令官がメッセージなんて、珍しいので気になります」

 

今になって自身の行動を顧みたのか、口調と顔色が戻ったんだが、少しだけ踏み込んでみようか

 

「そうなのか、今度飲みにでも行こうって、誘いのメッセージだと思うが、珍しいのか」

 

「飲みに、行く?」

 

「ああ、お互い開店休業状態の鎮守府に詰めていたところで有意義とは言い難いからな、外の空気を堪能しようと話してたんだ」

 

カマかけに反論が無いんだが、想定外にも疑問形で済んでしまった、桜智のヤツが下戸な事を知らない訳でもあるまいに

 

「?開店休業、ではないですよね、こちらの鎮守府は」

 

なんか、探る様に聞いて来るんだが、それに桜智の事(自分の司令官)よりウチの鎮守府が優先とは、まあ、大本営所属と言っていたから不自然という事もないが

 

「明日で行動限界だ、それ以降は開店休業状態になる、艦娘達にはゆっくり休んでもらうつもりだ、想定外に酷使してしまったから、良く休んで回復してもらわないとな」

 

「行動限界?えっと、すみません、何のお話をしていますか?」

 

どうも本気で事態が見えていない様だ

 

「資材枯渇により艦娘の運用が出来なくなる、それが行動限界、資材集積は艦娘達をゆっくり休ませて十分に回復させてからにしようと考えている、尤もそれをするにも艦娘達の艤装から資材をかき集めなきゃならんが」

 

「資材なら私達が持って来ています、使って下さい」

 

僅かに覗く焦りは何を意味してるのか、判断材料が欲しいところだね

 

「そうしたいのは山々なんだが、そちらの秘書艦は大本営の事情を優先させたい様子でね、軽々に資材を出したくないんだろう、工廠の新設にも資材は必要だろうし、大型艦の運用もあるだろう、こちらとしても使い道が決まってる資材に手を付けて、高利貸しも真っ青な利率で資材補填を要求されても困るしな」

 

「!……」

 

なんだ、五月雨が驚きと呆れとその発想はなかったってのを混ぜた様な百面相をしてるが

 

「あのですね、そういう事態にはならない、と思います、何かそういう事態になるという心当たりがあるのでしょうか」

 

今、断言しかけたな、初期艦が事態を決定できる様な状況なのだろうか

事務艦が聞き出した処に依るとあの船団の全権は戦艦種の艦娘、大和が持っていると直通電話の向こうの人物は答えたそうだ

それが誰かは事務艦も追求したといっていたが、何の事情があるのか頑なに名を伏せた為に分からず仕舞い

電話口の人物は名は明かさなかったが、艦娘部隊上部機関の所属だと言った、現在大本営は上部機関の監察を受けており、自分はその監察官の随伴者だと、繰り返し言っていたそうだ

事務艦なりにその発言の裏取りはしたとの事だが、具体的な所は端折りやがった

 

「なにか気がかりがあるのでしたら、大本営初期艦の権限を以って対処します、私達は佐伯司令官に協力しに来たのです、何故そこまで穿った見解を持たれているのか、わかりかねます」

 

ほう、突いた甲斐があったかな、五月雨が少し苛立ちを見せ始めた

 

私の話術というより桜智の名前、自身の司令官が思いがけず関わって来た事による動揺の方が影響してそうだが、結果が出ればどちらでもよろしい

 

「私達は信用できませんか、これでも叢雲の同期です、佐伯司令官が未だに保護を続けている初期艦の同僚です」

 

論点はそこではない、動揺し過ぎて理論破綻し始めたかな

 

「ちょっと失礼」

 

五月雨には応答せずに席を立ち内線で事務艦を呼び出した

 

 

 

 

 

「何故、五月雨は食堂にいるのでしょう」

 

鎮守府のセルフ式食堂で定食の載ったトレイを持たされて隣にに立つ駆逐艦につい言ってしまった

 

「腹が減ったからではないのか、難しい話は後にして今は腹の虫を満足させよう」

 

食堂は立ち食い仕様ではないので空いている席に誘導されトレイを置いた駆逐艦に促されその隣に腰を下ろした

 

「司令官が腹が減ってあたまが回らなくなってるから食堂に連れて行けって言ってたけど?」

 

席に着くなり案内役?先導艦?に指名された駆逐艦が言ってきた

 

「そんな事はありません、ちゃんと理路整然とお話をしていました」

 

「理路整然?そんな難しい言い回しは駆逐艦相手の時にしても意味ないと思うが」

 

呆れているのか、どうなのか、無表情という訳ではないのに感情を読み難い相手だ

 

「……それにしても、随分賑やかな食堂ですね」

 

言いつつ周りを見る、つられて同じ様にする付き添いの駆逐艦

 

「ああ、今は自衛隊が来てるからな、彼らもこの食堂を使ってる、もともと鎮守府の施設管理は海自の領分だし、食材費の負担さえしてくれれば鎮守府としても利用を断る理由は無いからな」

 

意外にも説明してくれた、相槌で済まされると思っていたのに、こちらに関心が無いという訳ではないらしい

 

「所属の艦娘達は作戦行動中ですから、この食堂を利用する事もないでしょう、施設と職員の有効活用としてはわかりますが」

 

私の言い様に顔を顰める駆逐艦、確かこの子は初春型の駆逐艦のハズ

 

「堅いな、そんな難しい事ばかり考えていると憲兵の様な顔になってしまうぞ、ああいう顔に憧れでもあるのなら、止めはしないが」

 

そういう駆逐艦を見れば定食を美味しそうに食べ始めている、それを見ているとこの子が言う様に難しく考え過ぎているのかも知れない気がして来た、なんだがこの子の言う様に考えを見直した方がいい様な気も湧いて来た

取り敢えず定食を食べてしまおう、食事は大本営を出る前に取ったのが最後で、それ以降は資材供給で賄っていたから久しぶりの食事だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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