7月7日
執務室の扉が叩かれた
事務艦が対応してくれたので私は執務を続けていたが、何やら事務艦が扉越しに押し問答を始めた様子が見えたので声をかけた
「どうした?」
「いえ、引き取って頂きますので、お気になさらず」
なんだ?現状で執務室に来れて事務艦が追い返す相手、誰だろう
「要件は、なんだと言っているんだ?」
「抗議、だそうです、こちらに持ち込まれても対処出来ない案件ですので引き取って頂きます」
「司令官!いるのだろう!!」
おおう、この声のデカさからして自衛官の様だ、しかも声に聞き覚えがない
「話をしたいのなら、憲兵を伴ってくる様に伝えてくれ」
「わかりました」
そういうと事務艦はかなり強引に扉を締め切った
「こういう厄介事に引っ張り出さんで欲しいんだが」
あの後一時間もしないで自衛官が憲兵を伴って来た、執務室に据えられた長椅子に座るなり憲兵が愚痴る
「司令官、そちらの要請で来た我々を邪魔だから追い出すとはどういう了見だ?!」
憲兵の愚痴など御構い無しに捲し立ててくる自衛官
「先ず、あなたの官位姓名をお聞かせください、何処の誰かわからないではこちらとしては対処に困る」
「小官は、鎮守府派遣隊情報士官、加吉、階級は二佐、田名部海将補へ抗議してもラチが明かないのでこちらに直接抗議に来た」
「憲兵の方の階級は?」
取り敢えずこの二佐に連れてこられた憲兵に話を振ってみる
「二佐だ、それとこっちは陸自だ、あの指揮所自体海自が主体でね、空自もそれなりに入っているが」
「そんな事はどうでも良い、邪魔だから追い出すとは、どういう事だ!」
声が大きいねぇ、流石自衛官、だがこの手の元気一杯なのは駆逐艦だけで十分だ
「加吉さん、あなたがどこからそれを聞いたのかは、この際問いません、当鎮守府司令官としてあなたに知って欲しい事は、私にはその権限が無いという事だ」
「?権限が無い、とは」
いきなりトーンダウンしたぞこの人、大丈夫か?
「鎮守府司令官に付与されているのは自衛隊に対し協力を要請する事だけだ、自衛隊は暇な組織では無いし予算制約も多い、故に鎮守府司令官は自衛隊に対し撤収を要求する事は無い、要請の受諾決定権は自衛隊側にあるし撤収の判断も同様だ、有り体に申し上げるが、あなたはそれをいう相手を間違えている」
「……では、その相手は、誰だというのか」
なんだろう、メッチャ睨まれてるんだけど
「それは状況と指揮系統に依る、申し訳ないが、私はあなたの指揮権を誰が持つかを知らない、答えられない」
おおう、なんか青筋立ててるんだけど、大丈夫かこの人
「気は済んだか?持ち場に戻ろう、ここで司令官を相手にしても押し問答にしかならない」
憲兵が退室を勧めているんだが
「一体全体何なのだ、艦娘部隊に協力しろと命令で来てみればさしたる戦果を上げる訳でもなく、ただ、時間稼ぎに終始、最後には燃料切れで全艦隊撤収の上身動き出来ませんだと?なんなのだ!一体!!最前線で活動している最精鋭をこんな所に集めた挙句が、これか?!こんな事の為に我等を前線より引き抜いたのか!?今も原隊は最前線で戦っているというのに、こんな内地でヒマを持て余すとは、鎮守府司令官とは、エライ御身分だな!!!」
「やめろ、それ以上言うのなら、貴官を拘束しなければならなくなる、私は憲兵なのだ、仕事を増やしてくれるな」
憲兵の発言に自衛官が一瞬呆気に取られた様な顔をした
「……強かだな、鎮守府司令官は……」
お、なんだ?にらめっこか??
「どうやら、見当違いの抗議だった、時間を取らせてしまった、これで失礼する」
いうなり出て行く情報士官、それと扉は丁寧に閉めてもらいたいものだ
「申し訳ない、自衛官の非礼をお詫びする」
なんで憲兵が頭下げる事があるんだ?
「お気になさらず、ヒマを持て余しているのは、その通りですから」
「……」
なにそのなんか言いたげな表情は
この日は午後になって先発隊から接岸要請が届いた
こちらに断る理由も無いので許可を出し、事務艦に必要書類の作成と手続きを任せた
それらが一通り落ち着いた頃、面会要請があった、しかも結構な人数でだ
幾ら何でも多過ぎる人数の為、事前調整を事務艦に頼んだ、こんな大勢に一度に囲まれて捲し立てられるとか、私にそういう趣味は無いし、面倒事になる予感をヒシヒシと感じたしな
資材備蓄計画を捏ねながら事務艦の調整が終わるのを待つ、天龍が持って来てくれた資材で一個艦隊なら資材採掘地までは往復出来る、しかしどう計算しても後が続かない、やっぱり数を減らしてチマチマ備蓄していかないと安定した状態での一個艦隊運用に持って行けそうに無い、その運用計画を捏ねている訳だが、面倒臭いんだコレが
ある程度計画らしくなった所で執務室の扉が開けられた
もう、ノックすらされなくなってしまったか、執務室というか私に司令官としての威厳が無いのが原因なのだろうか
誰が来たのかとそちらに目を向ければ、見知らぬ艦娘がいた
背格好からすれば大型艦、ウチに着任していない艦娘だ、おそらく移籍組から来た面会希望の艦娘だろう、なぜか私を見て目を見開いたまま固まっている様だが、なんだろう
ん、固まっている艦娘に違和感を感じた、なんだ?この艦娘、またしても大本営が謎の艦娘でも拵えたのか?
「あれ?えっと、執務室って、何処かわかります?オジサン」
はい?なにを言い出しやがるこの艦娘、まだ二十代の私をオジサン呼ばわりする失礼な謎艦娘だ、大本営の教育方針はどうなってるんだ、場合によっては抗議してやる
「執務室ならここだ、執務室に用があるのか」
「執務室に司令官が居るって聞いたんだけど、あれ?居ない?」
ほう、この謎艦娘、とてもイイ度胸と見た、それにしても、私はそんなに司令官に見えないかな、一応執務中だから指定の司令官服を着ているんだが、居ないと言われてしまったよ、困った事に
「そちらが誰か知らんが、私が当鎮守府の司令官だ、要件があるのなら事務艦を通してくれ、直接言いに来ても、こちらの都合と予定を無視してまで応対しない事にしている、取り敢えず、出直してくれ」
なんだ?私の言い分に反応がないぞこの謎艦娘、執務室の扉を開けたままその場に立ちっぱなしなんだが、どうしたんだ
まさか、私が司令官かどうかで押し問答とかしなくちゃならない事態の発生かな、面倒臭い
「司令官!?あなたが?!えーー!!!!」
五月蝿い、とても煩い、なんなんだこの謎艦娘
「なにをしているんですか!」
おお、事務艦の声が聞こえてきた
「司令官への面会は調整の後だと言った筈です!勝手に執務室に入って司令官を煩わせないでください」
事務艦が言いつつ謎艦娘を執務室の扉から引っぺがして廊下に連れ出した
「申し訳ありません、調整に時間が掛かっております、今暫くお待ちください」
「おう、待ってるよ」
「失礼します」
そう言うと静かに扉を閉める事務艦
ようやく静かになったか
「なに?食料が無い?すまんが、言っている意味がわからん、分かる様に言ってくれ」
事務艦が執務室に来たから面会の調整が終わったのかと思ったら、想像すらしていない事を言い出されて困惑してる
「申し訳ありません、食料消費の見込みを誤った様です、計画より四日も早く尽きるとは思ってもいませんでした、大変申し訳ありません」
そう言って何時に無く平謝りする事務艦、それにしてもおかしい、四日分の食料備蓄が突如消費されたらしいが、どう言う事だ?
「食堂は自衛隊と共用になっているが、向こうにも影響が出ているのか」
「いえ、自衛隊の持ち込んだ食料は鎮守府の食料備蓄とは別管理になっています、自衛隊への食料供給は問題無いと思われます」
それは良かった、自衛隊の食料までウチで食い尽くしたなんて事態が発生したら、どうなるかなんて考えたくも無い
「わかる範囲でいい、説明を頼む」
「はい、現状では食堂を運営している委託業者から食料供給が出来なくなると施設管理室に連絡があり、確認した所、食料備蓄が尽きて鎮守府向けの食料供給を停止せざるを得なくなっていました、緊急時用の保存食なら幾らか供給出来るそうです」
うーん、困ったね、鎮守府の食料は事前計画に従い定期的に大本営から納入される、その事前計画を誤った?考え難い事態だな、可能性としては事前計画にない消費がなされたと言う事なのだから、食堂利用者の急増とかか?
ん?そういえば例の移籍組が食堂で待機していたな、まさか、あの面会希望者が食堂を利用したのか、いや、こちらで利用キーを出していない、食堂の給水機ぐらいなら兎も角食事は出来ない筈、委託業者が勝手に食事を提供するとも思えんし、どうなっているんだ?
「……その、申し上げ難いのですが……」
私の長考をどう見たのか知らないが事務艦が恐る恐るといった感じで言い出した、なんだろうと視線を事務艦に向ける
「その、利用履歴を調べた所、電と五月雨の利用キーで多量の食料供給がなされていました、言い難いことながらこの二名が利用キーを面会希望者達に提供したものと思われます」
は?ナニソレ、あの二人は鎮守府に配置された初期艦だ、鎮守府に併設された食堂がどうやって運用されているかを知らないなどあり得ない、それに利用キー自体貸し借り厳禁だ、何の為に個人単位で利用キーなんて発行してると思っているんだ
まさかとは思うが、敢えて、か、承知の上で実行した?何の為に?これが大本営の遣り方なのか?
「兎も角、向こうの代表は大和だ、話をしよう、それとウチの艦娘達に事態を説明し、艤装からの供給で急場を凌ぐ様に伝えてくれ、但し、それが難しい者は執務室まで来る様に、確か何人かいた筈だ」
「わかりました、その様に手配します、それと、面会希望の件への対処はどうしますか?」
「……大和に状況を説明して、協力を求めろ、現状はそれどころではない」
「承知しました」
事務艦が退室して行く、こちらとしてはやりたくはないが、直通電話を使わねばならない
大本営に借りを作る事になるんだろうなコレも、官僚共はどうあってもこちらに瑕疵を作らせて貸しを押し付けたいらしい、それを取り立てるのが余程愉しいのだろう、なんて悪趣味な連中だ
受話器を取ろうと手を伸ばすが、滅茶苦茶気が重い、電話口に出て来るのがクソ官僚だと分かっているだけに如何にかして回避する方法が無いかと考えてしまう
しかし、艦娘達にまともな食事さえ用意してやれないというのでは司令官として如何なんだ
資材供給だけでも艦娘は運用出来る、だからといって資材のみで運用し、食事させないというのはあり得ない、まあ、そのあり得ない運用をつい先日までしてたんだが、だからこそ、ここで食事抜きというのは私が納得出来ない、一刻でも早くまともな食事が出来る様に手配してやらないと、いけない
暫く逡巡していたが、意を決した、受話器を取り発信ダイヤルを回そうと指を掛けた所で扉が叩かれた
これ幸いと受話器を戻して声をかける
「どうぞ」
こちらの返事を待って扉を開けたのは、隊長だった、指揮所司令官を伴っている
おう、これはコレで厄介事な予感しかしない
「少し時間をもらいたいがよろしいか」
「どうぞ、そちらへ」
執務室に据え付けられている長椅子の方に促す、こちらも執務机から長椅子に移動する
「どういった要件でしょう」
早速切り出してみる、先手を取らないと余計な案件まで言い出されかねないしな
どういう遣り取りが隊長と指揮所司令官との間にあったかは知りようも無いが、指揮所司令官が目配せして隊長に先を譲った
「聞いたとは思うが、現在鎮守府の食料が尽きている、説明してもらいたい」
憲兵の職務の一つは鎮守府の健全な運営、これが適切に実施されているかを監視する事だ
計画外の食料消費は鎮守府司令官の無計画さの表れと取られるだろうな
なにしろ施設管理室というのは海自の皆さんが詰めている所だ、設備や委託業者などはこの海自の皆さんが管理監督している、食料などの消費材や電球などの消耗品は鎮守府持ちだ
丁度賃貸物件を借りた時に大家持ちの部分と店子持ちの部分がある様に区分されている
鎮守府の場合、食堂などの施設運営に委託業者が入る事もあるが、ウチの場合そこまで海自側に任せている、私はそういった細々した契約案件を自身で取り仕切ろうと言う程仕事熱心では無い
当然そこから食堂の事情は憲兵に駄々漏れとなる、尤も隠そうとも思わないが
「計画外の消費がなされた為だ、こちらとしても想定していなかった、事務艦からは自衛隊への影響は無いと聞いている」
「問題は自衛隊への影響ではない、その計画外の消費は何故発生したのか、説明を」
隊長が厳しい顔で言って来る、まあ、無理も無い、憲兵としての仕事なんだから大真面目に細やかな義務を果たしに来るだろう
「その件について、大和と話し合いの場を設ける、こちらとしても事態が把握しきれていない、憲兵としても曖昧な憶測を聞かされるのは願い下げでは無いのか」
「……そういう事なら、その話合いに参加させてもらう事になるが、それで良いのか」
おや?この申し出をあっさり受け入れるとは、予想外だ
てっきり言い逃れするなくらいは言って来ると思ったんだが
ん?もしかして隊長は事情をある程度掴んでいるのかな、それなら頷ける対応なんだが
「こちらの話を、しても良いか?憲兵の話は終わった様だが」
指揮所司令官が言ってきた
一応隊長を見て異論がない事を確認、視線を指揮所司令官に向ける
「どうぞ」
「鎮守府司令官の要請があれば自衛隊から食料を供給する事は可能だ、それと、先にウチのバカモノが押し掛けたそうだが、それについて抗議があるなら、受け付けるが」
あら?あの情報士官の行動が意外にも自衛隊側で問題視されてる様子
食料供給を言ってきたのは、暗に掛け引きだろうな、食料供給という掛けと抗議せず不問にするという引き
本来なら自衛隊が鎮守府、というか艦娘部隊に食料は勿論物品を供給する事はない、運営上想定されていない
別組織というだけでなく、行動目的の違いもあるし、何より艦娘部隊には独自の調達、供給ルートがある
そんなもんを抱えてる理由は幾つもあるが、理由の一つは鎮守府司令官の不正対策だ
鎮守府が独自の補給ルートを構築すれば、その予算との兼ね合いでどうしてもその権限を持つ事になる司令官に色々な誘惑が寄って来る、日本の様に民間上がりの司令官を着任させるにはこの辺を上位組織で押さえないとあっという間に不正の温床になりかねない
それを抑止する為に施設管理室が置かれているし、目を光らせる憲兵まで駐屯してる
何処まで鎮守府司令官が裁量権を持つかは大本営の官僚と鎮守府に駐留する自衛隊(主に海自)との三者面談が着任時にあり、そこで取り決められる
着任時にこういったクソ細かい取り決めと詳細説明が散々続いた後に直通電話の説明もあった訳だ、要らないと即決して引き出しに放り込んだのは八つ当たりだったかも知れないが
私としてはそんな面倒臭い取り引きだの業者との交渉や契約だのとは可能な限り関わりたくないのでその辺りは全部施設管理室 (海自の皆さん) にお任せ (丸投げ) した
面倒臭い事をやってくれると言うのだからやってもらった方が良いに決まってる、私はそう判断したが、鎮守府司令官の中にはそれらの裁量を自分で持った物好きな奴も居るとは聞いた
正直、なんて仕事熱心なんだ、と感心したものだ
書類仕事を割り増しさせるなんてどんだけ仕事好きなんだよ、真似しろと私に話が来たら断る方策を探すね、あんなものは少なければ少ない程良いに決まってる
「申し出は大変有り難い、ですが、自衛隊から食料供給を受けても後日に鎮守府なり艦娘部隊から補填しなければならない、現状では確かに食料は尽きているが緊急に必要という事情も無い、そちらの情報士官が指摘した様に暇を持て余している」
あっ、皮肉になってしまったか、言ってから気がついた、指揮所司令官が分かり易く眉を顰めたから気が付いてしまった、が、気にせず続けよう
「艦娘達には艤装からの供給で凌ぐ様に通知済みです、暫くは持ちますからこの間に供給される様に大本営と交渉するつもりです」
「?艤装からの供給とは、すまないが私は艦娘について詳しくない、差し支え無ければ説明してもらいたい」
指揮所司令官が聞いてきた
「先日までここの艦娘達は特定海域に張り付いて作戦行動を実行していた、それは見ていたから知っているでしょう、アレを陸上でもやるって事ですよ」
何故か隊長が解説し始めたんだが
「張り付いているのは確かに見た、しかし補給隊が往復していただろ、それで、ではないのか?」
「あの補給隊が運んでいたのは資材だけですよ、食料は元より水すら運んでいない、それでも艦娘ならあれだけの期間作戦行動を維持できる、国際社会が対深海棲艦戦に軍隊よりも艦娘部隊を選んだ理由はここにある」
「確かその資材とやらも、艦娘が何処かから独自に調達して来るのだったか」
「調達場所の法的整理の手続きはありますが、それさえ済ませてしまえば、後は艦娘が資材を採掘、備蓄し、運用出来る、この国の場合、採掘地のほとんどが無人島ですから、さしたる混乱もなく政府保有地になってますよ」
隊長の解説に感心した様子の指揮所司令官
「運用コストはほぼゼロ、という事か」
「初期投資と継続的な少額投資は必要ですが、額面的に護衛艦や航空機とは桁が三つ以上違う、その艦娘部隊が日本から引き上げられるか、残置出来るかの、瀬戸際です、監察官達の判断次第では、今実行中の全自衛隊総合出動が恒久的な、自衛隊の通常業務に組み込まれる可能性がある、幕僚としては、そちらをお望みか?」
隊長が指揮所司令官に問う、なんだか色んな意味に取れそうな問いだな
「……それが、憲兵隊長の目的か、なるほど、艦娘部隊の手先に成り果てたなどと揶揄されようとも鎮守府司令官を擁護する理由には十分過ぎるな」
一体何の話をしてるんだ?いきなり蚊帳の外に放り出されてしまったんだが、大人しくしとく方が良いかな、ダメかな?
「そう言えば、司令官は大本営と交渉するつもりと言っていたな、妥結できそうなのか?」
いきなり帰ってきたよ、話が跳び過ぎだろ
「それは交渉して見なければわかりません」
私の言い分に指揮所司令官が少し考えるような素振りを見せる、なんか大袈裟に捉えられていないか、今回の件、そもそも食料は定期的に納入される訳でその時期まで持たせるか、多少早めてもらうだけで事は足りるんだが
「それで、大本営からの先発隊を率いている大和と話し合いか、直接交渉より先発隊を通じての間接交渉の方が勝算があると、搦め手で臨むのか、指定通信をあれだけ無視している大本営との直接交渉を避けるというのはわからないではないが、司令官は石橋を叩き過ぎていないか?」
あれ?なんだか大本営に電話しなくて済みそうな流れになってないか、この誘導に乗っても良いものか、指揮所司令官はソレを慎重過ぎると言っているが
ちょっと考えていたら隊長が話し出した
「暫くは持つというのなら、焦る必要はない、確実に目的を達成出来る手を使った方が良い」
「確かに、この鎮守府は老提督の視察を受けていると聞いた、大和はその老提督の秘書艦だそうだし、その大和から話しを通すのなら、老提督の協力を引き出せるかも知れんな」
エッ?そうなの?指揮所司令官の台詞で私が勘違いしていた事を知った
大和が秘書艦だとは聞いていたが大本営の、あの踏ん反り返っている士官の秘書艦だと思っていた、秘書艦というのは初期艦の役割を担う初期艦以外の艦娘だと事務艦からの説明は聞いたが、思い返せば誰のという部分が抜けてたな
ん?それなら視察の際に何故一緒に来なかったんだ?大本営お得意の特異な事情でもあったのか
大和はあの爺さんの秘書艦なのか、という事は今回の件、全部あのジジイの差し金か
あのクソジジィ一体何の恨みがあるんだ、前に視察に来た時にそんなに腹に据え兼ねたのか?ここまでの嫌がらせは大本営のクソ官僚でもしなかったぞ
「そういう事です、それと司令官、確認したいんだが……」
隊長が聞いてきたが、なぜか途中で止まった、視線を向けて先を促す
「あの先発隊に随行して来た駆逐艦種の艦娘達は各鎮守府に配置されていた初期艦なのか」
質問内容的に言い難いモノとも思えないが、深く考える事も無いだろうと返答をする
「そうですが、なにか?」
「いや、確認しただけだ、憲兵といっても艦娘の同型同名艦の見分けは難しいからな」
なんだ?憲兵は各鎮守府を順番に交代で勤務していると聞いている、初期艦達を見知っている憲兵が居ても不思議な事ではない、しかし何だってこのタイミングで確認したんだろ
事務艦を通じて大和に会談の申し入れをした所、あっさりと承諾、思わず事務艦に会談の趣旨を誤解させていないかと、聞いてしまった
以前の面談の際には憲兵が同席するだけでもあれだけ嫌そうにしていたのに
参加人数がそれなりになったので鎮守府の会議室では手狭に過ぎ、広さという一点のみで食堂が会場になった
こちらとしては直ぐに始めるつもりだったのだが、何処から聞きつけたのか大本営から出席要請があり、開始を見合わせている
全く憲兵からか移籍組からか、どちらでも有り得るが、こちらの方針が定まらないのは困りものだ、食堂の運営に支障を来しているのに待ったをかけて来るとは、しかも一方的な指示書で済ませやがる
この指示にも問い合わせはしたが、相変わらず既読通知だけで返答は無い
こうなると自衛隊から食料供給を受けるという選択をしなければならないかもしれない
正直、自衛隊から物品の供給を受けた場合、事後処理がどうなるのか、規定が曖昧だ
大雑把には借り受けるという事になる様で返却が必須という事だ、その返却を艦娘部隊で持ってくれれば良いが、現状では鎮守府司令官個人の債務にされかねない
順当に考えれば鎮守府持ちの費用な訳で書類仕事を無くしたい私は施設管理室 (海自の皆さん) にお任せ (丸投げ) しているからそちらで話が付きそうなものだ、ただ今回はこちらに話が回ってきている
私に話しが来ているという事は施設管理室 (海自の皆さん) で話が付かなかったという事に他ならない
何故、施設管理室 (海自の皆さん) で話が付けられなかったのか?
私の大本営に対する不信はそこまで考えさせる段階に到達している
幾ら鎮守府司令官への払いが良いといっても四十名を超える人数の食料調達費用を個人で出せるほど高額では無い、一度の外食費用を負担するのと食堂を運営する上での食料調達とでは訳が違う、まして調達先が自衛隊となれば尚更だ
幸いな事に艦娘は食事が出来なくとも資材さえ調達出来れば飢えることはない、艦娘達には言い分もあるだろうが、艤装からの供給が難しい数名を除いて暫くはソレで凌いでもらうしかない
数名の食事くらいなら私の財布からでもなんとかなる、私自身の食料も調達する必要があるしな